死後の世界のハローワーク

半次郎

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異世界出張

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ここは異世界。楓は広い草原を歩いていた。
今日は楓が担当・管理している異世界転生者の経過観察をするため、遥々死後の世界からやって来た。
少し離れた場所に村が見える。そこが今回の出張先であるビギナン村だ。

“ようこそ ビギナン村へ”

村の入口にある大きな看板を横切ると、一人の男が手を振りながら楓に近寄って来た。村田作次郎だ。

村田作次郎(享年58歳)は一年前、死後の世界のハローワークで面談を受けた。“異世界で村作りがしたい”という希望が叶い、楓に紹介されたこの世界でビギナン村を作っている真っ最中だ。元々現世で土木関係の仕事をしており、培われたノウハウが村作りに活かされていた。

「やあやあ。久しぶりだね、楓さん。忙しいのにわざわざ来てくれて。大変だったでしょ?」

「いえいえ。村の近くまでワープして来ただけなんで全然問題ないですよ。それより、村がかなり出来上がってきましたね!前回来た時よりも家屋が大分増えてる。」

「そうでしょ!これも楓さんのおかげだよ!村作りに必要なスキルを付与してくれたり、多くの人材を寄越してくれて。ホント助かってるよ!」

「お役に立てて良かったです!」

楓は初回の経過観察の時に、村作りに関しての問題点を村田からヒアリングしていた。問題解決するため、スキル付与、人材補強等、あらゆる支援を行なってきた。その甲斐あってか、村田の村作りは順調に進んでいるように見えた。

「村田さん。村の現状を見て周りたいのですが、案内をお願い出来ますか?」

「もちろん!存分に見てってくださいな!」

村田が初めに案内したのは、村の中心にある広場だった。広場には噴水やいくつかの小屋が立てられていた。

「ここの噴水をこの村のシンボルにしたくて、結構こだわって作ったんだよ。あと周りにある小屋を行く行くは露店にしてさぁ。広場に人がいっぱい集まって賑わうと良いなー。」

村の未来を語る村田の顔はとても生き生きしているように見えた。異世界生活が充実してそうで何よりだと楓は思った。

「楓さん。お腹減ってるかい?」

村田が唐突に言ってきた。

「実はお昼食べずに来たもんでして…。お腹ペコペコです。」

「そりゃ良かった!食べてってよ!この村自慢の異世界飯!」

そう言うと村田は広場の先にある小屋を案内してくれた。

“お食事処いっちゃん”と書かれた看板が置かれており、辺りは食欲をそそる良い香りが漂っていた。

早速店内に入ると店主らしき人が厨房から大きな声で挨拶して来た。

「いらっしゃい!楓ちゃん!」

「あっ!飯田さん!ご無沙汰してます!」

「久しぶりねー。来てくれてありがと!二人ともこっちのカウンター席に座ってちょうだい。」

飯田レミ(享年52歳)は半年前に楓が面談を担当し、村田の村に異世界転生させた人物だった。
飯田は現世で栄養士として働き、栄養士引退後は、夢であった自分の飲食店を開くため準備をしていた。しかし開店目前となった頃、不慮の事故に見舞われあの世に来る羽目になってしまった。
自分の店を持つ事が諦めらきれず、転生してもう一度夢を追いかけるため、死後の世界のハローワークで面談を受けた。そして念願叶い、今こうしてお食事処いっちゃんを持つ事が出来た。

「飯田さんの作る料理、ホント美味しいくてさぁ。私なんか毎日来ているよ。」

村田が言うと、飯田は嬉しいそうに笑いながら水とメニューを持ってきてくれた。

「迷うなぁー。おすすめ何ですか?」
楓は決めきれず、飯田に尋ねた。

「本日のいっちゃん定食がおすすめだよ!今日は新鮮な魚と野菜を使った料理さ。」

「じゃあ、いっちゃん定食でお願いします!」

楓が注文すると、村田も同じ物を頼んだ。

「はいよ!」

飯田は注文を聞くと手際良く料理を作り始めた。

楓は料理を待っている間に、村田の村について質問した。

「食材とかはどうやって手に入れてるんですか?」

「米や野菜類に関しては、この村で作っているよ。肉や魚は、狩猟して手に入れたり、近くの町に行って商人から仕入れたりしてるね。これから住人が増えたらもっと食料が必要になるから、今のうちに生産手段と仕入れ先を準備しているよ。」

「そうですね。食料確保は村の発展に必要ですから。何かこちらで出来る事があったら言って下さいね。」

「ありがとう。困ったらまた相談させてもらうよ。」

村田と話しているうちに、料理が出来上がったようで、飯田が運んで来てくれた。

「お待ちどう様。本日のいっちゃん定食二つねー。」

「うわー!おいしそー!」

魚の煮付け、野菜のお浸し、小鉢の数々、それに米と味噌汁といった、日本人なら誰しもが満足のいくラインナップだった。

「いただきます!」

楓は魚の煮付けを一口食べた。

「……美味しすぎる!!」

「そうでしょう!飯田さんが作る料理はどれも美味いんだよなぁ!」

甘辛い味付けはどこか懐かしさを感じさせ、まさにお袋の味であった。食欲のリミットは外れ、見る見るうちに米がなくなっていった。

「ごはん、おかわりお願いします!」

「はいよ!こんなに食べっぷりが良いと作り甲斐があるってもんよ!」

その後も楓は無心に食べ続け、結局米を三杯平らげ、完食した。

「ふぅー、満腹満腹。飯田さん!ご馳走様でした!最高に美味しかったです!」

「はいよ!またこっち来た時はいらっしゃい!」

飯田に別れを告げ、村見学を再開した。

村田が次に案内したのは村の田畑だった。
ビギナン村の居住エリアからしばらく歩くと広大な土地が広がり、そこに綺麗に区分けされた田んぼと畑があった。

楓が観察していると、遠くの方で荷車を引く謎の生物を発見した。

「村田さん。あの生き物は何ですか?」

「あぁ。あれは異世界動物だよ。こっちの世界の住人はあの動物を使って農業をやっているんだ。力持ちで、畑を耕したり、荷物を運んだりと色々協力してもらってるんだ。」

その異世界動物は長い毛に覆われてていて、牛よりも一回り大きかった。

「人を襲ったりとかしないんですか?」

「彼らはとても温厚だから人を襲う事はないよ。草食性だし、食べられる事もないね。」

「そうなんですね。なんかそう聞くと可愛く見えてきました。」

この村は異世界動物と協力しながら農業を進める事で効率良く農作物が生産出来ていた。

一通り村の見学が終わり、楓の経過観察も終了となった。

「今日はお付き合い頂きありがとうございました。村作りは問題なさそうですね!」

「今の所はね。ただ心配な部分もあるんだよね。」

村田が歯切れ悪く答える。

「心配な部分?何でしょう?」

「村に医療施設がないんだ。せめて薬屋ぐらいあれば安心なんだけど、その業界に詳しい人がいなくて…。」

「…なるほど。もしかしたら適任の人をご紹介できるかもしれません。その人は薬草を育てながら薬作りを希望してまして。ちなみに畑は貸して頂けるんですか?」

「もちろんだよ!この村に来てくれたら、家も畑も用意させてもらうよ!」

「分かりました。ではスカウト票を作成して下さい。帰社後、その人に連絡してみます。」

村田はすぐにスカウト票を作成した。楓がチェックし、問題なく受理された。
村田に別れの挨拶を告げ、楓はビギナン村を後にした。

帰社後、楓は以前面談を担当した薬師寺牡丹に連絡を取った。
薬師寺にビギナン村の薬屋のオファーを紹介したところ、快く受けてくれる事となった。村田と薬師寺双方の希望が叶った事に楓は安心した。だが、薬師寺みたいに転生先が決まっていない者は沢山いる。死後の世界のハローワークはまだまだ大忙しだ。
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