6 / 8
【緊急】菩薩案件
しおりを挟む
死後の世界のハローワーク関東支店、開店前の朝礼。
支店長が険しい表情で話していた。
「本日は緊急の案件があります。菩薩様より勇者を一名転生して欲しいとの事です。当然ですが、質の良い方を厳選し、紹介しなければなりません。」
唐突に依頼がきた菩薩案件。最高権力者である菩薩の依頼は支店全総力を上げ、取り掛かる事案となっている。無論、この案件の良し悪しが、支店の評価に直結するのは言うまでもない。
(…面倒くさそうな事になってるなぁ。)
楓はいつも以上に張り切る支店の雰囲気に嫌気がさしていた。
「今回は勇者希望の面談者だけを対応する特設窓口を設けます。そこの担当者を…楓さん。お願いします。」
「はっ!?なんで私なんですか?」
「あなたは人を見る目が優れていると私は思っています。つまり信頼しているのです。必ず良い人材を見極め、選出して下さい!頼みましたよ!」
「…分かりました。」
責任重大な役を任され、楓は少し具合が悪くなった気がしていた。そこに後輩の桜が話し掛ける。
「大抜擢じゃないですか!さすが楓先輩!」
「何言ってんだよ!こっちはプレッシャーに押し潰されて若干具合悪いわ!」
「元気じゃないですか!大丈夫ですよ!先輩ならきっと良い人材を見つけられますよ!」
「そう簡単に見つかるかなぁ。すごく不安。」
そうこうしている間に、営業開始時間となり、続々と面談者がやって来る。
楓が担当する特設窓口は勇者希望の面談者ですぐに長蛇の列が出来た。
(げっ…。こんな居るんかい!しょうがない。巻きで面談してくか!)
「一番目の方、どうぞ!」
一人目は20代ぐらいの男だった。
「黒川翔太様ですね。今回ですが、私との面談を通して勇者転生の合否を決めさせて頂きます。早速、勇者転生をご希望される理由をお聞かせください。」
「僕は勇者になれる素質があります。」
黒川は自信満々に答え、話を続ける。
「僕は幼い頃から頭が良く、小中高すべて学年トップの成績を残して来ました。大学も日本最高峰のT大学を現役合格、そして優秀な成績を残し、主席で卒業しました!つまり、秀才の僕なら勇者も難なくこなしてしまうと思うんですよね!」
「…そうですか。」
楓は手元のPCで黒川の経歴が正しいか精査している。本人が話した通り、確かに黒川は偏差値の高い学校の出身者で、良い成績を残していた。
「現世ではお仕事何されてたんですか?」
楓が尋ねると、今まで生き生き話していた黒川の表情が一瞬で曇る。
「…ブラック企業で営業をやってました。」
黒川は話を続けた。
「僕は大学生の時、就活で失敗したんです。エントリーしていた一流企業は、書類審査こそ通りましたが、面接ですべて落とされました…。だから、しょうがなく滑り止めの二流営業会社に入社したんです。それが僕の人生を狂わせるすべての始まりでした。」
「…なるほど。では、最終職歴だったその会社がブラック企業だったと。」
「はい。とんでもない会社でした。こんなに優秀な僕がまったく評価されず、只々上司に怒られる日々でした。本当に見る目のない連中でしたよ。」
楓はPCで黒川の会社員時代の様子を閲覧する。すると先輩社員と黒川が言い争っているシーンが映し出された。
「黒川。どういうつもりなんだ。お客さんとの約束を破るわ、会社に嘘つくわ。何回目だよ。このままだと皆んなから信用無くすぞ。」
「僕がスムーズに仕事が出来ないのは、会社のせいですよ!無理な営業をやらせて、質の悪い顧客を担当させて、これじゃあ結果なんて出ませんよ!」
「決して無理難題な仕事をやらせている訳ではないよ。現に今回だって、お客さんはお前に仕事を依頼してただろ。それを放ったらかしにして、納期に間に合わなかったのは、お前の管理の問題だろ。主任だって仕事の進捗状況を何回も確認してたよな。」
「あの人とは会話したくないんですよ。僕のやり方に一々口出しして、才能を認めようとしない。これだから二流の会社は駄目なんですよ!」
「…お前。…もういいよ。」
黒川の会社員時代はとても酷い有様だった。上司や先輩の助言を一切聞き入れず、独りよがりの営業スタイルで何度も失敗を重ねていた。そのくせ、自分の成績不振を会社や他人のせいにして不平不満を漏らす毎日。それは黒川があの世に行くまで改善される事はなかった。
「黒川様。申し訳ございません。ご希望されていた勇者転生ですが、今回は不合格とさせて頂きます。」
楓は面談結果を黒川に伝えた。
「ちょっと待って下さい!何でダメなんですか?」
「残念ですが、勇者になれる素質がないと判断致しました。」
黒川が激昂する。
「ふざけんな!何を持って素質がないって言い切れるんだ!不当な評価しやがって。あんた見る目ないよ!担当変われ!」
「お前が勇者になれる訳ねーだろ!現世で誰からも信用されてないお前が!」
楓も遂にキレてしまい、黒川に迫る。
「自己中で、他人を蔑み、不平不満しか言わない奴なんて、誰がどう見ても人として終わってんだろ!自分の非を理解し、改心しない限り、勇者になれる見込みなんてないわ!」
楓の指摘を、黒川は只々黙って聞く事しか出来なかった。そして無言のまま静かに立ち上がると、出口へと向かって行った。
(…はぁー。こんなんで今日中に勇者を見つける事が出来るのか?)
初っ端の面談から幸先の悪い展開となった勇者探し。特設窓口にはまだまだ面談希望者が待機している。果たして無事に菩薩の依頼をこなす事が出来るのか。死後の世界のハローワークは緊急案件で大忙しだ。
支店長が険しい表情で話していた。
「本日は緊急の案件があります。菩薩様より勇者を一名転生して欲しいとの事です。当然ですが、質の良い方を厳選し、紹介しなければなりません。」
唐突に依頼がきた菩薩案件。最高権力者である菩薩の依頼は支店全総力を上げ、取り掛かる事案となっている。無論、この案件の良し悪しが、支店の評価に直結するのは言うまでもない。
(…面倒くさそうな事になってるなぁ。)
楓はいつも以上に張り切る支店の雰囲気に嫌気がさしていた。
「今回は勇者希望の面談者だけを対応する特設窓口を設けます。そこの担当者を…楓さん。お願いします。」
「はっ!?なんで私なんですか?」
「あなたは人を見る目が優れていると私は思っています。つまり信頼しているのです。必ず良い人材を見極め、選出して下さい!頼みましたよ!」
「…分かりました。」
責任重大な役を任され、楓は少し具合が悪くなった気がしていた。そこに後輩の桜が話し掛ける。
「大抜擢じゃないですか!さすが楓先輩!」
「何言ってんだよ!こっちはプレッシャーに押し潰されて若干具合悪いわ!」
「元気じゃないですか!大丈夫ですよ!先輩ならきっと良い人材を見つけられますよ!」
「そう簡単に見つかるかなぁ。すごく不安。」
そうこうしている間に、営業開始時間となり、続々と面談者がやって来る。
楓が担当する特設窓口は勇者希望の面談者ですぐに長蛇の列が出来た。
(げっ…。こんな居るんかい!しょうがない。巻きで面談してくか!)
「一番目の方、どうぞ!」
一人目は20代ぐらいの男だった。
「黒川翔太様ですね。今回ですが、私との面談を通して勇者転生の合否を決めさせて頂きます。早速、勇者転生をご希望される理由をお聞かせください。」
「僕は勇者になれる素質があります。」
黒川は自信満々に答え、話を続ける。
「僕は幼い頃から頭が良く、小中高すべて学年トップの成績を残して来ました。大学も日本最高峰のT大学を現役合格、そして優秀な成績を残し、主席で卒業しました!つまり、秀才の僕なら勇者も難なくこなしてしまうと思うんですよね!」
「…そうですか。」
楓は手元のPCで黒川の経歴が正しいか精査している。本人が話した通り、確かに黒川は偏差値の高い学校の出身者で、良い成績を残していた。
「現世ではお仕事何されてたんですか?」
楓が尋ねると、今まで生き生き話していた黒川の表情が一瞬で曇る。
「…ブラック企業で営業をやってました。」
黒川は話を続けた。
「僕は大学生の時、就活で失敗したんです。エントリーしていた一流企業は、書類審査こそ通りましたが、面接ですべて落とされました…。だから、しょうがなく滑り止めの二流営業会社に入社したんです。それが僕の人生を狂わせるすべての始まりでした。」
「…なるほど。では、最終職歴だったその会社がブラック企業だったと。」
「はい。とんでもない会社でした。こんなに優秀な僕がまったく評価されず、只々上司に怒られる日々でした。本当に見る目のない連中でしたよ。」
楓はPCで黒川の会社員時代の様子を閲覧する。すると先輩社員と黒川が言い争っているシーンが映し出された。
「黒川。どういうつもりなんだ。お客さんとの約束を破るわ、会社に嘘つくわ。何回目だよ。このままだと皆んなから信用無くすぞ。」
「僕がスムーズに仕事が出来ないのは、会社のせいですよ!無理な営業をやらせて、質の悪い顧客を担当させて、これじゃあ結果なんて出ませんよ!」
「決して無理難題な仕事をやらせている訳ではないよ。現に今回だって、お客さんはお前に仕事を依頼してただろ。それを放ったらかしにして、納期に間に合わなかったのは、お前の管理の問題だろ。主任だって仕事の進捗状況を何回も確認してたよな。」
「あの人とは会話したくないんですよ。僕のやり方に一々口出しして、才能を認めようとしない。これだから二流の会社は駄目なんですよ!」
「…お前。…もういいよ。」
黒川の会社員時代はとても酷い有様だった。上司や先輩の助言を一切聞き入れず、独りよがりの営業スタイルで何度も失敗を重ねていた。そのくせ、自分の成績不振を会社や他人のせいにして不平不満を漏らす毎日。それは黒川があの世に行くまで改善される事はなかった。
「黒川様。申し訳ございません。ご希望されていた勇者転生ですが、今回は不合格とさせて頂きます。」
楓は面談結果を黒川に伝えた。
「ちょっと待って下さい!何でダメなんですか?」
「残念ですが、勇者になれる素質がないと判断致しました。」
黒川が激昂する。
「ふざけんな!何を持って素質がないって言い切れるんだ!不当な評価しやがって。あんた見る目ないよ!担当変われ!」
「お前が勇者になれる訳ねーだろ!現世で誰からも信用されてないお前が!」
楓も遂にキレてしまい、黒川に迫る。
「自己中で、他人を蔑み、不平不満しか言わない奴なんて、誰がどう見ても人として終わってんだろ!自分の非を理解し、改心しない限り、勇者になれる見込みなんてないわ!」
楓の指摘を、黒川は只々黙って聞く事しか出来なかった。そして無言のまま静かに立ち上がると、出口へと向かって行った。
(…はぁー。こんなんで今日中に勇者を見つける事が出来るのか?)
初っ端の面談から幸先の悪い展開となった勇者探し。特設窓口にはまだまだ面談希望者が待機している。果たして無事に菩薩の依頼をこなす事が出来るのか。死後の世界のハローワークは緊急案件で大忙しだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる