死後の世界のハローワーク

半次郎

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【緊急】菩薩案件

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死後の世界のハローワーク関東支店、開店前の朝礼。

支店長が険しい表情で話していた。

「本日は緊急の案件があります。菩薩様より勇者を一名転生して欲しいとの事です。当然ですが、質の良い方を厳選し、紹介しなければなりません。」

唐突に依頼がきた菩薩案件。最高権力者である菩薩の依頼は支店全総力を上げ、取り掛かる事案となっている。無論、この案件の良し悪しが、支店の評価に直結するのは言うまでもない。

(…面倒くさそうな事になってるなぁ。)

楓はいつも以上に張り切る支店の雰囲気に嫌気がさしていた。

「今回は勇者希望の面談者だけを対応する特設窓口を設けます。そこの担当者を…楓さん。お願いします。」

「はっ!?なんで私なんですか?」

「あなたは人を見る目が優れていると私は思っています。つまり信頼しているのです。必ず良い人材を見極め、選出して下さい!頼みましたよ!」

「…分かりました。」

責任重大な役を任され、楓は少し具合が悪くなった気がしていた。そこに後輩の桜が話し掛ける。

「大抜擢じゃないですか!さすが楓先輩!」

「何言ってんだよ!こっちはプレッシャーに押し潰されて若干具合悪いわ!」

「元気じゃないですか!大丈夫ですよ!先輩ならきっと良い人材を見つけられますよ!」

「そう簡単に見つかるかなぁ。すごく不安。」

そうこうしている間に、営業開始時間となり、続々と面談者がやって来る。
楓が担当する特設窓口は勇者希望の面談者ですぐに長蛇の列が出来た。

(げっ…。こんな居るんかい!しょうがない。巻きで面談してくか!)

「一番目の方、どうぞ!」

一人目は20代ぐらいの男だった。

「黒川翔太様ですね。今回ですが、私との面談を通して勇者転生の合否を決めさせて頂きます。早速、勇者転生をご希望される理由をお聞かせください。」

「僕は勇者になれる素質があります。」

黒川は自信満々に答え、話を続ける。

「僕は幼い頃から頭が良く、小中高すべて学年トップの成績を残して来ました。大学も日本最高峰のT大学を現役合格、そして優秀な成績を残し、主席で卒業しました!つまり、秀才の僕なら勇者も難なくこなしてしまうと思うんですよね!」

「…そうですか。」

楓は手元のPCで黒川の経歴が正しいか精査している。本人が話した通り、確かに黒川は偏差値の高い学校の出身者で、良い成績を残していた。

「現世ではお仕事何されてたんですか?」

楓が尋ねると、今まで生き生き話していた黒川の表情が一瞬で曇る。

「…ブラック企業で営業をやってました。」

黒川は話を続けた。

「僕は大学生の時、就活で失敗したんです。エントリーしていた一流企業は、書類審査こそ通りましたが、面接ですべて落とされました…。だから、しょうがなく滑り止めの二流営業会社に入社したんです。それが僕の人生を狂わせるすべての始まりでした。」

「…なるほど。では、最終職歴だったその会社がブラック企業だったと。」

「はい。とんでもない会社でした。こんなに優秀な僕がまったく評価されず、只々上司に怒られる日々でした。本当に見る目のない連中でしたよ。」

楓はPCで黒川の会社員時代の様子を閲覧する。すると先輩社員と黒川が言い争っているシーンが映し出された。

「黒川。どういうつもりなんだ。お客さんとの約束を破るわ、会社に嘘つくわ。何回目だよ。このままだと皆んなから信用無くすぞ。」

「僕がスムーズに仕事が出来ないのは、会社のせいですよ!無理な営業をやらせて、質の悪い顧客を担当させて、これじゃあ結果なんて出ませんよ!」

「決して無理難題な仕事をやらせている訳ではないよ。現に今回だって、お客さんはお前に仕事を依頼してただろ。それを放ったらかしにして、納期に間に合わなかったのは、お前の管理の問題だろ。主任だって仕事の進捗状況を何回も確認してたよな。」

「あの人とは会話したくないんですよ。僕のやり方に一々口出しして、才能を認めようとしない。これだから二流の会社は駄目なんですよ!」

「…お前。…もういいよ。」

黒川の会社員時代はとても酷い有様だった。上司や先輩の助言を一切聞き入れず、独りよがりの営業スタイルで何度も失敗を重ねていた。そのくせ、自分の成績不振を会社や他人のせいにして不平不満を漏らす毎日。それは黒川があの世に行くまで改善される事はなかった。

「黒川様。申し訳ございません。ご希望されていた勇者転生ですが、今回は不合格とさせて頂きます。」

楓は面談結果を黒川に伝えた。

「ちょっと待って下さい!何でダメなんですか?」

「残念ですが、勇者になれる素質がないと判断致しました。」

黒川が激昂する。

「ふざけんな!何を持って素質がないって言い切れるんだ!不当な評価しやがって。あんた見る目ないよ!担当変われ!」

「お前が勇者になれる訳ねーだろ!現世で誰からも信用されてないお前が!」

楓も遂にキレてしまい、黒川に迫る。

「自己中で、他人を蔑み、不平不満しか言わない奴なんて、誰がどう見ても人として終わってんだろ!自分の非を理解し、改心しない限り、勇者になれる見込みなんてないわ!」

楓の指摘を、黒川は只々黙って聞く事しか出来なかった。そして無言のまま静かに立ち上がると、出口へと向かって行った。

(…はぁー。こんなんで今日中に勇者を見つける事が出来るのか?)

初っ端の面談から幸先の悪い展開となった勇者探し。特設窓口にはまだまだ面談希望者が待機している。果たして無事に菩薩の依頼をこなす事が出来るのか。死後の世界のハローワークは緊急案件で大忙しだ。
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