7 / 8
菩薩案件2
しおりを挟む
死後の世界のハローワーク関東支店、菩薩案件対応中。
中々相応しい人材に巡り会えず、時間だけが刻々と過ぎる。すでに10人以上の人と面談してきた楓は焦っていた。
(…マズイな。営業時間内で勇者に見合う人と出会えるか?判断基準のハードル下げた方が良いのかなぁ。)
出来る事ならベストな人材を紹介したい。しかし限られた時間の中で選出するのは困難だ。ここはある程度の素質があれば合格にしようと、楓は考え始めていた。
「次の方、どうぞ!」
迷っている暇はない。取り急ぎ面談を進める。
「光岡一輝様ですね。今回ですが、私との面談を通して勇者転生の合否を決めさせて頂きます。早速、勇者転生をご希望される理由をお聞かせください。」
「…えーっと、特に勇者である必要はないんですが、人の役に立ちたくて応募しました。なんか場違いだったら帰ります。ははは。」
光岡は他の面談者と比べて、あきらかに熱量が足りなかった。光岡自身も周りの人との温度差を感じ、居心地の悪さを感じている。
(…なんで勇者希望したんだよ!忙しいのに!)
漠然とした志望理由に憤りを感じながらも、面談は最後まで行うのが支店の決まりなので楓は話を続ける。
「人の役に立ちたいと志願するのも立派な勇者の心構えだと思います。もう少し具体的にどう人の役に立ちたいかお話し聞かせて頂けませんか?」
光岡に尋ねた時、窓口カウンターの後ろの方から怒鳴り声が響いた。
「痛ってーな!この野郎!」
「はっ?なんだよ。そっちがぶつかってきたんだろ。」
「わざとじゃねーだろ!何いきなりど突いてんだ、この野郎!」
どうやら支店内で喧嘩が起こっているようだ。中年の男が若い男にぶつかり、それにキレた若い男が中年を殴ったらしい。
面談者同志の揉め事はよくある事。周りの人に迷惑が掛からないよう、早急に対処しなければと思い、楓は警備員を呼ぶ事にした。
「光岡様、少々お待ち頂けますか…って、あれ?光岡様?」
楓が少し目を離している間に、席に座っているはずの光岡が居なくなっている。
「まぁまぁ。お二人とも落ち着いて。」
いつの間にか光岡は揉めていた二人の間に割って入り、喧嘩の仲裁をしていた。
今にも取っ組み合いが始まりそうな雰囲気であったが、光岡がなだめた事により、場は治りつつある。
遅れながらやって来た警備員に二人を引き継ぎ、光岡は面談窓口に戻ってきた。
「すみません。面談中に勝手な事しまして…。」
「いえ。むしろ我々スタッフがすぐ対応すべき事を光岡様にやって頂き、助かりました。ありがとうございます。」
楓は感謝した。光岡は“とんでもない”と謙遜しながら、笑っている。
「質問の途中でしたね。具体的にどのようにして人の役に立ちたいか。…そうですね。私が現世でしていた仕事のような事を転生先でもしたいですね。」
「現世ではどういったお仕事をされてたのですか?」
「自衛隊です。」
光岡の職業は自衛隊だった。
自衛隊といっても色々な仕事内容がある中で、とりわけ光岡がやりがいを感じていたのが災害派遣だったと言う。
被災した現場に赴き、人命救助や生活支援活動を通して、こんな自分でも人の役に立てている事に強く喜びを感じたと語る。
勇者を希望したのも、同じように人助けが出来ると思い応募したそうだ。
楓はPCで光岡の現世での経歴・活動を確認する。自身が話していたように、自衛隊として様々な災害派遣をこなし、多くの人々を支援し、感謝されていた。
(勇者いたわ…)
楓は確信した。今回の菩薩案件に相応しい人材だと。
「光岡様。勇者転生の合否ですが、合格です。転生先でのご活躍期待しております!」
「えっ?本当ですか?なんか嬉しいなぁ。ありがとうございます!」
楓はすぐに転生の手続きに入るため、光岡に後日改めて連絡する旨を告げ、一旦帰らせる。そして事業所の支店長デスクに向かった。
「支店長!菩薩様案件の対象者見つかりました!確認お願いします。」
光岡に関する書類と紹介状を支店長に提出する。
じっくりと書類に目を通し、支店長が話す。
「…問題ないですね。楓さん。ご苦労様でした。光岡様は間違いなく適任でしょう。」
楓は安堵した。面談を始めて数時間、ようやく良い人材と巡り会え、支店長の承認をもらう事が出来た。これでやっとプレッシャーから解放される。
支店長は一枚の書類を書いている。どうやら光岡にスキル付与を施すらしい。
「光岡様には特級スキル“英雄達の系譜”を付与します。これなら転生先で大いにご活躍されることでしょう。」
特級スキル“英雄達の系譜”はいわゆるチートスキルだ。取得した者は、物語の勇者さながらの強さを身につける事が出来る。当然、悪用される事もあり得るので、付与する際は使用者が十分信頼出来る人物であるかどうかしっかり見極める必要がある。
その点に関して、光岡は問題ないと判断された。
(特級スキル付与とは…。支店長も本気だな。)
今回の案件に対する支店長の姿勢に、楓は脱帽した。
ひとまず菩薩案件に回す人材は確保出来た。安心し切った楓は窓口に戻ると、まだ面談者が列を成していた。
(あちゃー!まだこんなに残ってたわ!)
「お待たせしました!次の方どうぞ!」
支店の目的は果たしたが、勇者になりたい者はまだまだいる。彼らを必要とする転生先もきっとあるはず。楓は改めて大勢の面談者と向き合うため、気合いを入れ直す。死後の世界のハローワークは大忙しだ。
中々相応しい人材に巡り会えず、時間だけが刻々と過ぎる。すでに10人以上の人と面談してきた楓は焦っていた。
(…マズイな。営業時間内で勇者に見合う人と出会えるか?判断基準のハードル下げた方が良いのかなぁ。)
出来る事ならベストな人材を紹介したい。しかし限られた時間の中で選出するのは困難だ。ここはある程度の素質があれば合格にしようと、楓は考え始めていた。
「次の方、どうぞ!」
迷っている暇はない。取り急ぎ面談を進める。
「光岡一輝様ですね。今回ですが、私との面談を通して勇者転生の合否を決めさせて頂きます。早速、勇者転生をご希望される理由をお聞かせください。」
「…えーっと、特に勇者である必要はないんですが、人の役に立ちたくて応募しました。なんか場違いだったら帰ります。ははは。」
光岡は他の面談者と比べて、あきらかに熱量が足りなかった。光岡自身も周りの人との温度差を感じ、居心地の悪さを感じている。
(…なんで勇者希望したんだよ!忙しいのに!)
漠然とした志望理由に憤りを感じながらも、面談は最後まで行うのが支店の決まりなので楓は話を続ける。
「人の役に立ちたいと志願するのも立派な勇者の心構えだと思います。もう少し具体的にどう人の役に立ちたいかお話し聞かせて頂けませんか?」
光岡に尋ねた時、窓口カウンターの後ろの方から怒鳴り声が響いた。
「痛ってーな!この野郎!」
「はっ?なんだよ。そっちがぶつかってきたんだろ。」
「わざとじゃねーだろ!何いきなりど突いてんだ、この野郎!」
どうやら支店内で喧嘩が起こっているようだ。中年の男が若い男にぶつかり、それにキレた若い男が中年を殴ったらしい。
面談者同志の揉め事はよくある事。周りの人に迷惑が掛からないよう、早急に対処しなければと思い、楓は警備員を呼ぶ事にした。
「光岡様、少々お待ち頂けますか…って、あれ?光岡様?」
楓が少し目を離している間に、席に座っているはずの光岡が居なくなっている。
「まぁまぁ。お二人とも落ち着いて。」
いつの間にか光岡は揉めていた二人の間に割って入り、喧嘩の仲裁をしていた。
今にも取っ組み合いが始まりそうな雰囲気であったが、光岡がなだめた事により、場は治りつつある。
遅れながらやって来た警備員に二人を引き継ぎ、光岡は面談窓口に戻ってきた。
「すみません。面談中に勝手な事しまして…。」
「いえ。むしろ我々スタッフがすぐ対応すべき事を光岡様にやって頂き、助かりました。ありがとうございます。」
楓は感謝した。光岡は“とんでもない”と謙遜しながら、笑っている。
「質問の途中でしたね。具体的にどのようにして人の役に立ちたいか。…そうですね。私が現世でしていた仕事のような事を転生先でもしたいですね。」
「現世ではどういったお仕事をされてたのですか?」
「自衛隊です。」
光岡の職業は自衛隊だった。
自衛隊といっても色々な仕事内容がある中で、とりわけ光岡がやりがいを感じていたのが災害派遣だったと言う。
被災した現場に赴き、人命救助や生活支援活動を通して、こんな自分でも人の役に立てている事に強く喜びを感じたと語る。
勇者を希望したのも、同じように人助けが出来ると思い応募したそうだ。
楓はPCで光岡の現世での経歴・活動を確認する。自身が話していたように、自衛隊として様々な災害派遣をこなし、多くの人々を支援し、感謝されていた。
(勇者いたわ…)
楓は確信した。今回の菩薩案件に相応しい人材だと。
「光岡様。勇者転生の合否ですが、合格です。転生先でのご活躍期待しております!」
「えっ?本当ですか?なんか嬉しいなぁ。ありがとうございます!」
楓はすぐに転生の手続きに入るため、光岡に後日改めて連絡する旨を告げ、一旦帰らせる。そして事業所の支店長デスクに向かった。
「支店長!菩薩様案件の対象者見つかりました!確認お願いします。」
光岡に関する書類と紹介状を支店長に提出する。
じっくりと書類に目を通し、支店長が話す。
「…問題ないですね。楓さん。ご苦労様でした。光岡様は間違いなく適任でしょう。」
楓は安堵した。面談を始めて数時間、ようやく良い人材と巡り会え、支店長の承認をもらう事が出来た。これでやっとプレッシャーから解放される。
支店長は一枚の書類を書いている。どうやら光岡にスキル付与を施すらしい。
「光岡様には特級スキル“英雄達の系譜”を付与します。これなら転生先で大いにご活躍されることでしょう。」
特級スキル“英雄達の系譜”はいわゆるチートスキルだ。取得した者は、物語の勇者さながらの強さを身につける事が出来る。当然、悪用される事もあり得るので、付与する際は使用者が十分信頼出来る人物であるかどうかしっかり見極める必要がある。
その点に関して、光岡は問題ないと判断された。
(特級スキル付与とは…。支店長も本気だな。)
今回の案件に対する支店長の姿勢に、楓は脱帽した。
ひとまず菩薩案件に回す人材は確保出来た。安心し切った楓は窓口に戻ると、まだ面談者が列を成していた。
(あちゃー!まだこんなに残ってたわ!)
「お待たせしました!次の方どうぞ!」
支店の目的は果たしたが、勇者になりたい者はまだまだいる。彼らを必要とする転生先もきっとあるはず。楓は改めて大勢の面談者と向き合うため、気合いを入れ直す。死後の世界のハローワークは大忙しだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる