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2.この世界の住人へ
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2.この世界の住人へ
「ほら、ここが家だよ」
マルグリット婆が入っていったのは小さな町工場のような場所だった。工具や布がきれいに整理されて置かれている。
ここは……何かを作る作業場?玲奈が思わずキョロキョロと見渡すと、壁には額に入った免許証のようなものがいくつも飾ってある。言葉はもちろん読めないけれど、なにか威厳がありそうな感じがする……
「何見てるんだい、早くついておいで」 マルグリット婆は歩くのが意外と早い。
後をついていくと奥の部屋に案内された。
作業場とは全く違う雰囲気の、小綺麗で暖かなリビングが広がっていた。
部屋全体がオレンジ色の暖かな光につつまれて、暖炉の炎が暖かく、どこか懐かしいような落ち着く香りが漂っていた。
「まあ、そこにかけなさいな」
マルグリッド婆は中央にあるどっしりとした木のテーブルのそばにある、これまたずっしりとしたチェアを指さした。
「し、失礼します」
玲奈は戸惑いながらも深く腰を下ろした。
こちらの世界に来てから立ちっぱなしで気を張り詰めていたので、正直なところ休息したかった。
「何か、暖かいものでも飲むかい?」
飲みたい!喉もカラカラだし温まりたい……でもこの世界でどんな飲み物が!?
好みを聞かれても困る……ラテとかホットティーなんてそもそも存在しないかも。
私は隣町から来た「設定」なのだから、へたなことは言えないな……
「今用意するよ、ゆっくり座っていなさい」
マルグリッド婆は、どうやら私がいちいち戸惑っていることに気付いている。
先回りをして話を進めてくれるのだ。何か見透かされているような、そんな気がする……
「「ほら、これをお飲み」
マルグリッド婆は大きな器に入った飲み物を両手で持ちながら近づいてきた。中から湯気が立ち上っている。湯気とともに香ばしい薬草のようなにおいが漂ってくる。
「シナの実のお茶だよ、疲れたときはこれに限るね。おや、隣町では飲んだことがないのかい?」
あ、ああ。隣同士の町でそこまで食文化って変わらないよね……。なんて言ったらいいんだろう?
「まあいいさ、早くお飲みよ。熱いから気を付けて。」
やっぱりマルグリッド婆は私の隣町から来たという嘘に気づいている気がする……
シナの実のお茶、は植物の実を焙煎したものを煮出したようなものにハーブが混ざっているようで、なかなかおいしかった。身体も温まって眠気が押し寄せてきた。眠い眠い……なんとか瞼を上げて姿勢を保っていた。
「効いてきたみたいだね。それを飲んだら今日はもう休みなさいな。」マルグリッド婆は少しだけ微笑んで背を向けた。
ああ、ありがたい。今はとにかくゆっくり身体を休めてひたすら眠りたい……でもどこで寝る?
「あんたの部屋に案内するよ、おいで。」眠気でだるい身体を持ち上げてマルグリッド婆に着いていき小さなドアをくぐると、ベッドとデスクが見えた。しっかりした木で造られていて、天然のツヤがある。かなり年季が入っていそうだな……
「今夜はこのベッドで休みなさい。明日目が覚めたらこれに着替えて出ておいで。」
マルグリッド婆は服一式をかカゴに入れてベッドのそばに置いてくれた。服、服……こっちの世界で私が着る服か、どんなものだろう、私に似合うかな……いや、それよりこの家ってマルグリッド婆の他に人はいないの?危険な人が入ってくるとかないよね?他にも部屋はたくさんあるようだけど、物音や声はしない……ああ、もう眠気に勝てない!これも運命、今日はこのまま寝よう……
次の朝、正確にはもう昼頃に目が覚めた。え、ここで元の世界に戻ってる……なんてことはないよね。そう、ここはマルグリッド婆の家。やっぱりあの、カイルがいる異世界に来てしまったままだよね。
昨晩マルグリッド婆が用意してくれた服に着替えるべきか、カゴの中の服を取り出してみた。
花柄のロングスカートにアイボリー色のブラウス。襟には細やかな刺繍が施されている。上に着るボレロはおそらく手編みだ。凝った模様が編み込まれていて上質なものだとわかる。
元の世界では来たことがないようなテイスト……元の世界では家と会社の往復だったから、機能性重視のシンプルスタイルだったんだよね。色も無難なモノトーンや紺色、グレー。それに比べてこのロマンティックスタイル、華やかで品のよい感じ……私に似合うかな?
トントン、とマルグリッド婆がドアをノックした。
「起きたかい?入るよ。」
玲奈は服を手にしたままの姿で振り返った。
「着替えを手伝うかい?あんたの’隣町’の洋服とはちょっと勝手が違うと思うよ。」
たしかに、ファスナーやボタンがついていない。どうやって身体に留めるの!?ここはひとつ、任せてしまったほうが早そうだ。
「ほら、手を上に。ここをこうするんだよ。」慣れた手つきでひもを結ぶように着付けを仕上げてくれた。見た目は全く違うけれど、元の世界の和服に少し似ているかもしれない。
「どうも、ありがとうございます……。」着付けが終わった玲奈は鏡の前に立った。わぁ!これが私!?
「似合うじゃないか、元の服よりよっぽどいいよ。これで外を歩いたら噂になるね。」マルグリッド婆は少し嬉しそうだった。
いや、ほんとにこんな服を着たこともなかったけれど、新しい私を発見した気分。どうやらこの世界では、私はかなりの’美女’らしい!!この姿でカイルに会う未来……期待できる!?
この後に町へ出た私を待ち受けていたのは、カイルとの再会?だった。
「ほら、ここが家だよ」
マルグリット婆が入っていったのは小さな町工場のような場所だった。工具や布がきれいに整理されて置かれている。
ここは……何かを作る作業場?玲奈が思わずキョロキョロと見渡すと、壁には額に入った免許証のようなものがいくつも飾ってある。言葉はもちろん読めないけれど、なにか威厳がありそうな感じがする……
「何見てるんだい、早くついておいで」 マルグリット婆は歩くのが意外と早い。
後をついていくと奥の部屋に案内された。
作業場とは全く違う雰囲気の、小綺麗で暖かなリビングが広がっていた。
部屋全体がオレンジ色の暖かな光につつまれて、暖炉の炎が暖かく、どこか懐かしいような落ち着く香りが漂っていた。
「まあ、そこにかけなさいな」
マルグリッド婆は中央にあるどっしりとした木のテーブルのそばにある、これまたずっしりとしたチェアを指さした。
「し、失礼します」
玲奈は戸惑いながらも深く腰を下ろした。
こちらの世界に来てから立ちっぱなしで気を張り詰めていたので、正直なところ休息したかった。
「何か、暖かいものでも飲むかい?」
飲みたい!喉もカラカラだし温まりたい……でもこの世界でどんな飲み物が!?
好みを聞かれても困る……ラテとかホットティーなんてそもそも存在しないかも。
私は隣町から来た「設定」なのだから、へたなことは言えないな……
「今用意するよ、ゆっくり座っていなさい」
マルグリッド婆は、どうやら私がいちいち戸惑っていることに気付いている。
先回りをして話を進めてくれるのだ。何か見透かされているような、そんな気がする……
「「ほら、これをお飲み」
マルグリッド婆は大きな器に入った飲み物を両手で持ちながら近づいてきた。中から湯気が立ち上っている。湯気とともに香ばしい薬草のようなにおいが漂ってくる。
「シナの実のお茶だよ、疲れたときはこれに限るね。おや、隣町では飲んだことがないのかい?」
あ、ああ。隣同士の町でそこまで食文化って変わらないよね……。なんて言ったらいいんだろう?
「まあいいさ、早くお飲みよ。熱いから気を付けて。」
やっぱりマルグリッド婆は私の隣町から来たという嘘に気づいている気がする……
シナの実のお茶、は植物の実を焙煎したものを煮出したようなものにハーブが混ざっているようで、なかなかおいしかった。身体も温まって眠気が押し寄せてきた。眠い眠い……なんとか瞼を上げて姿勢を保っていた。
「効いてきたみたいだね。それを飲んだら今日はもう休みなさいな。」マルグリッド婆は少しだけ微笑んで背を向けた。
ああ、ありがたい。今はとにかくゆっくり身体を休めてひたすら眠りたい……でもどこで寝る?
「あんたの部屋に案内するよ、おいで。」眠気でだるい身体を持ち上げてマルグリッド婆に着いていき小さなドアをくぐると、ベッドとデスクが見えた。しっかりした木で造られていて、天然のツヤがある。かなり年季が入っていそうだな……
「今夜はこのベッドで休みなさい。明日目が覚めたらこれに着替えて出ておいで。」
マルグリッド婆は服一式をかカゴに入れてベッドのそばに置いてくれた。服、服……こっちの世界で私が着る服か、どんなものだろう、私に似合うかな……いや、それよりこの家ってマルグリッド婆の他に人はいないの?危険な人が入ってくるとかないよね?他にも部屋はたくさんあるようだけど、物音や声はしない……ああ、もう眠気に勝てない!これも運命、今日はこのまま寝よう……
次の朝、正確にはもう昼頃に目が覚めた。え、ここで元の世界に戻ってる……なんてことはないよね。そう、ここはマルグリッド婆の家。やっぱりあの、カイルがいる異世界に来てしまったままだよね。
昨晩マルグリッド婆が用意してくれた服に着替えるべきか、カゴの中の服を取り出してみた。
花柄のロングスカートにアイボリー色のブラウス。襟には細やかな刺繍が施されている。上に着るボレロはおそらく手編みだ。凝った模様が編み込まれていて上質なものだとわかる。
元の世界では来たことがないようなテイスト……元の世界では家と会社の往復だったから、機能性重視のシンプルスタイルだったんだよね。色も無難なモノトーンや紺色、グレー。それに比べてこのロマンティックスタイル、華やかで品のよい感じ……私に似合うかな?
トントン、とマルグリッド婆がドアをノックした。
「起きたかい?入るよ。」
玲奈は服を手にしたままの姿で振り返った。
「着替えを手伝うかい?あんたの’隣町’の洋服とはちょっと勝手が違うと思うよ。」
たしかに、ファスナーやボタンがついていない。どうやって身体に留めるの!?ここはひとつ、任せてしまったほうが早そうだ。
「ほら、手を上に。ここをこうするんだよ。」慣れた手つきでひもを結ぶように着付けを仕上げてくれた。見た目は全く違うけれど、元の世界の和服に少し似ているかもしれない。
「どうも、ありがとうございます……。」着付けが終わった玲奈は鏡の前に立った。わぁ!これが私!?
「似合うじゃないか、元の服よりよっぽどいいよ。これで外を歩いたら噂になるね。」マルグリッド婆は少し嬉しそうだった。
いや、ほんとにこんな服を着たこともなかったけれど、新しい私を発見した気分。どうやらこの世界では、私はかなりの’美女’らしい!!この姿でカイルに会う未来……期待できる!?
この後に町へ出た私を待ち受けていたのは、カイルとの再会?だった。
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