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第3章 『ダンジョンとポーター』
幕間 追いかける者たち
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アルゼたちが『ニューリア』を出発して数日後、レティアと侍女のシンシアは入れ違いで『ニューリア』の冒険者ギルドに来ていた。
「すみません、ちょっといいかしら?」
「はい、どうなされましたか?」
レティアは眼鏡をかけた真面目そうな受付にそう切り出した。
「ちょっとある人を探してるんだけど……あの、私の婚約者で
――」
「アリシア様? 今は『元』と言ったほうがいいかもしれませんよ?」
「も、『元』じゃないもん! 全然っ、これっぽっちも現役なんだから!」
「あー、そうでしたね!」
シンシアはアルゼと同じでアリシアの旧知の仲ということもあり、こうして道中アリシアをかわいがっていた。
彼女からすると、恋に恋する乙女のアリシアはかわいらしく、ついイジメたくなってしまうのだった。
「失礼、話がよく見えないのですが……まずは、自己紹介をさせてください。私、受付をしております『キリル』と申します。どうぞ、お見知りおきを」
「あ、そうね。私はこうしゃ――いえ、『レティア』よ。よろしくね、キリルさん」
レティアは、あえて『公爵』という単語を使わずにおいた。
別に公爵令嬢が冒険者をしてても問題はないが、変に畏まられて時間を取られるよりいいと判断したのだ。
「私はシンシアです。よろしくお願いします」
「レティア様、シンシア様、よろしくお願いいたします。よろしければ、冒険者カードを提出していただければ更新いたしますが……」
「いえ、いいわ。さっきの話だけど、今はそれよりも人探しをしているの。『アルゼ』っていう、わ、私のここ、婚約者なんだけど……」
自分で婚約者と名乗ることにまだ少し照れのあるレティア。
「アルゼ様ですか!?」
キリルは、なぜか急にアルゼの名前に大きな反応を示して驚いた。
「え、ええ、知ってるのかしら?」
「あ、大変失礼しました……。アルゼ様は確かにこちらの冒険者ギルドに来られたのですが、数日前にこの街を発ったかと思います」
「え、そうなの!?」
キリルの言葉に、今度はレティアが驚いた。
「はい。アルゼ様はこの街にあるダンジョン『不死の宵闇』をメル様とともに踏破し、その後ポーターだったアビさんと3人でこの街を発ちました」
「ダンジョンを踏破……? レティア様、確かアルゼ様のスキルはなかったはずじゃ――レティア様?」
シンシアが疑問に思いレティアに声を掛けるも、なぜか反応がない。
「……ちょっと待って、そのメルとアビって誰なの?」
シンシアの疑問には答えず、レティアがキリルに問う。
「メル様は女性で、確か奴隷でしたね。アビさんも猫獣人種の女性ですよ。それがどうか――!?」
「……やっぱり悪い虫がついてるじゃないの。しかも2人? アルゼが家を追い出されてまだ数ヶ月しか経ってないはずなんだけど? え、それっておかしくない? 私はずっとアルゼのことを考えてるのに、アルゼは私のことどうでもいいとでも思ってるの? 婚約者なんですけど? 幼馴染なんですけど? こんな可愛くて家柄もいい女の子から好かれてるのに、しかも奴隷? え、なに、買ったってこと? は? 意味わかんないんですけど? なんでなんで――」
ブツブツと、下を向いたまま独り言を続けるレティアに、キリルはドン引きしていた。
「はぁ……。それで、アルゼ様たちがどこへ向かったかわかりますか?」
それに慣れているシンシアは、冷静にキリルに問いかけるのだった。
◆◇◆
「ほう、君が噂のグラント家の『次男』なのか。君の《特殊スキル:剣聖》は、どれほどのものなんだ?」
レオは試すような目で、ルイを見つめた。
「ふっ……まぁ、あなた方が束になっても倒すくらいの力はありますよ」
「ちょっとアンタ――!」
「まあ、待て、レイラ。実際、噂通りのスキルならその通りのはずだ。ま、でも少しくらいは力を見せてくれてもいいだろ?」
レオをガストを見て顎で指示を出す。
「俺は一般スキルだが《鉄壁》を持っている。この大盾に向かって、剣を振ってもらえるか?」
そう言って、ガストは盾を構えた。
ルイは「……いいですよ」と剣を抜いた。
「ま、軽くいきますよ――」
「――ぬおっ!?」
ルイはそう宣言すると同時に、ガストの持つ大盾に一撃を振り下ろした。
その衝撃でガストは大盾から手を離しそうになるが、ギリギリで耐える。
「こりゃあ『本物』だな。あの『無能』とは大違いだ」
レオが感心したように頷いた。
ガストは痺れた手を振りながら、
「ああ、さすが《剣聖》だ。本気を出されたら、俺なんかじゃ歯が立たないだろうな」
と、ルイを褒め称えた。
「ルイ、おめでとう。『勇猛な獅子』は君の加入を歓迎しよう」
「それで、そろそろ理由を教えてくれるのかしら?」
ルイは理由について、加入が決まったら話すとはぐらかしていた。
「そうですね。俺の目的は――あなたたちがさっきから話してる『無能』にあります」
「どういうことだ?」
ガストがルイに真意を問いただす。
「早い話、あの無能が生きていては困るんですよ」
「つまり、アンタはあいつを消す……ってことなの?」
「ま、そうなりますね」
兄弟だというのに、まったく愛情を感じさせないルイの物言いに、レイラは寒気がした。
「わかった。あの無能がどうなろうと、俺たちの知ったことじゃない。それよりも、俺たちがAランクになるのに協力してくれるんだろう?」
「あぁ、もちろんですよ。ただし、そちらもこちらの目的に協力してくださいよ?」
「ふっ、交渉成立だな。ともに目的を達成するための共同戦線といこうじゃないか」
「ええ、短い間でしょうが、よろしく頼みますよ」
目的は違えど、アルゼの知らないところで恐ろしい交渉が成立するのだった。
「すみません、ちょっといいかしら?」
「はい、どうなされましたか?」
レティアは眼鏡をかけた真面目そうな受付にそう切り出した。
「ちょっとある人を探してるんだけど……あの、私の婚約者で
――」
「アリシア様? 今は『元』と言ったほうがいいかもしれませんよ?」
「も、『元』じゃないもん! 全然っ、これっぽっちも現役なんだから!」
「あー、そうでしたね!」
シンシアはアルゼと同じでアリシアの旧知の仲ということもあり、こうして道中アリシアをかわいがっていた。
彼女からすると、恋に恋する乙女のアリシアはかわいらしく、ついイジメたくなってしまうのだった。
「失礼、話がよく見えないのですが……まずは、自己紹介をさせてください。私、受付をしております『キリル』と申します。どうぞ、お見知りおきを」
「あ、そうね。私はこうしゃ――いえ、『レティア』よ。よろしくね、キリルさん」
レティアは、あえて『公爵』という単語を使わずにおいた。
別に公爵令嬢が冒険者をしてても問題はないが、変に畏まられて時間を取られるよりいいと判断したのだ。
「私はシンシアです。よろしくお願いします」
「レティア様、シンシア様、よろしくお願いいたします。よろしければ、冒険者カードを提出していただければ更新いたしますが……」
「いえ、いいわ。さっきの話だけど、今はそれよりも人探しをしているの。『アルゼ』っていう、わ、私のここ、婚約者なんだけど……」
自分で婚約者と名乗ることにまだ少し照れのあるレティア。
「アルゼ様ですか!?」
キリルは、なぜか急にアルゼの名前に大きな反応を示して驚いた。
「え、ええ、知ってるのかしら?」
「あ、大変失礼しました……。アルゼ様は確かにこちらの冒険者ギルドに来られたのですが、数日前にこの街を発ったかと思います」
「え、そうなの!?」
キリルの言葉に、今度はレティアが驚いた。
「はい。アルゼ様はこの街にあるダンジョン『不死の宵闇』をメル様とともに踏破し、その後ポーターだったアビさんと3人でこの街を発ちました」
「ダンジョンを踏破……? レティア様、確かアルゼ様のスキルはなかったはずじゃ――レティア様?」
シンシアが疑問に思いレティアに声を掛けるも、なぜか反応がない。
「……ちょっと待って、そのメルとアビって誰なの?」
シンシアの疑問には答えず、レティアがキリルに問う。
「メル様は女性で、確か奴隷でしたね。アビさんも猫獣人種の女性ですよ。それがどうか――!?」
「……やっぱり悪い虫がついてるじゃないの。しかも2人? アルゼが家を追い出されてまだ数ヶ月しか経ってないはずなんだけど? え、それっておかしくない? 私はずっとアルゼのことを考えてるのに、アルゼは私のことどうでもいいとでも思ってるの? 婚約者なんですけど? 幼馴染なんですけど? こんな可愛くて家柄もいい女の子から好かれてるのに、しかも奴隷? え、なに、買ったってこと? は? 意味わかんないんですけど? なんでなんで――」
ブツブツと、下を向いたまま独り言を続けるレティアに、キリルはドン引きしていた。
「はぁ……。それで、アルゼ様たちがどこへ向かったかわかりますか?」
それに慣れているシンシアは、冷静にキリルに問いかけるのだった。
◆◇◆
「ほう、君が噂のグラント家の『次男』なのか。君の《特殊スキル:剣聖》は、どれほどのものなんだ?」
レオは試すような目で、ルイを見つめた。
「ふっ……まぁ、あなた方が束になっても倒すくらいの力はありますよ」
「ちょっとアンタ――!」
「まあ、待て、レイラ。実際、噂通りのスキルならその通りのはずだ。ま、でも少しくらいは力を見せてくれてもいいだろ?」
レオをガストを見て顎で指示を出す。
「俺は一般スキルだが《鉄壁》を持っている。この大盾に向かって、剣を振ってもらえるか?」
そう言って、ガストは盾を構えた。
ルイは「……いいですよ」と剣を抜いた。
「ま、軽くいきますよ――」
「――ぬおっ!?」
ルイはそう宣言すると同時に、ガストの持つ大盾に一撃を振り下ろした。
その衝撃でガストは大盾から手を離しそうになるが、ギリギリで耐える。
「こりゃあ『本物』だな。あの『無能』とは大違いだ」
レオが感心したように頷いた。
ガストは痺れた手を振りながら、
「ああ、さすが《剣聖》だ。本気を出されたら、俺なんかじゃ歯が立たないだろうな」
と、ルイを褒め称えた。
「ルイ、おめでとう。『勇猛な獅子』は君の加入を歓迎しよう」
「それで、そろそろ理由を教えてくれるのかしら?」
ルイは理由について、加入が決まったら話すとはぐらかしていた。
「そうですね。俺の目的は――あなたたちがさっきから話してる『無能』にあります」
「どういうことだ?」
ガストがルイに真意を問いただす。
「早い話、あの無能が生きていては困るんですよ」
「つまり、アンタはあいつを消す……ってことなの?」
「ま、そうなりますね」
兄弟だというのに、まったく愛情を感じさせないルイの物言いに、レイラは寒気がした。
「わかった。あの無能がどうなろうと、俺たちの知ったことじゃない。それよりも、俺たちがAランクになるのに協力してくれるんだろう?」
「あぁ、もちろんですよ。ただし、そちらもこちらの目的に協力してくださいよ?」
「ふっ、交渉成立だな。ともに目的を達成するための共同戦線といこうじゃないか」
「ええ、短い間でしょうが、よろしく頼みますよ」
目的は違えど、アルゼの知らないところで恐ろしい交渉が成立するのだった。
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