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第4章 『王都と成り上がり』
37.苦渋の選択
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「まさか、王都に向かって飛ぶつもりなのか……?」
エンシェントドラゴンは山の頂上で雄叫びを上げ、翼をバサバサと広げている。
その姿と声は、異常に興奮しているように見えた。
「なんだか様子がおかしいように見えます……」
「メルもそう見えるか?」
「はい。エンシェントドラゴンは初めて見ましたが……非常に頭のいいドラゴンと聞いたことがありますので、今の理性を失ってるような状態が普段と同じ状態とはなんだか思えないですね」
エンシェントドラゴンは何かを探すように頭をぶんぶん振っていた。
「なんか変な匂いがするのですよー……」
「匂い? そんなのするか?」
「私にはちょっと……」
「私もわからないわね。シンシアはどう?」
「いえ、私にも……」
「甘い匂いというか、とにかく変な匂いがするのですよ?」
そう言って、アビは鼻をつまんだ。
「うーん、獣人種は鼻が利くっていうからな。もしかしたら、エンシェントドラゴンもそれに影響されてるのか?」
「うぅ、そうかもしれないのですよー」
アビの様子を見ると匂いのせいで元気がなくなっているが、エンシェントドラゴンは逆に興奮状態となっていた。
耳を澄ますと、遠くのほうからも騒いでいる声が聞こえてくる。これがレッサードラゴンやワイバーンならば、ドラゴン種に作用しているのかもしれない。
「まるで『トランの消滅』みたいね……」
「『トランの消滅』って、30年くらい前に王都で起きた話か?」
「ええ、そうよ。あの時のことは、お父様もお母様もとても辛くて悲しいものだったって言ってたわ」
俺のように地方で暮らしていた貴族に比べ、王都で暮らすレティアからすれば気が気じゃないかもしれない。
「すぐに戻ろう。レティアも1度家に戻るんだ。いいな」
「わ、私は――」
「ダメだ。お前は《賢者》だし、何かあったときに家にいたほうが心強いはずだ。またすぐに会えるから、今は戻るんだ」
「う……わかったわ……」
レティアは渋々といった様子で頷いた。
「あっ!!」
メルが突然大きな声を上げた。
視線の先を見ると、
「マズい……このままじゃ王都が……!」
エンシェントドラゴンが激しく翼をはためかせ、真っ直ぐに王都に向かって飛び立ったのだった。
その速度は恐ろしく速く、俺たちがいた地点をすぐに抜き去ってしまった。
「くそっ……急ぐぞ!!」
俺たちは急いで来た道を戻り、王都へと向かった。
全速力で山を降りながら王都のほうを見ると、エンシェントドラゴンはすでに王都の上空にまで達していた。
――は、速すぎる!
更には遠目にワイバーンやレッサードラゴンまで見え、きっと今頃王都がパニックに陥っていることは容易に想像できた。
「い、急がないと……キャッ!」
「レティア様!」
足がもつれたレティアが転んでしまった。
レティアは《賢者》ではあるが、身体能力が特別高いというわけではないし、走るのが得意なわけでもない。
俺は王都とレティアのことを考え、
「――レティア、ここで分かれよう」
「な、なんでよ! 私が足手まといだって言いたいの!?」
「ああ、そうだ」
俺はきっぱりと伝えた。
ショックを受けたレティアの顔を見るのは心にクるものがあったが、今は優先順位をつけて行動しなければいけない。
これは、苦渋の選択だ。
「レティアは《賢者》だし頼もしい戦力だと思う。でも、ここから王都まで距離もまだある。俺とメルならもっと速度を上げることができる。その状況でどうすればいいか……頭のいいレティアならわかるはずだ」
「――っ」
レティアが唇を噛んで悔しそうな顔を浮かべる。だが状況は理解しているからか、小さく頷いた。
「ありがとう、レティア。アビも君の家へ連れてってほしい」
「あなたはどうするの? エンシェントドラゴン相手に人はなにもできないわ!」
「だとしても、俺は自分のできることを無理のない範囲でするよ。このままただ見過ごすなんてことはできないからな」
俺の力なんてとてもエンシェントドラゴンをどうにかできるわけないことは知ってる。
でも、だからといってレティアの暮らす街をこのまま魔物たちの好きにさせるわけにはいかないと思えた。
「……ああ、もう! わかったわよ!」
レティアは悩んだ末に決断したようだ。
「その代わり――絶対に死なないでよね! ちゃんと……戻ってきてよね」
「ああ、約束するよ。シンシア、レティアのことを頼んだぞ。アビも冷静な判断を下せるからな。頼んだぞ」
「はい、かしこまりました。アルゼ様もお気をつけて」
「わかったのですよー。じゃじゃ馬娘をしっかりと実家に送り返すのですよー」
「だ、誰がじゃじゃ馬娘よ!」
アビの言葉に、緊張が解れて少し場が和らいだ気がする。
――アビのこういうところ、ほんと助かるな。
「よし。誰1人、絶対に欠けることなくまた集まるぞ。いいな?」
「はい!」
「もちろんよ!」
「わかったのですよー」
「かしこまりました」
俺は全員の顔をしっかりと見て頷き、
「よし、行こう!」
俺とメルは先行して、街へ向かって走り出すのだった。
エンシェントドラゴンは山の頂上で雄叫びを上げ、翼をバサバサと広げている。
その姿と声は、異常に興奮しているように見えた。
「なんだか様子がおかしいように見えます……」
「メルもそう見えるか?」
「はい。エンシェントドラゴンは初めて見ましたが……非常に頭のいいドラゴンと聞いたことがありますので、今の理性を失ってるような状態が普段と同じ状態とはなんだか思えないですね」
エンシェントドラゴンは何かを探すように頭をぶんぶん振っていた。
「なんか変な匂いがするのですよー……」
「匂い? そんなのするか?」
「私にはちょっと……」
「私もわからないわね。シンシアはどう?」
「いえ、私にも……」
「甘い匂いというか、とにかく変な匂いがするのですよ?」
そう言って、アビは鼻をつまんだ。
「うーん、獣人種は鼻が利くっていうからな。もしかしたら、エンシェントドラゴンもそれに影響されてるのか?」
「うぅ、そうかもしれないのですよー」
アビの様子を見ると匂いのせいで元気がなくなっているが、エンシェントドラゴンは逆に興奮状態となっていた。
耳を澄ますと、遠くのほうからも騒いでいる声が聞こえてくる。これがレッサードラゴンやワイバーンならば、ドラゴン種に作用しているのかもしれない。
「まるで『トランの消滅』みたいね……」
「『トランの消滅』って、30年くらい前に王都で起きた話か?」
「ええ、そうよ。あの時のことは、お父様もお母様もとても辛くて悲しいものだったって言ってたわ」
俺のように地方で暮らしていた貴族に比べ、王都で暮らすレティアからすれば気が気じゃないかもしれない。
「すぐに戻ろう。レティアも1度家に戻るんだ。いいな」
「わ、私は――」
「ダメだ。お前は《賢者》だし、何かあったときに家にいたほうが心強いはずだ。またすぐに会えるから、今は戻るんだ」
「う……わかったわ……」
レティアは渋々といった様子で頷いた。
「あっ!!」
メルが突然大きな声を上げた。
視線の先を見ると、
「マズい……このままじゃ王都が……!」
エンシェントドラゴンが激しく翼をはためかせ、真っ直ぐに王都に向かって飛び立ったのだった。
その速度は恐ろしく速く、俺たちがいた地点をすぐに抜き去ってしまった。
「くそっ……急ぐぞ!!」
俺たちは急いで来た道を戻り、王都へと向かった。
全速力で山を降りながら王都のほうを見ると、エンシェントドラゴンはすでに王都の上空にまで達していた。
――は、速すぎる!
更には遠目にワイバーンやレッサードラゴンまで見え、きっと今頃王都がパニックに陥っていることは容易に想像できた。
「い、急がないと……キャッ!」
「レティア様!」
足がもつれたレティアが転んでしまった。
レティアは《賢者》ではあるが、身体能力が特別高いというわけではないし、走るのが得意なわけでもない。
俺は王都とレティアのことを考え、
「――レティア、ここで分かれよう」
「な、なんでよ! 私が足手まといだって言いたいの!?」
「ああ、そうだ」
俺はきっぱりと伝えた。
ショックを受けたレティアの顔を見るのは心にクるものがあったが、今は優先順位をつけて行動しなければいけない。
これは、苦渋の選択だ。
「レティアは《賢者》だし頼もしい戦力だと思う。でも、ここから王都まで距離もまだある。俺とメルならもっと速度を上げることができる。その状況でどうすればいいか……頭のいいレティアならわかるはずだ」
「――っ」
レティアが唇を噛んで悔しそうな顔を浮かべる。だが状況は理解しているからか、小さく頷いた。
「ありがとう、レティア。アビも君の家へ連れてってほしい」
「あなたはどうするの? エンシェントドラゴン相手に人はなにもできないわ!」
「だとしても、俺は自分のできることを無理のない範囲でするよ。このままただ見過ごすなんてことはできないからな」
俺の力なんてとてもエンシェントドラゴンをどうにかできるわけないことは知ってる。
でも、だからといってレティアの暮らす街をこのまま魔物たちの好きにさせるわけにはいかないと思えた。
「……ああ、もう! わかったわよ!」
レティアは悩んだ末に決断したようだ。
「その代わり――絶対に死なないでよね! ちゃんと……戻ってきてよね」
「ああ、約束するよ。シンシア、レティアのことを頼んだぞ。アビも冷静な判断を下せるからな。頼んだぞ」
「はい、かしこまりました。アルゼ様もお気をつけて」
「わかったのですよー。じゃじゃ馬娘をしっかりと実家に送り返すのですよー」
「だ、誰がじゃじゃ馬娘よ!」
アビの言葉に、緊張が解れて少し場が和らいだ気がする。
――アビのこういうところ、ほんと助かるな。
「よし。誰1人、絶対に欠けることなくまた集まるぞ。いいな?」
「はい!」
「もちろんよ!」
「わかったのですよー」
「かしこまりました」
俺は全員の顔をしっかりと見て頷き、
「よし、行こう!」
俺とメルは先行して、街へ向かって走り出すのだった。
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