天底ノ箱庭 新世界

Life up+α

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4章

2

2.
ゴミ山の上に座り、ぼんやりと街の空に開かれた大穴を眺める。
ここにいると、なんだかシャムと出会う前に戻ったようだ。長い長い夢を見ていて、ここで目が覚めたばかりという気がした。
幸せで、どうにもならないほど苦しい時間だった。シャムを好きになればなるほど、この世界の汚さが目について、それに汚されていくシャムの姿を許せなくなっていった。
シャムが俺を守ろうとしてくれていたと、痛いほど分かっていたつもりだ。それでも、何故こんなことになる前に俺に打ち明けてくれなかったんだろうって。何故もっと俺を頼ってくれなかったんだろうって。あれほど話してくれたのに、どうして教えてくれなかったんだって。
過ぎ去ってしまったことをいつまでもズルズルと、あれが彼の優しさだったと分かっているのに、責めてしまう気持ちが消えなかった。
俺は最低だ。そもそも俺が彼の危機に気付けなかったのが悪かったのに、彼が俺を信じてくれなかったとすら感じている。
彼が知らないうちに1人で変わってしまったと気付くと、八つ当たりのように彼に当たって、彼に昔の姿になれと怒り散らした。それは俺が今の彼を受け入れられていない何よりの証で、そんな自分が許せなかった。
シャムは俺の気分が安定しなくて、いつ何をするとも分からないのにいつだって優しく受け入れる。俺を好きだと言ってくれた。もう昔みたいになれないのに、怒るでもなく嫌いになるでもなく、ずっと傍にいてくれた。
それなのに俺だけが彼の今の姿を拒絶して、目を逸らして、彼に秘密にされたのが悔しかったくせに、俺はシャムに黙って人を殺し続けた。
怒りが収まらないんだ。どうやっても。悪いことから目を逸らして、シャムさえ守れるならと人を殺す度に自分の中で何かが一緒に死んで行った。
最低だ。俺がシャムの傍にいる資格なんかない。俺が彼の傍にいたって幸せになんて出来ない。
出会わなければ良かったんだ。俺に出会ったから、シャムは不幸になったんだ。
よく回らない頭でぼんやりと考えながら、ゴミの中に背中から倒れた。
ああ、シャムはこれからどうやって暮らすんだろう。いっそバビロンの元に行って、俺を誘惑する人間として雇われたりするんだろうか。それとも、家でやっていたような高級娼婦にでもなるのか。それならいっそ、俺と暮らすより幸せな気がしたが、心配はやはり拭いきれない。
後でシャムがまだ家にいるか確認しに行こう。もし、まだあの家で1人で暮らしているなら、彼に姿を見られないように食料を渡して、人が近寄らないように守ろう。
「…やぁ、リーサルウェポン。元気なさそうじゃないか」
声をかけられて目を開くと、目の前に俺を覗き込む男の姿が写った。
「…誰だ?」
目を細めて彼の姿にピントを合わせる。
サラサラの緑の髪の毛、ラメを散りばめたようなエメラルドの瞳。まるで作り物のように整った恐ろしく美しい顔立ちの男性だ。真っ黒のワイシャツに目玉のような模様のスカーフを巻いてこの辺りではなかなか手に入らないレザーパンツは、彼の細く長い足を際立たせる。
シャムと並ぶ綺麗な顔立ちだが、違うとすれば目の前の男性には人間らしい温かみみたいなものがまるで感じられないところだ。
「俺はシャルル。君に用事があってね、探していたんだ」
ニッコリと笑みを浮かべる彼の目は笑っているようには見えないが、敵意があるような感じもしない。
「バビロン関係ならお断りだ」
どうせシャム以外で俺に話しかけてくるのは、この右手に用がある人間しかいない。
ゴミの中から身体を起こして立ち上がる。やっぱりシャム1人置いて出てくるべきじゃなかった。シャムがまだあの家にいるのかだけでも早々に確認するべきだろう。
家に向かって歩き出す俺の前に男は回り込んで話しかけてくる。
「まー、待ってくれよ。確かにバビロン関係さ。でも話を聞かずに断る程、くだらない話をしに来たんではないよ」
2m近くありそうな長身の彼は少し腰を曲げて、俺の肩に手を置いた。
「君が置き去りししてきたあの青年。暴徒に襲われていたのを知ってたかい?」
「は!?シャムが!?」
俺が家を飛び出してきてからそんなに長い時間は経っていないと思っていたが、ぼんやりとする時間が長くなってきている自分のバグった時間感覚は信じられない。
急いで家に向かって走ろうとする俺の肩をぐっと引き止めて彼は「ふふ…」と上品に笑う。
「大丈夫、幸いすぐに発見したからね。ちゃんと助けて、ひとまずバビロンで保護したんだ。怪我も何もしてないから安心して」
「バビロンが保護…?」
俺は眉をひそめる。あれだけシャムから色々なものを搾取して蹂躙したバビロンが、今更のように彼を保護するだなんて信じられない。
「バビロンがシャムを保護するわけがないだろ。性処理道具として連れ帰った間違いじゃないのか?」
「まさか、彼の残したツケはもう十分徴収させてもらったんだ。これ以上望まない行為を強要はしないよ。ただ彼は客受けが良かったし、僕らの組織にも彼を気に入る人間がいてね。あのまま殺してしまうのは惜しい。彼が望むのであれば俺らで面倒見ようと思ってるのは事実だよ」
シャルルは俺が話を聞く気があるとわかると手を離す。
「そんなわけで、彼が今後どう過ごすかを決めるまで保護しようって魂胆さ。彼がバビロンを気に入ってくれるようにちゃんとした意味でのおもてなしだってするつもりさ。信用出来ないってなら見に来るかい?」
彼の言葉に俺は睨みながら沈黙する。
何がなんでもシャムを食い潰そうとするバビロンのツケが本当に払い終わったのか…?シャムのような可愛いらしくて、今ではあれだけいやらしくなってしまった人間が客受けが良い話は分かる。組織で気に入った人間というのも、腹が立つが残念ながら理解出来る。
「…俺がバビロンたちの客を散々殺したはずだ。そこはどうする気だ。ツケを徴収するどころか、俺のせいで顧客が減っただろ」
俺だってバビロンに報復されることを覚悟で殺していた。それをシャムのツケにしないなら、俺に対価を求めるはずだ。こんなに優しく誘わなくたって、対価を求めれば俺はついて行かざる得ないだろう。
「君は鋭いな。まさにそれだよ、ツケの徴収分以上の働きだ。君のおかげて彼のツケは無くなった」
「どういうことだ」
俺の疑念の視線をよそに、シャルルはとても機嫌良さげに笑って答える。
「アイツら顧客といえば聞こえはいいけど、この街の限られた資源をバビロンの傘下に入らず一個人で大量に食い潰す害虫みたいなもんだ。彼らを片付けてくれたおかげでその資源を回収できたってわけさ」
彼の言葉に俺は黙り込む。とても腹立たしくあるが、俺のあの行動でシャムのツケがなくなったという話は少し腑に落ちてしまった。
バビロンの目的はこの街の統治だと聞いたことがある。統治だなんて散々他者から搾取しておいて笑わせる話だが、傘下に入らない非力な人間を間引くというのは、あながちない話ではない。
シャルルの見た目はそこまで派手ではないが、適度に身なりが良くて、口ぶりからしてもバビロンの上層部にあたる人間なのはなんとなく察せる。
そんな彼の様子が俺を妙に信用させた。
「…見に行っても、俺にはすぐに払える対価はないし、もう人は殺さない」
殺すとすればシャムのためだけだ。人を殺すのはいつだって心がすり減る。
背の高い彼を睨みつけると、再び彼はニッコリと微笑んで頷いた。
「対価なんてとんでもない、君にはむしろお礼をしたいくらいなんだからさ!じゃ、気が変わらないうちに行こうぜ!」
シャルルは俺に手招きをして7センチくらいありそうなヒールでゴミ山の中を器用に歩いていく。
「…本当にシャムが家にいないのか、確認だけしたい」
彼の背中に静かに言うと「ああ、勿論さ」と足を止めて家の方へ向かって歩き出した。
彼と一緒に自宅に寄ると、本当にそこにはシャムの姿はなく、玄関の扉すら開け放たれたままだった。暴徒に襲われたなら、まあ当たり前ではあった。
中に誰もおらず、部屋を荒らされた形跡もない。家の外鍵を閉めると、シャルルに連れられるままバビロンの本拠地へと向かった。
崩れかけのホテルの看板に、バビロンのマークの旗が掲げられた建物に案内されて中へと足を踏み入れる。
最下層とは思えないほど綺麗なロビーにはシャンデリアやピアノなどの調度品が多く並べられている。
「おかえりなさいませ、シャルル様」
入口付近で掃除をしていたスーツ姿の男性が恋人を迎えるような笑顔で会釈をする。
「ああ、ただいま。掃除していたのかい?いつもありがとう」
シャルルが彼に笑顔で答えると、嬉しそうに頬を染めてもじもじと手に持っていた掃除機をきゅっと握りしめる。
人の四肢をもいで性欲処理道具にしたり、水代と称して脅したり、家を付け狙って張り込み、売春を強要するような恐ろしい組織とは思えないほど和やかな光景だが、シャルルに挨拶をした男性の目が死んだ魚のようで違和感を覚える。
彼の目は、まるで最近鏡で見た俺のようだ。だけど、こんな世界じゃそうならない方が難しい気もした。
「さあ、こっちだよ」
手招きをするシャルルに早歩きでついて行くと扉の前で立ち止まる。
「直接会いたくはないんだろう?この部屋からならこっそり彼の様子が見れる。だから安心してくれよ、マジックミラーだからさ」
そう言って扉を開けると目の前のガラスの向こうにシャムが座って、身なりのいい男にドライヤーで髪を乾かされていた。
「なんでドライヤー?」
シャムの様子を見ながら俺は首を傾げる。
そもそも、俺は彼にシャムに直接会いたくないと伝えただろうか。いや、言ったような気もしなくもない。
最近の俺の頭はバグっていて、都合が悪いことを忘れようとしたりする。もしかしたら、話したことに罪悪感を覚えて忘れてしまったのかもしれない。
シャルルには不思議と俺を信じさせてくれるような安心感があった。上品な立ち振る舞いや、部下を労い、慕われる様子も、気さくで話しやすい雰囲気も。自分の頭が信用出来ない、という意味でも二重の意味で彼を信じたくなってしまう自分がいる。
信じたら危ないと頭のどこかで思っている。ダメ元で出た俺の質問に彼は柔らかく微笑んで答える。
「暴徒に襲われた時に体が汚れてしまったからね。ほら、あそこは酷い有様だったろう?そのままじゃあ可哀想だからシャワーと着替えをしてもらったのさ」
ガラスの向こうのシャムは、ドライヤーで丁寧に髪を乾かされて、安心しているのか少し眠そうにウトウトしている。
彼の手元には暖かい飲み物も置かれているし、シャムの髪を乾かす男性も優しげな初老の男性だ。
「シャムはこれからどうするんだ?」
「…今は落ち着いたようだが、保護した時には酷く動転していたんだ。しばらくゆっくり休んで貰うつもりさ。その後で改めて彼の希望を聞こうと思っているよ」
ガラス越しとは言え、目の前にいるのはどう見ても本物のシャムだ。彼があの薄暗くて狭い部屋ではなく、広々とした明るい綺麗な部屋でくつろいでいる姿に安心した気持ちは隠せない。
俺は思わず笑みを零して頷いた。
「わかった。また明日も見れたりする?これ以上は対価が必要か?」
「勿論、対価なんて要らないさ。君は大事な客人だからね。なんなら今日のところは泊まっていくかい?見ての通りホテルの跡地だからね、部屋は沢山あるんだ」
「…そう、助かるよ」
まるで親しい友人のように軽く誘ってくる彼に俺は有難くその申し出を受けることにした。
シャムに出会う前の俺なら、きっとこんな風に彼を信用したりしなかった。信用以前に、聞く耳を持たなかっただろう。
それでも、シャルルの言葉を聞けば聞くほど不思議と荒んだ心が癒されて、シャムを失ったことで空いた穴が少しだけ埋まるような感覚が心地よかった。
ガラスの向こうのシャムは髪を乾かし終わったらしく、男性に連れられて部屋を出ていく。
「彼ももう休むようだから、君も部屋に案内しよう。着いてきてくれ」
シャルルは俺を連れてエレベーターに乗り、客間の並ぶ上の階へ案内してくれた。
「この部屋を好きに使ってくれ。大浴場もあるけど部屋のシャワー室もちゃんと使用できるからね。後で食事を…一緒にどうだろうか?…ふふっさすがに急すぎるかな?」
彼は少しはにかんだような顔で俺を食事に誘う。控えめで、優しいその話し方はシャムを彷彿とさせた。
「えっ、ああ…いいよ。俺もここの話、もう少し知りたい」
ここでシャムが1人で暮らしていくことを考えたらちゃんと様子を見るべきだと、それらしい理由を頭で並べているが、シャルルの喋り方はここがバビロンの本拠地であることを忘れさせてしまう。
明るい部屋、綺麗な内装、争いのない空間。まるで地上に帰ってきたような、危機感を削ぎとる居心地の良い場所だ。それは、最下層だと考えれば明らかに不自然なのはここなのに、ここが普通であって欲しいと、痺れたように麻痺して動かない脳みそが言い張ってやめない。
「本当かい?良かった、じゃあまた食事の時間に迎えに来るとするよ。1時間後くらいかな、それまでゆっくりしていてくれ」
ニッコリと笑って小さくてをふると、彼は足取り軽く廊下を歩き去っていった。
ベッドに横になると、住んでいた家のものよりスプリングの効いた弾力で俺の身体を迎える。
シャムはここで暮らす…バビロンに搾取された分、もし本当にここで保護されて守られるなら、その方が幸せな気がした。
あの光の差し込まない六畳一間で俺に手酷く扱われるより、環境として考えればよっぽどいい。シャムの仕事が何になるのか、シャルルからちゃんと聞いて、納得できたらこのままバビロンに渡すのが、俺が彼に出来る最後のことなんじゃないだろうか。
シャムを見捨ててしまったような罪悪感がちくちくと胸を蝕む。本当にこれが彼の幸せなのか?彼を陵辱した人間がいるこの組織に置いておいて大丈夫なのか?どこかにある暗い感情を、考えたくなくて目を閉じる。
シャルルに聞けばいい。彼ならきっと答えてくれる。普通に考えたら異常な信頼を自分が寄せてしまっていることを、今の俺には分からなかった。
ふかふかのベッドと快適な温度を保つ心地よい空調に微睡んでいると、コンコンとノックの音が聞こえる。
「シャルルだ。食事の用意ができたから一緒に行こう」
ドアの向こうから聞こえたシャルルの声に身体を起こす。部屋のドアを開けると、シャルルが俺を笑顔で迎える。
彼に連れられて俺の部屋よりも上の階の一室に通された。
まるで王室のような広い空間に大きなベッドやテレビ、きらびやかな家具やワインセラーが並んだ豪華な部屋だった。
ベルベット調のソファに腰を下ろすと、スーツ姿の若い男性がクローシュの乗ったワゴンを引いて部屋にやってきて、俺とシャルルの前に料理を並べていく。
皿に盛られた真っ白いホカホカのご飯に暖かそうなポタージュスープ、それにもう10年以上もご無沙汰だった大きな目玉焼きハンバーグだ。あまりに良い香りがして、俺は生唾を飲み込む。
「ふふっ今日はツイてる。目玉焼きハンバーグだぜ、やっぱりハンバーグには目玉焼きが乗ってるのが1番いい」
嬉しそうにハンバーグを見つめてから、料理を運んできた男に少年のような無邪気な笑顔で「サンキュー」と手を振る。
男は愛おしげに目を細めて軽く会釈をして部屋を後にした。
「さあ、乾杯しよう。酒は飲めるのか?それともぶどうジュースの方が好きかい?」
ワインセラーからボトルを選びながらシャルルが振り返る。
「え、ああ、じゃあ、ぶどうジュースで…」
残念ながら酒の美味さが分からないのでノンアルコールをリクエストする。
「ふふっオッケー」
ワインセラーに視線を戻すシャルルの背中を見ながら、俺は先ほど出ていった男性のことを考える。
掃除をしていた男性といい、さっきの人といい、皆シャルルを見る目が随分と優しく、シャルルも彼らにとても優しいのだ。バビロンの人間は、あのシャムを陵辱した3人のような汚らしい人間ばかりなんだと思っていた。
「なあ、部下たちに随分優しいんだな。それに、みんな思っていたよりフランクだ。シャルルはどれくらいの位置の人間なんだ?」
「部下か…俺は部下とはあまり思ってないよ、彼らは共に過ごす家族だ。一応俺はバビロンのボスに当たる存在だけど、皆にも俺のことも含めてバビロンを家族と考えてもらえるようにしてるつもりさ」
バビロンのボスと聞いて俺は目を開く。彼があの残虐なバビロンを仕切っているのか?この物腰の柔らかさからは想像も付かなかった。
「シャルルがボス…?じゃあ、シャムにツケを請求したのもお前なのか?」
「まあ…そうはなるかな。こんな世の中だ、どうしてもボランティアで成り立たせるのは難しいからさ…ただあそこまで酷いことになっているとは思わなかったよ。俺の家族が…すまなかったね。彼らにはよく言って聞かせるよ」
ボトルを持って席に戻ってきた彼は俺のグラスにぶどうジュースを注ぎながら申し訳なさそうに答えた。
「そんな…もっと他の方法で支払うことは出来なかったのか?食品とかで…」
「払えるだけの資源を彼は持ち合わせてはいなかった。だから体を…俺はそう聞いていたが、事実では無いのかい?」
彼の言葉にぐうの音も出ずに俺は目を伏せる。あの3人の取り立てはどうあれ、俺の食料で支払うことも、俺が代わりに働くことも拒否したのは確かにシャムで、身体を売ることに嫌々ながら同意したのもシャムだった。
そうなれば、身体で払えというのは最下層ではバビロンじゃなくとも常識だ。
「最近はバビロンも大きな組織になって豊かに暮らせるようにもなった。しかしそれが原因で悪さをするメンバーも出てきてしまっているのは俺も知っている。すまなかったな。組織の方針を統一できるように努めよう」
彼はワインを注いた自分のグラスを軽く掲げて「冷めてしまう前に頂こうか」と乾杯を求めてきた。
目の前で苦しむシャムを見て、実際に俺たちの関係はボロボロになってしまった。それがシャルルの意図でなかったとしても、怒り散らして責任を取らせるくらいの気持ちが確かにあったはずなのに、シャルルは思っていた以上に論理的で落ち着いていて、彼の言葉に返す言葉はどうしても見つからなかった。
シャルルは困ったように眉を寄せて笑い、俺にグラスを差し出したまま待っている。それに俺は目を伏せて、小さくため息を吐きながら自分のグラスを小さくぶつけた。
シャルルは俺が暗くなっても気にすることなく色々話してくれた。久しぶりの目玉焼きハンバーグは驚くほど美味しくて、これをシャムと一緒に食えたらどれだけ良かっただろうと考えると、少しだけ泣きそうだった。
シャルルはバビロンのボスで、シャムをあそこまで傷つけたことを認めた。少し安心しかけていた気持ちに現実を突きつけられたようでもあり、それがシャルルの口から丁寧に謝罪され、意図的ではなかったと言われば責めることも出来ずにいた。
何が正しくて、何を信じればいいのか、この穏やかな空間とシャルルの物腰のやわらかさがどんどんと俺の頭を混乱させていった。
その日はシャルルに言われた通りにシャワーを浴びてベッドに潜り込んだ。騙し討ちをされる可能性を考えて警戒したが、結局誰かが襲ってくることもなく、ただただ深い眠りへと俺を誘った。
シャムは夢に出てこなかった。いや、夢に見ていたのか、脳の一部が起きている間にずっと考えていたのかの区別がつかない。俺の脳裏に焼き付いたドライヤーで乾かされながらうたた寝する彼の穏やかな寝顔がずっとずっと瞼の裏にこびり付いて離れなかった。
次の日、朝起きると部屋の小さなテーブルに簡単な朝食が用意されていた。
朝食は本当にホテルのようなスクランブルエッグに、まだ温かいパンだった。それを咀嚼する。これも随分と懐かしい味だった。
食べ終わる頃にシャルルが部屋を訪ねてきて「これからシャムが朝食を食べるのだけど、見に行くかい?」と聞いてきた。シャルルに言われるままに昨日のマジックミラー越しに覗くと、シャムは少し落ち込んでいるような雰囲気はあるけど使用人のような初老の男性と時々楽しげに会話をしながらご飯を食べていた。
「…シャムはなんで少し元気がないんだ?」
マジックミラーを眺めながら、隣に立つシャルルに問い掛ける。
「保護した時から、時折あんな様子さ。何かとても悲しいことがあったのかもしれないけど俺達には話してくれないからね、わからないんだ」
シャムを見つめるシャルルの視線はとても心配そうで、それこそ元気の無い家族を気遣うような優しい顔をしていた。
「そう…なのか…」
最初こそバビロンの誰かにまた傷つけられたのかと思った。だけど、それならシャムはああしてバビロンの人間と朗らかに話したりしないような気もした。
そもそも、最初から彼に元気がないならその原因は大体俺が原因だろう。
ずっとそばにいるなんて、守るなんて約束して、俺はそれを何もかも放棄した。彼に優しくするどころか、傷付けることしか出来ない俺には最初から守れやしない約束だったんだ。
「何もかも上手くやれる人間なんていないさ」
ぽんと肩に手を置かれ、シャルルが少し真面目なトーンで呟く。
驚いて彼を見上げるとまるで俺の心をまるで見透かしているような、とても優しい瞳で俺を見つめていた。
「彼も君も…勿論俺だってそうさ。上手くやれないからそばに居てくれる家族が必要なんだ。俺はそのためにバビロンを作ったのだからね」
優しく背中を撫でる手つきはシャムを思い出させる。
「君も全て上手くやろうだなんて考えなくていい。困ったり苦しかったり泣きたい時は俺を頼っていいんだよ。ね、エリオ」
彼の言葉が不安や困惑の連続で疲れ果てた脳みそに染み込んでいく。それは乾いたスポンジに水を注ぐように思考や心に入り込む。
あれ?でも俺は彼に名乗っただろうか?一体いつ?湧き上がる不安。それでも、俺のバグった頭なら知らないうちにシャルルに名前の1つでも言っていてもおかしくない。
「…俺、シャルルにいつ名乗ったっけ?」
マジックミラーから覗けるシャムを見ていたら、その隣に映り込む俺の顔が目に入った。
その目には生気がなくて、濁っている。ひどく汚れた汚水のような自分の青い瞳はシャルルの傍にいるバビロンの人間たちと同じだ。
いや、これが普通なのか?みんなそうなら、今までの俺が変なだけか?
「昨日の食事の時に、リーサルウェポンなんて粗暴な名前で呼びたくないと俺が尋ねただろう?忘れてしまったのかい?」
シャルルの言葉が嘘を吐いていないだなんて、どこにも証拠はないのに、何故かそれは湧き上がった小さな不安をかき消して、その不安の分だけ大きな安心感を俺に与える。
「ああ、ごめん…忘れてたみたいだ。最近、なんか頭がぼんやりしていて…」
我を失ってしまうと、その間の記憶の保持が難しかった。シャムに辛く当たったり、誰かを殺したり、シャムが乱れる姿を見たりすると、薄ぼんやりとは思い出せるが、相手に言われたりしないと思い出せなくなっていた。
気まずそうに頭をかく俺にシャルルは優しく微笑む。背中を撫でていた手を頭をかく手の下に滑り込ませてかいていた場所を優しく撫でる。
「きっととても心が疲れていて、頭が防衛本能で忘れさせようとしてしまうんだね。大丈夫だよ、こんな場所だと珍しいことじゃない」
俺はシャルルを見上げる。
「そう、かな…そうかもしれな、い…?」
「そうさ、君が良ければ暫くここでゆっくり休むといい。君はなにも悪くない、大丈夫だ。俺に任せて」
思考に雲がかかる。霧で視界が見通せない場所で歩き回るような漠然とした不安に、ここは大丈夫だよと囁く誰かの言葉にすがって立ち止まるような、安心と不安が入混ざった感覚。
霧の中を歩き回る俺の足は、たぶん彼の言葉に足が止まってしまったんだ。その場に座り込んで、温かい焚き火にあたりたくなってしまった。
「対価は払えないよ、だから、シャムのことだけでも…あれ?シャムに、何をしようと思ってたっけ…」
そもそも俺は何をしにここへ来たんだろう。シャムにもう顔を合わせることは出来ない。シャムは一先ず安全で、守られている。
俺の手がなくたって、シャムはバビロンに…シャルルが守っているのに、俺がここにいる意味ってなんだ?
「対価なんていらないよ、バビロンは彼にそれだけの行いをしてしまった。それに、家族が困っているなら助けるのは当たり前のことだろ?そんなにおかしいかい?」
ふふっと柔らかく笑ったシャルルは俺の肩を軽く抱きしめている。
肩に伝わる人の温もり。シャム以外にもう感じることはないだろうと思っていたそれに、思考が歪んでねじ曲がっていく。
「家族…そっか…」
何かが変だと頭の隅で叫んでいる自分の声が耳に届く前にシャルルの温もりで消えていく。
地上で両親に抱きしめてもらった時のことを思い出していた。家族ってそういうことなのかもしれない。
「じゃあ…もう少しここにお世話になろうかな…」
「そう来なくちゃな!今日は君の部屋によく眠れるアロマでも炊いてあげるよ。疲れがよく取れるはずさ、心も体もね」
シャルルに言われるがままに俺はマジックミラーを後にした。
それからぼんやりした日常が過ぎた。日に日に思考が鈍り、難しいことが考えられなくなる。漠然と不安が生まれると、シャルルは決まって俺の部屋にアロマを焚いてくれた。その甘い香りは恐ろしく心を穏やかにしてくれた。
毎日シャムの様子を見に行く。食事の様子、風呂上がりに髪を乾かされる様子。本を読みふけっていたり、あの金髪の男と仲良さげに話をしている様子すら見る事が出来た。
彼は特別にここで酷い目にあっている様子もなく、凄く幸せそうにも見えなかったが不幸にも見えなかった。
シャムが安全で、シャルルは優しくやつだ。きっとシャムにひどい仕打ちをした人間はシャルルに諭されて心を入れ替えたんだろう。
金髪の男がシャムの腰に手を回す。それに寄り添うシャムの姿にちくちくと胸が痛んだ。シャムが金髪の男に向ける視線はついこの前まで俺に向けられていたのに。
「アイツらは仲良くなったのか…?」
不安と悲しみで心臓がバクバクと体内で騒ぐ。それを見たシャルルは困ったように笑った。
「あの彼がシャムを暴徒から助けて保護してきたんだ。エリオは彼のことが本当に好きなんだな…シャムは今とても幸せそうだけど…会いたくなったのなら手配しようか?」
俺はシャルルの言葉に黙り込む。
俺はシャムの幸せを願ってここに来たのに、素直に喜べなくて目を伏せる。
俺が望んでいたシャムの未来は、間違いなくこうであったはずなのに、どこまでも自分勝手だ。
「…シャムが…シャムがもし、俺に会いたいって言うなら…」
もう愛する人を他に見つけたなら、俺なんて必要ない。彼が俺を選ぶはずがない。
そう思いつつも、ずっと胸に痛みを運び続けるシャムに会いたいという気持ちがシャルルの提案を拒絶出来なかった。
「…わかった。今夜彼に尋ねてみよう」
優しく微笑んだシャルルに俺は目を伏せた。
不安だけがぐるぐると胸を抉っていた。
その夜に部屋でぼんやりとアロマポットから上がる煙を眺めているとシャルルが訪ねてきた。
「シャムが君に会いたいそうだよ。案内するからこっちにおいで」
「え…本当に…?」
半信半疑で俺はベッドから立ち上がる。シャムが別に愛する人が出来たのに会ってくれるとは思えない。あるとすれば、彼からの正式なお別れを言い渡されるくらいだろうか。
浮かない気持ちのまま彼に連れられてやってきたのは、先日一緒に食事をした王室のようなベッドルームだった。
ここにもあの甘いアロマの匂いが充満しており、部屋は間接照明で薄暗くも温かい明かりで満たされていた。
「ここにかけて、少し待っていてくれ。今から彼を連れてくるよ」
ニッコリと笑みを浮かべながら、シャルルは俺を大きなベッドに座らせる。
部屋を出ていく彼を黙って見送りながら、強いアロマの香りに眩暈のような眠気のような不思議な感覚に襲われる。前にもこれに近い感覚は味わったことがあるが、それはどうにも心地いい。
「…エリオ」
ふと呼ばれて顔を上げるといつの間にいたのか、目の前にはシャムがいた。
「シャム…」
どう言葉をかけたらいいのか分からずに彼を見上げる。
俺が何もかも投げ出して、置いてきてしまったシャムが目の前にいる。こんな最低な俺に、彼はきっと辟易しているだろう。
「会いたかった…僕、エリオに言いたいことが沢山あったんだよ」
彼はあの日と変わらない、柔らかく優しい笑顔で俺を見つめていた。
俺の隣に腰を下ろし体を預けるように身を寄せる。
俺は彼の身体に手を回していいのか分からずに、彼が身を預けやすいように腕を広げたものの、それの着地地点に迷って手をさ迷わせた。
彼はそんな俺の手をとって自らの腰に回させる
「シャム…俺も…沢山謝らないといけないことが…」
久しぶりに触れる彼の身体に思わず笑みが零れるが、それでもどこから話せばいいのかと言葉に悩む。
「いいんだよ。全部全部、僕のためだったんだってわかってる。ちゃんと分かってるから、何も言わないでいいよ」
そう囁きながらシャムは俺に唇を寄せ目を閉じた。そのまま俺の唇に押し当てて、キスで押し倒されるように俺たちはベッドに沈む。
唇を舌で丁寧になぞられそれに誘われるように唇を開いた。舌を絡ませて彼の唾液を味わうと、何かがいつもと違うような気がした。
「エリオ…」
シャムの着ていたバスローブは随分はだけていて、その手で俺のカットソーをスルスルと捲っていく。
「…いいの?他に好きな人とか…」
あの金髪は誰なのかと、そう言おうと思っていたはずなのに、部屋に充満する香りが俺の思考を溶かして消していく。
「僕が好きなのはエリオだけだよ…?」
胸元に頬を寄せるシャムの体温が久しぶりでとても心地いいはずなのに、何故かそれはシャルルの体温を思い出させた。 
不思議な違和感にざわつく胸の動悸を脳が考えたくないと視界をぼやかす。
彼の細くて柔らかい指が俺の腹を撫でてそのまま股間へと伸びていく。すでに硬さを持ち始めていたそれを彼が優しく撫でてこすりあげていく。
「シャム…」
彼の頬にキスをして、バスローブの下に手を伸ばす。はだけたそれを肌に滑らせて脱がせると、恥ずかしそうに少しだけ体を背けて笑った。
ああ、なんか変だと感じていたのはきっとこれだ。昔のシャムが戻ってきてくれたに違いない。
彼の胸を口に含んで吸う。あまり柔らかさのないそれは出会って間もなく触れた時よりとむしろ硬くすら感じた。
「んっ…」
照れたように顔の半分を腕で隠して潤んだ瞳で俺を見つめる彼の胸を口の中で転がしながら、彼の下半身に手を伸ばす。入口に指を這わしてそこを指先でつつくと、相変わらず慣らす必要もないくらいに柔らかいそれは俺の指を簡単に受け入れる。
シャムの好きな浅い部分を指でゆっくりと刺激し、少しずつ早めながら速度をあげる。
「あっ…んっ…エリオっ…」
ぴくぴくと体を反応させたがらとろんとした目で俺を見つめるシャムが可愛い。
少し前に抱いた時はこれだけですぐに果ててしまうほどよがって悦んでいたのに、彼はまだ達する気配もなく、もっともっととせがんで来ない。
あんなにはしたなく求めて乱れるシャムはいない。おかしくなってしまう前に戻ってくれた。
「エリオ…大好き。どんなエリオでも大好き…」
甘えるようにシャムは俺に頬を寄せて抱きつく。
「俺もシャムが…」
そこまで言ってから湧き上がった喜びで熱くなった頭が、ふと冷えていく。彼を抱き返そうとした両腕が宙で止まり、震えた。
シャムが昔に戻るわけがない。それを拒絶して、認められなくて、いつまでも辛く当たり続けたから、それで苦しめたから俺は彼の元を離れたんだ。
「エリオ…僕を抱いてくれる?」
呆然と彼を見つめる俺のズボンをスルスルと脱がせると、目の前の彼は俺の股間ゆっくりと跨ってくる。
シャムはいつだって俺のことを受け入れてくれた。おかしくなった俺も、人を殺したことさえも責めずに受け入れてくれた。
だけど、それは今のシャムだ。昔の幻影なんかじゃかない。
「…お前、誰だ…?」
目の前のシャムから身体を離し、彼を見上げる。
「…?シャムだよ、どうしてこんなことを聞くの?」
「違う、お前は…お前は俺が求めてた理想像だけど、それはシャムじゃない」
いつまでもぬるま湯のような夢に浸って、現実から逃げて、目を逸らしてきたけれど、俺が好きなシャムは紛れもなく俺が当たって捨ててきた彼だ。
彼から離れて脱いでしまった服に足を通す。爆発するように湧き上がる不信感と不安と恐怖。目の前のシャムのような誰かに目を向けたまま俺は尋ねた。
「誰なんだ、お前」
彼の丸くて大きなエメラルドの瞳が眉間にシワを寄せた俺を顔を写す。
その瞳はひどく見覚えがあった。
「ふふっ…やっぱり君は一筋縄ではいかないね。じっくり蝕んで、むせ返るほど香を炊いても正気が戻ってくるとは」
シャムに見えていたそれは、次第に歪むように姿を変える。小柄なシャムとは似ても似つかない大きな身体と、冷たくすら感じる美しい顔の造形に嫌な汗が背中を伝った。
間接照明に照らされたシャルルは至って穏やかに微笑んだ。
「シャルル…なんで、どうして…?」
何が起きたのか分からずに頭を横に振る。別の人に化けるなんて、魔法でなければ不可能だ。信じ難い現象を前に俺は自分のシャツを片手に後ずさる。
「俺が君の名前を呼んだら、僕をシャムって呼んだじゃないか。だから俺はエリオの望みを叶えようとしただけさ」
乱れたバスローブをベッドに脱ぎさって、彼は俺にゆっくりと近寄る。
「君が『僕』に夢中になってくれれば、俺のために喜んでその力を使ってくれるだろう?実際君は俺に信頼を寄せて心を開いて『僕』と口付けを交わした。それ以上だって求める気だったんじゃないのかい?」
込み上げる恐怖に身体が震える。俺が触れたのはシャムではない。シャルルだった。彼が演じるシャムの姿を理想像に当てはめて、キスところか実際に抱こうとしていただなんて、信じたくない。
「シャムは!シャムをどこへやった!最初からハメる気だったのか!」
「彼なら今も君と一緒にいるはずさ。まあ、そう思ってるのは彼だけだろうがね。僕をシャムだと呼んだ君なら察しは着くだろ?」
壁際に追い詰めた俺の耳元で囁く彼の声はどこか楽しそうで、それがとても恐ろしかった。
シャムが金髪の男性に身を寄せる姿が脳裏に蘇る。男性に向けられたあの優しそうで柔らかい眼差しは、俺が見てきたものだ。てっきりシャムが他に俺くらい愛せる人間が出来たから、そうやって笑いあっているものだと。
シャルルから甘い香りがする。シャムに似ているようで全く違う、人工的でどこか恐怖を感じさせるのに酷く心が安らいでしまいそうになるあのアロマと同じ香り。それは再び俺の揺らぐ心を無理やり鎮めようと頭を痺れさせてくる。
思い出してみれば、シャルルからはいつもこの香りがした。香水なのかと思っていたが、それはこの部屋に充満するアロマの匂いだ。
「…っ!シャム!」
いますぐ彼の元へ行きたい。いてもたっても居られずに彼の名前を呼びながら部屋を部屋を飛び出した。
エレベーターを使わずに階段を駆け下り、いつも見ていたマジックミラーのある扉の隣、シャムがいるはずの部屋へと走り込む。
「シャム!」
ドアを開け放つとあの甘ったるいアロマの匂いが鼻に抜ける。
目の前のダブルベッドで半裸のシャムに体を重ねる金髪の男の姿が目に入った。
「…エリ…オ?」
金髪の男の背中に手を回していたシャムが驚いた顔で俺を見つめる。その目は少し前の俺と同じようにくすんでいて、あの水鏡のような綺麗な瞳が困惑で揺れていた。
「シャムから離れろ!」
シャムに被さった金髪の男の頭を掴みあげ、勢いよく床へ投げ飛ばす。ゴロゴロと床を転がった彼は、痛みに呻きながらゆっくりと起き上がった。
「ってーなあ…いやまあ初撃で殺しに来なかっただけラッキーか…」
金髪の男はそのまま床に腰を下ろし頭を擦りながらニヤけた顔で俺を見上げる。
「お前がボスとお楽しみの間に俺らも遊ぶつもりだったのにな、案外早かったじゃん」
「エリオ…エリオ…?」
不安そうな声で俺の名前を呼ぶシャムの声がみみに入り、ベッドに座り込んだ彼に目を向ける。
シャムの首元にはいくつもの赤いキスマークが残され、つい先程まで触られていたのであろう胸はふっくらと赤みを帯びている。
彼は濁った瞳を揺らしながら俺と金髪の男を交互に見つめ、まるでコマ送りするかのように徐々に顔を引き攣らせていった。
「あ…エリオ…なんで…そんな…そんな!」
頭を抱えて泣きわめくような声で叫ぶシャムに駆け寄り、彼を抱きしめて肩をさする。
「大丈夫…大丈夫、分かってる。だから、落ち着いてくれ」
彼の背中を擦りながら金髪の男を睨む。
これも俺が気づかなかったせいで引き起こされたものだ。もっと出来ることがあったのに、また俺は動けないままだった。
シャムを両腕で抱き抱えて立ち上がり、部屋を出ていこうとするのを長身の男に阻まれる。
「そう簡単に逃がすほど、バビロンはぬるくないぞ」
バスローブ姿のシャルルの背後にはあの火傷跡の男と刺青の男も一緒にいた。
「下手な真似をするなよ、俺もこいつは殺したくねえんだよね」
俺たちの背後に回り込んだ金髪の男がぐったりと放心したシャムの頭に銃口を突きつけニヤニヤと笑う。
「くっ…」
「さあ、シャムを俺に渡してくれ」
両手を広げたシャルルを睨み、俺は黙り込む。
金髪の男が持っている銃は本物だ。殺される可能性は充分にあるだろう。
「…彼を傷つけないか?」
「ああ、何もするもんか。彼も大事な俺の家族だぜ?」
恐ろしさすら感じさせる笑顔で答えるシャルルに俺は渋々とシャムの身体を手渡す。
「エリ…オ」
不安そうに俺の腕にしがみついて離れようとしないシャムの手に触れるだけのキスをする。そのままゆっくりと引き離し、俺の方から手を離した。
彼を安心させようと可能な限り笑って見せてから、俺はシャルルに向き直る。
「俺たちをどうするつもりだ」
「いい質問じゃん、こーすんだよ!」
金髪の男が答えると同時に劈くような銃声が響く。
「あぐぁ…っ!」
足に焼けるような激痛が走り、よろける。なんとか膝を折らずに持ちこたえるが、ボタボタと大量の血液を垂れ流す足が床に赤い水溜まりを作る。
歯を食いしばって呼吸を整え、金髪の男を見やる。
「エリオッ!!」
悲鳴のようなシャムの声に俺は小さく振り返る。
「…大丈夫」
なんとか笑ってみせるが、痛くて立っているのがやっとだ。下手に動けばシャムが危ない。それくらい分かっている。反撃するわけにもいかない。
金髪の男が俺を銃で殴り倒すとシャルルの後ろからふたりの男も部屋の中に入り俺の腹や背中を蹴り飛ばしたり踏んづけて痛みつける。
「うぐっ…がっ…」
腹を蹴りあげられる度に内臓がせり上がり、咳き込む間もなく怪我をした足を力づくで踏み抜かれて低い悲鳴が口から上がった。
「いいカッコだなリーサルウェポン。テメェにはひでー鬱憤が溜まりまくってんだよ。たっぷり遊んでくれよなぁ?」
「ちょっとでも下手な動きしたらあのかわい子ちゃんの安全は保証出来ねえからな、大人しくしてろよ」
暴れるシャムを押さえ込んだシャルルは穏やかな笑みを浮かべたまま部屋のソファに腰をかける。
まるで猫でも可愛がるかのようにシャムを膝に押さえつけて、鑑賞するように俺を見ていた。
「右手だけは壊すなよ」
シャルルの言葉に3人の暴行がヒートアップする。
そもそも両腕とも無機物な俺を痛めつけるのに、腕を傷付ける必要なんかない。無抵抗な俺の身体に重点的に蹴りを入れ、髪を掴まれては床に叩きつけられた。
額や鼻から血が出て、口元が裂ける。腹はもう感覚が薄まり、撃ち抜かれた足は熱をもって麻痺したように痺れていた。
「やめて…やめてお願い…」
「じゃあ君が変わりに殴られるかい?それともまた彼らの相手をしてくれるのかな?」
見ていられずに泣きながら顔を背けるシャムを撫でながらシャルルは笑う。
「やめ…ろ…」
頭を床に擦り付け、靴で踏まれたまま声を絞り出す。
「こんなの…腕を切り落と、された…時に比べたら…痒い…」
笑いながら血の混ざった唾液を金髪の男の靴に吐きかける。
「あ!?ってめえ!きったねえな!!」
金髪の男はこめかみに青筋を浮かべると、壁に飾られていた剣を引っ掴んで俺の左腕の関節部分に切っ先を叩きつける。
「兵器が減らず口叩いてんじゃねーよ!兵器は兵器らしくしてろ!」
叩きつけられた剣が関節を抉る。ビリビリとした鈍い痛みに小さく呻き、その腕を避けようと動かした。
「何庇おうとしてんだ」
刺青の男が俺左手を踏みつける。
俺の腕は無機物だが、動かせるように芯にあたる腕の中央部に神経を通してある。表面は痛くないが、切断されたら切断されただけの痛みがある。
危機感を覚えて引っ張るが、背中に火傷痕の男が椅子に座るように腰を下ろしていて身動きができない。
「どうせなら両手とも武器に変えやる。てめえにはこんなもん必要ねーだろ!」
硬い剣で何度も叩かれた関節部のパーツがひび割れ砕け剥がれ落ちる。
刺青の男がむき出しになった神経線を鷲掴みにしてブチブチと引きちぎっていく。
「あ"あ"あ"っ!い"ぎぁ…っ!」
「やめてぇ!エリオッ…エリオ!!!」
腕をチェーンソーで切り落とされるのとは違うおぞましい痛みに身体をバタつかせて暴れる。目と口の端から涙や涎が垂れることに気遣う余裕もなく、浅くなる酸素を必死に吸い込んだ。
全ての神経線をちぎりとられる頃には、叫びすぎて酸素が回らない頭で視界がぼんやりとした。
3人は俺を痛みつけるのをやめて、ニヤニヤと楽しげな笑みで見下ろしていた。
「エリオッ…!」
シャルルの腕から飛び出してきたシャムが俺に駆け寄り枕元に座り込む。
完全にちぎり取られた左腕を抱きしめてボロボロと流した涙が、俺の頬にポタポタと落ちてきた。
「ごめん、ごめんなさい…僕のせいでまた…エリオっ…」
「お前の…せいじゃ…い…」
喉から出た掠れた声が一瞬、誰のものか分からなかった。残された右腕を何とか持ち上げて、人差し指の刃裏でシャムの頬を撫でた。
「大丈夫…絶対…るか、ら…」
意識が遠のいていく。右腕から力が抜けて、床に落ちた。
暗くなっていく視界で泣きながら顔を寄せて俺の名前を叫ぶシャムの姿が少しずつぼやけていく。
彼の声が聞き取れない。まるで耳栓でもつけているみたいだ。
次に目を開けると見覚えのある薄暗い部屋と、あの人工的な甘ったるい匂いが鼻をくすぐる。
服を剥がされベッドに横たわった俺にピッタリと肌を寄せ合うシャルルのエメラルドのような瞳が俺を映す。
「腕は痛むかい?手荒な真似をしてすまなかったね」
彼の指が胸元から下腹部までをサラサラと撫でる。
「ここ…は…?」
先ほどあったことが上手く思い出せない。鳥肌が立つような鈍い痛みがじくじくと全身を蝕んでいる。シャルルの言葉に自分の左腕の肘から下がないことに気が付いた。
「俺の部屋さ。気を失った君を僕が連れてきた」
シャルルは俺の上に四つん這いになって見下ろす。彼の長くサラサラの髪が垂れて俺の体に触れてくすぐったい。
そのまま俺の首元に顔を寄せながら彼は囁く。
「痛くて苦しかったろう?でも俺なら助けられるよ。エリオが僕を受け入れてくれるなら…ね」
シャルルの言葉でぼんやりと目の前にいるのがシャムのように見えた。
いや…でもこれは、幻覚のはずだ。
「シャムは…?」
「彼が何か関係あるのかい?今は君が助かるための方法の話をしているんだけどな」
彼は俺の首にしたをはわす。それが痛めつけられた肌に染みて痛みがするのに、ぞわぞわとした不思議な感覚で身体が泡立った。
「俺は…シャムに…償わない、と…」
彼を不幸にした分だけ、彼の幸せを壊した分だけ、俺は彼に対価を支払う義務がある。こんな場所まで俺が彼を連れてきたなら、俺が彼を連れ出さなくてはならない。
「彼も君に酷いことしたんだから償う必要ないよ。それよりもっと君を必要とする人ここにいる。君の全てを受け入れるし、君の全てを許して、僕の全てを君にあげるよ?」
彼の指が俺の股間へと伸ばされる。シャムとは違うつるつるとした指先の感触に、これだけ身体が疲れているのに身体が小さく反応した。
シャムは俺に酷いことなんかしていない。彼は俺を守ろうとしただけ。なのに、こんなにシャルルの言葉が胸に染み込んでくるのは、俺の心のどこかにシャムを責める気持ちがあるからだろう。
もうその気持ちに別れると、確かに決めたはずなのに、ふわふわした頭が上手く動かない。
シャルルが体を起こすと体に触れていた毛先が撫でるように動く。まだ柔らかいの俺の物に顔を寄せて舌先で優しく撫でる。
まるで探るように満遍なく這わされる舌は、直ぐに俺の弱いところを見つけ出した。
ちろちろと軽く撫でたり小さな音を立てながら絶妙な力加減で吸われて、また舐められる。
「うっ…」
気持ちに反して彼の口の中で硬くなってしまう自分に嫌悪感が湧き上がる。逃げようと身体を動かそうにも、痛みと疲れでまるで動かない。
「もう…忘れよう?君の望みは…全てここで叶うんだからさ」
「い…やだ…」
シャルルの顔をあまり開かない目で睨む。
俺はシャムに償いたい。だけど、それよりもっとやりたいことがたくさんある。
「約束…たくさん、したんだ…。忘れない、わすれ、たくな…い…」
シャムを守ると誓った。傍にいるって言った。約束破って放り出して、目を背けるのはもうやめただろ。
徐々に冷静さが戻ってきた思考が回り出す。約束を守るチャンスがまた来ただけだ。汚名返上しないでどうする。俺はこんなところで油売ってる場合じゃない。
「嫁に…貰うんだ。だから、バビロンじゃ…叶わない」
シャルルに笑って見せると、彼は訝しげに目を細め少し激しくフェラを続行してきた。
意思に反してますます硬さを持つそれが射精したがっているのが分かる。
「くっ、はっ…やめ…」
歯を食いしばって耐えると、我慢しきれるかしきれないかというギリギリの瞬間彼の口が離される。安心と同時にも半端にされたそれが辛い。
「この先にはまだ行けないね。また次の機会にしようか」
部屋を出ていく彼を見送り、俺は首だけ起こしていた頭を枕に沈ませた。また疲れが俺の思考を停止させ、気絶するように眠りに落ちた。
次にまた目を開けると俺はソファに寝かされていた。目の前のベッドにシャムが裸で転がされているのを見て起き上がろうとするが、右手首だけがソファの背後の壁に短い鎖で繋がれていて動かせない。
「あ、起きたな。じゃあ始めるか」
そう言って俺の背後から刺青の男がシャムに近づいていく。
「やめ…シャムに、何すんだ…」
掠れた声を絞り出し、腕の長さが許す限界まで重たい身体を引きずるが、もはやソファから降りることすら出来ない。
刺青の男がシャムを抱き起こすと、彼は顔を真っ赤にして苦しそうに息を荒くしている。
手首には手錠がかけられそれはベッドの柵に長い鎖で繋がれているためにこの部屋から逃げ出すこともできそうにない。
「見ろよ、こいつ。すけべな顔してんだろ?お前が寝てる間にバビロン特性の媚薬を三本飲まされて放置されてたんだ。可哀想にさ」
ニヤニヤと語る男の手には小さな瓶が握られている。
「ボスには四本までって言われてんだよね。だから最後の一本はお前が起きるまで待っててやったよ。感謝してくれ」
刺青の男は片手で瓶の蓋を開けるとシャムの口元へ近づける。
「や…飲みた…くな…」
「えー、いいの?大人しくしてないと今度はエリオくんの足とかなくなっちゃうかもよ?」
「飲ませんな!」
掠れた声を精一杯張り上げる。右手首の鎖が引っ張られてジャラジャラと音を立てた。
「俺の四肢なんか切り落とせばいい!だからシャム、飲まなくていい!」
どうせ俺が死んだ方が大勢が助かるし、俺の右腕は俺にしか使えない。
シャムが救われるなら、俺の命なんか安いもんだ。
「エリオ…」
シャムは潤んだ瞳でまっすぐ俺を見る。それに刺青の男は面白くないと言った様子で舌打ちをした。
「っち…じゃあ予定変更。お前がこいつの変わりにこれ飲む?俺はこれを4本しか貰ってねえから、お前が飲みたいって言うんならこの最後の一本お前にあげるしか無くなるんだよね」
「そん…な…ダメえり…」
シャムは小さく首を横に振る。刺青の男が瓶をシャムの口元に近づけた。
「やめろ!飲む!俺が代わりに飲むから、シャムにはもう飲ませないでくれ!」
男を止めようと前に出ても、右腕が邪魔で近寄れない。睨みつけて唸ると、刺青の男は愉快そうに笑った。
「くくっ…いいよ。そんなに欲しいんならこれはお前にやるよ」
「やめて…それ…は…僕が…」
彼は小瓶を俺の口元まで持ってくる。口を少し開いて待つと、男は瓶を俺の口の押し当てて中にゆっくりと液体を流し込む。
薬臭い甘さが鼻に抜け、口に入れたそばから舌がピリピリと麻痺するような小さな痛みを覚える。
それを飲み込み、口を開いて男に見せる。
「飲んだ。これでシャムには何もしないでくれ」
男はキョトンと俺を見下ろすと、心底面白いものを見たという顔で声を上げて笑った。
「くっはははっ!何それ?俺そんなこと一言も言ってねえよ。薬は飲ませられないって言ったけど何もしないなんて約束してねえし」
再びベッドのシャムに近寄りながら男は振り返って俺を見る。
「あ、それ即効性なんだぜ。しかも効き目長持ちタイプ。目の前にこんなオカズまであんのに左手なくてシコれなくって可哀想にな」
「い、いやっ!」
シャムの足を掴んで彼の穴を見せつけるように指で広げる。トロトロに水気と熱を持ってそこは、物欲しそうにひくひくと反応していた。
「ふざけんな!シャムに触んじゃねぇ!」
前に飛び出そうとソファから降りて、それを蹴りあげる。壁にソファが打ち付けられてガツンと鈍い音を立てた。蹴りあげた拍子に撃ち抜かれた足から血が吹き出す。いつの間にか巻かれていた包帯がみるみる血で赤く染まった。
右手首を引っ張るが、太い鎖はびくともしない。ガシャガシャと揺らせば揺らすだけ関節が軋んだ。
「暴れんなようるせえなあ。そんなんで解けるような甘い拘束の仕方してるわけねえだろ?」
首だけこちらに向けたまま男はシャムの胸の先を指先で弾くと、弱々しいシャムの声が漏れ出す。
「や…やだ…やめてぇ…」
「あーあー、大好きな人の前でこんなにして…こんなんじゃ嫌われたって仕方ねえな」
徐々にその指はエスカレートしていき、先端をきゅうきゅう摘んでおれにみせつせるように引っ張った。
「ひっ…いや…いやぁ…んっ」
「やめろ!そんな手でシャムを…」
身体がジワジワと熱くなってくる。肌がざわざわとするその感覚に息が次第に上がり、自分が暴れた時に擦れる空気にすら変な気持ちになってしまう。
ズボンの下で張ってくるそれに、俺は膝をつく。腕が鎖に引っ張られ、引つる肩の皮膚にゾクゾクするような快感を運んできた。
シャムが甘い声で泣くとそれは脳をしびれさせて、身体から嫌な汗が滲む。
「シャム…」
「んっ…はぁっ…いっ…やぁ…あっ…」
刺青の男に乳首を咥えられてぬるぬると舐め回されながら、シャムは色っぽく頬を染め泣きそうな顔でよがっていた。
「やめろなんて言って随分興奮してるんじゃねえの?ほら、もっとよく見せてやろうか?」
男はシャムを抱えて俺のへの前に下ろさせる。彼の足を大きく開かせると目と鼻の先でシャムの穴を二本指でかき回し広げて中まで見せつける。
「あっ…はあっ…やだ…みな…いでぇ…やだぁ…」
腕を拘束されているシャムは隠すことも出来ずに力なくだらしない穴を見せつけたまま甘い声で鳴いた。
「やめろ…」
思わずシャムから目をそらす。湧き上がる熱で頭がぼんやりとして、どんどんとズボンがキツくなっていく。
こんなに苦しんでいるシャムを見て興奮する自分の身体に吐き気がした。助けることも出来ずに見守ることしかできなくて、それでいて自分までこんなことになるなんてどうかしてる。
男に触れられて喘ぐシャムを見ていると胸がギリギリと痛くて悪寒のような寒気が身体を走るのに、それすらも訳の分からない快感を運んでくる。
「なあエリオ…いやリーサルウェポンの方がいい?こんなの見せられてさ、興奮しちゃってるんだろ?」
刺青の男は自身のベルトを緩めて大きくなった性器を取り出す。
それに俺は顔を上げて目を見開く。それはもう次の出来事が言われなくても俺に嫌という程伝わる。
「やめろ!やめろやめろやめろっ!!手を出すな!俺のシャムに触んな!!」
ガシャガシャと鎖を揺さぶって叫ぶ。ぞわぞわとした快感に構ってる余裕もないくらいに頭に血が登っているのがわかった。
騒ぎ立てる俺の前で男はシャムの腰を持ち上げ、俺の目の前でそれをシャムの穴にあてがいゆるゆると擦り付ける。
「これ突っ込まれてヨがるこいつ見たらさ、またブチギレるんかな?それとも興奮する?」
「う…エリ…ぉ…」
薄く開かれたシャムの目から涙がこぼれ落ちた。
男はシャムの中に自身の物を一気に捩じ込む。
シャムの高い悲鳴と俺の慟哭が重なって部屋に響いた。
「シャム!!シャム!!てめえふざけんな!!殺す!!殺す!!」
どんなに前に進もうとしても右手が邪魔で前に進めない。足からドンドンと血が吹き出し、水溜まりを大きくした。
「いいね、その表情。俺そういうやつをオカズにすんのが1番好きかも」
満足そうににやける刺青の男はシャムの腰を押さえて下から突き上げる。
目の前で彼の中に男のものが出入りするさまを見せつけられて頭がおかしくなりそうだ。暴れるだけ右手が軋む。どうにもならないと分かっているのに、暴れずにはいられなかった。
「あっ…やっ…んぁっ…やめぇ…」
首を横に振って大粒の涙を流しながら喘ぐシャムの姿に、怒りとは別の感情が湧き上がる。それは悲しみよりも、もっと深くて黒い感情だ。
突き上げられる度に跳ねるように動くシャムの性器から少しずつ白い液体が漏れ出して床や俺の頬に滴り落ちる。
「シャム…」
膝から崩れ落ち、呆然とその姿を見つめる。腹や胸を抉って、ぐちゃぐちゃにかき乱されるような痛み。頭が思考するのをやめようとしていく。
「はぁっ…あっ…だめ…やあっ…んっ」
シャムは俺を見ながらとろけるような顔で俺を見て、だんだんと抵抗を弱めていった。
その姿を無意識に目が追う。とても悔しくて、腹立たしくて、反吐が出そうな状態なのに冷えてきた頭に今度はどうにもならない劣情が湧き上がる。
シャムの声を聞く度にズボンの下が脈打って、少し擦れるだけで身体が震える。前屈みに身体を倒し、頭を床にぶつける。
「もう…やめてくれ…」
シャムの喘ぎ声で消えそうな俺の声は、それでも男には聞こえたようで彼はシャムを犯すのをやめて立ち上がった。
「やめてやろうか?変わりにお前の相手させてもいいんだぜ?」
刺青の男は俺を足で蹴り飛ばす。勢いよくどつかれた両腕とも使えない俺は横に転がった。
「くくっ…殺すだのなんだの言って、ズボンの上からでもわかるくらいパンパンになってんじゃん。そんなに興奮したかよ?」
俺のパンパンに膨らんだ股間をまさぐって前のチャックから性器を引っ張り出す。
こんな身の毛もよだつような状態なのに、男に触れられただけで身体が震えた。そんな自分に吐き気がする。
「や、やめろ…」
「やめろだって。俺にちょっと触られただけで反応してんのに」
男はニヤニヤしながらシャムの頭を掴んで俺の股間に押し付けた。
「舐めてやんなよ。大好きな男のおちんぽだろ?思いっきり舐めてイかせてやんな」
そう言うと男はどっかりとベッドに腰を下ろす。
「20分イかずに耐えたら解放してやる。でも手はぬくな。抜けばすぐわかる。そしたらエリオはすぐ殺す」
シャムは泣きそうな顔でこくこくと頷いた。
「ああ、いい子だな。ちゃんとイかせてやれたら後でかわいがってやるから頑張るんだな」
20分…薬が効いたこんな状態で、しかもシャムにされたら耐えられるか分からない。それでも、俺が頑張れば解放されるかもしれない。
俺が頑張らないと、シャムがまたアイツに…。頭から血の気が引いていくのに、身体が熱くて熱くて仕方ない。
「エリオ…ごめんなさい」
シャムは頬を真っ赤にして息を荒く俺の下半身を見つめた。
俺は1本飲んでこんなにヘタっているのに、既に3本も飲んだというシャムがどこまで正気を保っているのか分からない。
「俺こそごめん…出来るだけ頑張るから…」
シャムは俺の物に顔を寄せて匂いを楽しむように鼻先でなぞる。柔らかい唇を先端に吸いつかせて、ねっとりと口の中へ誘い込む。
「あっ、うっ…」
すでに興奮状態でいつ破裂してもおかしくないくらい張ったそれを、シャムの口で触れられたら身体が意思に反して喜んでしまう。
久しぶりに見たシャムの顔がすぐ傍でこんな状況なのに嬉しそうにしていると頭がまたバグってしまいそうだ。
快感に足を曲げ、指先まで折り込んで耐える。呼吸がみるみる荒くなり、彼に吸われる度に腰が震えた。
「エリオ…ん…エリオの匂い…」
シャムはとろんと目を濁らせて夢中になって俺の物を舐めて玉を優しく撫でる。
既にルールなんて忘れて俺を気持ちよくさせることしか考えていない彼の舌使いがますます俺に強い快感を運んでくる。
「はっ…はっ…シャム…っ、だめだ…それ…」
呼吸で必死に耐えるが膝がガクガクと痙攣する。もう大分耐えたような気がするが、時間がわからないし、酸欠で頭がボウッとする。
「はい、10分~。折り返し頑張ろうね~」
金髪の男が時計を見て笑う。もう終わるのではないかと期待していた気持ちが絶望に変わる。
頭がおかしくなりそうなくらい気持ちがいいのに、また同じだけの時間を耐えるのか…?先端からにじみ出る体液をシャムは美味しそうに丁寧に舐めとる。
「あああ…っ、あ"っ…む、むり…」
はあはあと息を吐いて吸って吐いて吸ってを繰り返すのに、全く頭に酸素が回らない。口の端から唾液が垂れる。食いしばっても食いしばっても、快感で自分の口が緩んで口がしまらなくなっていると、その時に初めて気が付いた。
「ん…あ…えり…」
とろんと俺を見つめたシャムが俺の目を見て愛おしげに微笑んだ。
ぐちゃぐちゃの性器と赤い唇から透明な糸を引いて再び口に含んで舌で裏筋につうとなぞり、先端を吸い上げる。
「はっ、う"ぁ…っ」
その瞬間、決壊したように彼の口の中に我慢していたものをぶちまける。ビュルビュルと勢いよく溢れ出したそれはなかなか止まらず、彼の口から溢れ出る。
「はーい残念!かわい子ちゃんはボッシュート!」
俺の射精が終わるのを待たずに、シャムは金髪の男に髪を捕まれベッドへと投げ飛ばされる。
「…っ、シャム!」
シャムの口から引き離された俺のものからは、まだ脈打つように白い液体が情けなくまだ出続けている。
「随分溜まってたのか?さぞ気持ちよかっただろうな。そんなんで1回で満足出来るのか?」
火傷跡の男が俺を見下ろして鼻で笑う。
「エリ…オ…」
ふたりの背後でシャムが刺青の男にしっかりと抱きとめられていやらしく体を撫でられていた。
「いい子だな。ちゃんと俺の言う通りアイツをイかせてやった。ご褒美をたっぷりあげるからな…しっかりよがれよ?」
ベッドのサイドボードに置かれた小さなクリップのついたチェーンを片手に刺青の男は俺に見せつけるようにシャムを抱き込んだ。
「お前の好きな玩具だぞ。お強請りしたらつけてやる、ほら乳首虐めてくださいって強請って見せろ」
「や…やあっ…ゆるし…エリオ…やだぁ」
助けを求めるように俺を見るシャムに刺青の男は顔を歪める。
「てめぇ…どこ見てんだよ?俺が御褒美やるって言ってんの聞こえてんだろ!俺を見ろ!!俺に媚びて強請って見せろこのアバズレが!!」
刺青の男がシャムを怒鳴り散らしながら何度も何度も顔や腹を殴り付ける。
「やめろ!!何してんだ!!シャムは何もしてねえだろ!!」
前に飛び出そうとして再び鎖に引き戻される。こんなに近くにいるのに、近寄ることも出来ずにガシャガシャと騒ぎ立てることしかできなかった。
「あーあー、いい働きしてボス公認で俺らのもんになった途端これだよ」
「あいつすぐ壊すからな…俺らもまだ使いたいのによ」
数回殴られたシャムはぐったりとベッドに横たわったままだ。
「ほら、ちゃんと強請れ…それともご褒美よりお仕置が欲しいか?」
「や…や…だ…」
弱々しく答えるシャムに刺青の男は怒りに目を吊り上げて拳を振り上げた。
「シャム!!シャム!!従え!!」
張り上げた俺の声に刺青の男が手を止める。
本当はこんなこと言いたくない。言いたくないが、シャムが殺されるなんてダメだ。それだけは絶対にあってはならない。
「…ぁ…お、玩具…で遊んでください…」
シャムのか細い声に刺青の男は急に気分よのさそうな笑みに戻った。
「最初からそうやってお強請りすればいいんだよ。俺だってお前を殴りたくないんだぜ?」
男はチェーンのついたクリップでシャムの両の乳首を挟み、性器のピアスと繋げると、彼の性器がピンと上に引きそそり立たされる。
「恋人に見られて興奮してんのか?お前が俺らに寝盗られるとこあいつにしっかり見せつけろ」
刺青の男がシャムを仰向けにして足首をもって開かせると、そばで見ていたふたりの男もシャムに汚い手を伸ばした。
チェーンを軽く引いたり穴を舐めまわすたびシャムの甘い声が俺の耳に入り込んでくる。
耳を塞ごうにも、塞ぐ腕もない。助けることは今の俺にはできない。それでも、1度収まりかけた劣情が再び湧き上がる。まだ薬の効果は切れる様子がない。悔しさや、自己嫌悪で俺は再び床につっぷして蹲る。
今の俺に出来ることは、シャムが俺を気にして抵抗して殴られたりしないようにすることだけだ。自分は空気になったつもりで息を殺す。それだけのことだ。
抑え込まれたシャムに最初に手を出したのは金髪の男だった。シャムは小さく嫌がってはスパンキングのような高い破裂音が鳴り、彼の抵抗する声が少しづつ消えていった。金髪の男は最後に赤くなったシャムの尻にどろりと白い精液をぶちまける。
2番目に手を出したのは火傷痕の男で、見たこともない大きさのものをぶら下げて、シャムの中に押し入った。悲鳴のような彼の声は次第に甘く善がるような声に変わっていった。何度も何度も「あいつよりデカくていいんだろう」と言い聞かされるシャムはだらしない声を上げて何度も果てた。
最後は刺青の男だった。とろけた顔のシャムを恋人のように抱きしめて、愛するように身体中を撫で回していた。
俺に見せつけるように男は彼を膝に抱き抱え、座ったままシャムの中に入る。夢中で腰を振るシャムの乳首を引っ張りながら、男は俺の顔を見てニヤリと笑う。
「さ、今までヤってきた中で、誰のおちんぽが一番好きか答えてくれ」
「うっ…あ…はっ…や…それは…」
「…答えられるだろ?じゃないと次はどうなるかわからないよ?」
男はシャムの乳首とピアスを結ぶチェーンをグイグイと強く引っ張る。
「い"っ…や、や"ぁっ!!」
「早く答えてくれないと乳首とちんぽ、どっちかちぎれちゃうかもね?」
シャムは悲しげな顔で目の前の俺を見る。
俺は無理やり笑顔を作って頷く。大丈夫だから従ってくれと、刺青の男を刺激しないように静かに伝えた。
「うっ…あ、貴方の…おちんぽ…っ1番…しゅきっ…」
「じゃあ、ちゃんとお強請りしろよ。誰の何でどこをどうして欲しいかおっきな声で言ってみせろ」
刺青の男はまるで俺にシャムの中に入る自分のものを見せつけるように彼を抱える。
「あなたのっ…おちんぽで…僕のけつまんこ…きもちぐっ…してください…」
シャムの顔からは想像もつかないような下品な言葉の羅列に、俺はまた床に小さく額をぶつけた。
従えって言ったのは俺なのに、どうにも涙が込み上げる。彼の言葉はもちろん、酷く扱われて、他人に好き放題蹂躙される姿を見続けて、それでも下半身がどうしようもなく興奮していることが、何よりもキツかった。
シャムの甘い声を聞きながら、俺は息を殺す。こんな悪夢、早く目覚めてくれ。でも、いつまでもいつまでも、目を開ける度に違う悪夢ばかりが続く。
痛みとも快感とも分からない泡立つ肌が全身の触覚をぼかしていく。もう何も見たくなかったが、シャムの無事を思えば見ないわけにもいかなかった。
3人は何度かローテーションしてシャムを弄ぶと、飯の時間だからと部屋を出ていった。その頃には俺の頭は大分ぼやけていて、シャムはベッド捨てられたように横たわって死んでしまったかのように動かない。
「…シャム」
回らない頭を何とか再起動し、絞り出した言葉は彼の名前だった。
「…え…り…」
突っ伏していたシャムは俺の声に何とか起き上がる。殴られて青くなった痣は顔から足まで至る所に散りばめられ、クリップが着いたままの体は痛々しく腫れ上がっていた。
「だい…じょうぶ…?」
よろよろとベッドからおり、近づいて座り込む。
「大丈夫、シャムこそ…」
彼の頬に触れようとした左手がない。右手は壁に繋がれていて頭上にある。どうしようもなくて、俺は少し迷ってからシャムの頬に自分の頬を擦り寄せる。
「…何も出来なくて、ごめん…。色んな約束ほっぽり出して、傍を離れたり、傷つけたり…本当ごめん」
「ううん…ううん…!僕が…エリオのことちゃんと頼れば良かったの。エリオに人を傷つけて欲しくないってわがままばっかりで1人で頑張ろうとして結局傷付けちゃったし迷惑も沢山かけた…ごめんなさい」
顔をクシャクシャにして泣き出すシャムは辛そうで、それでも手錠の着いた腕で俺を抱きしめて、どこか安心したように見えた。
「そんなこと言ったら、俺だって似たようなもんだよ。悪いことから目を背けて、受け入れられないからってシャムに酷く当たったのに…いつも、こんなグズグズでどうしようもない俺の傍に、ずっと見捨てないでいてくれて本当にありがとう」
千切れた左手の肘上で彼の肩を添えるように置く。
「もう、絶対に約束破らないから。だから、絶対ここから出て、2人でやり直せる場所に行こう」
顔離してシャムを見ると、彼も涙を浮かべた顔で柔らかく微笑んだ。
「逃げるにはまた約束を増やしたいんだけど…聞いてくれる?」
眉を寄せて笑いながら尋ねる。
もう充分約束事が多い気がするが、話しておかなくてはならないことがいくつかある。
「うん、なあに?聞くよ」
「まず…きっと逃げると言っても明日、明後日みたいにすぐは無理だ。多分、長期戦になる。そしたら、シャムは…また今日と同じような目に遭うと思うんだ」
彼は少し不安そうに目を曇らせて下を向く。
「…うん、覚悟はしてる…エリオがいてくれるって思えば…辛いけど頑張れる」
「ありがとう」
シャムの頬にキスをして、額を彼の額にくっつける。汗ばんだままの彼の肌は少し冷えて冷たくなっていた。
「だから、シャムは俺のこと気にしないでアイツらの言うことに全部従ってくれ。媚びて、自分の身の安全を第一に守れ。どんなに気持ちよくなっても、もう責めたりしないよ」
「き、気持ちよく…ごめん…なんか…」
彼は耳まで赤くして少し気まずそうに俯いた。
「いいんだよ、むしろ俺の3倍飲んでよく頑張ってたよ。シャムは凄い。俺も見習わなきゃ」
彼と一緒に俺も苦笑いする。
そもそも、次にシャムに会ったら彼がどんなに他人に乱れようと受け止めるつもりで覚悟していた。腹をくくったのは確かだが、シャルルに身体を触られたことや、薬を実際に体験してみてシャムの辛さが少しだけ理解できたのも大きい。
意思に反して身体が反応する気持ち悪さや自己嫌悪。シャムはどれだけこれに悩まされていたことだろう。何も知らない俺が彼をどうこう怒鳴りつける権利など最初からなかったのだ。
「今まで、シャムが辛い気持ちを分かってあげられなくてごめん。もう大丈夫だから、絶対に大丈夫だから、シャムは自分の身を大事にしてくれ。約束してくれる?」
「…うん…分かった。怪我したり、殺されたりしないように…全力で」
シャムは穏やかに微笑むシャムの目の中には、強い意志が宿ったように見えた。
「あと、もう一個」
俺はモゾモゾと身体を動かし、彼に対して横を向くように身体を寄せた。
「俺のケツポケットに入ってるもの、取り出してくれる?」
「ポケットに…?」
シャムは不思議そうに首を傾げると俺の尻を遠慮がちに探った。彼が指先に摘んで取り出したのは、前に俺が隠した指輪だ。
「これ…!見つけてきてくれたの!?」
驚きと喜びの混ざった顔で指輪を手にしたシャムは俺の顔を覗く。それに俺は苦笑いするしかない。
「ごめん、本当はずっと持ってた。俺がシャムの恋人でいる資格がないって…だから、なくしたことにしようと…本当にごめん!」
床に頭を擦り付ける勢いで頭を下げる。
「…そっか、そうだったんだ。すぐ近くにずっとあったんだ…良かった、安心したよ。持っててくれてありがとう」
シャムは怒るでもなく悲しむでもなく嬉しそうにお礼を言った。その様子には眉を寄せて笑った。
「だから…その、最後にしたい約束なんだけど…ここを出れたら、お嫁さんになって欲しいんだ」
シャムはキョトンと目を丸くしたあと真っ赤に顔を染めて驚いた声を上げた。
「ええっ!ぼ、僕が…ほんと?ほんとにいいの?…僕…だって…インラン…でしょ?」
「淫乱だろうがいやらしかろうが、可愛いくて俺のことを1番に好きでいてくれるのは変わらないだろ?むしろ、いやらしいくらいの方が2人でする時はこれから先もっと楽しくなるよ」
冗談交じりに笑って、俺は彼の目を見つめて笑った。
「これの約束は無理でも死なないけど、だめかな?」
「ううん…ダメじゃない…むしろ約束させて!僕をお嫁さんにしてください!」
シャムは本当に嬉しそうに笑った。それはいつかに見た花が咲くような笑顔で、こんな彼を見るのは随分と久しぶりなような気がした。
折れかかった気持ちが満たされていくのが分かる。彼の笑顔1つ、言葉1つでいくらでも戦える気がした。
「じゃあ、約束だ。何とか逃げる隙を見つけよう。それまで一緒に頑張ろう」
シャムの口に触れるだけのキスをする。
「…これだけ?」
シャムはくすくすと笑ってもう一度唇を寄せてくる。それを受け入れるように唇を食むと、シャムの舌が唇の隙間から入り込んできた。久しぶり、今度はなんと本物だ。嬉しくて舌を絡め返して、唾液を混ぜあった。
「…あんまやるとムラムラする」
俺は口を離して思わず笑う。
「それは薬のせい?」
「シャムのせいだな~」
シャムは何も言わずににまーっと笑みを浮かべると、手で俺の股間をそっと撫でてきた。
「ほんとだ凄く硬くなってるね」
「本当は責任とって中に入れさせて貰えたら良かったんだけど、これじゃあどうにも」
苦笑いしながら頭上にぶら下がる右手首を動かすと、ジャラジャラと鎖が擦れる音がした。
「じゃあ、また舐める?それとも他に希望ある?」
目を細めて俺を見るシャムはどうにも可愛くて、見ているだけで更にムラムラするから許せない。
「騎乗位…なんてね。ここから抜け出してからでいいよ」
そりゃあもうさっき薬は1回抜いたキリで散々我慢していたし、まだまだ股間は元気だが、シャムはさっきまで3人も相手して、身体も痛いだろうし疲れているはずだ。あまり無理はさせたくない。
「でも僕は今したいんだけど…だめ?」
「え~…誘惑つえ~…」
目を閉じて、笑顔のまま俺は下唇を噛む。
「…俺、動けないし、なんならアイツら帰ってくる前に手早く終えないとだよ?」
「うん、頑張るね」
シャムは手錠のついた手で既に十分な硬さのそれを取り出し優しく撫でる。先ほどまで感じていた不快な快感とは違う、シャムから純粋な気持ちで運ばれる愛しいそれだ。
「はぁ…エリオ…ごめんね、もう入れたいんだ」
シャムは俺のを手で擦りながらとろんとした顔で俺を見上げる。
「むしろお願い。待ちきれない」
彼に笑って俺がそう言うとシャム迷いなく俺に跨り、貪るようなキスをしながら腰を下ろしてきた。
散々やり散らかされて水気と柔らかさをもっとそれは、簡単に俺を根元まで包み込む。
今まで誰かが触れたものに対して嫌悪感があったが、シャムならもう何だろうと構わない。俺が好きなのはシャムなんだ。
「ああ…エリオの…僕…好きなの…これだけ…だからっ…」
先程まで見せていた顔とは全く違う、安心したような気持ちよさそうな顔で、シャムは何度も俺にキスをせがんでくる
それにキスを返して、舌を絡める。彼の柔らかい唇が気持ちいい。
「…シャム、可愛い…。大好き、愛してる」
何も出来ないのがもどかしいが、これだけ嬉しそうに恋人に上に乗られて嬉しくないわけがない。上体を動かして彼の首や鎖骨に唇を這わす。誰かが付けたキスマークの上から自分も口を付けて吸い上げた。
「ん…リオ…僕っ…もっ…しゅき…」
夢中で腰を振って俺にしがみつくシャムが可愛くて、温かくて気持ちがいい。
「んあ…はっ…も…でそに…なっちゃう…」
少し惜しむような甘い声で善がるシャムの中がビクビクと痙攣を始める。
「俺も…っ、いい…?」
跳ねる彼の耳元で囁くように尋ねる。
「んんっ…いっしよ…イってぇ…」
シャムのとろけるようないやらしい声に合わせて彼の中がぎゅっと締め上げビクビクと強い痙攣を繰り返す。
「んんっ」
痙攣に促されるように彼の中に吐き出す。長い射精で中でビクビクと動くと、彼は腰を深く落としてそれを奥へと招き入れる。それが気持ちよくて、つい彼の肩に頭を乗せて身を預けてしまう。
彼からビュルビュルと飛びだした白い液体は俺のカットソーにシミを作っていった。
「…あ、やば。これ俺たちヤったのバレるかな?」
「ほんとだ、バレちゃうかもしれない」
カットソーを見下ろして笑うと、シャムは指でそれを拭いながらはにかんだ。
「…もう逃げないから、一緒に生きて帰ろう」
彼に頬を擦り付けて呟いた。
まだ、バビロンは俺たちを全力で壊しに来るだろう。だけど、シャムと2人で支え合えば、きっといつかはここから逃れられる。
大丈夫。絶対大丈夫。
自分に言い聞かせるように頭の中で繰り返した。

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