天底ノ箱庭 療養所

Life up+α

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2章 手術

4

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4.
久しぶりにガスマスクに会うことになった。いつもみたいにガロウズってバーでソフトドリンク頼んで、ストローでぐるぐると意味もなくコップの中のジュースをかき回す。
いつも静かな店内がなんだか今日はやけに騒がしいような…と言っても五月蠅いというよりなんかみんながガヤガヤと話す声が大きくて、ガラの悪い連中が騒ぎ立ててる感じの。
ぼんやり音に耳を傾けていると背中を強く殴られたような衝撃に襲われて目を覚ます。
そうだ、俺別にガスマスクと会う用事もガロウズにいたわけでも無くて確か四月一日と待ち合わせしてて…なのになんで寝てたんだ?
「うっ…いってえ…」
ジンジンと痛む背中を擦ろうと腕を動かそうとしたら手が動かない。起き上がろうにも足もだめだ、両手と両足がそれぞれ何かで結ばれているようだった。
痛みに顔を歪ませながら目を開くとそこには何人か人間の足が並んでいる。うち、1番近くの誰かが俺の目の前にしゃがんで俺を覗き込んだ。
「おっはよー!ご機嫌はいかが?」
頭から首にかけて白い花で埋め尽くされた白いケープを目深に被るその男の声は、ヘリウムガスでも吸ったようなガラガラとして甲高い。ケープの下には黒いゴーグルを付けているようで顔は全く分からない。
「俺はめっちゃ機嫌いいんだ!めっちゃいいカモ見つけたっていうか?」
ぼんやりとしたまま焦点が定まらない視界で彼はゲラゲラと下品な笑い声を上げ、俺の首根っこを掴んで持ち上げる。
「肉屋のこと知ってんだろ?お前らどういう関係?教えてくれたら少しくらい優しくしてあげよっかな?」
下品な声から急に落ち着いた声で男は静かに俺に問いかける。
「肉…屋?…肉屋なんて探せばその辺に居んだろ…どこの肉屋か知らねえけど肉屋の知り合いは居ねえよ…」
背中を強く打った所為か声をだそうとすると咳がこみあげるのを堪えながら答えた。
お肉屋さんの事なんて俺に聞いてどうするつもりなんだこいつは…見るからに不審者だし状況からして普通じゃねえ。この場合俺は下手なことは言わずに素直に何のことかわからんと答えるしかない。
「え?知らない?ホントに?」
素っ頓狂な声で男は俺に聞き返すと、後ろの人間たちに振り返る。
「みなさーん!聞きましたあ!?お肉屋さん知らないんですってー!あんな有名人なのにね!?」
彼の言葉に外野が一斉に笑う。いやいや笑いどころがわかんねえ、身内ネタか?俺も笑った方がいいのかこれ?
男は立ち上がると、突然俺の腹を勢いよく蹴りあげる。あまりの力に俺の身体が一瞬宙に浮き上がり、ゴロゴロと地面を転がった。
「げほっげほっ…し、知らねえよほんとに!」
「そんな嘘吐いて誤魔化せると思ってんのかよ!知ってんだよお前らがよく一緒にいたの見てんだよお!」
彼は俺の傍に寄ると間髪入れずに蹴りを何度も何度も腹に入れる。内臓が潰れて口から出てくるんじゃねえかってくらいの嗚咽に襲われる。
「ガスマスク!!知ってんだろ!!ガスマスク被った不審者!!アイツの居場所と関係聞いてんのお!!さっさと答えろこのチンカスが!!」
ガスマスク…?確かにガスマスクの知り合いなら心当たりはあるけど、アイツ自分の事肉屋だんて言ってねえしわかんねえよ…チンカスって口悪ぃなこいつ…。
「ガ、ガスマスクかぶった奴は知ってる…けど…肉屋してんのかは知らねえよ!友達だけど何処にいるかなんて知らねえ!」
「はあ~?なんて~?友達?超ウケるんですけど~?」
男はガッと俺の首を掴んで壁に押し付ける。後頭部を強く打ち付けた衝撃と気管支が締まる感覚。息ができねえって!ウケてんならもっと楽しそうにしとけよ!頭おかしいんじゃねえのかコイツ!
「友達だったらさあ!!ちゃあんと場所くらい把握しなよお!!本当にそれ友達ですかあ!?それとも庇ってんのお?」
俺の首を両手で掴みあげて締め上げる。徐々に持ち上げられるそれに引きずられてつま先立ちになる。持ち上がったらいよいよ呼吸が出来ない。見た目からは想像つかないほど力が強い。
「居場所吐かないと酷い目にあうよ?優しくしてあげるってんのにまだ言う気ないの?心当たりくらいあんでしょ?」
笑いながら声を張り上げていたと思えば、真顔に戻って彼は静かに威圧する。
居場所を吐けって言われても知らんもんは知らんし、知っててもこんな頭のおかしい奴に言うほど俺は薄情な男じゃない。というかほんとに知らない、ガスマスクは神出鬼没すぎて俺にもよくわからん俺が知りたいわそんなん。
「マジ…知らね…って…!」
「あっそー?そうなんだ?ふーん…」
突然男は俺の首から手を離す。不意打ちすぎて俺は受け身も取れずにそのまま床に倒れ込む。呼吸をしようと口を開くも、咳き込み上手く息が吸えないながらなんとか呼吸を整える。
彼は首を斜めにしながらしばらく俺の様子を眺めていたが、急に冷めたように背を向けた。
「ま、元から無事に済ましてあげる気はなかったんだけど、俺は肉屋が阿鼻叫喚するような作品作る体力残さなきゃいけないから、お前ら適当に痛めつけといて」
傍の壁に寄りかかり、彼は楽しそうに口元を釣り上げる。
「悲鳴はいっぱい上げてくれていいよお?なかよちのガチュマチュクちゃんが助けに来てくれるかもねえ?」
煽るように舌を出してわざと高い声で彼は笑うと片手を上げる。それに合わせて周囲にいた外野たちが俺に近付いて来た。
「あ、欲求不満な人いますー?」
じりじりと寄ってくる男たちにケープの彼が思い出したように言う。
「肉屋の性癖考えると内臓汚しておきたいんだよね。中出しできる人いたらそっち優先でー」
中出しってなんだよ…いや、中出しの意味は知ってるけど今この場で適切かそれ?
普通に考えたらあれよな。これ俺に中出ししろって言ってるよねあいつ。男同士で?だよね?女居ないもんね?暴力は嫌だけどそれも嫌だよ!!優先って何!!
「ちょ、暴力は無し!中出しも無しだ!!俺は何も知らないって言ってんだろ!勘弁してくれ!!お前親分か何かだな?コイツら止めろよ!おい!」
「はい~?なんですか~?ぼく3歳なんで言葉わかんないでちゅ~」
男たちの向こう側でケープの男は耳くそを小指でほじって指先に息を吹きかける。
男たちは少し目を見合わせてから俺を見ると、俺の顔を1人が掴んで持ち上げた。
「あ~…あんま可愛くないな…」
「いや、でも髪長いから後ろから見たらまあ…」
なんだその不服そうな反応…ノリノリになられるより良いけどここまでされるとちょっと傷つくだろ、悪かったな並の下で!
背後から服の下に手が入ってくるのを感じる。
「おい!無理にヤること考えてんじゃねーぞ!そういう頑張り要らねえんだよ!!」
足をもがかせるも縛られているのでまるで釣り上げられた魚だ。
「そういうのいいから、悲鳴上げる準備でもしとけ」
背後の男は俺の服を首元まで捲りあげ、そのままズボンも下着ごと膝まで下ろす。
「ざけんなおい!!このなりでレイプされましたとか通報する俺の気持ちにもなれよ!!やめろ!見んなよ!このホモ野郎!!」
俺の言葉なんか何も聞いていないようで男は俺のケツに手を這わすと穴の中に指を押し込む。
「いって!!てめ!ふざけんなやめろ!!」
「あー結構俺は好みかもー。男の子って感じで背徳感あるわ」
1人が俺の前に屈むと、ベルトをカチャカチャと開ける。目の前に出されたのは想像したくもないが、想像通り男の勲章がそこにそそり立っていた。
「お兄さんは君に舐めて欲しいかなー、お口は人気ないみたいだもんね」
目の男は俺の唇に指を押し付ける。
どうやらガチの奴が混ざっていたらしい。ケツ触ってる方も早く何とかしねえとだけど、大人しく舐めてやるほど俺は親切じゃねえ。
「でも、歯立てたら寿命縮まっちゃうかも?俺は楽しみたいから、大人しく舐めて欲しいな」
「誰が大人しく…!」
俺が反抗仕掛けると男はレッグホルダーからナイフを取り出して俺に見せる。
「ほらほら、痛いのは嫌だろう?」
そう言いながらそいつは俺の鼻を摘んだ。
思わず口から息を吸い込もうとしたその隙間に、嫌に男臭いナニをねじ込んできた。
「ん゛ん゛!?ひゃめ!!」
暴れる俺の後頭部を片手て掴んで口の中を掻き回すようにグリグリ動かす。
嫌な味と臭いに嘔吐き僅かに歯を立てると、持っているナイフで頬を軽く叩いて「ちゃんと口開いてろ」と低い声で脅された。
俺は大人しく口を開けたままそれに耐えるしかない。だってナイフなんて怖いに決まってんだろ!
「花屋さん、これケツちょっと裂けたりしていいやつです?」
背後から不穏な言葉が聞こえる。俺の口に腰を振る男の背後に見える花屋と呼ばれた白いケープはこっちを見ることすらせずに大きな欠伸をした。
「ど~ぞお、おなように…俺ちょっと寝てるから、頑張って…あ、肉屋来たら起こして」
花屋は壁に寄りかかったまま頭を下げて静かになる。
おい待てなんで俺の体の事をアイツが決めるんだよ!俺の体だぞ!ふざけんな!
と、叫んでやりたいが口の中いっぱいのナニの所為でなにも喋れない。おまけにいまだナイフは俺の顔の横だ。
不意にケツに何か硬くて生暖かいものがあたる。それは嫌でも口の中にあるものと同じものを彷彿とさせた。
何かを入れたことなんか1度もない出口であるはずの穴にグリグリと押し付けられ、無理矢理開かれていくのを感じる。
「ん˝ゔゔあ˝あ˝!!」
痛え!!指突っ込まれてるのも痛かったけど比にならない痛みと圧迫感に腹からひねり出したような悲鳴が漏れた。
「ちょっと入れるの大変だけど、新品なだけあってキツさはあるなあ」
俺の悲鳴も何もお構いなしに進んでくる、絶対切れた…絶対血出てるほんとありえん…。
その間も口につっこんだそいつは興奮した様子で俺の口をオナホ変わりに楽しんでやがる。
口とケツに同時挿入とか一生体験しないような事態が一度に起きてるよくそっ、俺が何したって言うんだ!!
「…てかもっと舌使ってよ」
口に突っ込んでいる方の男がそう言いながら腰を振る速度をあげてきた。
片手にナイフは持ったまま俺の顎をクイと動かして、今度は舌に擦り付けるようにナニを滑らせる。
「あーいい…いいわ…」
息を荒くしながらひときわ固くなる口の中のものが今にも果てそうなことを、同じ男としては容易に察っしがつく。
「そろそろ出すぞ、ちゃんとのみ込めよ?」
まさかこいつ口の中に出そうとしてる…?
それだけはゴメンだ!何が悲しくてこんな見知らぬ男の精液味わう必要があるってんだ!
「ゔゔん!!」
「動くな!頬にちんこ突っ込む穴開けられてえか!」
顔を背けて抵抗しようとしたらものすごい力で顎を引かれ、凄まじい剣幕で怒鳴られた。頬にヒヤリとナイフが触れ、嫌な汗をかく。
「そうだよ、そうそう大人しくしてろ?そしたちっとは良くしてやっからな」
俺が抵抗をやめたのを見て男は再び笑みを浮かべ、腰を振ることに意識を向ける。
「おらっ俺様の特性ドリンクだ、残さず味わえよ!」
口の中にドロドロと粘り気のある熱い液体が吐き出される。
男は強烈な生臭さと味にすぐに吐き出しそうになるの俺の顎をがっちりと押さえ上を向かせた。
「のみ込め!」
口中に広がる臭みと苦しさに耐えきれず、渋い顔で少しずつそれを飲み込む。
俺の喉が数回動くのを見て男は満足そうに手を離す。
「おえっ…げほっげぇっ!」
鼻に染み付くような生臭さと後味に嘔吐き咳き込むが飲み込んでしまったモンは出てこない。
「そんなに大喜びで飲み込むなんて、本当は精液大だろー?ほら、誰かこいつにもっと飲ませてやれよ」
湧き出みていた男たちも互いに顔を見合わせニヤニヤと各々ベルトを外し俺の口元に寄せてくる。
「おいおいこっちも忘れんなよな?」
後ろの男はケツに突っ込まれたやつをギリギリまで引き抜くと、そのまま勢いよく腰を打ち付けパンッと軽快な音で中に押し戻す。
「いだい!よせ!よ…んぐぅ!」
静止させようと怒鳴るとすかさず口にねじ込まれる。先程までの男もナイフを持ったまま俺を押さえおり、舐めるように体中を指で撫で回す。
背後の男が本格的に腰を振り始め、次第に速度と強さを増してくる。後ろも口も勝手に出し入れされ、吐き気がするがナイフが怖くて仕方なく舌で口の中のものを擦る。先に出された精液の臭いと生臭さが鼻をつく。べたつきの残る俺の口の中は最悪そのものだったが、口を使っている男たちには悪くないようだった。
「上手になってきたじゃん。大人しくしてるし、こんないい子なら処理用わんちゃんにして俺が飼いたいくらい」
ナイフを俺にチラつかせながら最初に俺の口に入れた男がニヤニヤと俺の顎を指でなぞる。
処理用って何だよ、性奴隷だって言いたいのか?冗談じゃねえ!!
俺がにやける男に睨みつけると、不意に階段を駆け上がってくる音。部屋の入口に見知らぬ男が息を切らして駆け込んでした。
「花屋さん!肉屋が!」
彼の言葉に壁にもたれたままうとうととしていた花屋が顔を上げる。
それとほぼ同時に、階段を上がってきた男が突然膝から崩れ落ちた。
「…何してるの?」
変声機を使ったような機械的な声。影の中から足音もなく誰かが姿を表す。
突然の事に呆ける男から顔を背け、俺の口をふさいでいたナニを吐き出し叫ぶ。
「ガスマスク!!!」
見覚えのあるガスマスクにいつものエプロン姿。ただ、いつもと違うのは出会った時以上に血まみれで、両手にあの刃渡りの長いナイフと柄の長いフォークを持っているということだ。
「きーたーなー?」
花屋の口元が限界まで吊り上がる。その口の端は嬉しすぎてなのか、怒りなのかピクピクと痙攣していた。
「黄金くん」
ガスマスクが足早に俺に向かって来るが、花屋がその前に立ち塞がる。
「まーってよお!俺が彼のこと、この乱行パーティーに招待してあげたんですう~!彼、お楽しみ真っ最中でアンアンしてるとこなので、終わるまでお肉屋さんは俺と遊ぼうよ」
花屋はポケットから小さなナイフを何本も取り出し、ガスマスクに向かって投げる。
「俺たちは殺し合いの方でね!」
ガスマスクはそれを首と肩をそらして最低限の動きでかわす。
目の前で繰り広げられる漫画のような戦闘に思わず釘付けになっていたが、先程吐き出した男のナニがまた顔に擦り付けれる。
「じゃ、まあ花屋さんがああ言ってるから俺たちは続きしないとな」
「あ?うっせ!!これ以上汚ねえもん出すな!」
ケツに侵入したままのモノを追い出そうと縛られた手足のままひときわ暴れると呆けていた男たちも再び俺を抑え込む。
「暴れていいってまだ言ってないだろぉ?」
男が持っていたナイフが頬を掠める。ぴりぴりとした痛みと血の伝う感覚に俺はナイフを向けられていた恐怖を思い出し暴れるのをやめた。
「そうそう、それでいいんだよ」
男はそのままナイフで俺の髪をまとめていたゴムを切ると、ぱらりと長い髪が背に垂れた。
「こっちの方が可愛げあるんじゃない?」
「いいね。ちょっとノってきたわ」
ケツ側の男は愉快そうに笑うと俺の腰をがっちりと掴みなおした。再度腰を打ち付けると、パンパンと軽快な音が耳につく。
しかし、動き始めて1分も立たずに不意に何かが割れるような鈍い音がし、背後の男が動きを止める。生暖かい液体がポタポタと背中に垂れる感触がし、俺を囲んでいた男たちが後ずさる。
口に入っていたものがズルリと引き抜かれ、俺は背後を振り返る。
そこには頭に柄の長いフォークを突き立て、だらだらと血を流す男が壁によりかかるようにして倒れていた。
「飛び道具がないって不便だねえ?!ナイフだけでなんとかなっちゃう?お肉屋さんすっご~い!」
動揺する男たちの隙間からガスマスクが花屋のナイフと刃を打ち付けあって鍔迫り合いしているのが見えた。恐らくフォークを投げたようで、彼の手の中にあったそれが消えていた。
「黄金くん逃げて!」
珍しく彼が声を張り上げた。
男どもと一緒に呆気に取られていたが彼の声にハッと我に返る。
両足で背後の死体を蹴り飛ばしてケツを救出する。何よりもズボンを上げたかったが手足の自由が利かないとそれもままならず、情けなくケツを晒したまま芋虫のように脱出を試みた。
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花屋の懐をくぐり抜け、彼は俺の周りの男たちへナイフを振る。リーチの長いそれは的確に彼らの首元へ軌道を描き、悲鳴を上げて男たちが一斉に倒れ込んだ。
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ガスマスクの背後で花屋が低い声で笑う。彼の手元にあるのはナイフではなく、注射器だ。
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「お肉屋さん背後ガラ空きなんですけどお?そんなにその子がなの?うわー友情!!めっちゃ泣けるー!!」
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俺を抱えることで両手が塞がったガスマスクはそれも背中で受け止める。俺を庇っているのか、さっきの身のこなしを見ていれば十分かわせそうなのに、あえて受けているようだった。
「花にあげる液体肥料ってあるでしょ?その肥料は俺特製オリジナルブレンドだから、今後が楽しみだねえ」
ガスマスクは花屋に構わず彼の隣を駆け抜けて階段へと走り込む。花屋もこれ以上追撃する様子もないようだった。
「金髪のお前も気を付けた方がいいよー!お肉屋さんド変態だから!!お腹裂かれてパンパンされちゃうよー!」
ギャハハと下品な笑い声が建物に響く。腹を裂かれる?ガスマスクはさっきの男たちとは違う、2年も見てたんだ変態ならわかるだろ。
それより丸出しの俺の物どうすんだ履いてる時間ねえのはわかるがこのまま外行く気が!?
俺はせめてもの抵抗に若干内股になってものを隠した。
ガスマスクは建物から出ると建物の影を縫うように走り、人気のない別の廃ビルに入ると俺を静かに下ろした。
「…服を整えてあげる時間がなくてごめんね」
彼は俺手足の縄をナイフで切ると、下がったままの俺のズボンを上へ引き上げる。
彼の息が少し上がっているのか、ガスマスクからダースベイダーのような荒い息遣いが変声機を通して聞こえた。
「い、いや…いいよそんなくらい!それより大丈夫かお前は?走ったからマスクで息苦しいんじゃ…てかなんか薬やられてただろ!?毒か?早く救急車!!」
スマホで救急車を呼ぼうとポケットに手を突っ込むがそこに探し物はない。ていうか、地下から電波届くのか?届いたとして救急車来てくれないだろここまで!
「あ、ど、どうしよ…人?人呼べばいいのか!?俺医者探して…」
「大丈夫」
医者を探そうと立ち上がる俺の手を掴み、彼は俺を再び座らせる。
「よく聞いて。ここは君のいる街じゃないんだ。とても危ない場所、だから外を1人で歩いたりすればこうなってしまう」
「そ、そうだ俺…知らない間に連れてこられたんだよ!今のとこひどい目には…ああいやさっきのはひどい目だったけどこれは自業自得というかなんというか…」
ガスマスクが言うように一人で外にでたりしなければあんな目には合わなかっただろうからそれは自分が悪い。
「けど、俺の面倒見てるやつに閉じ込められてて…このままじゃ殺されるか、一生外に出れないかも知れない。そしたらもう二度とお前に会えない、そんなの俺嫌だ!助けてくれ、俺は地上に帰ってまたお前と遊びたい…」
要の事もあの生活も不満はあれど嫌いではなかった。そのはずだったのに目の前にいる懐かしい彼の存在が、殺されるんじゃないかって恐怖が、膨れ上がった不安に針を刺したようだった。
思い出したようにひりひりと痛む頬の小さな切り傷を腕で拭い、不安で震える声で彼にすがる。
すがる俺の手をガスマスクは相変わらずまるで見えない表情で見つめ、彼はその手に自分の手を重ねる。安心させようというように優しいものだったが、それでも彼は首を横に振った。
「…僕も君と遊びたいけど、それは出来ない」
「なんで…どうしてだよ…」
「黄金くんを閉じ込めている人はたくさん嘘を吐くだろうけど、彼は彼なりに君を守るつもりでいるんだ。従ってあげてもらえないかな」
「お前…要のこと知ってるの…?なんで俺ここに連れてこられたんだ?ガスマスクはなんか知ってるのか?」
重ねられた手をなんとなく握って親指で彼の手の甲を撫でる。
彼はその仕草を見ているのか、俺の手を見つめたまま静かに続けた。
「…よく知っている人だよ。少し変だけど君をどうこうする人ではない」
「じゃあ…なんで嘘吐いてまで閉じ込めるんだよ」
「僕からも詳しくは話せない。ただ、今の黄金くんが安全に過ごせるのがあの場所なんだ」
そこまで言うと、ガスマスクは立ち上がる。平静を装っているようではあったが、心なしか足元がおぼつかない。
「…行かなきゃ。1人で帰れる?彼の家はここから出て通りを右に走ればすぐ見えるはずだ」
「う…でも俺…数日帰らないって…てか四月一日!!アイツ大丈夫かな!?待ち合わせしてたんだ俺…それよりガスマスクお前毒は!!」
安心したせいなのかいろんなことが次から次へと思い出される。四月一日のやつ一人で待ちぼうけしてたらすげえ可愛そうだし、そろそろ要は帰ってることだから家で怒ってるかもしれない。それに花屋と呼ばれていた男がガスマスクに何か注射したことも気がかりだ。家に向かうべきか待ち合わせ場所に戻るべきかガスマスクの介抱かどれを優先すべきかわからずあたふたと回る。
ガスマスクは俺の肩を軽く掴んで落ち着くよう促す。
「彼なら許してくれるから、早く帰ろう。僕も1人で手当てできるよ」
「そう…かな…ほんとに大丈夫?」
「大丈夫。あと、四月一日っていうのは黄金くんの友達?」
「うん…地下で出来た友達でさ、アイツも地上から連れてこられてすげー苦労してんだ」
ガスマスクに促されるように俺は深呼吸をして落ち着くように心がけた。
ガスマスクはしばらく俺の方を見つめていたが、一呼吸置いてから後ろ向きにゆっくりと歩き出す。
「…少し彼には警戒するべきかも」
「え、なんで?」
「地下で普通に出歩ける地上の人はそういない。黄金くんは…君は特別なんだよ」
彼はそう言うと俺に背を向けて走り出す。
「あ、ちょっ…ガスマスク!!」
ガスマスクはこちらを振り返ることなく走り去り、闇の中へと姿を消した。
俺はしばらく彼の消えた闇を見つめてから振り返って歩き出す。
「警戒すべき」と念を押されたのもあり、四月一日と待ち合わせをしていた通りを少し離れた場所から覗き見た。待ちぼうけしているのではと思ったが、そこに四月一日は居なかった。
あの花屋とかいう怪しい男に攫われたのではないかと一瞬嫌な予感がよぎったが、奴の目的はガスマスクを呼び出すことだった。そう思えば奴らが四月一日を狙うこともないだろう。
待ち合わせからかなり時間がたっている。俺が来なかったので恐らく帰ったんだろうか。
こういう時、連絡手段があれば事情を説明できたのだが…次に会ったときに謝り倒そう。
「じゃあ次は…要か…」
俺は四月一日との待ち合わせ場所をあとにして、重い足取りで家へと向かった。

なんやかんや楓ちゃんから借りっぱなしだったキーで鍵を開け、音をたてないようにドアをそっと開く。
「…ただいま」
なんて謝ろうかとか許してもらえなくて追い出されたらどうしようとかもやもや考えながら部屋の戸を開くと要の姿はなく、俺が家を出る前と変わらない風景が広がっていた。
「要…?居ないの?」
俺が寝ている部屋や浴室も覗くが彼の姿はない。
玄関脇のクローゼットの中に、いつも仕事に行くときに背負っていくギターケースがなかったので、もしかしたらまだ仕事から帰ってきていないのかもしれない。
そう思ったが、俺が書いたはずのメモはテーブルの上に置き直されていて、よく見れば閉められたままだったはずの窓の雨戸も開いている。
「…もしかして俺、探されてたりする…?」
もしそうだとしたら重ね重ね申し訳なくて辛い。
しかしかと言ってやはり連絡手段は無いし、今できることと言えばここで大人しく彼の帰りを待つことだけだろう。
もう夜明けだったが探し回られているかもしれない申し訳なさから、眠る気にもなれない。俺はベッドに座って彼の帰りを待つことにした。
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