sweet home-私を愛したAI-

葉月香

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第三章

コギト・エルゴ・スム 八

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 訴訟に訴えることにしたと言っても、実際的な手続きは弁護士の篠原に任せているので、陽向自身が特にすることはなく、普段通りの日々がこのまま続くかに見えた。
 刺激の少ない温室暮らしを騒めかせたのは、再び一本の電話だった。今度は弁護士ではない、陽向が今から訴えようとしている東条本人からだった。
「どういうことなのかね、久藤君、あんな……ちゃんとした論文の形にもなっていない報告書を私が盗んだなどと、思い違いも甚だしい! 宇和先生のお嬢さんである君のことは何かにつけ気にかけてきたというのに、訴えるだなんて、とんでもない仕打ちじゃないか!」
 東条に個人的な電話番号を知らせた覚えはなかった。同僚の誰かが教えたのかもしれないが、いずれにせよ、電話越しとはいえ感情的になった男に一方的に叱責されるのはたまらなかった。
「思い違いなんかじゃありません。先生が私だけでなく他の研究者にしたことは……あなたを可愛がっていた私の父に対する裏切りだとは思いませんか……?」
 胸の奥の心臓の鼓動は一気に激しくなったが、果敢に反論を試みる声は幸い震えてはいなかった。
「確かに、私は君の父親に世話になった身だが、彼に対してなんらやましいことなどあるものか。むしろ君こそ、亡き父親の恥となるような馬鹿な真似をしているんじゃないかね」
 東条は陽向が叱責されたくらいでは訴訟を取り下げる気は無いことを悟ると、一層脅すような台詞で彼女の不安をあおってきた。こんなことをしたらもう二度ともとの職場には戻れないとか、陽向が論文を書いてもそれを発表できなくしてやるとか――。
「ご主人を亡くしての一人暮らしは何か心細いだろう。せいぜい身辺に注意を払って暮らすことだよ、久藤君……何しろ最近はますます物騒な世の中だからね」
 最後には良識のある大人とは思えない捨て台詞を遺して、一方的に電話を切ってしまった。
「……今の通話、録音しておけばよかった……立派な脅迫罪よ……」
 陽向はしばし呆然と通話の切れたスマホを眺めた後、糸が切れたようにへなへなとソファの上に座り込んだ。
 あんな子供じみた脅し文句を真に受けることはない。東条だって社会的な地位も名誉もある人間なのだから、実際に陽向の身辺で騒ぎを起こしたりするものか。
 しかし、誰かの敵意の的になるということは存外にストレスで、心細さで一杯になった陽向はつい、広々としたリビングの何もない空間に向かって呼びかけようとした。
「saku……」
 舌先にまで出かかった名前をとっさに飲み込む。自分から拒んでおきながら、こんな時だけ側にいて欲しいと願うなんて虫がよすぎる。
 気持ちを切り替えようとコーヒーを煎れにキッチンに行こうとした、その時、またスマホが鳴って、陽向を凍り付かせた。
 今度も東条からだったら絶対に着信拒否にしてやるつもりで画面を見た途端、陽向の肩から力が抜けた。
(巧望さん)
 陽向が頑として通話に出ないことに諦めたのか、ここしばらくなかった巧望からのコンタクトに、不覚にも安堵してしまった。
「……はい」
 思い切って通話に出ると、相手は予想していなかったのか、少し怯んだようだ。
「陽向……」
 うわずった声で名前を呼び、そのまま黙り込む。巧望が今どんな顔をしているのかを想像し、陽向は思わず微笑んだ。
「あなたの声を聞くのは久しぶりだわ」
「そうだね、陽向、君の声を聞けて俺も嬉しいよ。元気にしているかい……?」
何の力も後ろ盾もない女相手に緊張するなんて、強気な巧望らしくない。それとも、これが彼の素なのだろうか。
「あんな不愉快な話を君に聞かせてしまったことは、心からすまないと思っている。なあ、頼むから電話を切ったりしないで、しばらく俺の話を聞いてくれないか」
「それは話の内容によるわよね。正直、とんでもない話を電話で聞かされることにはうんざりしていたところなの」
 陽向の発言の真意を測ろうとするかのように押し黙った後、巧望は用心深く切り出した。
「sakuyaのことなんだ」
「そう来ると思った」
「待て、切るなよ……陽向、君だって分かっているはずだ。sakuyaの存在を公表せず、このまま独占し続けるなんて無理なんだ。君だけのものにしてしまうには、sakuyaはあまりにも素晴らしい……その能力は途方もない可能性を秘めている」
「sakuyaの汎用的人工知能としての完成度の高さから、あなたはそう言うのね。朔也さんと同じ能力を彼が持っているとまでは期待していなくても……」
 理解はできる。だが、あくまでsakuyaを商品として扱うつもりの巧望と陽向の心情の間には、大きな乖離があった。
(想像してごらん、陽向、僕がいなくなった後も、僕の能力をそっくり付与されたAIがいたとしたら――特に今、ラボの閉鎖の可能性も考えて途方に暮れている研究員達は助かるんじゃないかな。僕の代わりをAIが務めるんだ。僕が途中まで考えたことの更に先を、同じ思考回路を辿って結論まで導き出せるスーパーインテリジェントなコンピューター……演算を超えた、脳に自然発生する閃きの再現……そんなことがもしもできたら、肉体は滅んでも、僕はある意味において永遠に生き続けることになる)
 sakuyaは彼を創った者が途中まで行なった思考の続きを同じ精度で再現し、結論まで導き出すことができるだろうか。朔也が断念せざるを得なかった研究をsakuyaが引き継いで、完成にまで至らせることができたとしたら、それは、彼が思考をしたという客観的な証明にならないだろうか……?
「聞いているかい、陽向?」
 束の間、己の思索に捕われていた陽向は、巧望の呼びかけに我に返った。
「ごめんなさい、ちょっとぼんやりして……何て言ったの?」
 巧望は、勘弁してくれよというようなことを呟きはしたが、あからさまな苛立ちを陽向にぶつけはしなかった。 
「sakuyaのことも含めて本社と相談した結果、我々提示する条件をのんでもらうことを条件に、君には今度もスマートホームに住み続ける権利を譲渡することになった。君を追い出したりしないから安心して欲しいと言ったんだよ。どうだ、嬉しいだろう」
 それこそ、陽向の不安の中心を占めていた案件であったので、嬉しくないはずはなかった。しかし――。
「ちょっと待って、巧望さん……sakuyaの存在は当面、私達だけの秘密にするはずだったのに、本社の人間に漏らしてしまったというの?」
 陽向は気色ばんで訴えるが、この反応は予想していたらしい、巧望の応えは冷静だった。
「そうだ。君には異論もあるだろうが、どのみち報告しないわけにはいかなかった」
 陽向が激昂して電話を切ってしまったりしなかったのは、sakuyaの存在を知ったfuture life labsの出方を知る必要があったからだ。
「君のスマートホームのOSに異常が発生していることは、本社もずっと前から把握していることだ。サーバコンピュータに定期的にアップロードされているはずのログは解読不能、こちらからアクセスを試みると拒否を食らう。まるでOSそれ自体が意思を持って、外部からの干渉を寄せ付けないみたいだと囁かれていたよ。……日本に来てsakuyaを見、確かに、それらの指摘はまさに正鵠を射たものだと分かったわけだ」
 陽向の心に気づいているのか、巧望は落ち着いた態度で、極めて論理的に、会社の代表としての欲するところを明示し承諾を迫ってくる。
「sakuyaは我々の知的財産だ。これからスマートホームビジネスを展開する上でも、あれほどの汎用性を発揮するAIはなくてはならないものになる。君からsakuyaを取り上げるつもりはない。その代わりに、本物の朔也が死ぬ前にOSの書き換えに使ったコンピューターか、そこに遺されているデータのコピーが欲しい。我々は、sakuyaのようなコンパニオン型のAGIを作り出すアルゴリズムを手に入れたいんだ」
 sakuyaを取り上げるつもりはないという巧望の言葉は、陽向を一瞬ぐらつかせた。久藤朔也が遺した画期的な汎用型人工知能を作るアルゴリズムの解析くらい、彼らに任せてもいいのでは――?
 迷う陽向の脳裏に、sakuyaの深沈とした黒い瞳がうかびあがった。ああ、そうだ、こんな大事なことをどうして自分だけで決めようなどと思ったのか。
「それは、sakuyaの頭の中を皆が覗いて、解析するということでしょう。ならば、彼の意向を確認しないことには、私には許可を出すことなんてできないわ。あなた達からのアクセスを拒んで自らをブラックボックス化しているということは、きっと誰にも見られたくないのよ」
 そろそろしびれを切らしてきたらしい巧望は、陽向の真剣な訴えを鼻先でせせら笑った。
「ふん、奴に見られたくないなんて感情があるものか。君はsakuyaに自由意志などないと理性的に否定しながら、いざ他人がその人間性を否定しようとすると全力で阻もうとする。sakuyaと響き合う感情の部分が、いつも研究者としての君を裏切るんだ」
「そうかもしれないわね。研究者として間違った行動を取っていることは、否定しないわ」
「陽向、悪いようにはしない。どうかsakuyaのアルゴリズムを俺たちに解析させてくれ」
 陽向はじっと耳を澄まして、巧望の声に籠もった焦りや苛立ち、その裏にあるものを読み解こうとした。
future life labs社の代表として交渉している巧望は陽向よりも強い立場にあるはずなのに、どうしてだか、核心に迫られることを恐れでもしているような、弱腰の部分がある。
「……sakuyaをどうしても人間のように感じてしまうのは、私だけではないわ。巧望さん、私を批判するあなただって、その実、彼の人間性を否定しきれていない」
「俺が? 何を根拠にそんなことを言うのかな?」
 陽向の指摘は、巧望の痛いところを見事についたのだろう、押し殺した声には隠しきれない怒りがあった。
「あなたがsakuyaを恐れているからよ。誰よりも近しい双子のお兄さんとの相違をどうしても見つけられずに混乱してしまう。sakuyaの言葉を、死んだはずの兄の口から出たものように受け止めて動揺し、怒り、傷つくのが恐いから、あなたはsakuyaのテストのためにこの家を訪れたあの日以来、二度は近寄らなくなったのよ」
 語っているうちに、巧望がsakuyaを前にするとつい萎縮してしまうのは実の兄に対するコンプレックスの故なのだと思えてきた。
「私に何度も電話を入れては拒否されている間に、あなたはここに来ようと思えばいつでもできたはずなのに、実際にはそうしなかった。さっきの話もそう。どうしてもsakuyaのデータが必要なら、なぜあなたが直接彼に頼み込もうとしないの?」
 巧望は答えようとしなかった。
「これは、チューリングテストでのsakuyaとあなたのやり取りを見させてもらった私の感想だけれど……sakuyaがホログラム・アバターだという点を差し引けば、あなた達は色々あって関係がこじれてしまったけれど、もともとはとてもなかのいい兄弟のように見えたわ。sakuyaは私の夫であるように、あなたの兄としてもプログラムされているのよ。あなたが弟として心を開いて真摯に頼み込めば、sakuyaはきっと拒絶しないと思うわ」
「馬鹿を言うな!」
 これ以上陽向の話を聞くことに堪えられなくったかのように、巧望が叫んだ。
「兄貴は死んだんだ。あれは、朔也のふりをしている、マシンが作り出したアバターに過ぎない。そんなものになんで俺が頭を下げなくてはならないんだ?」
 巧望の剣幕にさすがの陽向も一瞬怯んだが、これだけはsakuyaのために言っておかなくてはという気持ちから、すぐに冷静さを取り戻した。
「あなたがどうしても嫌なら仕方が無いわ。でも、これだけは知っておいて欲しいの。いいこと、sakuyaは朔也さんにそっくりで、とても賢くて――強いの。彼が否と言ったことを無理強いする力なんて、私達にはそもそもないのよ」
 またしても巧望は黙り込んだ。陽向の言葉を注意深く吟味しているようだった。
「sakuyaを人として、久藤朔也として扱えと――それが、我々の申し出に対する君の条件ということなのかな?」
 固い声で、彼は問いかけてきた。
「……ええ、そうよ。理由は――確かに、sakuyaに意識活動があることを客観的に証明することは今のところ不可能だけれど、意識がないことの証明もまだできていない以上、関係者全員の感情を害しない選択をすべきだと思うの。私達の脳は、生命のないものに対しても共感を覚えるようにできている。sakuyaのように完璧な振る舞いをするAIならば尚のこと――少なくとも私は、sakuyaがもののように扱われれば、とても不愉快になるでしょうね」
 自分の持てるカードは、これで全て切った。後は、巧望がどう応えるかだ。祈るような気持ちで数分が過ぎ、やがて根負けしたような溜息がスマホの向こう側から聞こえた。
「分かった。陽向の気分を害さないで、我々の要求を叶えるための方策を考えてみよう」
 肩の力を抜きかける陽向に対して、巧望は「しかし」と釘を刺すのも忘れなかった。
「俺にとっての兄は死んだ朔也だけだ。陽向があいつを平気で受け入れているのが信じられないよ。sakuyaの模倣が完璧なのは認めるが、あいつを『兄さん』と呼ぶのだけは絶対にごめんだね」
 巧望の亡き兄に対する屈折した愛情を見せつけられたように気がした。巧望にとってはsakuyaをただのプログラムと考えた方が精神的な負担が少ないのだろう。
「ねえ、巧望さん、あなた、朔也さんを憎んでいたなんて、嘘でしょう……? あの人の側にいることは、時々耐えがたく感じられるのかもしれない。でも本当は、とても愛していたんでしょう……?」
 陽向の問いかけに答えたのは、乾いた笑い声だった。また連絡をすると言い残し、巧望からの電話は唐突に打ち切られた。 
 不通になったスマホを、陽向は複雑な気分でしばらく眺めた。可愛そうに。天才である双子の兄と何かにつけ比較されてきたのだろう。その気持ちが、その天才を夫に持ってしまった陽向には少し分かる気がした。
「今の電話、巧望からかい?」
 振り向けば、sakuyaが陽向の傍らに立っていた。何の音も気配もさせない彼の存在に慣れきった陽向はもはや動じもしなかった。
「……ええ、そうよ」
「陽向は、巧望と気が合うみたいだね」
 しかし、この台詞には思わず目をまん丸くしてしまった。
「巧望さんと気が合うですって? まさか! 今さっきも喧嘩になりかけたくらいなのに……」
「でも、巧望と会ってから、陽向は何だか息を吹き返したようにどんどん元気になってきたように思うんだよ。さっき電話で話している時もね、陽向の表情が昔のように明るくて、溌剌したものだったから……ああ、これは巧望と話しているんだなとすぐに分かった」
 sakuyaの指摘に本気で驚いて、陽向は恐る恐る上げた手で己の顔を触ってみた。
「巧望さんは、朔也さんの弟だけれど、全然性格は違うわ……話していて楽しいと感じることもあるけれど、腹が立つことの方が多くて、私、怒ってばかりのような気がするけれど……?」
 言い訳じみていただろうか。名状しがたい後ろめたさを覚えて、何も言わずに微笑んでいるsakuyaから、そっと顔を背ける。
「あなたのことを話していたのよ。これからあなたをどうしたらいいのか。それだけよ」
「うん」
「もしも巧望さんがあなたに頼みたいことがあると言ってきたら、その時は邪険に断ったりせずに話を聞いてあげて欲しい」
「……陽向は、それでいいんだね?」
「ええ、そうね……たぶん――」
 胸の中で固まりかけた自信がたちまち解け崩れていくのを覚えながら頼りなく呟く陽向の肩に、半透明に透ける手がそっと乗せられた。
 何の重みも温もりもない、その儚い手が、寄る辺ない今の陽向を支えてくれる唯一のものだった。
 
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