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「悪い、車を盗むのに手間取った」
ブルーの古い車だった。
約束の時間に十分遅れて、音原が待ち合わせ場所であるファーストフード店の駐車場に現れた。
「パチンコ屋の駐車場で探していたんだが、最近の車は防犯対策がばっちりだから簡単には盗めないんだ」
「で、この車だったの?」
「ちょっとおんぼろだけどな。でも、俺の車よりいいだろう」
時間がないな。そう言って、音原は速度を上げた。ここから麻耶埠頭まで十分もかからない。
「安全運転でいいさ」
「でも、落ちつかねえよな。誘拐なんて初めてだからな」
「僕もだよ」
桐生美里が今日やくざに櫻井愛美を渡すと知ったのはほんの偶然だった。いつものように彼女の家の横の公園のベンチで受信機のスイッチを入れたときだった。
「すぐに彼女を呼び出して、摩耶埠頭に連れていくわ」
その言葉を聞いて慌てて音原に電話をしたのだ。
バージンオークションのサイトを覗いたが、櫻井愛美には三五〇〇万の値がついていた。音原のルートで売っても同じような値段で売れるだろう。
「同級生を売っぱらっちまうのに罪悪感はないのか?」
運転席から音原が聞いてきた。
「感じないといえば嘘になる。でも、僕たちが手を出さなくても彼女はどこかの変態オヤジに売られてしまうんだ。言ってしまえば、それが彼女の運命なんだよ。結果が同じだったら、僕たちが一儲けするほうがいい」
「刹那的だねぇ」
佐藤は上着のポケットに入れた催涙スプレーとスタンガンをそっと撫でた。
「盗撮屋のすることじゃねえな」運転しながらその様子を見ていた音原が笑った。
倉庫の陰に車を置き、ドアの音を立てずに車から降りた。まだ来ていないと思っていたが、風に乗って女の声が流れてくる。
「もうきているのか?」
音原が首をかしげる。二人は倉庫を回りこんで海のほうに出た。
少女が二人、海のそばに立っている。桐生美里だとすぐにわかった。櫻井愛美もいる。彼女を呼び出して連れてきたにしては早い到着だ。
桐生美里が櫻井愛美の腰に手を回し、そっと彼女を引き寄せてキスをした。その様子を見て横にいる音原がにやけた。
「こりゃいいや。ふたりともいい女だから、映像にすりゃ高く売れるだろうな。どっちがバージンなんだ?」
「髪の長いほっそりした方だよ」
「背の高い女の方が色っぽいよな」
「あの女はビッチだよ。見る目ないなぁ」
やがて一台の車が、猛スピードで彼女たちに近づいて来た。彼女たちの傍で停車し、ドアが開いて男が二人降りてきた。
「あのロンゲが武藤だ」
「うん」
非力な佐藤だが、スタンガンと催涙スプレーがある。スタンガンで身体を麻痺させ、催涙スプレーで反撃不能とする。相手の車を奪ってそのまま音原のマンションにいく。手配されているかもしれないから、盗んできた車は置いていくことにした。
「武藤は俺がやるから、お前はあの金髪野郎を頼む」
「わかった」
佐藤がポケットから目だし帽を出した。音原が先に被った。
「よし、いくぞ」
飛びだそうとした音原の肩を佐藤がとっさに掴んで引き止めた。エンジン音が響き、横からミニバイクが飛び出してきた。
男は学校の制服を着ていた。車の傍でバイクから飛び降りると、叫びながら二人の男たちに向かっていった。
「鵜飼じゃないか」
「なんだ、またお前の知り合いかよ」
「あいつ、こんなところで何をやっているんだ?」
二人の男は鵜飼恭平を相手にするのに夢中だ。三人が格闘中に、桐生美里が櫻井愛美を連れて車から逃げ出した。
「作戦変更だ」
音原が佐藤の肩を叩いた。ふたりは車に戻った。
「海へ放り込め」
地面に倒れてぐったりした恭平に唾を吐きかけ、武藤が佐川に命令した。そして、車のほうを振り返った。
「女がいねえ!」
武藤が大慌てで辺りを探し始めた。慌てた武藤に気づいて佐川が恭平から目を離した。その隙を恭平は見逃さなかった。恭平の強烈な蹴りが佐川の股間にまともに入った。佐川は声を上げることもできずに低く唸りながらその場で倒れた。
「この野郎……」
立ち上がった恭平に気づいた武藤が戻ってきた。鼻血が地面に落ちる。頭がふらついて視点が定まらない。
武藤が走り寄ってきて、拳を恭平の顔面にめり込ませる。パンチは食らったが、その代償にようやく武藤の右腕を捕まえることができた。恭平は武藤の手首をすばやく固め、一気に捻り上げた。
武藤が悲鳴をあげて恭平から腕をもぎ取ろうとした。恭平がさらに力を加えて武藤の腕を捻って、地面にねじ伏せた。そして、護岸の端まで連れて行くと、武藤の背中を蹴って埠頭から海へ突き落とした。悲鳴をあげて海に落ちた武藤は、海面を漂いながら恭平に罵声を浴びせた。
恭平は地面に転がったままの佐川を警戒しながら、大慌てで逃げる二人の後を追った。
鋭いブレーキ音が響いた。二人の行く手をさえぎるように、ブルーの車が急停車した。
ブルーの古い車だった。
約束の時間に十分遅れて、音原が待ち合わせ場所であるファーストフード店の駐車場に現れた。
「パチンコ屋の駐車場で探していたんだが、最近の車は防犯対策がばっちりだから簡単には盗めないんだ」
「で、この車だったの?」
「ちょっとおんぼろだけどな。でも、俺の車よりいいだろう」
時間がないな。そう言って、音原は速度を上げた。ここから麻耶埠頭まで十分もかからない。
「安全運転でいいさ」
「でも、落ちつかねえよな。誘拐なんて初めてだからな」
「僕もだよ」
桐生美里が今日やくざに櫻井愛美を渡すと知ったのはほんの偶然だった。いつものように彼女の家の横の公園のベンチで受信機のスイッチを入れたときだった。
「すぐに彼女を呼び出して、摩耶埠頭に連れていくわ」
その言葉を聞いて慌てて音原に電話をしたのだ。
バージンオークションのサイトを覗いたが、櫻井愛美には三五〇〇万の値がついていた。音原のルートで売っても同じような値段で売れるだろう。
「同級生を売っぱらっちまうのに罪悪感はないのか?」
運転席から音原が聞いてきた。
「感じないといえば嘘になる。でも、僕たちが手を出さなくても彼女はどこかの変態オヤジに売られてしまうんだ。言ってしまえば、それが彼女の運命なんだよ。結果が同じだったら、僕たちが一儲けするほうがいい」
「刹那的だねぇ」
佐藤は上着のポケットに入れた催涙スプレーとスタンガンをそっと撫でた。
「盗撮屋のすることじゃねえな」運転しながらその様子を見ていた音原が笑った。
倉庫の陰に車を置き、ドアの音を立てずに車から降りた。まだ来ていないと思っていたが、風に乗って女の声が流れてくる。
「もうきているのか?」
音原が首をかしげる。二人は倉庫を回りこんで海のほうに出た。
少女が二人、海のそばに立っている。桐生美里だとすぐにわかった。櫻井愛美もいる。彼女を呼び出して連れてきたにしては早い到着だ。
桐生美里が櫻井愛美の腰に手を回し、そっと彼女を引き寄せてキスをした。その様子を見て横にいる音原がにやけた。
「こりゃいいや。ふたりともいい女だから、映像にすりゃ高く売れるだろうな。どっちがバージンなんだ?」
「髪の長いほっそりした方だよ」
「背の高い女の方が色っぽいよな」
「あの女はビッチだよ。見る目ないなぁ」
やがて一台の車が、猛スピードで彼女たちに近づいて来た。彼女たちの傍で停車し、ドアが開いて男が二人降りてきた。
「あのロンゲが武藤だ」
「うん」
非力な佐藤だが、スタンガンと催涙スプレーがある。スタンガンで身体を麻痺させ、催涙スプレーで反撃不能とする。相手の車を奪ってそのまま音原のマンションにいく。手配されているかもしれないから、盗んできた車は置いていくことにした。
「武藤は俺がやるから、お前はあの金髪野郎を頼む」
「わかった」
佐藤がポケットから目だし帽を出した。音原が先に被った。
「よし、いくぞ」
飛びだそうとした音原の肩を佐藤がとっさに掴んで引き止めた。エンジン音が響き、横からミニバイクが飛び出してきた。
男は学校の制服を着ていた。車の傍でバイクから飛び降りると、叫びながら二人の男たちに向かっていった。
「鵜飼じゃないか」
「なんだ、またお前の知り合いかよ」
「あいつ、こんなところで何をやっているんだ?」
二人の男は鵜飼恭平を相手にするのに夢中だ。三人が格闘中に、桐生美里が櫻井愛美を連れて車から逃げ出した。
「作戦変更だ」
音原が佐藤の肩を叩いた。ふたりは車に戻った。
「海へ放り込め」
地面に倒れてぐったりした恭平に唾を吐きかけ、武藤が佐川に命令した。そして、車のほうを振り返った。
「女がいねえ!」
武藤が大慌てで辺りを探し始めた。慌てた武藤に気づいて佐川が恭平から目を離した。その隙を恭平は見逃さなかった。恭平の強烈な蹴りが佐川の股間にまともに入った。佐川は声を上げることもできずに低く唸りながらその場で倒れた。
「この野郎……」
立ち上がった恭平に気づいた武藤が戻ってきた。鼻血が地面に落ちる。頭がふらついて視点が定まらない。
武藤が走り寄ってきて、拳を恭平の顔面にめり込ませる。パンチは食らったが、その代償にようやく武藤の右腕を捕まえることができた。恭平は武藤の手首をすばやく固め、一気に捻り上げた。
武藤が悲鳴をあげて恭平から腕をもぎ取ろうとした。恭平がさらに力を加えて武藤の腕を捻って、地面にねじ伏せた。そして、護岸の端まで連れて行くと、武藤の背中を蹴って埠頭から海へ突き落とした。悲鳴をあげて海に落ちた武藤は、海面を漂いながら恭平に罵声を浴びせた。
恭平は地面に転がったままの佐川を警戒しながら、大慌てで逃げる二人の後を追った。
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