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愛美は美里の豊かな胸の上に突っ伏したまま脱力していた。息を荒げ、力も尽き果ててぐったりしな垂れた白い体を、美里はいたわるように抱きしめた。
「ねぇ、喉、乾いたでしょ?」
美里が愛美の髪を撫でながら耳元で囁くと、愛美がけだるそうに頷いた。
「ジュース、持ってきてあげる」
「ありがと……」
美里はベッドから降りると、部屋の隅に置いてある冷蔵庫からと缶ジュースを一本取り出し、ベッドに持ってきた。愛美が伸ばした手を美里が制止した。
「私が飲ましてあげる」
美里は、ジュースで口をいっぱいにして、愛美にキスした。舌でこじ開けた愛美の口の中にジュースを流し込んだ。
ジュースが口からこぼれ、愛美の首から乳房、そして腹に流れた。
美里は流れに沿って舌を這わせた。その舌が、下から上にあがっていき、愛美の唇を再び捕らえた。美里は左手で愛美のふくよかな乳房を、やさしく掬い上げた。愛美が微かに声を洩らす。
「ねぇ、愛美……うつ伏せになって……」
「なにするの?」
「いいから……」
愛美の白い裸体をうつ伏せにさせ、ヒップを浮かしぎみに突き出させる。
「可愛い……。綺麗なお尻……」
少し声を振るわせながら、丸みのある、柔らかな、愛美の尻を愛撫しはじめた。ふくよかな臀部を這っていた舌が、尻の窪みに侵入してきた。
「もう、駄目……」
愛美は細い声を上げながら身体を反らせた。
突然、携帯がなった。テーブルの上のではなく、引き出しに入れている仲間との連絡用の携帯だった。美里が引き出しを開けて、黒い携帯電話を取り出した。液晶画面を見ると、黒崎からだった。
「ちょっと、ごめんね」
ベッドの上でぐったりしている愛美にキスして、美里はベッドから降りた。
「もしもし……」
ウォークイン・クローゼットの中に入って美里が黒崎に話しかけた。
「おい! あのバージン、どうなった?」
携帯の向こうから、黒崎が興奮気味に叫んだ。
「別に、どうもなってないわ。手元にちゃんと置いてるわよ」
「じゃあ、今すぐ連れて来い!」
「今すぐ? どうして? まだ漬け終わってないわ」
「それでも構わないから、すぐに連れて来い! 客が今すぐそのバージンを売ってくれと言ってるんだ」
黒崎の声は興奮しきっていた。美里はどのような事態が黒崎に起こっているのか掴みきれないでいた。
「どうしたの?」
「バージンオークションであの女にいくら値がついているか知ってんのか。三六〇〇万だぜ。それで、お前が送ってきたバージンの画像をあのスケベ親父に見せたんだ。そしたら、あの親父、眼を血走らせながら、すぐに連れて来いって言うんだ。他に買いたがっている客がいるとかいって散々焦らして値を吊り上げてやったら、あの親父、いくら出すと言ったと思う? 四千万だぜ!」
黒崎の興奮は収まりそうになかった。
「まったく、とんだ上物を捕まえてくれたぜ、お前は!」
美里は黙って黒崎の歓喜の声を聞いていた。今迂闊なことを喋って黒崎を怒らせると、事態はとんでもない方向にいってしまう。ここは従うほかなかった。
「わかったわ……。すぐに彼女を呼び出して、摩耶埠頭に連れていくわ」
時間稼ぎをするため、彼女と今一緒にいるとは言わなかった。
「武藤に受け取りにいかせるから、すぐに連れて来いよ!」
そう叫んで黒崎が電話を切った。
クローゼットから出てベッドに戻ると、愛美はまだまどろんでいた。
「誰から……?」
「クラスの友達よ」
そう言って、美里が愛美の身体を撫でた。愛美がくすぐったそうに身体を捩った。
本当に綺麗な子……。彼女には四千万以上の価値があるわ。
愛美の透き通るような白い肌を、美里はうっとりと見つめた。
初めは黒崎の機嫌を取るために、軽い気持ちで愛美に手を出したが、何度も抱いているうちに、いつの間にか美里自身がその美しさに魅せられるようになっていた。
愛美は学校では意外と地味だったが、男子からの評判は高く、一年のときは言い寄る男子も多かったと聞いた。しかし、おとなしく引っ込み思案な性格のため、自分に近寄る男をいつも避けて、寄せ付けようとしなかったらしい。そんな固い女が、あの鵜飼恭平に惚れるなんて、わからないものだ。
それに、同性ですらこれほどまでに惹き付ける美しい少女を、薄汚い獣の生贄に差し出すのなんてもったいない。
この子は私の言うことなら何でも聞くようになっている。愛美は私の奴隷のようなものよ。
黒崎はヤクザで、執念深い男だ。どのようにしたら黒崎を誤魔化すことができるのか。
美里はしばらく考えた後、テーブルの上に置かれた愛美の携帯を手に取った。自分の指示通り、携帯の電源は切ってあった。美里は愛美の携帯の電源を入れ、着信記録を開いた。
画面には三人の名前が溢れていた。
佐々木玲、滝井優希。
そして、鵜飼恭平。
こんな場合、下手に小細工をしてもぼろが出るだけだ。
美里は、携帯のボタンを押した。
「くそっ! 櫻井の奴!」
恭平は毒づいて携帯電話をポケットに突っ込んだ。
愛美と全く連絡がつかない。行くあてもなく街を彷徨いながら、恭平は愛美を探した。
廊下で愛美を呼び止めた時、とっ捕まえればよかった。悔やまれてならない。あの時、我に帰ると、愛美は目の前から消えていたのだ。
恭平は焦った。まだ学校に残っていた玲と優希を捕まえ、二人に愛美に連絡するように言った。不思議がる二人に恭平は怒鳴った。
「櫻井を廃人にしたいのか! ぐだぐだ言わねえであいつを探せ!」
そう言って、学校を飛び出して、こうして街を彷徨っている。
恭平の携帯電話がなった。画面に愛美の名前が出ていた。
「櫻井か!」
恭平が怒鳴った。
「彼女なら寝てるわ」
話しかけてきたのは桐生美里だった。
「桐生! てめえ、ぶっ殺すぞ! 櫻井はどこだ!」
恭平の怒鳴り声に、道を歩いていた人達が振り返る。
「今、武藤の兄貴分から連絡があってね、彼女を引き渡すことになったの」
「そんなことしてみろ、ただじゃ済まさないぞ!」
「彼女を返したいけど、ヤクザがらみだし、もう、私にはどうにもならないわ。あいつらと摩耶埠頭で待ち合わせしてるの。一応連絡しておく。私があなたにしてやれるのはこれだけよ……」
それだけ言うと、美里は電話を切った。
摩耶埠頭!
タクシーならここから十五分ほどだ。
恭平は駅前のロータリーに走った。そのとき、コンビニの前に鍵がついたままのミニバイクを見つけた。
緊急事態だ。持ち主には後で土下座でも何でもしてやる。
恭平はミニバイクにまたがるとエンジンキーをまわした。店内にいた若い男が驚いて出てきた。男が店を飛び出してくるのとミニバイクが走り出すのと同時だった。恭平の背中に男の怒声が突き刺さった。
「これ以上は私有地だから中には入れないよ」
タクシーの運転手はすまなさそうに、後部座席の美里と愛美を見た。美里が料金を払うと、二人はタクシーを降りた。沈み始めた太陽が神戸港の海面を鈍く照らしていた。誰もいない静まり返った倉庫群が、不気味に薄闇の中に立ち並んでいる。
日が暮れかけた港は幻想的だった。昼間の活気が嘘のように静まり返った倉庫群を見ていると寂しくなる。が、その寂寥感がたまらなく好きだった。
「どうしてそんなところに?」
まだぼんやりした頭を抱えて、愛美が目を擦りながら聞いた。
「海がみたいから」
「とても静かね。なんか、怖いわ」
愛美が不安そうにぐるりを見回す。
「いいじゃない。静かで。それに、ふたりきり……」
美里はそういって愛美に近づくと、彼女の細くくびれた腰に手を回した。
「潮風が目に沁みる?」
「少し……」
愛美が小さな声で答える。美里が愛美の唇にキスをする。瞼を開け、愛美は恥ずかしそうに俯いた。
美里は辺りに目を走らせた。恭平たちの姿はまだ見えない。いや、もう着いていて、この埠頭を走り回って探しているのかもしれない。
このまま愛美を手放すのは惜しい。これからあの男たちには一働きしてもらわなくてはならない。
倉庫の向こうから白い車が飛び出してきた。愛美が驚いて美里にしがみついた。車が二人の前に止まった。中から降りてくる男を見て、愛美は表情を強張らせた。
「おう、可愛いじゃん」
金髪を逆立てた佐川に鋭い目で睨まれ、愛美は美里の腕を握る手に力を入れた。運転席から長髪の武藤も降りてきた。
「こいつが四千万か」
値踏みするような目で武藤が愛美の身体を舐めるように見た。愛美がすがるように美里を見る。
「美里、これって……」
佐川が愛美の腕をいきなり掴んで強い力で引き寄せた。悲鳴をあげる愛美に佐川が抱きついた。
「へへへ、役得、役得」
そういって、服の上から愛美の乳房を揉んだ。愛美は恐怖のあまり声も上げられない様子だった。
「大事な商品だから、もっと丁寧に扱え」
武藤が不愉快そうに佐川に言った。佐川が卑屈な笑みを顔に浮かべ、車の後部座席に愛美を押し込んだ。
「櫻井!」
バイクのエンジン音とともに道路の向こうで恭平の声がした。美里は顔を上げた。倉庫の間からバイクに跨った恭平が飛び出してくるのが見えた。間にあったようだ。
残りのメンバーはどこにいるのだろう。そう思って周りを見回してから、美里は恭平がたった一人で乗り込んで来たことに気づいた。
馬鹿な。何のためにわざわざヤクザがらみだと教えてやったのか。てっきり、柔道部の池澤真司や、あの柄の悪そうなスポーツ科の連中を引き連れてくると思っていた。佐川は口先だけの男だが、武藤は手ごわい。恭平一人では手に負えない。
佐川に向かって猛然と走ってきた恭平を見て、武藤がその前に立ちふさがった。
「そいつを放せ」
バイクから降りて飛び掛ってくる恭平に武藤が蹴りを入れる。恭平が横に飛んですばやくよけると、武藤の脇をすり抜け、佐川に掴みかかった。
「この野郎!」
佐川を愛美から引き離すと、地面の上に引きずり倒した。恭平の背中に武藤の強烈な蹴りが入る。恭平が地面に倒れ、咳き込んだ。
起き上がった佐川が狂ったように恭平に蹴りを入れるが、恭平は地面の上をすばやく転がってその攻撃をかわし、立ち上がって二人の男を睨みつけた。
武藤が軽いフットワークであっという間に恭平との間を詰める。顔面にくると予測したのか、恭平がガードを上げたが、武藤の強烈なパンチが恭平のボディーにめり込んだ。
恭平は苦しそうに倒れ、その場で嘔吐した。
「ガキが調子に乗るなよ」
武藤が低い声を出した。苦しそうに蹲る恭平を二人がかりで足蹴りにし始めた。
その様子を見ている愛美が、恐怖で声を上げることもできずに固まっている。美里が隙を見て愛美の手を取って車内から引き出した。二人は恭平を痛めつけるのに夢中だった。
「こっちへおいで」
美里は愛美の手を引いて車の後ろの死角にまわると、その場を離れた。
「ねぇ、喉、乾いたでしょ?」
美里が愛美の髪を撫でながら耳元で囁くと、愛美がけだるそうに頷いた。
「ジュース、持ってきてあげる」
「ありがと……」
美里はベッドから降りると、部屋の隅に置いてある冷蔵庫からと缶ジュースを一本取り出し、ベッドに持ってきた。愛美が伸ばした手を美里が制止した。
「私が飲ましてあげる」
美里は、ジュースで口をいっぱいにして、愛美にキスした。舌でこじ開けた愛美の口の中にジュースを流し込んだ。
ジュースが口からこぼれ、愛美の首から乳房、そして腹に流れた。
美里は流れに沿って舌を這わせた。その舌が、下から上にあがっていき、愛美の唇を再び捕らえた。美里は左手で愛美のふくよかな乳房を、やさしく掬い上げた。愛美が微かに声を洩らす。
「ねぇ、愛美……うつ伏せになって……」
「なにするの?」
「いいから……」
愛美の白い裸体をうつ伏せにさせ、ヒップを浮かしぎみに突き出させる。
「可愛い……。綺麗なお尻……」
少し声を振るわせながら、丸みのある、柔らかな、愛美の尻を愛撫しはじめた。ふくよかな臀部を這っていた舌が、尻の窪みに侵入してきた。
「もう、駄目……」
愛美は細い声を上げながら身体を反らせた。
突然、携帯がなった。テーブルの上のではなく、引き出しに入れている仲間との連絡用の携帯だった。美里が引き出しを開けて、黒い携帯電話を取り出した。液晶画面を見ると、黒崎からだった。
「ちょっと、ごめんね」
ベッドの上でぐったりしている愛美にキスして、美里はベッドから降りた。
「もしもし……」
ウォークイン・クローゼットの中に入って美里が黒崎に話しかけた。
「おい! あのバージン、どうなった?」
携帯の向こうから、黒崎が興奮気味に叫んだ。
「別に、どうもなってないわ。手元にちゃんと置いてるわよ」
「じゃあ、今すぐ連れて来い!」
「今すぐ? どうして? まだ漬け終わってないわ」
「それでも構わないから、すぐに連れて来い! 客が今すぐそのバージンを売ってくれと言ってるんだ」
黒崎の声は興奮しきっていた。美里はどのような事態が黒崎に起こっているのか掴みきれないでいた。
「どうしたの?」
「バージンオークションであの女にいくら値がついているか知ってんのか。三六〇〇万だぜ。それで、お前が送ってきたバージンの画像をあのスケベ親父に見せたんだ。そしたら、あの親父、眼を血走らせながら、すぐに連れて来いって言うんだ。他に買いたがっている客がいるとかいって散々焦らして値を吊り上げてやったら、あの親父、いくら出すと言ったと思う? 四千万だぜ!」
黒崎の興奮は収まりそうになかった。
「まったく、とんだ上物を捕まえてくれたぜ、お前は!」
美里は黙って黒崎の歓喜の声を聞いていた。今迂闊なことを喋って黒崎を怒らせると、事態はとんでもない方向にいってしまう。ここは従うほかなかった。
「わかったわ……。すぐに彼女を呼び出して、摩耶埠頭に連れていくわ」
時間稼ぎをするため、彼女と今一緒にいるとは言わなかった。
「武藤に受け取りにいかせるから、すぐに連れて来いよ!」
そう叫んで黒崎が電話を切った。
クローゼットから出てベッドに戻ると、愛美はまだまどろんでいた。
「誰から……?」
「クラスの友達よ」
そう言って、美里が愛美の身体を撫でた。愛美がくすぐったそうに身体を捩った。
本当に綺麗な子……。彼女には四千万以上の価値があるわ。
愛美の透き通るような白い肌を、美里はうっとりと見つめた。
初めは黒崎の機嫌を取るために、軽い気持ちで愛美に手を出したが、何度も抱いているうちに、いつの間にか美里自身がその美しさに魅せられるようになっていた。
愛美は学校では意外と地味だったが、男子からの評判は高く、一年のときは言い寄る男子も多かったと聞いた。しかし、おとなしく引っ込み思案な性格のため、自分に近寄る男をいつも避けて、寄せ付けようとしなかったらしい。そんな固い女が、あの鵜飼恭平に惚れるなんて、わからないものだ。
それに、同性ですらこれほどまでに惹き付ける美しい少女を、薄汚い獣の生贄に差し出すのなんてもったいない。
この子は私の言うことなら何でも聞くようになっている。愛美は私の奴隷のようなものよ。
黒崎はヤクザで、執念深い男だ。どのようにしたら黒崎を誤魔化すことができるのか。
美里はしばらく考えた後、テーブルの上に置かれた愛美の携帯を手に取った。自分の指示通り、携帯の電源は切ってあった。美里は愛美の携帯の電源を入れ、着信記録を開いた。
画面には三人の名前が溢れていた。
佐々木玲、滝井優希。
そして、鵜飼恭平。
こんな場合、下手に小細工をしてもぼろが出るだけだ。
美里は、携帯のボタンを押した。
「くそっ! 櫻井の奴!」
恭平は毒づいて携帯電話をポケットに突っ込んだ。
愛美と全く連絡がつかない。行くあてもなく街を彷徨いながら、恭平は愛美を探した。
廊下で愛美を呼び止めた時、とっ捕まえればよかった。悔やまれてならない。あの時、我に帰ると、愛美は目の前から消えていたのだ。
恭平は焦った。まだ学校に残っていた玲と優希を捕まえ、二人に愛美に連絡するように言った。不思議がる二人に恭平は怒鳴った。
「櫻井を廃人にしたいのか! ぐだぐだ言わねえであいつを探せ!」
そう言って、学校を飛び出して、こうして街を彷徨っている。
恭平の携帯電話がなった。画面に愛美の名前が出ていた。
「櫻井か!」
恭平が怒鳴った。
「彼女なら寝てるわ」
話しかけてきたのは桐生美里だった。
「桐生! てめえ、ぶっ殺すぞ! 櫻井はどこだ!」
恭平の怒鳴り声に、道を歩いていた人達が振り返る。
「今、武藤の兄貴分から連絡があってね、彼女を引き渡すことになったの」
「そんなことしてみろ、ただじゃ済まさないぞ!」
「彼女を返したいけど、ヤクザがらみだし、もう、私にはどうにもならないわ。あいつらと摩耶埠頭で待ち合わせしてるの。一応連絡しておく。私があなたにしてやれるのはこれだけよ……」
それだけ言うと、美里は電話を切った。
摩耶埠頭!
タクシーならここから十五分ほどだ。
恭平は駅前のロータリーに走った。そのとき、コンビニの前に鍵がついたままのミニバイクを見つけた。
緊急事態だ。持ち主には後で土下座でも何でもしてやる。
恭平はミニバイクにまたがるとエンジンキーをまわした。店内にいた若い男が驚いて出てきた。男が店を飛び出してくるのとミニバイクが走り出すのと同時だった。恭平の背中に男の怒声が突き刺さった。
「これ以上は私有地だから中には入れないよ」
タクシーの運転手はすまなさそうに、後部座席の美里と愛美を見た。美里が料金を払うと、二人はタクシーを降りた。沈み始めた太陽が神戸港の海面を鈍く照らしていた。誰もいない静まり返った倉庫群が、不気味に薄闇の中に立ち並んでいる。
日が暮れかけた港は幻想的だった。昼間の活気が嘘のように静まり返った倉庫群を見ていると寂しくなる。が、その寂寥感がたまらなく好きだった。
「どうしてそんなところに?」
まだぼんやりした頭を抱えて、愛美が目を擦りながら聞いた。
「海がみたいから」
「とても静かね。なんか、怖いわ」
愛美が不安そうにぐるりを見回す。
「いいじゃない。静かで。それに、ふたりきり……」
美里はそういって愛美に近づくと、彼女の細くくびれた腰に手を回した。
「潮風が目に沁みる?」
「少し……」
愛美が小さな声で答える。美里が愛美の唇にキスをする。瞼を開け、愛美は恥ずかしそうに俯いた。
美里は辺りに目を走らせた。恭平たちの姿はまだ見えない。いや、もう着いていて、この埠頭を走り回って探しているのかもしれない。
このまま愛美を手放すのは惜しい。これからあの男たちには一働きしてもらわなくてはならない。
倉庫の向こうから白い車が飛び出してきた。愛美が驚いて美里にしがみついた。車が二人の前に止まった。中から降りてくる男を見て、愛美は表情を強張らせた。
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「美里、これって……」
佐川が愛美の腕をいきなり掴んで強い力で引き寄せた。悲鳴をあげる愛美に佐川が抱きついた。
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そういって、服の上から愛美の乳房を揉んだ。愛美は恐怖のあまり声も上げられない様子だった。
「大事な商品だから、もっと丁寧に扱え」
武藤が不愉快そうに佐川に言った。佐川が卑屈な笑みを顔に浮かべ、車の後部座席に愛美を押し込んだ。
「櫻井!」
バイクのエンジン音とともに道路の向こうで恭平の声がした。美里は顔を上げた。倉庫の間からバイクに跨った恭平が飛び出してくるのが見えた。間にあったようだ。
残りのメンバーはどこにいるのだろう。そう思って周りを見回してから、美里は恭平がたった一人で乗り込んで来たことに気づいた。
馬鹿な。何のためにわざわざヤクザがらみだと教えてやったのか。てっきり、柔道部の池澤真司や、あの柄の悪そうなスポーツ科の連中を引き連れてくると思っていた。佐川は口先だけの男だが、武藤は手ごわい。恭平一人では手に負えない。
佐川に向かって猛然と走ってきた恭平を見て、武藤がその前に立ちふさがった。
「そいつを放せ」
バイクから降りて飛び掛ってくる恭平に武藤が蹴りを入れる。恭平が横に飛んですばやくよけると、武藤の脇をすり抜け、佐川に掴みかかった。
「この野郎!」
佐川を愛美から引き離すと、地面の上に引きずり倒した。恭平の背中に武藤の強烈な蹴りが入る。恭平が地面に倒れ、咳き込んだ。
起き上がった佐川が狂ったように恭平に蹴りを入れるが、恭平は地面の上をすばやく転がってその攻撃をかわし、立ち上がって二人の男を睨みつけた。
武藤が軽いフットワークであっという間に恭平との間を詰める。顔面にくると予測したのか、恭平がガードを上げたが、武藤の強烈なパンチが恭平のボディーにめり込んだ。
恭平は苦しそうに倒れ、その場で嘔吐した。
「ガキが調子に乗るなよ」
武藤が低い声を出した。苦しそうに蹲る恭平を二人がかりで足蹴りにし始めた。
その様子を見ている愛美が、恐怖で声を上げることもできずに固まっている。美里が隙を見て愛美の手を取って車内から引き出した。二人は恭平を痛めつけるのに夢中だった。
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