俺のカノジョに手をだすな!

みのりみの

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アッキーは会うなり封筒を俺に渡してきた。港区役所の封筒だった。

「とってきてくれたの?」

「もちろん。」

俺が区役所がどこにあるのかも分からないだろうから、それを見据えてはいるんだろうけどまさか準備してくれてるとは思わず素直にありがとうと言ってジャケットに封筒をしまった。


「おつかれ!」

アッキーに連れられてスタジオに入ると新潟帰りのメンバーとマネージャー達が俺を見て笑顔で出迎えてくれた。

「のんびりできたか?まだ誘拐中?」 
ケンが言うので俺はうなずいた。

「春お土産ー!人質のひろにもあげてよ」

優希がみんなで買って来ただろう無造作に置かれた袋からひとつひとつ出して酒やお菓子を紙袋に詰めて俺に渡してきた。

「ひろこちゃんの番組、俺と大ちゃんで特番の収録10日に行ってくるよ」
ソファーにどさっと座り聖司はギター片手に笑って言った。

いつも通りのメンバー3人やマネージャーを前に俺は一呼吸置いてから話した。


「明日、人質は奥さんになります」


その場にいた全員の動きが止まった。

「結婚?結婚すんのかよ?ひろこだぞ?」

山ちゃんは硬直して立ったままだ。

「ひろ、春の奥さんになるの?」

「ひろこは?!事務所は?!」

「子供か?!子供ができたのか?!」

みんな次々と俺に質問攻めをしたが俺は笑顔が止まらなかった。質問攻めが続くと思ったらみんながみんな俺に抱きついて俺の頭を叩いてきた。
叩かれて、俺は笑顔だったけどみんなはまだビックリしたままの目をしていた。

そのまま宴だとスタジオでビールを開けた。

「春おめでとう!明日入籍!」

「事務所は明日からだから、社長には明日朝一に自分から言うから。ひろことも約束したんだ。10時ぴったりに報告。」

「会見するのか?」

「それがひろこ、欲がなくてさ。春のイメージがつくから会見はしなくていい。FAXだけでって。結婚式もしなくていいって言うんだよ」

「それ、普通の女にしちゃずいぶん欲ないな。会見で指輪見せたりとか普通したいもんじゃないの?」

「まだ22なんだから夢見たっていいのにな。」

おめでとうとは言ってくれてるけど、みんなどことなく不安を抱えている胸中は手に取るように分かっていた。

「相談もなく、突然ごめん。」

俺は3人に頭を下げた。

「謝る事ないよ!」

「そんな、気にするなよ。」

「おめでたい話だぞ。」

3人とも優しいから、そういう風に言うけど、俺はちゃんと話しておきたかった。

家族みたいなかけがえのない仲間だから。この3人がいなかったら、今の俺はありえないから。

「バッシングとかも覚悟してる。ファン離れも覚悟してる。けどそんな俺の結婚で離れていくほどヤワな音楽をやってる訳じゃないよ。聖司の曲は人の心を掴める。ケンのギターには技術がある。優希のベースはセンスがある。俺もひろこも悪い事なんてしていない。ひろこが好きだから誰にも取られたくないから2人でいたいんだよ」

3人は黙って聞いていた。

マスコミにどんなにでっちあげられても俺たちの音楽だけはブレない。
それはずっとだ。
俺たちが始まった中学生の頃から、一度も手を抜いたことはなかったししたくなかったんだ。
俺たちのスタートなんて元はケンの家でうるさいうるさい言われながらギターを弾いて、今にも潰れそうな小さな地元のスタジオから東京に来てボロボロのライブハウスになりだんだん大きくなって、それが武道館になっても地方の大箱になっても俺たちなりの音楽を貫いてきたんだ。
音楽と真剣に向き合い楽しんできたひとつの気持ちを4等分。
ひとつの気持ちで続けてきたんだ。
ブレるはずはない。

「俺、今日これで早退します」

山ちゃんは青白い顔で帰って行った。

「明日、報道されたら世の男たちは生きる気力なくなるかもな」

俺の独身最終日という事で場所を変えて聖司の家に異動した。
久々4人だけで飲んだ。
まさに4人だけで飲むのは数年ぶりで、なんだか気恥ずかしくなった。

「知ってる?ひろこちゃんって深夜番組の女王って言われてんの。」

「そうなの?」

「人気に拍車がかかっても未だ昼間やゴールデン帯にはでてこない。深夜の世の男が疲れを癒す時間に現れる食後のアイスクリームみたいなんだと。週刊誌に書いてあった」

「そおなんだ。遊井さんの戦略かな?」

俺は聖司の言葉に笑った。

「ひろこは今日は春の家か?」

「今日は地元の新年会なんだって。今日の昼間にうちに引っ越しは済んだよ。だから今朝5時起き」

すでに引越した事を話すとまたみんながどよめいた。普通に考えたら大急ぎで結婚するように見えるだけだ。

「独身最後かぁ。ひろこ本当に新年会か?」

「女って独身最後の日、昔好きだった男と会うとかいわない?春ーこわいな!今日ひろこちゃん帰ってくんのかよ!」

「今日から俺の家でふたりの生活のスタートなんだ。初日だから帰ってくるよ」

俺は直樹さんの言葉に押され妙に気持ちが大きくなった。

ひろこを信じてるんだ。


「ケンの、じゃなくて聖司のギターちょっといい?」

俺が聖司からギターを受け取って少し音を出した。

「聞く?」

3人とも、俺が曲を作ってきた事に異様に興味があったようで自然と前のめりになっているのが分かった。

「イルカの歌。カッコ仮ね。」

自分の気持ちを乗せて、あの遊井さんの前で演奏したのと同じように歌った。

「結婚 結婚 したいな 絶対 結婚 結婚 するよね 絶対 結婚 絶対 」

3人は笑いもなく真剣に聞いてくれて、終わったら拍手もなく、どうアレンジするかを考えているのが分かった。

俺もそうだけど、仕事であり趣味なんだ。

「これ、EDM感合わさると良さげじゃない?やってみるか」
「任せて任せて。こうでしょ。」
「ケン、ちょっとキーあげてみて。」
「ちょっとぶっとんでるかんじは?」

俺の1曲で酒を飲みながら、俺たちはこの曲に真剣に音を合わせた。


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