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人間凋落
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俺はひろこの顔を見たまま立ちつくした。
泣きはらした目。痩せ細った体。艶のない肌には落としてない化粧が残りそれが肌に吸収されたかのように黒ずんでいた。
俺は愕然とした。
「ひろこ、電話も出ないし実家のお母さんに聞いても帰ってないっていうし。ひろこ、自分の顔見てみろよ」
ゆっくり脱衣所へ行ってひろこは自分の顔を見た。
部屋に上がり込みぐちゃぐちゃの布団に開いたままのキャリーケースに帰国後すぐに失恋したんだと思った。
「グアムから帰って、ずっとこのままか」
ひろこは力なくしゃがみ込んだ。
「ひろこ。おい。」
そのままひろこは泣いた。
「ひろこ!しっかりしろ!」
俺は思いっきり怒鳴った。
そんなのお構いなしにひろこはワンワンと声をあげて泣いた。
泣いて泣いて、もう涙腺は崩壊していただろう。その姿を見れなくて、俺は窓の外を見ながらひろこの泣き声を聞いていた。
もう、失恋から立ち直るには失恋相手から離すしか他方法はないと思った。
「大阪に行かないか?」
ひろこは泣きじゃくった顔で俺を見ていた。鞄からファイルに入った書類を渡した。
「大阪放送。準キー局だよ。そこで週1のレギュラー番組の司会やらないか?あと細かに大阪放送内の番組ちょいちょい出れるから」
ひろこは黙ってファイルを受け取った。
「大阪?」
「そう。」
「普通は週1なら東京から通ってもいいけど、他のローカル番組もあるし大阪でしばらく暮らすんだ。局所有のマンションも手配するから」
するとひろこは取り乱すように泣いた。
「嫌。嫌よ。絶対に嫌!遊井さん分かってるでしょ?そんな、大阪になんて引っ越したら慶に会えなくなるじゃない!そんなの嫌に決まってるでしょ!」
ファイルを壁にバンッと投げつけるとひろこはまたうずくまって狂ったように泣いた。
当たり前だ。
東京から離れるなんてできる訳がない。
うわ言のように好きな男なのかケイと言う。
あんなに可憐で人々を惹きつける魅力的な女は恋愛ひとつでここまでボロボロに堕ちるのだ。
人間凋落。
俺も立ってられないくらいひろこの姿を見ていられなかった。
もう一度輝くには、あの輝きを取り戻すには、もう誰でもいいから新しい恋をして立ち直るより他はない。
失恋の相手から引き離すのが荒治療だが1番いい。
「ケイ、が好きな男か?」
俺は落ちたファイルをゆっくり拾い上げた。
「なら、見返すんだ。」
「・・・」
「次会った頃にはひろこも売れて手の届かないところまでいってその男に後悔させるくらいの気持ちを持て!そのまま好き好きって追いかけるのか?そんなの続けてたら永久にその男はお前のものにならないぞ!」
「そんなの、分かってるわよ!」
ひろこは身体から出るありったけの声で怒鳴り床を思いっきり叩いた。
それでも涙はボロボロとこぼれては落ちていった。
「渋谷で、お前をはじめて見た時、他の子と違う何かがあるって俺は思った。絶対俺が育てようと思った。分かるか?言ってる意味」
ひろこは顔をあげず下を向いたままだった。
「ワンナイは枠20人中コネや大人の事情でメンバーはほぼ全員決まってた。だけどひろこだけは秀光さんがどうしてもって採用を推してくれた。秀光さん1人の力でどうにかなるからな。視聴者からの声でも、ワンナイの中でひろこは1番人気だったんだ。」
そうなんだ。
ひろこにはファンがつくんだ。
無限の可能性があるんだ。だから俺はひろこを立ち直らせなくてはダメなんだ。
「こんなにひろこのファンがいてこんなチンケな失恋ひとつで安藤ひろこが終わりなんて世の中のファンが怒るぞ。」
俺はティッシュを取ってきてひろこに渡した。
「大阪に行け。ひろこ。一からやり直して立派になってまた東京に戻るんだ」
「・・・」
ひろこの目から大粒の涙がボロボロと止まらなかった。
泣きつくしてまるで廃人のようなひろこを抱きしめていた。
マンションの1室で男女ふたり。
タレントとそのマネージャー。
中にはタレントに手を出すマネージャーもいる。相思相愛、恋人同士になる人もいる。
はたから見たら俺達も怪しいが手を出すとかそんな感情は俺には全くなかった。
俺にとって完全なるひろこは仕事の対象であった。
自分が渋谷の雑踏から見つけてきて確固たる確信を持って育てる責任を抱えていたからだ。
「ねぇ、ひろこは大丈夫なの?よく大阪行くの了承したね。あの子バリバリの東京出身でしょ?杉並生まれ杉並育ちだよね?」
ひろこを大阪に送る日に社長が心配そうに俺に声をかけた。
「ひろこには、やってもらいますよ。東京でレギュラー持てるまでは大阪に漬けておこうと思ってます。」
「沈めるみたいな事。かわいそうだから言わないでよ」
社長は事務所に飾られた所属タレントの写真の中からひろこの写真を見つめた。
「こんないい女、そうそういないのにね」
「それは俺が1番分かってますよ」
飾られた写真はグアムの写真集の1枚だった。
太陽の下でひろこは色っぽくこっちを見つめている。
凛とした瞳はどこか男を惑わすような。唇は誰もが心に刺さるように誘惑する。
あの、失恋した「ケイ」という男への恋心に歯車がかかっていた時だ。
『色っぽいね』
カメラマンがため息をついて言っていたのを覚えている。
俺はこの恋する最強かわいいひろこをまた東京に連れ戻す事以外目的はないと心に誓った。
泣きはらした目。痩せ細った体。艶のない肌には落としてない化粧が残りそれが肌に吸収されたかのように黒ずんでいた。
俺は愕然とした。
「ひろこ、電話も出ないし実家のお母さんに聞いても帰ってないっていうし。ひろこ、自分の顔見てみろよ」
ゆっくり脱衣所へ行ってひろこは自分の顔を見た。
部屋に上がり込みぐちゃぐちゃの布団に開いたままのキャリーケースに帰国後すぐに失恋したんだと思った。
「グアムから帰って、ずっとこのままか」
ひろこは力なくしゃがみ込んだ。
「ひろこ。おい。」
そのままひろこは泣いた。
「ひろこ!しっかりしろ!」
俺は思いっきり怒鳴った。
そんなのお構いなしにひろこはワンワンと声をあげて泣いた。
泣いて泣いて、もう涙腺は崩壊していただろう。その姿を見れなくて、俺は窓の外を見ながらひろこの泣き声を聞いていた。
もう、失恋から立ち直るには失恋相手から離すしか他方法はないと思った。
「大阪に行かないか?」
ひろこは泣きじゃくった顔で俺を見ていた。鞄からファイルに入った書類を渡した。
「大阪放送。準キー局だよ。そこで週1のレギュラー番組の司会やらないか?あと細かに大阪放送内の番組ちょいちょい出れるから」
ひろこは黙ってファイルを受け取った。
「大阪?」
「そう。」
「普通は週1なら東京から通ってもいいけど、他のローカル番組もあるし大阪でしばらく暮らすんだ。局所有のマンションも手配するから」
するとひろこは取り乱すように泣いた。
「嫌。嫌よ。絶対に嫌!遊井さん分かってるでしょ?そんな、大阪になんて引っ越したら慶に会えなくなるじゃない!そんなの嫌に決まってるでしょ!」
ファイルを壁にバンッと投げつけるとひろこはまたうずくまって狂ったように泣いた。
当たり前だ。
東京から離れるなんてできる訳がない。
うわ言のように好きな男なのかケイと言う。
あんなに可憐で人々を惹きつける魅力的な女は恋愛ひとつでここまでボロボロに堕ちるのだ。
人間凋落。
俺も立ってられないくらいひろこの姿を見ていられなかった。
もう一度輝くには、あの輝きを取り戻すには、もう誰でもいいから新しい恋をして立ち直るより他はない。
失恋の相手から引き離すのが荒治療だが1番いい。
「ケイ、が好きな男か?」
俺は落ちたファイルをゆっくり拾い上げた。
「なら、見返すんだ。」
「・・・」
「次会った頃にはひろこも売れて手の届かないところまでいってその男に後悔させるくらいの気持ちを持て!そのまま好き好きって追いかけるのか?そんなの続けてたら永久にその男はお前のものにならないぞ!」
「そんなの、分かってるわよ!」
ひろこは身体から出るありったけの声で怒鳴り床を思いっきり叩いた。
それでも涙はボロボロとこぼれては落ちていった。
「渋谷で、お前をはじめて見た時、他の子と違う何かがあるって俺は思った。絶対俺が育てようと思った。分かるか?言ってる意味」
ひろこは顔をあげず下を向いたままだった。
「ワンナイは枠20人中コネや大人の事情でメンバーはほぼ全員決まってた。だけどひろこだけは秀光さんがどうしてもって採用を推してくれた。秀光さん1人の力でどうにかなるからな。視聴者からの声でも、ワンナイの中でひろこは1番人気だったんだ。」
そうなんだ。
ひろこにはファンがつくんだ。
無限の可能性があるんだ。だから俺はひろこを立ち直らせなくてはダメなんだ。
「こんなにひろこのファンがいてこんなチンケな失恋ひとつで安藤ひろこが終わりなんて世の中のファンが怒るぞ。」
俺はティッシュを取ってきてひろこに渡した。
「大阪に行け。ひろこ。一からやり直して立派になってまた東京に戻るんだ」
「・・・」
ひろこの目から大粒の涙がボロボロと止まらなかった。
泣きつくしてまるで廃人のようなひろこを抱きしめていた。
マンションの1室で男女ふたり。
タレントとそのマネージャー。
中にはタレントに手を出すマネージャーもいる。相思相愛、恋人同士になる人もいる。
はたから見たら俺達も怪しいが手を出すとかそんな感情は俺には全くなかった。
俺にとって完全なるひろこは仕事の対象であった。
自分が渋谷の雑踏から見つけてきて確固たる確信を持って育てる責任を抱えていたからだ。
「ねぇ、ひろこは大丈夫なの?よく大阪行くの了承したね。あの子バリバリの東京出身でしょ?杉並生まれ杉並育ちだよね?」
ひろこを大阪に送る日に社長が心配そうに俺に声をかけた。
「ひろこには、やってもらいますよ。東京でレギュラー持てるまでは大阪に漬けておこうと思ってます。」
「沈めるみたいな事。かわいそうだから言わないでよ」
社長は事務所に飾られた所属タレントの写真の中からひろこの写真を見つめた。
「こんないい女、そうそういないのにね」
「それは俺が1番分かってますよ」
飾られた写真はグアムの写真集の1枚だった。
太陽の下でひろこは色っぽくこっちを見つめている。
凛とした瞳はどこか男を惑わすような。唇は誰もが心に刺さるように誘惑する。
あの、失恋した「ケイ」という男への恋心に歯車がかかっていた時だ。
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