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大阪
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「元気か?」
『元気だよ。今日のお弁当唐揚げだった』
ひろこは大阪に引っ越した。
全く新しい環境で東京生まれ東京育ちのひろこにとっては大阪の人、その土地の事、新鮮さはあっただろう。
俺は毎月2.3回はひろこに会いに大阪に行っていた。
その間は東京で25歳の広瀬七海というグラビアアイドルのマネジメントをした。
ちょうど広瀬七海のマネージャーが産休に入ったのでそのタイミングだった。
広瀬七海も25歳にしては童顔でうちの事務所主催のオーディションで勝ち抜いたグラビアアイドルだけあり可愛い子だった。しかし広瀬を受け持ってからはあのひろこのような周りを圧倒する褒め言葉は聞こえてこなかった。
やはり自分がスカウトした手前ひろこを早く東京に戻したくて広瀬の宣伝傍らひろこの宣材や写真集も持ち回って営業に勤しんだ。
あの失恋したボロボロさはまったくなくなったが大阪へ行ってからひろこは生意気な口をきかなくなった。
自分でも自分なりに東京でブレイクしなかった都落ちの感はあったのだろう。
そんな屈辱と本人はそこまで思ってもいないかもだがひろこは一皮向け会うたびにどこか大人っぽくなっていった。
「性格はハタチを越えると変わらない」
大学時代の友達が言っていた。
ひろこは19歳。
ちょうど20歳前だ。
良いタイミングで子供らしさも抜けて大人に成長してくれるのかと思った。
失恋も癒えてこれから恋でもするのだろうか。
失恋から立ち直れれば誰でもいいから恋愛してくれ、とは思ったが相手が変な輩でない事を陰ながら祈っていた。
大阪放送の音楽番組司会という週1のレギュラーの傍らその局内での番組出演の依頼がチラチラと入り関西地区限定の雑誌の表紙、はたまた大阪ローカル局での番組出演と大阪での知名度は少しずつ広げていたつもりだった。
その最中、ひろこのグアムの写真集が重版がかかった。
やっぱり。
俺は出版社から取次経由で聞いてもらうとどうやら関西地区で売れているらしい。
ひろこのあの出来の良い写真集は見る人の心を絶対掴むと思っていた。
この写真集きっかけでいいからもっと知名度を広げてくれ、と俺は思いながら。しかし写真集2回重版ではそこまで仕事が殺到する訳でもない。
東京でのひろこのレギュラーは取れないものかと俺も動いてはいたが、手元に来る案件は単発ばかりだった。
雑誌とのタイアップでこのブランドの服着て1回掲載。
ドラマのほんのちょい役で1回出演。
CMで50人女の子を使うからその1人で。
俺はどれもこれも納得はしなかった。
「安売りしたくない」
多分そんな思いが強かった。
8月5日。
ひろこは20歳になった。
『誕生日おめでとう』
『ありがと。』
メールでお互い簡素だけどやり取りをした。
間もなく大阪に来て1年が経つ。
大阪での仕事は変わらないが、未だ東京でのレギュラーともいうべきオファーはなかった。
ひろこは20歳。
まだまだこれから。
俺はまた今日も広瀬を現場に連れて行きがてら、局内で知り合いのプロデューサーやディレクターと喫煙所で雑談をしてはそれとなく局員の動向や今後の番組制作上の必要な女性像などないか探っていた。
「ひろこ!」
「遊井さん!お疲れ様。」
大阪放送のロビーで待ち合わせしてひろこは局員のようにパスを出してくれて会議室に案内してくれた。
「ほら。買ってきたぞ」
「ありがとー!コーヒーとお皿持ってくるね」
思春期の娘と親は久々会うのがちょうど良い人間関係が保たれると聞いた話ではあるがよく言ったものだと思う。
俺はひろこの大好きな事務所近くにあるレアチーズケーキを毎回持っていく。
「遊井さんにも買っておいたよ。帰り食べて」
「おーサンキュー!」
俺のお気に入りのタコヤキ饅頭をひろこが手渡してくれてお菓子の交換は当たり前になった。
ひろこは嬉しそうにケーキを頬張るが、いつもより嬉しそうに美味しそうに食べる。表情が豊かでどことなく足取りも軽やかだ。
「なんか、いい事でもあったのか?」
「え?そお?」
ひろこはケーキを食べながら俺を見た。
「まぁ、1年前よりかは顔はイキイキしてるよな。早いよなぁ」
「そうだね。」
鞄から資料を出して渡しながら俺はひろこに言った。
「去年のグアムの写真集が重版かかったよ。」
「え?本当?」
ひろこの目がパッと明るく輝いた。
「出版社に取次経由で聞いてもらったら関西の書店で売れてるんだ。やっぱり大阪でファンがジワジワ増えてるんだと思うぞ」
「えーでも売れてるなら嬉しいよ」
ひろこはケーキを食べ終えて嬉しそうに話した。
「・・東京で、仕事してみるか?」
「え?東京?何それ?東京でできるの?レギュラー?」
「うーん。。いや、ファッション誌で1回ブランドとタイアップ。単発だから」
「そっか」
『有名になるまで東京には帰りたくない。』
ひろこの気持ちはそこだった。
年末年始の休みになってもひろこは東京へ帰らなかった。
失恋した男を見返す。
言ったのは俺だがひろこも確固たる信念を持って大阪に来ていた事は俺が1番知っていた。
「バーンと全国区でCM決まればトントンといける気もするんだけどなー。決まんねーかなぁ。あと週刊誌の表紙。関西版ね。これは抑えたから。大阪で撮影だって。来月15日な」
「うん。分かった。15日ね」
ひろこは手帳に予定を入れた。
「ひろこ、成人式どうするんだ?1月だろ?休みとって東京来るか?お母さん達も心配してるぞ。年末は仕事入れちゃったけど、年始は元旦から多めに休み取っていいから。」
俺は手帳を1月のページにしてペンを持っていた。
ひろこはその1月のページを見ながらしばらく黙ってこう言った。
「・・・考えとくね。」
『元気だよ。今日のお弁当唐揚げだった』
ひろこは大阪に引っ越した。
全く新しい環境で東京生まれ東京育ちのひろこにとっては大阪の人、その土地の事、新鮮さはあっただろう。
俺は毎月2.3回はひろこに会いに大阪に行っていた。
その間は東京で25歳の広瀬七海というグラビアアイドルのマネジメントをした。
ちょうど広瀬七海のマネージャーが産休に入ったのでそのタイミングだった。
広瀬七海も25歳にしては童顔でうちの事務所主催のオーディションで勝ち抜いたグラビアアイドルだけあり可愛い子だった。しかし広瀬を受け持ってからはあのひろこのような周りを圧倒する褒め言葉は聞こえてこなかった。
やはり自分がスカウトした手前ひろこを早く東京に戻したくて広瀬の宣伝傍らひろこの宣材や写真集も持ち回って営業に勤しんだ。
あの失恋したボロボロさはまったくなくなったが大阪へ行ってからひろこは生意気な口をきかなくなった。
自分でも自分なりに東京でブレイクしなかった都落ちの感はあったのだろう。
そんな屈辱と本人はそこまで思ってもいないかもだがひろこは一皮向け会うたびにどこか大人っぽくなっていった。
「性格はハタチを越えると変わらない」
大学時代の友達が言っていた。
ひろこは19歳。
ちょうど20歳前だ。
良いタイミングで子供らしさも抜けて大人に成長してくれるのかと思った。
失恋も癒えてこれから恋でもするのだろうか。
失恋から立ち直れれば誰でもいいから恋愛してくれ、とは思ったが相手が変な輩でない事を陰ながら祈っていた。
大阪放送の音楽番組司会という週1のレギュラーの傍らその局内での番組出演の依頼がチラチラと入り関西地区限定の雑誌の表紙、はたまた大阪ローカル局での番組出演と大阪での知名度は少しずつ広げていたつもりだった。
その最中、ひろこのグアムの写真集が重版がかかった。
やっぱり。
俺は出版社から取次経由で聞いてもらうとどうやら関西地区で売れているらしい。
ひろこのあの出来の良い写真集は見る人の心を絶対掴むと思っていた。
この写真集きっかけでいいからもっと知名度を広げてくれ、と俺は思いながら。しかし写真集2回重版ではそこまで仕事が殺到する訳でもない。
東京でのひろこのレギュラーは取れないものかと俺も動いてはいたが、手元に来る案件は単発ばかりだった。
雑誌とのタイアップでこのブランドの服着て1回掲載。
ドラマのほんのちょい役で1回出演。
CMで50人女の子を使うからその1人で。
俺はどれもこれも納得はしなかった。
「安売りしたくない」
多分そんな思いが強かった。
8月5日。
ひろこは20歳になった。
『誕生日おめでとう』
『ありがと。』
メールでお互い簡素だけどやり取りをした。
間もなく大阪に来て1年が経つ。
大阪での仕事は変わらないが、未だ東京でのレギュラーともいうべきオファーはなかった。
ひろこは20歳。
まだまだこれから。
俺はまた今日も広瀬を現場に連れて行きがてら、局内で知り合いのプロデューサーやディレクターと喫煙所で雑談をしてはそれとなく局員の動向や今後の番組制作上の必要な女性像などないか探っていた。
「ひろこ!」
「遊井さん!お疲れ様。」
大阪放送のロビーで待ち合わせしてひろこは局員のようにパスを出してくれて会議室に案内してくれた。
「ほら。買ってきたぞ」
「ありがとー!コーヒーとお皿持ってくるね」
思春期の娘と親は久々会うのがちょうど良い人間関係が保たれると聞いた話ではあるがよく言ったものだと思う。
俺はひろこの大好きな事務所近くにあるレアチーズケーキを毎回持っていく。
「遊井さんにも買っておいたよ。帰り食べて」
「おーサンキュー!」
俺のお気に入りのタコヤキ饅頭をひろこが手渡してくれてお菓子の交換は当たり前になった。
ひろこは嬉しそうにケーキを頬張るが、いつもより嬉しそうに美味しそうに食べる。表情が豊かでどことなく足取りも軽やかだ。
「なんか、いい事でもあったのか?」
「え?そお?」
ひろこはケーキを食べながら俺を見た。
「まぁ、1年前よりかは顔はイキイキしてるよな。早いよなぁ」
「そうだね。」
鞄から資料を出して渡しながら俺はひろこに言った。
「去年のグアムの写真集が重版かかったよ。」
「え?本当?」
ひろこの目がパッと明るく輝いた。
「出版社に取次経由で聞いてもらったら関西の書店で売れてるんだ。やっぱり大阪でファンがジワジワ増えてるんだと思うぞ」
「えーでも売れてるなら嬉しいよ」
ひろこはケーキを食べ終えて嬉しそうに話した。
「・・東京で、仕事してみるか?」
「え?東京?何それ?東京でできるの?レギュラー?」
「うーん。。いや、ファッション誌で1回ブランドとタイアップ。単発だから」
「そっか」
『有名になるまで東京には帰りたくない。』
ひろこの気持ちはそこだった。
年末年始の休みになってもひろこは東京へ帰らなかった。
失恋した男を見返す。
言ったのは俺だがひろこも確固たる信念を持って大阪に来ていた事は俺が1番知っていた。
「バーンと全国区でCM決まればトントンといける気もするんだけどなー。決まんねーかなぁ。あと週刊誌の表紙。関西版ね。これは抑えたから。大阪で撮影だって。来月15日な」
「うん。分かった。15日ね」
ひろこは手帳に予定を入れた。
「ひろこ、成人式どうするんだ?1月だろ?休みとって東京来るか?お母さん達も心配してるぞ。年末は仕事入れちゃったけど、年始は元旦から多めに休み取っていいから。」
俺は手帳を1月のページにしてペンを持っていた。
ひろこはその1月のページを見ながらしばらく黙ってこう言った。
「・・・考えとくね。」
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