マネージャーの苦悩

みのりみの

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達成感

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「ランランに決まってるでしょ」

帰ってからもちろん社長に言われた。
「cameraって何?カメラ雑誌?見た事ないよ」
そりゃそうだ。専門誌だ。

最新号のcameraを社長に見せても全然響かない。
廃刊寸前なんてとてもじゃないけど言えなかった。
かと言って編集長がひろこのファンだからで了承はしないだろう。
ランランとはギャラが違いすぎるのだ。

俺は再度cameraの代理店と話し合った。

「うーん。魅力はあと出版社ですかね。ランランも大手だけど、cameraは新聞社ついてますからね。その下には局もあるし」

俺がお世話になりたい局の親会社様が新聞社だ。
そこだけはブレなかった。

俺は社長にそこを意味づけて説明した。
社長さえクリアできればcameraで連載はできるのだ。
そりゃお金は安い。
廃刊寸前で同情もある。
でも俺はひろこのファンとして白部兄を大切に思っていた。
しかし大手出版社のランランも相当魅力的で俺は本当に困った。

「ランランの連載は2年後にします。はじめの2年は安藤の執筆練習のつもりでcameraにします」

俺はめちゃくちゃな取決めを勝手にしてランラン側の代理店に投げた。

傍若無人。

もうそれ以外何もないのだが、もうひろこを平等に使ってください!そんな精神だった。

ところがランラン側はそれで了承を得た。
ビックリしたけどそこまで待ってでもランランはひろこの連載をしたかったんだと思った。

原稿用紙一枚分。
写真は自分のスマホで撮影。
ひろこの連載第一回目は期日前にノリノリで入稿した。
写真のひろこはニッコリ笑って顔を斜めに傾げている。
誰が撮ったのかは聞かなかったけど春くんに撮ってもらったものだとすぐに分かった。
幸せそうに映る1枚にもう何も文句は出てこなかった。

夏が間もなくやって来る。

「おっ遊井さんおつかれー!」
また喫煙所で仲の良いマネージャー同士でしゃべりながら。

「人事異動、そろそろだな」

俺は毎年夏の局員の人事異動速報は代理店からメールでもらっていた。

この人事異動でまた全てが変わる事があるからだ。
プロデューサーが現場から離れる時もあればディレクターがプロデューサーに昇格する事もある。
かとすればお世話になってる人が急な異動で番組が終わる事もある。
あの、秀光さんのワンナイのように。
こればかりはサラリーマンだから仕方のない局内の事情だった。

1本の電話が来たのはよく晴れた6月中旬だった。

ちょうど代理店からきた局員異動の速報のメールを開いていた時だった。

『遊井さん』

電話の相手は白部くんだった。

「白部くん!久しぶり!元気?」

『元気です。兄が、その節はありがとうございました。』

ひろこはcameraで毎月連載を重ね、発行部数を増やしたと聞いて俺も満足だった。

「白部くん、局員だったんだね。俺は全然知らなかったよ。制作会社の人だと思ってたよ」

俺はメールの制作局の異動一覧を見ていた。

『そうなんですよ。俺、局員で異動になったんです。CSから地上波になるんですよ』

「えー!どこに異動するの?」

「制作局 白部 渉」の文字を見て俺は目を疑った。

『プロデューサーになりました。やっとです』

俺は手が震えた。
白部くんが昇格できて何より嬉しかったからだ。

「白部くん!良かったじゃない!これで好きな番組、作れるよ。良かったね。」

『遊井さんには感謝してます。応援してくれてたんで。』

俺も涙が出そうになった。
小高に散々振り回され、やつれた彼を見ていたからだ。
何より彼のような若手にはもっと飛躍してほしい。もうそれだけだった。

『遊井さん、ひろこちゃんのトーク番組つくりましょうよ。深夜だけど。ゆるーいかんじの。毎回ゲスト呼んで。』

「・・・」

『ひろこちゃん司会進行で、お団子頭で、ひろこの部屋ってタイトルで。9月から冠番組。パロディですけど。ゆるくないですか?』

「・・・」

夢を見てるんじゃないかと思った。俺は信じられなくて言葉がもう出てこなかった。

自分のしてきた事が正しかった。
人と人との繋がり。
もうこれしかなった。

業界飲みには頻繁に繰り出し、局内の喫煙所ではネットワークを作り、白部くんに新幹線でタバコをあげた事から始まり、白部兄の雑誌を廃刊にさせたくなかったのもそう。
ひろこのファンと言うから大切にしたかったのもそう。
ひとつひとつの積み重ねでここまで来たんだ。

「ひろこの冠番組ー!?」

事務所は一気に湧いた。
代理店はどこだ?
プロデューサーは誰だ?
9月か?
もう大騒ぎだった。 

自分の番組が持てるなんてあり得ない贅沢だ。
正直番組がもてるとまでは考えなかった。マネージャーになって15年。
今まで担当したタレントは5人。
今でも活躍している子はいるが自分の番組が持てた子は初めての事だ。

まだ何も決まってないけど、俺はすぐひろこを東京に戻してあげたいと思った。
早くこの吉報を知らせようと電話をしたら繋がらなかった。

俺は春くんに電話をした。
ひろこの次は春くんに吉報を知らせたかった自分がいた。

『え?本当?遊井さんそれ本当?』

春くんはやったーと言ったがその声は嬉しさで自慢のハスキーボイスは裏声になり声になっていなかった。

『そんな大事な事は遊井さんの口から言ってください。今からドームに来るので、来たら遊井さんに一度電話しますから。』


春くんは大事なひろこへの報告に自分ではなく俺を立てた。
俺がひろこと二人三脚でやってきた結果だと十分分かっていた。
そして自分はひろこの彼氏。
立場をわきまえていたんだ。
それを考えるとなんてできた男なのだろうと俺は思った。


「注目されるかな。本当に注目されてあたし東京に戻れるかな」


キルズアウトのPVを撮影して俺が東京に帰る時不安気に言っていた顔を思い出した。
ひろこはよく頑張った。
大阪で耐えていた日々は無駄ではなかったんだ。

春くんがリハーサル中のスタジオから俺に電話をくれた。

『はい!お願いしまーす!』

ガチャリと電話は切れて俺はひろこに電話をした。

「9月から、ひろこのレギュラー番組決まったぞ!東京で!」

『・・え?関西じゃなくて?』

「東京だ!だから、帰ってこい」


俺はその夜友人と熱く語り合いマネージャー業15年目にして初めての大きな達成感に涙した。

自分が渋谷の雑踏で見つけてきたダイヤの原石はここまできたんだ。
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