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東京
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ひろこが東京に戻って来た。
事務所が借り上げたのは目黒川沿の桜の見える新築マンションだった。
民放各社にも近い。
引っ越しを手伝っているとひろこがビールを出して来た。
「遊井さん、もういいよ。一晩であたし片付けるから」
ニコリと笑うひろこに成長を感じて嬉しくなる。
1週間後には番組収録。その間に地元に戻ったり春くんと会ったりするのだろう。
幸せそうな笑みがこぼれていた。
しかし東京に戻れば戻ったらでまた懸念事項がある。週刊誌だ。
「やっと東京戻ってこれたところだけど調子にのって春くんのマンションには行くなよ」
「は?」
「週刊誌が張り付いてる。春くんの家に行こうものなら撮られに行くのと同じだぞ」
「え?じゃあここのマンションは?」
「ここのマンションならまだひろこが住んでるって週刊誌は知らないからまだ春くん入れてても大丈夫かも、だけど。それも時間の問題だな」
明らかに不満そうな顔のひろこだったがここは厳しく言っておかないといけない。
東京に戻ったら、秋元さんと共に恐れていた「記者」が待っているのだ。
「ひろこちゃんが東京戻ったらすぐご挨拶行きますから。ツアー中でもなんでも」
秋元さんはずっと言っていた。
するとひろこが東京に戻った翌日には春くんと社長を連れて事務所に挨拶に来た。
社長同士は同じ業界上面識はあり、入るなり笑顔を交わして2人で話し込んでいた。
「初めまして。秋元と申します。SOULのチーフマネージャーをしております。」
「初めまして。SOULのHARUです。」
双方の社長の会話に割って入るように2人はうちの社長に挨拶をした。
ひろこのマンションに泊まってから来たのだろう。春くんは妙に余裕がありクールな顔立ちもいつもより甘めにセクシーさを醸し出し、事務の女性スタッフと来訪していた所属タレント広瀬七海は目で追っていた。
「君がHARUくん?かっこいいね。ひろこは結局イケメンが好きなんだな」
社長は春くんを見ながら頷いていた。
俺は春くんの横顔を見ていた。
透き通るような茶髪の長い前髪からはひろこを思い出すかのようにクールな目で少し笑う。
「いや、彼女が素敵だから僕の一目惚れです」
男の俺までひろこ愛されてて幸せだな、と思ってしまう。
「ひろこは、HARUくんにワガママ言ってない?大丈夫?」
社長の言葉に俺は隣で吹き出してしまった。
「そうだよね。春くん、大丈夫?ひろこがいつもごめんね。何かあったら俺注意するから」
すると場が和んだのか春くんと秋元さんも笑い出した。
「週刊誌に撮られたらの話だけど」
社長とマネージャーで打ち合わせをした。
ここからはビジネスの話だ。
たかが若い2人の交際に大きな金が動く事は間違いなかった。
付き合ってるのが発覚してファンが離れる。SOULのCDが売れなくなる。ライブのチケットが余る。
ひろこのファンは離れるどころか需要がなくなってせっかくの冠番組も打ち切りになる可能性もある。
お互いの事務所は大きな損失になるかもしれない。
写真誌に撮られた時の対策として、その写真を掲載させないためにバーターを用意するより逃げ道はなかった。
お互いネタを1つづつ持ちいざ写真を撮られたらそのネタと交換するのだ。
「え?春がさっき来たの?」
事務所にひろこが来たので俺はコーヒーを持って出てきた。
「ちょうど10分前くらいに帰ったよ。ひろこと一緒になるかもしれないと思ったけど。春くんとこの社長と秋元さんと3人ね」
ひろこは鋭い顔をした。
「何話したの?」
「まぁこれからの2人の事だよ。万が一記事とか出たらどうするかとか」
この2人の記事が出たら。
1回目はどうにかなるかもしれない。
2回目撮られたら?
俺は背筋が凍りつくようだった。
「まぁとにかく、写真は撮られないように細心の注意はしろよ」
俺はそう言うと秋元さんから預かった週末のドームのライブチケットをひろこに渡した。
「前列でみたーい!」なんてひろこは言ったのだろう。用意された席は前列10番目の良い席だったが俺はそれを秋元さんに言って春くんから1番遠いスタンド席へ変更してもらった。
ファンクラブでもとるのに苦労するような良い席に座る熱狂的なファンから少しでもひろこを離しておくつもりだった。
ひろこはチケットを見て不満そうにする。
「SOULのファンなんてもう薄々ひろこの事を勘づいてるファンもいるからな。いいか。どこで誰が見てるか分からないんだ。いけない事、はするなよ。絶対」
俺はひろこに釘を刺したつもりだった。
「最近すごいんですよ。春くんのマンション前に記者が毎日2.3人張り付いてて。ゆーきくんなんて居酒屋入るとこから家までつけられちゃってなんか悪い事したみたいだって」
秋元さんとその夜また中国居酒屋で呑むとボヤいていた。
「うちの社長はなんとかするとは言うけど面倒な事にしたくなくて。春くんにはひろこちゃんを部屋に呼ぶなって言っておいたからしばらくはひろこちゃんちに行くんじゃないかな。」
「俺も言っておきましたよ。だからしばらくはひろこのマンション通いですね。」
お互いのタレントの大事な大事な時。
これは本当に正念場だった。
「ひろこちゃんの番組第一回目のゲスト、聖司くんで話まとまったので大丈夫なんですけどあとから春くんが何で俺が出れないの?とか愚痴愚痴と。出れる訳ないじゃないですか。」
秋元さんも毎日気が抜けない。
俺と呑む時の顔は普段メンバーに見せる張り切り仕切りたがりの秋元さんではなくぐったりとしていた。それもそうだ。春くん1人で大変なのにメンバー4人の統括までしているのだ。
事務所が借り上げたのは目黒川沿の桜の見える新築マンションだった。
民放各社にも近い。
引っ越しを手伝っているとひろこがビールを出して来た。
「遊井さん、もういいよ。一晩であたし片付けるから」
ニコリと笑うひろこに成長を感じて嬉しくなる。
1週間後には番組収録。その間に地元に戻ったり春くんと会ったりするのだろう。
幸せそうな笑みがこぼれていた。
しかし東京に戻れば戻ったらでまた懸念事項がある。週刊誌だ。
「やっと東京戻ってこれたところだけど調子にのって春くんのマンションには行くなよ」
「は?」
「週刊誌が張り付いてる。春くんの家に行こうものなら撮られに行くのと同じだぞ」
「え?じゃあここのマンションは?」
「ここのマンションならまだひろこが住んでるって週刊誌は知らないからまだ春くん入れてても大丈夫かも、だけど。それも時間の問題だな」
明らかに不満そうな顔のひろこだったがここは厳しく言っておかないといけない。
東京に戻ったら、秋元さんと共に恐れていた「記者」が待っているのだ。
「ひろこちゃんが東京戻ったらすぐご挨拶行きますから。ツアー中でもなんでも」
秋元さんはずっと言っていた。
するとひろこが東京に戻った翌日には春くんと社長を連れて事務所に挨拶に来た。
社長同士は同じ業界上面識はあり、入るなり笑顔を交わして2人で話し込んでいた。
「初めまして。秋元と申します。SOULのチーフマネージャーをしております。」
「初めまして。SOULのHARUです。」
双方の社長の会話に割って入るように2人はうちの社長に挨拶をした。
ひろこのマンションに泊まってから来たのだろう。春くんは妙に余裕がありクールな顔立ちもいつもより甘めにセクシーさを醸し出し、事務の女性スタッフと来訪していた所属タレント広瀬七海は目で追っていた。
「君がHARUくん?かっこいいね。ひろこは結局イケメンが好きなんだな」
社長は春くんを見ながら頷いていた。
俺は春くんの横顔を見ていた。
透き通るような茶髪の長い前髪からはひろこを思い出すかのようにクールな目で少し笑う。
「いや、彼女が素敵だから僕の一目惚れです」
男の俺までひろこ愛されてて幸せだな、と思ってしまう。
「ひろこは、HARUくんにワガママ言ってない?大丈夫?」
社長の言葉に俺は隣で吹き出してしまった。
「そうだよね。春くん、大丈夫?ひろこがいつもごめんね。何かあったら俺注意するから」
すると場が和んだのか春くんと秋元さんも笑い出した。
「週刊誌に撮られたらの話だけど」
社長とマネージャーで打ち合わせをした。
ここからはビジネスの話だ。
たかが若い2人の交際に大きな金が動く事は間違いなかった。
付き合ってるのが発覚してファンが離れる。SOULのCDが売れなくなる。ライブのチケットが余る。
ひろこのファンは離れるどころか需要がなくなってせっかくの冠番組も打ち切りになる可能性もある。
お互いの事務所は大きな損失になるかもしれない。
写真誌に撮られた時の対策として、その写真を掲載させないためにバーターを用意するより逃げ道はなかった。
お互いネタを1つづつ持ちいざ写真を撮られたらそのネタと交換するのだ。
「え?春がさっき来たの?」
事務所にひろこが来たので俺はコーヒーを持って出てきた。
「ちょうど10分前くらいに帰ったよ。ひろこと一緒になるかもしれないと思ったけど。春くんとこの社長と秋元さんと3人ね」
ひろこは鋭い顔をした。
「何話したの?」
「まぁこれからの2人の事だよ。万が一記事とか出たらどうするかとか」
この2人の記事が出たら。
1回目はどうにかなるかもしれない。
2回目撮られたら?
俺は背筋が凍りつくようだった。
「まぁとにかく、写真は撮られないように細心の注意はしろよ」
俺はそう言うと秋元さんから預かった週末のドームのライブチケットをひろこに渡した。
「前列でみたーい!」なんてひろこは言ったのだろう。用意された席は前列10番目の良い席だったが俺はそれを秋元さんに言って春くんから1番遠いスタンド席へ変更してもらった。
ファンクラブでもとるのに苦労するような良い席に座る熱狂的なファンから少しでもひろこを離しておくつもりだった。
ひろこはチケットを見て不満そうにする。
「SOULのファンなんてもう薄々ひろこの事を勘づいてるファンもいるからな。いいか。どこで誰が見てるか分からないんだ。いけない事、はするなよ。絶対」
俺はひろこに釘を刺したつもりだった。
「最近すごいんですよ。春くんのマンション前に記者が毎日2.3人張り付いてて。ゆーきくんなんて居酒屋入るとこから家までつけられちゃってなんか悪い事したみたいだって」
秋元さんとその夜また中国居酒屋で呑むとボヤいていた。
「うちの社長はなんとかするとは言うけど面倒な事にしたくなくて。春くんにはひろこちゃんを部屋に呼ぶなって言っておいたからしばらくはひろこちゃんちに行くんじゃないかな。」
「俺も言っておきましたよ。だからしばらくはひろこのマンション通いですね。」
お互いのタレントの大事な大事な時。
これは本当に正念場だった。
「ひろこちゃんの番組第一回目のゲスト、聖司くんで話まとまったので大丈夫なんですけどあとから春くんが何で俺が出れないの?とか愚痴愚痴と。出れる訳ないじゃないですか。」
秋元さんも毎日気が抜けない。
俺と呑む時の顔は普段メンバーに見せる張り切り仕切りたがりの秋元さんではなくぐったりとしていた。それもそうだ。春くん1人で大変なのにメンバー4人の統括までしているのだ。
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