マネージャーの苦悩

みのりみの

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愛車

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年末恒例のカウントダウン歌番組の司会に正式にひろこが決まった。

スタッフとの顔合わせに局に行くと内海さんという局員の女性がアテンドをしてくれた。
番宣のスチール撮りで撮影中に内海さんが俺の隣で言った。
「安藤さん、本当に魅力的。あの歳であの色っぽさはすごいです」

ひろこの事を褒められてありがとうございますと言うも俺が育てた甲斐ありつい嬉しくなる。

ひろこはあの日の春くんとの鉢合わせで泣いてはいたが、大阪ほどの人間凋落ではなかった。
大人になったか。はたまたプロ意識がでてきたのか。
それとも春くんとの別れよりケイに失恋した時の方が辛かったのか。

「社食、行ってみたいな」
「ロケ弁あるぞ。なんで社食?」

ひろこの言葉に内海さんは聞いていた。

「ワンナイの時、深夜の収録で社食やってなくて1回も食べたことなかったじゃない。会社員みたいな気分になれそうじゃない。」

その言葉に内海さんは是非と言った。
ロケ弁だって手配しているのに申し訳ないな、と思いながらも内海さんと男性局員と4人で社食へ行った。

局内にある赤坂亭というその社食に入るとまわりの社員達がちらちらとひろこを見てはまたちらちらと見る。
会社という手前声をかけてこないのが当たり前で安心はするが他の芸能人だって見慣れているはずなのにやはりひろこは注目されているんだと思った。

「ひろこ満足か?」
「うん。」
俺以外の3人がなぜかカキフライを食べながら内海さんも男性局員もひろこを見つめていた。
陽の当たる窓際の席でひろこの腕には妙にゴツすぎる白いLOREXが光る。高級品なだけに陽に当たってもその光が上品でなんとも言えない輝き方をする。その時計をしている事自体、ひろこは春くんの事を想っているのだろう。

『春くん、ひろこちゃんとお揃いの時計を外したがらないんですよ。衣装の関係でどうしてもって時しか外さない。ライブでもしてますよ。』
『ひろこもスタイリストに言われた時しか外さないですよ。こないだ時計専門雑誌で芸能人愛用の時計特集載っててひろこと春くんの時計してる写真入ってて焦りましたよ。お揃いだなんて書かれたら終わりですよね』
『ええ!?それなんて雑誌ですか?ヤバくないですか?』

そんな会話を秋元さんとしていたのを思い出した。

「内海さんは宣伝部の方なんですね。」

ひろこが内海さんに話しかけていた。

「はい。夏にスポーツ局から異動してきまして音楽番組を担当しています。アーティストの方とは接する機会あるんですけどタレントさんとはあまりないので安藤さんとお会いできてうれしいです。最近のご活躍すごいですね!キルズアウトのPVのダンス、あたしも練習して送別会の余興でやりましたよ。」

内海さんの発言にひろこは少し笑った。

「仕事は充実してるかもしれないけど、最近は悩む事ばかりですよ。あたしも内海さんみたく局員になってみたかったな。OLとか憧れます」
カキフライを食べるのをやめてひろこはお茶を飲んでため息をついた。

俺は心配になったけど人前なのでそれをあまり見せたくなくて平常心を装った。

「そんな、局員なんかより演者さんになれる事の方がすごいですよ。そうそう。明日ははじめてSOULの方達をアテンドするんです。安藤さん前に番組で聖司さんとご一緒でしたよね?」

げほっ 

俺はSOULと聞いてむせてしまった。
俺の平常心も平常心じゃなくなる。

『SOULのHARUと安藤ひろこはできている』
とファンの間では噂が急加速した。
お陰で事務所に春くんのファンからの嫌がらせの手紙が3通来たそうだ。
でもその3通が「少ない!」と意外だったようでビックリしてたのは事務所だった。
ひろこのファンは女の子が増えていて、応援してくれてる子の方が多い、と言われた。


「げーっいた!ひろこ!」

早朝に起きて、愛車紹介番組のロケへ鈴鹿まで行ったらケンくんが待っていた。
ケンくんがゲストに来るとは分かってはいたが、スケジュールの都合上、伸び伸びでやっと参加できたところだった。
彼の車好きが総じて想像以上にこの番組出演を楽しみにしていると秋元さんから聞いていた。

「ケン、久しぶり」

ひろこはケンくんの方に歩いて行って話していた。
ケンくんも笑顔。
しかし全然喋らないいつもの無表情のケンくんにしてはよく喋り表情も豊かだった。

「ちょっと!待ちなさいよ!」

2人でサーキット内で鬼ごっこのように追いかけて笑い合っていた。

「今日ね、ケンすっごい楽しみにしてたんですよ。ひろこちゃんいるから。」
「え?そうなの?」 

山ちゃんも山ちゃんでひろこのファン。うらやましそうに走り回る2人を目で追いかけていた。

「仲良いね?知り合い?」
スタッフや司会の芸人達も不思議そうにひろことケンくんに言う。

「ケン君って喋るんだね。もっと喋らないかと思った。」
「喋りますよ」
ケンくんはノリが良く、よく喋った。

「じゃあ1周廻って、ひろこちゃんも乗る?」
ひろこはケンくんの車の助手席に乗り2人でサーキットを回った。

「いいな。ひろこちゃんとドライブ」
「俺だって助手席にひろこちゃん乗せたいよ」
誰かが言っているのを後ろで聞いていた。

「嬉しそうでしょう。ケン。朝からすごいご機嫌。気に入ってる靴履いて来てるし。」

隣で山ちゃんが俺に声をかけた。

「お騒がせ、してますよね。うちのひろこがすいません」

ひろこと春くんの事で山ちゃんも気を遣ったり絶対迷惑を被られているはずだ。俺は急に申し訳なくなった。

「2人の問題だからね。遊井さんも大変だよね。俺はひろこちゃん好きだから別れてくれて嬉しいけどさ、よその人とひろこちゃんが付き合うなら春と付き合っててほしかったな。」

「・・・」

「春なんて身内みたいなもんだし、何考えてるか分かんないとこもあるけど、可愛いとこもあるしさ。ひろこちゃんを一途に思うところは誰にも負けなかったと思うし。俺もそれは認めてるんだよね。」

山ちゃんも俺も、ケンくんの走る愛車を見つめていた。

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