マネージャーの苦悩

みのりみの

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クリスマスの予定

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芸能界の大御所タレント「今岡さん」のトーク番組のゲストに呼ばれた。

収録は年末。放送は年始。
この番組に出ればいよいよ売れっ子の各印をもらったも同然だった。俺はまた社長と喜んだ。
そんな喜びの束の間、今度は化粧品メーカーから春発売の新しいブランドのCMが舞い込んできた。

1人の女を渋谷で見つけてきてここまで来た。達成感はあったがひろこの力はまだまだいけるまだいけると正直思っていた。

「アイスは、どうなってるの?」

そんな中、やはりギャラの高さはビール以上のアイスのCMを社長が気にしていた。
こればかりは何かひろこが飛躍するきっかけを持たないと進まない。
社長もそれは一緒に悩んでくれていたが年末年始のスケジュールが埋まり始め、もはや何も見えず不透明なままだった。


ビールのCMはひろこのソロバージョンでの撮影があった。

クライアントは男を誘惑する、いわばセックスしたあとの気怠さをイメージにあげてきた。
一瞬考えたがこれはたまらなく世の男を釘付けにさせると思った。元気いっぱいのCMより話題を誘うハズだ。
肩までずり落ちるように下がったふわふわのニットを着て、少し乱れた髪の毛にセットされひろこは撮影に挑んだ。

「これ、やったあと想定?」
ひろこは絵コンテを何度も何度も見ながらイメージを膨らます。
「そうそう。やったあと想定ね。恥ずかしがると変な風になるからいつものかんじで」
「遊井さんエロイ事考えないでよ!」
ひろこが隣でムスッとして俺を睨んだ。

ふわふわのニットは胸元まで見えてちょっとかがんだらパンツも見えるような短い丈。
「春くんが見たらビックリするくらいいつもと同じかんじで。その方が良いじゃない」
「嫌よ」
「なんで?春くんがCMにヤキモチ焼く方がいいじゃないか。」 
「それは春しか知らないから」

横顔がキリッとした。プロの顔を垣間見た気がした。

数時間かけて何カットも何カットも撮り編集され、そのCMは世に送ればひろこの「やったあと想定」なCMは世間の男達には話題になると絶対的な自信を持った。

後から聞いた話、ひろこの番組ゲスト出演時のあの支倉氏のひろこへの絡みように春くんは観ていたらしく、翌日は機嫌がめちゃくちゃ悪かったと秋元さんから聞いた。
また、前回の支倉くんとひろこの絡んだ恋人同士のようなビールのCMもくっつぎすぎだと怒っていたと言う。

春くんはひろこを誰かに取られたくない、そんな思いが強いのが上回ってひろこが誰かに触られるのも嫌。そんな領域まで来てるんじゃないかと思った。

俺はそろそろ仲直りをしてほしかった。
ひろこも仕事に没頭させたがふとした時はさみしそうにぼんやりとする。

はじめて会ったときの「りょうくん」と幸せにしていた時。
ケイに恋していたグアムでの撮影の時。
大阪での、春くんと2人でまだいたいと言っていた時。

愛する人がいる時に彷彿するひろこのパワーは魅力に直結するんだ。
ひろこの魅力は愛する男がいないと引き出せないんだ。 

ケンくんが愛車紹介のロケに来た次の日。SOULはまたNYへ飛んだ。
クリスマスイブの日には帰国する。
翌25日は毎年恒例のクリスマススペシャルライブ。25日はひろこは朝から晩までスケジュールいっぱいで春くんには会えないだろうけど、クリスマスにひろこは会えるのか、仲直りできるのか、気になっていた。


「今回はドライビール年末スペシャルバージョンとして支倉大介さんと安藤ひろこさんにお越しいただきました」

会見はひろこと支倉氏が共に登場してたくさんのフラッシュを浴びていた。

「お二人のアツイCMが話題ですが」

「付き合ってます」

支倉氏がいつものノリでひろこの肩を抱くと報道陣がどっと笑い合う。

「安藤さん単独のCMも話題ですね。セクシーなかんじで。これはもしかして男性を意識されたのですか?」
「想定でやれと言われました。」
「想定とは?」
「ご想像にお任せします」

誤魔化して笑うひろこにフラッシュが強くなる。CM記者発表でこれだけ記者がくれば上出来だ。

早速のCMオンエアに会場は沸いた。

「もうちょっと」
「飲もうよ」
「もう1回」

ひろこのあたかも誘ってるかのようなふわふわした雰囲気と色っぽさ。
これはやはりギャラが高い分、クオリティも高く話題になる。
ひろこのやった後想定CMは年末には話題になる事間違いなしだった。

「今日、明日はクリスマスですが、お2人のご予定は?」

ひろこはインタビューに静かに仕事です、と答えた。

会見中にNYから帰国したであろう秋元さんからメールが来た。
「仲直りすると思いますよ」と意味深なメールだった。
といっても今日はSOULは生番組。ひろこはこれから内海さんと衣装合わせで遅くなれば夜中に終わる。会えるのは無理かもしれない。

衣装合わせが終わり、ひろこは恒例の衣装へ買い物へ向かいワンピースとコートを内海さんと選んでいた。

「このコート。いいな。」
鮮やかな赤いコートを手に取りひろこは試着していた。
「素敵素敵!今日クリスマスだしいいですね!」
内海さんは笑顔で言う。
「じゃあ、買います。着て帰ろうかな。」
ひろこはお財布からお金を出していた。
ギラギラの派手なシャネルのお財布。きっとこれも春くんに買ってもらったのだろう。

「メリークリスマス!ステキなクリスマスになるといいですね」

内海さんに見送られて俺たちは車に乗り込んだ。

車内のTVを見ると、毎年恒例のクリスマススペシャルライブがやっていた。
ちょうど、支倉氏がド派手な衣装で観客を魅了していた。
ぼんやりとひろこはTVを見つめていた。

「ひろこ、ケーキ買ってやろうか?今日クリスマスだろ?社長にもお金渡されてるんだよ。」

「今日たくさん食べたから。大丈夫」

少し笑う。

ひろこは最近よくこの顔をする。さみしさを隠して笑うんだ。

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