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白部くん
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『もしもし?遊井さん?白部ですけど、取り急ぎ確認したい事があるんで今からいいですか?』
突然白部くんから電話が入って、俺はとっさに電話を出た。
このタイミングで連絡をくれた白部くんに内心感謝している自分がいた。動揺して春くんとどう話していいのか分からなかった。
「春くん、ごめん。明日、ここでもう1回会える?夜遅くてもいいから。」
俺は春くんにそう言ってスタジオを出た。
扉を締めた途端、胸が張り裂けそうな気持ちになっているのが分かった。
「ゆういさーん!ごめんなさい!」
局の入口で白部くんはパスを持って待っていてくれた。
「編集の事でしょ?」
「はい。ちょっと遊井さん判断のところがあるんですよ。」
夜中の局内は静かで、でも人がたまにバタバタと走って通りすがり、なんとも不思議な空間だった。
「白部くんも遅くまで大変だよね。家どこ?」
「十番です。遊井さんは?」
「俺も十番だよ!なんだ近いじゃない!」
エレベーターを降りて白部くんは自分のデスクまで案内してくれた。
椅子にはひろこの番組のお団子頭のポスターをデカデカと貼り、オフィスの区切りもひろこの番組班という事もありそのポスターは5枚も無造作にベタベタと貼られていた。
机の上はパソコンを使うために周りに無理矢理書類を押し上げたような、見た事ない積み重ねぶりで今にも雪崩がおきそうなところで、隣のデスクの椅子を白部くんが持って来て座らせてくれた。
唯の放送回だった。
ピー音でところどころ消して、面白く編集がされていた。
なんとなく音で消しても想像できて笑ってしまう。そんな上手な編集ぶりで俺は笑っていたが白部くんは真剣だった。
「ここ。ここです。」
それはひろこが唯に好きな人を聞かれていたシーンだった。
『支倉と春どっちが好きなんだよ!』
『春です!』
「ここなんですけど、支倉さんと春さんと名前両方ピー音入れます?そうすると、ひろこちゃん二股かけてる風に感じません?」
確かにそれはそうだと思った。
「で、支倉さんは残して春さんだけピー音するの。支倉さんには了承得てるので。そうすると、あぁ、ひろこちゃん好きな人は揺るがない想いあるんだってかんじになる。どっちがいいですか?」
「・・うーん」
「ここは、使いたいんですよね。」
白部くんはパソコンからピー音を重ねて何度も俺に見せてくれた。
「春です!って言ったあと、ひろこちゃんの顔が意志の強い顔してて、かわいいんですよ。だから余計この絵は使いたくて。」
「でもさ、これ。春くんだけピー音入れたら視聴者絶対春くんだって分かるよね」
「分かるでしょう。ここが遊井さん判断。でも、このひろこちゃんの意志の強い顔は絶対欲しい。」
ひろこの、意志の強い顔が可愛かった。
誰よりも春くんが好きって顔をしていた。
お酒のせいかいつもより潤んだ目も強く閉じた口の感じも。
かわいい、以外何もなかった。
「・・・」
「空気変えましょうか。」
答えが出ない俺を白部くんは前も一緒に行った秋元さんともお決まりの中国居酒屋に連れて来てくれた。
「この店、安いけど業界人しかいないんですよね。」
そう言ってメニューを見ていた。
「すいません。アイスコーヒーとバニラアイスください。遊井さんは?」
居酒屋で真冬にアイスコーヒーとバニラアイス。しかも中国料理屋で。
そのチョイスに白部くんおもしろいなーと思ったが俺もアイスコーヒーにした。
「白部くん、アイス好きなの?」
「いや、仕事してると甘い物が欲しくなるんですよ。冷たいと目が冷めるし」
アイス、と聞いてあの不透明なアイスのCM案件を思い出した。
「今アイスのCMひろこで決まりそうなんだけどさ、商品リニューアルのタイミングでひろこの何か新しく変わるきっかけみたいのがないとCMできないのよ。何があるかなぁ。」
「新しいきっかけ?たとえば何ですか?」
「映画主演デビューとか歌手デビューとかさ。ちょっと新しい世界に入るっていえばいいのかな。なかなかなくてさ。」
「そんなの簡単っすよ。髪の毛ショートカットにしちゃうとか。あ!でもそれやったらひろこの部屋でお団子ヘアにならないからダメですね。」
確かに、髪を切ればイメチェンにはなるが、新しいひろこが生まれる訳でもない。
「売れたら売れたで、また問題いろいろ。悩みは尽きないね。」
アイスコーヒーとアイスがきて俺たちはコーヒーを飲んだ。
「ひろこちゃん、結婚は?ま、無理か。相手も売れっ子ですもんね。」
「・・・」
アイスを食べる白部くんを見ながら、俺は考えていた。
結婚。
ひろこの結婚。
「・・・」
中国居酒屋を出ると、もう1時をまわっていた。
「白部くん、明日納品でしょ?」
「そうなんですよ。」
「あの、ひろこの可愛い顔、使ってよ」
「え?」
「春くんの名前だけ、ピー音にしてよ。」
「やった。俺もそっちがよかったんですよ。遊井さん、ありがとうございます!」
白部くんはさっきまで職人みたいな顔をしていたけど、一気に顔まわりが明るくなって伸びをした。
「遊井さん、何丁目ですか?」
「俺、網代公園のすぐ近くだよ。2丁目。」
「俺も2丁目ですよ!郵便局の近く!」
白部くんは、俺の確認さえとれればもう仕事は終わったようで、もう帰るとなり俺たちは歩いて帰った。
「お兄さんとも、いつも歩いて帰るんだよ。」
「元気ですか?全然会ってないな最近。」
デニムにスニーカーに手ぶら。首にはグルグルとマフラーを巻いている。
会社員の仕事帰りとは思えないようなラフな格好で白部くんは風を切って歩いていた。
「ねぇ。白部くん。悲しい事、あったよ」
突然白部くんから電話が入って、俺はとっさに電話を出た。
このタイミングで連絡をくれた白部くんに内心感謝している自分がいた。動揺して春くんとどう話していいのか分からなかった。
「春くん、ごめん。明日、ここでもう1回会える?夜遅くてもいいから。」
俺は春くんにそう言ってスタジオを出た。
扉を締めた途端、胸が張り裂けそうな気持ちになっているのが分かった。
「ゆういさーん!ごめんなさい!」
局の入口で白部くんはパスを持って待っていてくれた。
「編集の事でしょ?」
「はい。ちょっと遊井さん判断のところがあるんですよ。」
夜中の局内は静かで、でも人がたまにバタバタと走って通りすがり、なんとも不思議な空間だった。
「白部くんも遅くまで大変だよね。家どこ?」
「十番です。遊井さんは?」
「俺も十番だよ!なんだ近いじゃない!」
エレベーターを降りて白部くんは自分のデスクまで案内してくれた。
椅子にはひろこの番組のお団子頭のポスターをデカデカと貼り、オフィスの区切りもひろこの番組班という事もありそのポスターは5枚も無造作にベタベタと貼られていた。
机の上はパソコンを使うために周りに無理矢理書類を押し上げたような、見た事ない積み重ねぶりで今にも雪崩がおきそうなところで、隣のデスクの椅子を白部くんが持って来て座らせてくれた。
唯の放送回だった。
ピー音でところどころ消して、面白く編集がされていた。
なんとなく音で消しても想像できて笑ってしまう。そんな上手な編集ぶりで俺は笑っていたが白部くんは真剣だった。
「ここ。ここです。」
それはひろこが唯に好きな人を聞かれていたシーンだった。
『支倉と春どっちが好きなんだよ!』
『春です!』
「ここなんですけど、支倉さんと春さんと名前両方ピー音入れます?そうすると、ひろこちゃん二股かけてる風に感じません?」
確かにそれはそうだと思った。
「で、支倉さんは残して春さんだけピー音するの。支倉さんには了承得てるので。そうすると、あぁ、ひろこちゃん好きな人は揺るがない想いあるんだってかんじになる。どっちがいいですか?」
「・・うーん」
「ここは、使いたいんですよね。」
白部くんはパソコンからピー音を重ねて何度も俺に見せてくれた。
「春です!って言ったあと、ひろこちゃんの顔が意志の強い顔してて、かわいいんですよ。だから余計この絵は使いたくて。」
「でもさ、これ。春くんだけピー音入れたら視聴者絶対春くんだって分かるよね」
「分かるでしょう。ここが遊井さん判断。でも、このひろこちゃんの意志の強い顔は絶対欲しい。」
ひろこの、意志の強い顔が可愛かった。
誰よりも春くんが好きって顔をしていた。
お酒のせいかいつもより潤んだ目も強く閉じた口の感じも。
かわいい、以外何もなかった。
「・・・」
「空気変えましょうか。」
答えが出ない俺を白部くんは前も一緒に行った秋元さんともお決まりの中国居酒屋に連れて来てくれた。
「この店、安いけど業界人しかいないんですよね。」
そう言ってメニューを見ていた。
「すいません。アイスコーヒーとバニラアイスください。遊井さんは?」
居酒屋で真冬にアイスコーヒーとバニラアイス。しかも中国料理屋で。
そのチョイスに白部くんおもしろいなーと思ったが俺もアイスコーヒーにした。
「白部くん、アイス好きなの?」
「いや、仕事してると甘い物が欲しくなるんですよ。冷たいと目が冷めるし」
アイス、と聞いてあの不透明なアイスのCM案件を思い出した。
「今アイスのCMひろこで決まりそうなんだけどさ、商品リニューアルのタイミングでひろこの何か新しく変わるきっかけみたいのがないとCMできないのよ。何があるかなぁ。」
「新しいきっかけ?たとえば何ですか?」
「映画主演デビューとか歌手デビューとかさ。ちょっと新しい世界に入るっていえばいいのかな。なかなかなくてさ。」
「そんなの簡単っすよ。髪の毛ショートカットにしちゃうとか。あ!でもそれやったらひろこの部屋でお団子ヘアにならないからダメですね。」
確かに、髪を切ればイメチェンにはなるが、新しいひろこが生まれる訳でもない。
「売れたら売れたで、また問題いろいろ。悩みは尽きないね。」
アイスコーヒーとアイスがきて俺たちはコーヒーを飲んだ。
「ひろこちゃん、結婚は?ま、無理か。相手も売れっ子ですもんね。」
「・・・」
アイスを食べる白部くんを見ながら、俺は考えていた。
結婚。
ひろこの結婚。
「・・・」
中国居酒屋を出ると、もう1時をまわっていた。
「白部くん、明日納品でしょ?」
「そうなんですよ。」
「あの、ひろこの可愛い顔、使ってよ」
「え?」
「春くんの名前だけ、ピー音にしてよ。」
「やった。俺もそっちがよかったんですよ。遊井さん、ありがとうございます!」
白部くんはさっきまで職人みたいな顔をしていたけど、一気に顔まわりが明るくなって伸びをした。
「遊井さん、何丁目ですか?」
「俺、網代公園のすぐ近くだよ。2丁目。」
「俺も2丁目ですよ!郵便局の近く!」
白部くんは、俺の確認さえとれればもう仕事は終わったようで、もう帰るとなり俺たちは歩いて帰った。
「お兄さんとも、いつも歩いて帰るんだよ。」
「元気ですか?全然会ってないな最近。」
デニムにスニーカーに手ぶら。首にはグルグルとマフラーを巻いている。
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「ねぇ。白部くん。悲しい事、あったよ」
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