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2,家族が甘々です。

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目が覚めると天蓋付きのベッドにいた。
身体を起こすと全身が痛い。

「ここは………」

「エリナリーゼ様!!お目覚めになられたのですね!今旦那様を呼んで参ります!!」

えっと……、私はなぜここにいるんだっけ?
確かトラックに跳ねられたあと、妙にリアルな夢を見ていたんだよな。
あれ?さっきあの人私の事エリナリーゼ様って呼んでたな。
ん?ということは夢ではなかったの?
今は現実?それとも夢?

混乱してきた。
どういうことなんだろう?

私は車にはねられて死んだはず……よね。
でも私はエリナリーゼ。つまりエリナリーゼの前世が私?じゃあエリナリーゼの人格はどこいっちゃったの?いや、まってそれはあるわね。だってエリナリーゼの記憶もあるんだもの。
なになに?これってもしかして転生的な?

そんなことを考えているとバタバタとドアが開いた。現れたのは金髪碧眼の怖ろしく顔の整った男性と少年達。

「エリィ!!!無事でよかった!!!!!
もう本当に心配したよ。。本当に良かった。愛してるよ、エリィ!」

その怖ろしく整った顔立ちの金髪碧眼の渋いイケメンに、泣きながら思いっきり抱き締められた。

「お…お父様…苦しいです。」

「ごめん、エリィ!でも本当にっ、無事でっ、よかったっ!このまま目が覚めなかったらどうしようと思ったよ。」

泣いている顔も凄く美しい。彫刻みたい。いっそ神々しいな。アンダルトお父様、だったわね。お父様は騎士団長をしている。詳しいことはわからないけど。こんなに綺麗で強いなんて、実の父なのに本当にすごいタイプだわ…

「エリィ、本当にもう大丈夫?
無理しちゃだめだからね。まだ起き上がれないんだから、どこか行きたいときは僕が抱えてあげるから声かけてね。」

こう言うのは私の一歳上であるクリスフォードお兄様だ。
いや、そんなことで気軽に声掛けられるか。というかこんな子供に私が抱えられるのかな?

「エリィ、守ってあげられなくてごめん。でも本当に無事でよかった。」

そう言うこの人は私の八歳上で長男のルークお兄様。聡明そうなその濃い碧眼の瞳は、私に安心感をも与えてくれる。

「エリィ、エリィ、エリィ!!」
と先程からお父様以上に泣きながら私を抱き締めて離さないのは、五歳上のフィリップお兄様だ。こちらも金髪碧眼で爽やかなイケメンだ。


エリナリーゼは家族に愛されているんだ。
エリナリーゼも家族を愛していた。
この家族の間には確かに穏やかな空気が流れていたんだな。

「みんな心配かけちゃってごめんなさい。」

「何を言うんだ!エリィが気に病むことなど何もないよ。無事に戻ってきてくれただけで十分なのだから。」

誰もお母様のことに触れない。
聞きたくても聞けない。
多分いないんだ。もしかして殺されてしまったの?
でも聞かなきゃ。今聞かないときっとずっと聞けない。

「あの……お母様は?」

暫くの沈黙の後お父様が口を開いた。
「………ソフィアは死んだんだ。」

……やっぱりそうなのか。
私がもたもたしてたから?もう少し早く移動できて、お父様に伝えられたら死ななかった?
それともあの時手を離してしまったから?
離さないでと泣き喚いたら、もう少し時間を稼げた?違う結果になった?
むしろ私が逃げたから殺された?
逃げずに待っていればよかったの?
どうしたら死なずにすんだ?

私よりも若く優しいあの人はもういないのか。
なにこれ、すごく胸が苦しい。
あぁこれはエリナリーゼの記憶なんだ。
記憶の中のお母様はとても穏やかで優しい人だった。
そして最後までとても強かった。私を守ってくれていた。
自分だって怖かったはずなのに。
どれだけの恐怖と絶望を感じたのだろう。
胸が詰まって何も言葉が出てこない。
出てくるのは涙だけ。

沢山泣いた。
皆で沢山泣いた。

どうやって死んでしまったのか気になったけど、どうしても聞くことができずに私は泣き疲れてそのまままた眠ってしまった。





目が覚めたらもう夜になっていた。
今、この屋敷は悲しみに包まれている。
お母様というとても大きな人を失ったのだ。当たり前のことだ。

私はお母様の無念を思うとなんとも言えない気持ちになった。どうか生まれ変わったら幸せな人生を歩んでください。そう願わずにはいられなかった。

「お腹が空いたでしょう?召し上がって下さい。」

メイドがいたのに全く気が付かなかったな。

「ありがとう。」

初めて食べたこの世界のおかゆは前世でよく食べた味に似ていて、私はまた涙が止まらなかった。


それから5日間、私はベッドから出られなかった。
頭痛はマシになってきたが、とにかく全身が痛いのだ。これは筋肉痛?いや魔力痛?
とにかく痛くてまともに歩けない。

「エリィ、どこか行きたいときは僕を呼んで。抱えて上げるからね。」

いい笑顔で家族全員がそんなことを言って甘やかしてくる。
昨日なんてメイドに抱えられていたらフィルお兄様が般若のような顔で私を奪って、なぜか自分の部屋に連れて行ったからね。
私をどうしようとしてるのかしら。ちょっと不安だわ。

鏡で自分の姿を確認した時、あまりに美少女すぎて驚いた。少しやつれていたが、ウェーブがかった金髪に吸い込まれそうな碧色の瞳は少し垂目でくりっと大きい。睫毛も長く何もしていないのに上を向いている。人形のような美しさだった。

私も含めてこの家族は皆金髪碧眼の美形である。
騎士団長を努めているお父様は着痩せするタイプなのか、服の下には惚れ惚れする筋肉の持ち主だし、お兄様達も皆そろって細マッチョなのだ。
私は何を隠そう筋肉フェチなので、動けないのをいいことにお父様に抱きつきながら筋肉を触るというおよそ淑女らしからぬことをしている。



そして、今日は久しぶりに家族揃って晩餐を迎えている。

「エリィ、本当に無事に戻ってきてくれてありがとう。ソフィアのことは本当に悲しいが我々は今を生きているんだ。そしてソフィアは我々の心の中で一生生き続けている。そのことを忘れずに、前を向いて生きていこう。」

「はい。」

そうだ、私よりも遥かに長い時間を共にしてきたお父様達だって悲しいんだ。苦しいんだ。
でも前を向こうとしている。
お兄様たちだってまだ子供なのに、前を向いている。


我が家はナッシュ王国の筆頭公爵家でお父様は第一騎士団長をしている。そのため、お兄様達は皆騎士になるべく常日頃から教育を受けているのだ。
私はお父様達を見てこれが騎士を志す者の心持ちなのか、と心底感心していた。こうやって悲しみをバネにして強くなっていくんだ。格好いいな。

騎士か。前世では考えたこともなかった。前世でいう警察みたいなものかしら?
この世界でエリナリーゼたちが今まで平和に暮らしていたのは騎士たちがいるからなんだ。騎士たちだって人間だ。最愛の人が亡くなっても戦わなくてはいけない時もあるかもしれない。どれだけ悲しい気持ちを乗り越えてきたのだろう。
そういう犠牲の元に私達の平和な生活は成り立っているんだな。私はそのことを今身をもって実感している。

私も前を向かなくては。
今度もし同じことがあったらもっと要領よく逃げられるように、悪者を捕まえられるように、そして困っている人がいたら助けられるように、魔法の練習をしよう。

そんなふうに考え込んでいると、

「エリィ?どうしたの?まだ体調悪い?」

一歳しか変わらないクリスお兄様が気遣ってくれる。
クリスお兄様だって辛いはずなのに。

「大丈夫です、クリスお兄様。ちょっといろいろ考えてました。
…お父様、私魔法を勉強したいです。家庭教師をつけていただけませんか?」

「魔法?」

「はい。飛翔魔法を使えるようになりたいのです。その他にもいくつか魔法を習いたいと思っています。…だめですか?」

「飛翔魔法か?あれは扱える者が限られているはずだか…。いや、エリィがやりたいのならそのように手配しよう。」

「ありがとうございます!」

「いいんだよ。」

そう言いながらも不思議そうな顔をしていた。

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