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61,宝物

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「ただいま。少し遅くなってしまったわね。」

「お食事はどうされますか?」

「大丈夫よ。ありがとう。」

最近はケイトたちと食べることが多いため、食事は不要と言ってあるがいつも聞いてくれる。
少し罪悪感があるな。

「湯あみをするわね。」

「かしこまりました。」

「お嬢様、準備できていますのでこちらへどうぞ。」

アンナとマリーが私の手伝いをしようとしてくる。

「どうしたの急に?」

「いえ、私達最近あまり仕事をしていないように感じてしまって…。少しでもお嬢様のお役に立ちたいのです。」

「そんなことないわ。ハーブの蒸留だってとても助かってるもの。いつもありがとう。でもそうね、ではお願いするわ。」

そう言うとアンナとマリーはホッとした様子だった。
最近は一人で簡単に済ませることが多かったので、たまには丁寧に磨いてもらおう。

「もちろんです。」

最近帰りも遅かったし、アンナもマリーも何も言わないけど多分セバスも、思うところはあるのだろう。
フレディに至っては申し訳無さしかない。

……私、また自分のことしか考えていなかったわ。冷静に考えると皆を振り回している。
ヴィークの言葉や態度に勝手に傷ついて、勝手にここまできて、勝手に冒険者やって、使用人達を放置して私だけやりたい放題だ。
いや、まぁ公爵令嬢という立場ではそこまで我儘ではないと思うけれども。日本人の私の感覚では慣れることはできない。

あと一週間か……。

ケイトたちと別れるのは辛いけど、きっとまた会える。もし会えなくなってしまってもこの出会いは私にとっては何者にも代えがたい財産だ。

リリウムのハーブチンキを垂らした湯につかりながら夕日を見ていると、今まで何かに追われていたように感じていた気持ちも、何かを焦っていた気持ちも、全て溶けていくようだった。

湯あみを終えると、少し前から作っていた曲を完成させるために部屋に籠もり遮音結界を張る。
既に1曲はここでもよく弾いている。
さっきケイトが好きだと言ってくれた曲。歌詞があると知ったら驚くかな?
正直サビ以外の歌詞をよく知らない曲なので、実は歌詞を考えてある。

その他に最近思い出した前世の曲2曲をケイトたちに贈りたい。
歌詞は少し変えただけで完成だ。
ピアノでは弾いたことのない曲だがメロディラインが分かっているので、伴奏ラインは色々なアレンジで弾いてみる。

満足いく出来になったのはもう夜中だった。
壮大なアレンジはできなかったがそれはしょうがない。

それから数日間はピアノの練習を多めにとり、いつものように過ごした。

そしてギルドへ行くのも最後になった日、ギルドの中へ入るとケイト達を見つけた。この時間に皆揃っているのは珍しい。

「みんなおはよう!早いわね。しかも揃って珍しいじゃない!何かあったの?」

「リナ!今日は少し深い所まで行く予定だからな。早く来たんだ。」

「そうだったの。ねぇ今日も家に行っていい?」

「もちろん、大歓迎だぞ!断りなんか入れなくていいんだよ!」

「ふふっ。ありがとう!じゃあ私も採取が終わったら行くわね!」

ケイト達と別れて、私は薬草採取に行く。
最後だから沢山取って持って帰ろう。

飛翔魔法で空を飛び、この光景を目に焼き付ける。ダンジョンの近くに咲いていたアンジェリカも、ノーダンマウンテンの山頂にある花畑も、私にとっては全部宝物だ。
なによりもケイト達に出会えたことが一番の宝だ。
皆に支えられて私は乗り越えることができた。それはヴィークの事だけではない。今まで心の奥底で感じていたお母様への罪悪感や後悔の念も全て消化することができた。
そして今、私は正しく自分の足だけで立つことができたのだと思う。
きっと依存していたのだ。お父様にもヴィークにも。
そのことに気づかせてくれたケイト達に、こんなに信頼できる人達に会えたことに感謝しかない。
いつかまた会える。一緒に過ごした時間は絶対に忘れることはないだろう。
そう思いながら、ここに来てから行った場所を回った。


冒険者ギルドへ戻り達成報告をしているとケイト達も帰ってきた。いつもの食堂でご飯を食べてケイト達の家へ行く。
一頻り話が落ち着いたところで、私は言った。

「私、明日帰ろうと思うの。」

ケイト達は驚く様子もなかった。

「そっか。そろそろかなーとは思ってたよ。」

「せっかく仲良くなれたのになー。」

「また会えるさ!」

「そうよね?また会えるわよね?ねぇ、ケイト達はここにはいつまでいるの?」

「ん?あぁ、秋ぐらいまでかな。その後は王都へ行こうと思ってるんだ。」

「王都へ?」

それは初耳だ。でも王都に来るなら会えるわね。

「あぁ、例のブルーワイバーンの件であっちのギルドから声が掛かっていてな。」

「あぁ…あの……」

ケイトたちに押し付けてしまったみたいで申し訳ない。

「ブルーワイバーン?」

レイの目の色が変わり食いつきそうだったので、すぐに話を変える。

「そういえばレイはいつ王都へ行くの?」

「実は私も明日には出ようと思っているんだ。」

「じゃあ今日は二人の送別会だな!」

と話は盛り上がり、その日はいつもより少し遅くまでケイトの家にいた。




「流石にもう帰らなきゃ。心配かけたくないの。」

「遅くまでいさせて悪かったね。」

「私がいたかったのよ。
本当に皆の支えがなかったらここまで来れなかったし、いろんなことに気付けなかったわ。今までありがとう!ケイト達に会えて本当に良かったわ。」

「なんだよ、しんみりすんなよ。泣いちゃうぞ!」

「アイザック!今日はいいわよ!」

泣きそうなアイザックに手を広げてみせる。
抱き締めるアイザックの胸は広い。

「あぁ~柔らかい。可愛いな。好きだぜ!リナ!」

「私も好きよ、アイザック。今までありがとう。」

スコットとは軽いハグだ。冒険者にしては珍しく紳士なんだよね、この人。元貴族なんじゃないかと思ってる。

「元気でな!」

「スコットもね!」

そしてケイト。 
何も言わずに抱きしめてくる。力が強いな。潰れそう……

「く…苦しいわ、ケイト…。」

「あぁゴメン。ちょっと昂ぶったわ。」

「ふふっ。暫く寂しくなるわね。」

でもきっとまた会えるわ。

「リナ、君がいなかったら私は今頃この世にはいなかっただろう。本当に感謝している。」

「いいのよ。最初よりましになったけど、レイの硬さは抜けなかったわね!ふふっ。」

手を広げてみせると、レイも抱き締めてくれた。大柄なレイの中にすっぽり入る。この人温かくて、すごいいい匂いがするな。あ、これユーカリの香りだ。ちゃんとつけてくれてるんだ。


「明日見送りに行くよ。何時くらいに出るんだ?」

見送りか……
公爵家の馬車で帰るから、注目されちゃうんだろうな…。
でもそれもいいかもしれない。

「うん、そうしよう!」

「え?なにが?」

「明日、午前中は窓を開けていてね。風が気持ちいい一日になると思うから!絶対よ!
じゃあまたね!」

「あぁ、またな!」
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