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12、決意の夏③
「今日は楽しかった…ありがとう、慊人」
集合した駅前で、僕はここで別れるつもりでそう言ったのに、慊人は立ち止まらずそのまま僕の家の方に向かっていた。
水族館からずっと手を繋いでいたのでそのまま引かれるように歩くことになる。
「あ、慊人?慊人の家逆方向…」
僕と慊人は駅を真ん中に逆方向の家だ。だから慊人はここで僕の家の方に行っても遠回りになるだけだ。
「家まで送る。その前に、寄りたいところがあるんだけど、良い?」
「え?う、うん…」
慊人の手に引かれながら、後ろを歩くように向かう。僕の家に行くためには曲がらなくちゃいけない路地も無視して進み続ける。
その先にある場所は、この辺に住んでる僕でも知らなかったりする。
僕はあんまり外で遊ぶような子じゃなかったから近所の地理にも疎い。
目の前に階段が現れると、慊人は登り始めた。少し疲れていたけどなんとか慊人に着いて行った。
階段の先には、小さな広場のような場所があった。
僕の目に一番に入り込んだのは、夕暮れ時の夕日だった。
「…すごい…」
茜色の夕焼けが世界を覆っていた。
フェンスの近くまで行くと、下には住宅街が広がっていてその先に見える夕日がとても綺麗だった。
まるで全然違う世界に辿り着いたような錯覚を起こす。
「波瑠」
ふと名前を呼ばれて、夕日から目を外して声の聞こえる方へ顔を向けた。
「慊人、すご…」
振り返ったら、慊人の立っている場所が思ったより近くて時が止まった。
「波瑠。好きだ」
さら、と頬に手が触れる。
触れられた先から、体温が流れてくる。
「波瑠が三年ていう期限を決めた理由はなんとなく分かってる。受験が終わるまで俺のメンタルが不安だったこと、大学に入って色んなヤツに出会えば心変わりするかもしれない、だから、二十歳っていう区切りで決めたんだろう?」
「あき、と…」
「この期限に波瑠の都合が一切含まれてないのも分かってる。いつ来るかも分からないヒートに怯えて暮らさなくちゃいけない波瑠が、俺の為に一生懸命考えたのも、全部分かってる」
慊人の瞳が、夕日で煌めいて目が離せない。
「波瑠はΩになりたくなかったっていうけど、俺は嬉しかった。波瑠がβだってαだって構わないと思っていたのに、番になれば魂まで繋がれるから。でも波瑠がそれを望まないなら、番にならなくても構わない。だから」
慊人はゆっくりと瞼を閉じて、もう一度開いた。僕は慊人をずっと見ていたくて目が逸らせない。
「俺は絶対に波瑠を諦めたりしない。好きだ。波瑠」
慊人の柔らかい唇が、僕の唇に触れる。
触れた唇も、手が触れてる頬も、涼しくなり始めた夕方なのに熱くて。でも全く嫌にならなかった。
顎から雫が垂れている。いつの間にか、気づかないうちに冷たい水が頬を伝っていた。
「慊人…!」
堪えきれなくて、慊人の首に腕を回して抱きついた。慊人はふわりと僕の背に手を回して抱き止めてくれる。
この瞬間だけは二人だけの世界だった。
いつか離さなくちゃいけないこの手も、遠ざけなくちゃいけない温もりも。
慊人を好きな、この気持ちも。
僕だけが諦めていて、慊人に全て背負わせて。
何もかも全部投げ捨てられたら良いのに。
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