【完結】巡る季節に恋をする

七咲陸

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66、冬が来る前に

  波瑠が言い出すのは、毎年の事だった。「何が欲しい?」と聞いてくれる。本人は、プレゼントのセンスがないからと卑下するが、俺の為に何日も掛けて考えてくれているのは知っていた。

  元々誕生日は嫌いだった。

  プレゼントを貰っても、祝ってくれるのは使用人ばかり。父親も母親も仕事人間でほとんど家に居なかったし、誕生日も例外なく居なかった。祝って貰えない誕生日など、どうでもいいとすら幼いながらに思っていた。多分、ひねくれていた。

  けれど、俺が波瑠に自転車に轢かれかけた事件からポツリと呟いたことがあった。「誕生日は一人だから、好きじゃない」と。
  その時の波瑠は「……そっか」と憐れむでもなく、悲しむでもない返事をした。
  言ったことを後悔した。波瑠に言っても仕方ないことで、何かが変わる訳でもない。でも波瑠は、それ以来俺の誕生日は一ノ宮家に呼んでくれるようになった。波瑠の母親も仕事の休みを毎年取ってくれていた。
  一般家庭のささやかな誕生日だったと思う。それでも凄く楽しくて、毎年楽しみにしていた。
  さすがに高校くらいになってからは、波瑠と二人で出掛けたりすることで誕生日をするようになったので、呼ばれたりすることは無くなった。それでも波瑠は変わらず聞いてくれるのだ。「何が欲しい?」と。


「波瑠」

「……そう言うと思った」


  少し困ったように微笑んでいる。波瑠は誰の目から見ても美人で、大学の友人の中に親が芸能関係の仕事をしてる奴がいるが、ソイツに『モデルかタレント勧めてぇ』と言われた。速攻で却下したし、絶対に波瑠の前で口にするなとも言った。我ながらαらしい独占欲だと思った。


「もう。それは高校の時に叶えたでしょ…」

「でも俺は」

「そういうのじゃなくて、違うの」


  遮る口調は全然厳しくない。むしろ少し困っている苦笑の中に、ほんのりと嬉しそうな笑みが零れている。
  そんな波瑠に気づいた時、波瑠が俺を好きだと実感出来る。


「……ねぇ。じゃあ、去年みたく旅行する?」


  慊人の仕事が大丈夫なら、と付け加えて言う。そんなの、大丈夫じゃなくても大丈夫にするだけだ。


「ああ、去年と同じところか?」

「うーん……そうだねぇ。捻りはないけど、同じところに行きたいな」

「なら個室の温泉がある部屋にしよう。俺も半分出すから」


  波瑠が困ったように笑う。


「それじゃ意味ないよ、ただの旅行だよ……僕が出さなくちゃ」

「誕生日は、波瑠で。旅行は旅行だ」


  俺がキッパリと言い放つと、波瑠は、もう…と呆れながらも嬉しそうに微笑む。

  まるで、この間の事件など無かったかのように。


「波瑠」

「ん?」


  呼びかけると波瑠が不思議そうに俺を見上げる。可愛いし、綺麗だし、やっぱり好きだと思ってしまう。

  あのどうしようもない衝動に襲われかけた時。波瑠が手の届く範囲に居なかったらと考えると怖くなる。抑制剤は常用していたのに強いフェロモンが俺を襲い、絶対番にしろと叫んできた。

  それがよりにもよって。波瑠の先輩だと言う。

  そんなことがあって許されるのか。神が居るなら、殺してやりたいとすら考えた。


「……旅行、楽しみにしてる」


  どれだけ波瑠を傷つけただろうか。

  強がっているようにも見えるし、触れてほしくなさそうにも見える。俺の事を好きだと言う口から、「運命の番が居るなら別れよう」と言われることなど死にたくなるほど恐ろしくて堪らなくて、俺も出来れば触れたくない。

  波瑠に捨てられるのが、怖い。


「うん。僕も」


  なのに波瑠は、いつもと変わらない優しくて穏やかな笑みを浮かべる。

  それがほんの少しばかり憎らしいと思った。
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