【完結】巡る季節に恋をする

七咲陸

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after 桜

桜と夏①

  ただひたむきに恋をした、そう母は話した。


「桜ぁ! なんで昨日は遊んでくれなかったのぉ?」

「別に。気分じゃなかった」


  科を作って俺の腕に手をからませてくるが、避けたりなんかはしない。相手にするのもめんどくさい。教室の中は少しザワついているが、明らかに俺とその女は目立っていた。
  女はαもβもΩも関係なく寄ってくるし、男Ωも寄ってくる。α達はそんな俺に何か言いたげに不満を隠そうともしてないが、俺は無視している。

  大体、この顔に産んだ両親が悪い。

  父はαらしく精悍な顔立ちで昔も今もモテまくっている。そしてそんな父の、男Ωだが妻であり俺の母は、儚げな美人妻だと近所で有名な夫婦という訳だ。いや、夫夫と言うべきか。
  父は有名な会社グループのトップだが、そんな父の妻は一切顔出ししていない。母を知っている父の友人が何度かモデルを勧めたらしいが母はその事を知らない。父が断固拒否した。
  息子の俺から見ても、母は美人だ。贔屓目である事を差し引いてもだ。

  そんな両親は、若い時に俺を産んだ。一悶着あった当時の頃の話を父は『未だに俺は許してない』と母に言う。
  母は苦笑いしながらもなんだか嬉しそうにするのがどうにも腑に落ちないのだが、母が幸せならそれでいいか、とそれ以上追及してない。

  父と母は、幼い頃から幼馴染で、父は小さい頃から母を好きだった。母はその時まだ恋愛感情に気づいてなかったようだが、聞いた話では絶対父と同じ頃から好きだったのだと思った。
  なんだこの二人…お互いしか世界が無いな、こういう風にはなるまい。と何故か反骨精神が生まれ、俺は適当に遊ぶようになった。

  嫌気が差すほどラブラブなのだ。何が『許さない』だ。父は家に帰って来る度に所構わず母にキスしまくるし、なんならセックスシーンすら見かけたことがある。しかしこれは後で父が「内緒にしろ」と小遣いを多めにくれたので、母には内緒だ。受け取った手前、キッチンやダイニングテーブル、ソファやら風呂では止めてくれ、とは言えなくなった。

  母も母だ。未だに父を見る時に恥ずかしそうに微笑む姿は完全に恋している目だ。もうそこまで若くないはずなのだから、見ていてこっちが恥ずかしくなる。止めて欲しい。


「ねぇ桜、いい加減私と付き合わない?ねぇってば」

「付き合わない。遊びでいいっつったのはそっちだ」

「そ、そうだけど…でも」

「桜」


  女が歯切れ悪く食い下がろうとするが、教室の扉の方から俺を呼ぶ声がして顔を向けた。


「帰る約束、してたでしょ。帰ろ」

「……ああ」

「え、ちょ……」


  した覚えのない約束に返事をして、女の絡みつく腕から逃れるようにして教室から出た。後ろでなんとなく視線を感じるが無視だ無視。後腐れない女かと思ったが、違うようだった。


「…はぁ、ほんと桜って女の趣味悪いな」


  そう言ってくる幼馴染に、俺は悪びれもなく言った。


「女の方から寄ってくる。仕方ないだろ」

「いつか刺されるよ?」


  ため息をついて俺を見上げてくる幼馴染は立夏といい、男βだ。立夏は世間的には珍しいバースだ。αとΩの間に生まれながら、そのどちらでもないβとして生まれた。父親は『ま、その内な』なんてよく分からん言葉と共に、βとして生まれてきた立夏を蔑ろにする訳でもなくそこそこ放任して育てている。立夏は父親の放任が楽らしく、母親の干渉が少しウザイらしい。
  立夏は父親に似て凄く冷めてると言うか、あっさりしてる。一緒に居て凄く楽だ。


「…波瑠さんにバレたら泣かれるよ?」

「バラすなよ。お前が言わなきゃバレねぇ」


  よく死んだ魚の目をしてる、とか言われる立夏だが、何故か俺の母親に心酔している。あの優しい笑顔が癒される、だそうだ。俺にしてみりゃ、立夏の母親である斗真さんと何が違うのか分からん。母親ってのはどっちも過干渉になってあんな感じでは。


「あ、今日漫画読みに行かせてよ」

「……お前、もしかしてそれで俺を女から引き離したな」


  βの中でも、Ωの中でも可愛いと言われる立夏は、俺の言葉に返事をしなかった。
感想 9

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