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水の王都、ルーシアにて
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「ありがとうございました。ここまで助かりました」
ぺこりとお辞儀をしてお礼を伝えた。大剣を背負った大柄の男は、礼をするリーシャの頭をクシャ、と撫でた。
「いーえ! こっちとしても道中ヒーラーが足りなかったし、助かった。恋人に会えるといいな」
「はい。また、縁がありましたら」
「おう、縁がありゃまた頼むわ」
リーシャは、レイディットの手紙を貰った次の日に、また別の手紙が届いたのだった。それは水の王都、ルーシアにある神殿からの正式な書簡だった。
その書簡には近々始まる豊穣祭の準備に人手が足りない為、一度戻って手伝いなさいという内容が記載されていた。普段ならば足りないことは無いはずの人員が足りない理由は、豊穣祭の前に行われる褒章式のせいだ。猫の手も借りたい状況なのか、それともレイディットがこの折にあやかったのか、後者のような気もするがこの手を使わないという選択肢はもうリーシャの頭からは消え去っていた。
リーシャはすぐさま準備し、水の王都ルーシアに行くことをボドワールに伝えた。ボドワールにも「最近のお前さんの身の入らなさは仕事の邪魔だと思ってたんだよ。行ってこい」シッシッと手を払われて言われた。静かに礼をしてボドワールの素っ気ないけれど、暖かい好意を有難く受け取った。
しかし乗り合いの馬車は簡単には現れてくれない。先程あった大剣を背負った大柄のリーダーとその仲間たちは冒険者だ。リーシャがルーシアに行くことを聞いて、たまたま同じ方向だからとついでに連れてってくれたのだ。
「それにしてもリーシャちゃんの恋人なら見てみたいわぁ。運よく会えないかしら?」
「どんな人なのっ?可愛い?美人?ボクも気になる~っ!」
「こらこらお前ら。あんまり詮索すんなよな。わりーな、コイツらに悪気はねぇんだ。気にしないでくれ」
冒険者仲間たちは小気味よいテンポで会話をしていた。道中もこんな感じで、楽しくここまで来れた。この人たちがいなければ、リーシャは今頃「やっぱり大人しく辺境に帰ろう」と思っていたに違いない。
いや、実際そう思っていた。何せここまで一か月かかる道程を三週間の強行軍で来たとはいえ、悩まなかったわけではない。
「いえ、もし会えたら紹介します」
「あらぁ。道中あんなにめそめそしてたのにぃ?」
「『僕なんかが突然会いに行っても困らせるだけかもしれません』な~んて言ってたのにねっ?」
「ううう…」
「おいこらやめろ。リーシャをあんま追い詰めんな」
レオナルドは、突然リーシャがやってきたら驚くだろうか。それとも迷惑がるだろうか。それとも嬉しがってくれるだろうか。最初は、喜んでくれるかもしれないと前向きに考えながら向かっていた。けれど考えが深みにハマっていくにつれ、徐々にマイナス方向に向かっていくのを感じた。
三週間はとても長かった。けれどこのメンバーの騒がしさで短かった気もする。結局レオナルドの反応の答えは見つからないままたどり着いてしまった。
「リーダーも、『くそ、フリーだったらな』とか言ってたのにぃ、んぐ!」
「フリー?」
「だぁああ!なんでもねぇって!じゃあなリーシャ!また会おうな!」
メンバーたちは大剣を担ぐリーダーに引きずられて王都の人波に紛れて行ってしまった。
ポツンとその場に残されてしまった。突然来る寂しさにため息をつくが、そんな場合ではない。自分は豊穣祭の手伝いに来たのだ。まずはその目途が立ったらレオナルドに会いに行かねば。
ぐ、と力拳を作って気合を入れて、レイディットがいる神殿に向かうことにした。
「りぃしゃぁあああぁ!!!」
大声で泣き叫びながら走って飛び掛かられ、驚きつつも歓待の様子に自然と笑みが零れていくのを感じた。
言わずもがな、レイディットである。
「レイディット様、お久しぶりです」
「あああ会いたかったです!会いたかったですよ!! またやつれたんじゃないですか?!ちゃんと食べてますか?!ああもうこんなに痩せて……! ささ、食事の準備をさせてありますから、一緒に食べましょう!」
「えっ、食事まで準備してくださったんですか?」
「当たり前でしょう!辺境の時は手ずから作ってくれたではありませんか! さすがに王都の神殿で、さらに私の立場で調理はしてあげられませんが!」
「し、司教様が調理したら皆卒倒します……」
分かりにくがレイディットには信奉者が多い。そんなレイディットがたかが侍祭一人のために調理して歓待したとなれば、リーシャは刺されるのではとおもってしまうほどだ。
「歩きながら少し話しましょう。元気にしてましたか?」
「はい。いつも忙しいのに手紙を下さってありがとうございます。あと……今回の件も、融通して頂いて」
レイディットは食堂に向けた足を止めた。
「……実は今回の件に私は殆ど口出ししてないんですよ」
不思議に思い、首を傾げてレイディットを見上げると、大きくため息をついた彼がまた歩みを再開した。
「上の命なのです。上も、どこからか命令されたようですが」
「?司教様の上……ですか?他の司教様とかですか?」
「いえ、もっと上だと聞いています」
「……もっと、うえ」
そんなの、大司教様に間違いない。何故神殿のトップが末端を呼び出すために手紙を出せと言うのか。怖くなって血の気が引いてくるのが分かる。
「ぼ、僕……豊穣祭のお手伝いですよね……?」
「式典の手伝いです」
「れ、レイディット様?豊穣祭の式典ですよね……?」
レイディットは無言で顔を逸らした。
「レイディットさま。レイディットさま……!!」
行儀悪くもレイディットの高そうな格式あるローブのような服の裾を掴んで揺すっても、食堂につくまでレイディットは返事をしなかった。
食事の味は、あまりよく分からなかった。
ぺこりとお辞儀をしてお礼を伝えた。大剣を背負った大柄の男は、礼をするリーシャの頭をクシャ、と撫でた。
「いーえ! こっちとしても道中ヒーラーが足りなかったし、助かった。恋人に会えるといいな」
「はい。また、縁がありましたら」
「おう、縁がありゃまた頼むわ」
リーシャは、レイディットの手紙を貰った次の日に、また別の手紙が届いたのだった。それは水の王都、ルーシアにある神殿からの正式な書簡だった。
その書簡には近々始まる豊穣祭の準備に人手が足りない為、一度戻って手伝いなさいという内容が記載されていた。普段ならば足りないことは無いはずの人員が足りない理由は、豊穣祭の前に行われる褒章式のせいだ。猫の手も借りたい状況なのか、それともレイディットがこの折にあやかったのか、後者のような気もするがこの手を使わないという選択肢はもうリーシャの頭からは消え去っていた。
リーシャはすぐさま準備し、水の王都ルーシアに行くことをボドワールに伝えた。ボドワールにも「最近のお前さんの身の入らなさは仕事の邪魔だと思ってたんだよ。行ってこい」シッシッと手を払われて言われた。静かに礼をしてボドワールの素っ気ないけれど、暖かい好意を有難く受け取った。
しかし乗り合いの馬車は簡単には現れてくれない。先程あった大剣を背負った大柄のリーダーとその仲間たちは冒険者だ。リーシャがルーシアに行くことを聞いて、たまたま同じ方向だからとついでに連れてってくれたのだ。
「それにしてもリーシャちゃんの恋人なら見てみたいわぁ。運よく会えないかしら?」
「どんな人なのっ?可愛い?美人?ボクも気になる~っ!」
「こらこらお前ら。あんまり詮索すんなよな。わりーな、コイツらに悪気はねぇんだ。気にしないでくれ」
冒険者仲間たちは小気味よいテンポで会話をしていた。道中もこんな感じで、楽しくここまで来れた。この人たちがいなければ、リーシャは今頃「やっぱり大人しく辺境に帰ろう」と思っていたに違いない。
いや、実際そう思っていた。何せここまで一か月かかる道程を三週間の強行軍で来たとはいえ、悩まなかったわけではない。
「いえ、もし会えたら紹介します」
「あらぁ。道中あんなにめそめそしてたのにぃ?」
「『僕なんかが突然会いに行っても困らせるだけかもしれません』な~んて言ってたのにねっ?」
「ううう…」
「おいこらやめろ。リーシャをあんま追い詰めんな」
レオナルドは、突然リーシャがやってきたら驚くだろうか。それとも迷惑がるだろうか。それとも嬉しがってくれるだろうか。最初は、喜んでくれるかもしれないと前向きに考えながら向かっていた。けれど考えが深みにハマっていくにつれ、徐々にマイナス方向に向かっていくのを感じた。
三週間はとても長かった。けれどこのメンバーの騒がしさで短かった気もする。結局レオナルドの反応の答えは見つからないままたどり着いてしまった。
「リーダーも、『くそ、フリーだったらな』とか言ってたのにぃ、んぐ!」
「フリー?」
「だぁああ!なんでもねぇって!じゃあなリーシャ!また会おうな!」
メンバーたちは大剣を担ぐリーダーに引きずられて王都の人波に紛れて行ってしまった。
ポツンとその場に残されてしまった。突然来る寂しさにため息をつくが、そんな場合ではない。自分は豊穣祭の手伝いに来たのだ。まずはその目途が立ったらレオナルドに会いに行かねば。
ぐ、と力拳を作って気合を入れて、レイディットがいる神殿に向かうことにした。
「りぃしゃぁあああぁ!!!」
大声で泣き叫びながら走って飛び掛かられ、驚きつつも歓待の様子に自然と笑みが零れていくのを感じた。
言わずもがな、レイディットである。
「レイディット様、お久しぶりです」
「あああ会いたかったです!会いたかったですよ!! またやつれたんじゃないですか?!ちゃんと食べてますか?!ああもうこんなに痩せて……! ささ、食事の準備をさせてありますから、一緒に食べましょう!」
「えっ、食事まで準備してくださったんですか?」
「当たり前でしょう!辺境の時は手ずから作ってくれたではありませんか! さすがに王都の神殿で、さらに私の立場で調理はしてあげられませんが!」
「し、司教様が調理したら皆卒倒します……」
分かりにくがレイディットには信奉者が多い。そんなレイディットがたかが侍祭一人のために調理して歓待したとなれば、リーシャは刺されるのではとおもってしまうほどだ。
「歩きながら少し話しましょう。元気にしてましたか?」
「はい。いつも忙しいのに手紙を下さってありがとうございます。あと……今回の件も、融通して頂いて」
レイディットは食堂に向けた足を止めた。
「……実は今回の件に私は殆ど口出ししてないんですよ」
不思議に思い、首を傾げてレイディットを見上げると、大きくため息をついた彼がまた歩みを再開した。
「上の命なのです。上も、どこからか命令されたようですが」
「?司教様の上……ですか?他の司教様とかですか?」
「いえ、もっと上だと聞いています」
「……もっと、うえ」
そんなの、大司教様に間違いない。何故神殿のトップが末端を呼び出すために手紙を出せと言うのか。怖くなって血の気が引いてくるのが分かる。
「ぼ、僕……豊穣祭のお手伝いですよね……?」
「式典の手伝いです」
「れ、レイディット様?豊穣祭の式典ですよね……?」
レイディットは無言で顔を逸らした。
「レイディットさま。レイディットさま……!!」
行儀悪くもレイディットの高そうな格式あるローブのような服の裾を掴んで揺すっても、食堂につくまでレイディットは返事をしなかった。
食事の味は、あまりよく分からなかった。
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