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式典後
しおりを挟む褒賞式は豊穣祭の前に終了した。
レオナルドは国王からの『望み』を聞かれ、本来ならば『身に余る光栄』といって一度は断り、その後無難な褒美を受ける手筈になっていた。
しかしレオナルドは『望み』があると即進言した。
周囲の人々は一瞬ザワついた。望みの内容は噂通り国王の愛する娘、ルーシアのお姫様かと思われたからだ。
国王も打ち合わせと違うやり取りに目を瞬かせ、『して、何を?』と怒る様子もなく尋ねた。
『辺境に侍祭の配置を増員して頂きたい』
とレオナルドは良く通る声で進言した。ちなみに隣に居たレイディットは『なら私の可愛い可愛い可愛い息子は返せ!!』とブツブツ言っていた。
『なにゆえか。理由を聞かせてくれ』
『私の恋人が侍祭なのですが、その恋人と、もう一人の老侍祭のみしかおりません。辺境で命を賭ける騎士の為と休みなく働き、心苦しいと思っております』
レオナルドは恋人が居ると国王の前で公言し、聞いていた全員が驚き、ザワついた。
隣に居たレイディットは泡を吹いて倒れかけたので慌てて支えた。
『なるほど。愛ゆえにか。良かろう』
そうして、レオナルドの褒賞は王都中が予想していたお姫様との結婚ではなく、一侍祭の為に人材派遣となったのだった。
「まあまあまあまあ!! どんな美しい少年がやってくるのかと思っておりましたが、まさかこーーーんなこの世の穢れを何一つ知らないと言わんばかりのかんわいい男の子が現れるなんて!」
「……うっっっさ」
「れ、レオナルド様!」
何故か僕の目の前にいらっしゃるのは件のお姫様であった。
お人形さんのような姫様は興奮した様子で僕の姿を見ており、目をランランと輝かせている。レオナルドの不敬にも全く気にしてない様子であった。
「こんな可愛い子が……貴方みたいな毒にしかならない男に捕まってしまうなんて。はぁ……なんて勿体ない」
「この世の穢れを知らない身体をエロく堕とすのは最高だぞ」
「下衆ね」
「あああああ、あの! ぼ、僕を呼んだのは姫様だとお伺いしたのですが……!」
会話の流れがだいぶ怪しいので話題を変えようと顔を火照らせながら無理やり口を挟んだ。
姫様はニッコリと微笑み、そうよ、と言う。
「大司教にお願いしましたの。私、どーしても辺境の騎士団長レオナルドの一輪の花にお会いしたいと。風の噂で侍祭と言うのは聞いておりましたから」
「はぁ」
「そしたらこんな可愛いんだもの!レイディット司教も人が悪いわ! こんな子を隠してたなんて」
「えと」
「大事に大事に抱えてたせいで他の司教やら司祭に目をつけられて飛ばされたらしいぞ」
「まぁ。 やはり教会も一枚岩ではありませんのね」
姫様は嬉しそうに優雅にティーカップを持ち上げ、口に含んでソーサーにまた音も立てずに置いた。
「会えて良かったですわ。私も、レオナルドとの婚姻話が噂されるのは困っていましたの」
「そ、そうなのですか?」
「ええ」
「こいつ、隣国にいる騎士団長が好きらしい」
「えっ!」
そんなことバラしていいのだろうか。驚いて二人を見比べるが、どちらも気にした様子はなさそうでリーシャはどんな顔をすれば良いか分からなくなる。
「辺境ヴァレンテインのその向こうの隣国ですの。ですから、勝手に周囲が勘違いしたんですわ」
「な、なるほど……?」
「マジで迷惑だから早く婚約しろ」
「れ、レオナルド様?!」
「うるさいですわね。あの方は貴方のように極悪人じゃなくて真面目で素敵な方なのです。ちゃんと裏から手を回してゆっくりゆっくり……」
「気持ちわりぃ」
「レオナルドさま!!」
不敬過ぎてリーシャの心臓がいくつあっても足りなそうである。早くこの場から去りたいと思う。
しかし姫はお供すら席を外した状態で、気にした様子もなくにっこりとリーシャに微笑む。
「だからバッチリ安心してくださいませ。私はこんな男、私の方からお断りですの」
「は、はぁ……」
リーシャはレオナルドの不敬が問われないことを喜ぶべきか、レオナルドが結婚しないことを喜ぶべきなのか分からなくなってしまった。
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