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からかい?sideサシャ
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サシャ=ジルヴァールは明日に向けてようやく決心をした。あの中庭のキス未遂から、1週間が経過していた。
恋人であり、最愛のクラークに会いに行こうとやっと思えるようになったのだ。
家では相変わらず、陰鬱な気分を味わっていた。サシャは何でもないように暮らすことが精一杯だった。
学園にも行かせてもらえている。
貴族としての待遇も受けている。
その辺のスラムに住んでいる子達より暖かい食事やシャワー、ベッドが使えるだけマシだ。
ただ、サシャが息がしずらいのを少し我慢すればいいだけなのだ。
「相変わらず気持ち悪いな、お前は」
食事中、父がこういうのは日常茶飯事であった。
嫌ならこちらを見なければ良いのに、家の中ですら対面を保とうという姿に尊敬すら感じた。
サシャは食事中も息を殺す必要があった。なるべく存在していないように過ごす事が必須であった。
母はこちらを見向きもしない。口にすることもおぞましい様子だった。
声をかければ虫を見るような目でこちらを見てくるのは知っているのだ。
弟はそんな3人の様子を見て、むしろ楽しんでいるように感じた。
弟だけはニコニコとしている食事の空間は、異様な雰囲気だった。
食べ終わると弟のダリルはサシャの部屋にノックもせずに勢いよく入ってきた。
「はい、今日の課題ね」
それだけ言って、課題の紙がバラバラとダリルの手から落ちた。いや、ワザと離した。
そしてこちらをニヤニヤと一瞥してからドアを乱暴に閉めて行った。
課題を拾い上げながら思う。まだ渡されたのが食後の時間で早いだけマシだった。今日の睡眠時間はあまり削られないだろう。
そう思って、集めた課題を机に置いて、ペンを走らせた。
やはりクラークに会いたい。もうサシャは知ってしまったのだ。
この陰鬱とした気持ちを晴れやかにする方法は、クラークと会うことだと。
◆
「もう会ってくれないかと思った」
中庭でのクラークの第一声だった。
サシャはそう思うのも当たり前だ、と反省した。
1週間音信不通で、中庭にも来る気配がない、しかも気まずいままとくればクラークがそう思い当たるのは至極当然であった。
「ごめん」
「いいんだ。ちょっと早まったよね。こっちこそごめん」
サシャはいつものベンチで、隣のクラークの優しさに感動して震えた。
避けたこちらが悪いのに、クラークは何も悪くないのに、どうしてこんなに優しいのかと。
どうして今まで会わなくて平気だったのか、そう思うほどに幸せだった。
クラークと少し話しただけで、陰鬱な気分が穏やかな漣に変わる。
「でも、いつかはしたいんだ」
「っ、うん」
クラークが、ね?と首を傾げながら言う。
サシャはその姿を見て、顔が火照るのを感じながら、精一杯の返事をするしか出来なかった。
そんなサシャを見て、クラークは微笑んでいた。
その後は、他愛もない話をしながら、穏やかに昼休みを過ごした。
◆
放課後、やはり家にはどうしても帰りたくなくてまた図書館に行った。
クラークは訓練があると言うので1人で過ごしていた。
一生かけても読み終わらないであろう蔵書量を誇っている巨大図書館は、国でもなかなかお目にかかれないはずなのに、人気は全くなかった。
サシャは人気のない図書館の恩恵を授かって、静かに黙々と本を読み続けた。
「っ」
突如目に痛みが走った。
目を開けていられず、痛みを誤魔化そうと目を擦っていたら眼鏡が外れてしまった。
カシャン、と眼鏡がテーブルに落ちる音がする。
もう一度目を擦ったが痛い。
どうしたものか、と目を閉じたまま考えた時だった。
「ティム、どうした?」
サシャをその名前で呼ぶのは一人しかいない。
目が上手く開けられないが、アーヴィンの声のようだった。
久しぶりに感じたのは、名前を聞かれた日から4日程経っていたからだった。
「ぁ、目が痛くて」
「見せろ」
「わ」
アーヴィンはサシャの横に立ち、グイッと顎に指を当てて自分の方に顔を向けた。
アーヴィンが屈んで自分の顔に近づいているのが呼吸音でサシャに伝わる。なんとなく落ち着かなくなって、目をギュッと閉じた。
ふわり、とアーヴィンからの陽の香りが鼻腔を擽られた。
「ふ、そんな閉じてたらわかんねぇよ。開けろって」
「だだ、だって、痛いんだよ?」
閉じていても痛いのだ。開けたらもっと痛いんじゃないかとサシャは怯えた。
しかしアーヴィンが「開けなきゃ治んないぞ」と脅してきたため、サシャは諦めて瞼をゆっくり開けることにした。
するとアーヴィンの均整の取れた顔がドアップで現れた。
一瞬、サシャは胸が跳ねて、頬もなんとなく熱くなってきていた。
「ほら、睫毛だ。取れたぞ」
「ん、ありがとう」
何度か目をパチパチ瞬きさせても、痛みは現れなかったことにホッとした。
目をもう一度擦りながら、アーヴィンにお礼を言った。
「はぁ、無防備過ぎないって言われないか?」
「?言われたことない」
アーヴィンはため息をついてサシャを見下ろしていた。
アーヴィンはまだサシャの顎を指で支えていて、アーヴィンを見上げている状態が続いていた。
アーヴィンは指を離して、テーブルの向かいに座った。
相変わらず、サシャの了承は取らなかった。
「4日ぶりか? ここに居るの、いつも違うやつだったな」
「!」
サシャはギクリと肩を揺らす。
それもそのはず、普段は認識阻害の魔道具眼鏡でここにいるからだ。ティムではなく、サシャとして座っていたせいだ。
アーヴィンはサシャの姿をどこまで知っているのかは知らないが、嫌悪感を感じていないようだったので安心した。
「遠目からでもティムじゃないって分かるのは良いな」
アーヴィンは優しい眼差しで、サシャの肩に流れる1つに括った髪に丁寧に触れる。指で髪の感触を楽しんでいるようだった。
まるで、壊れ物に触れるかのように柔らかな手つきで、サシャの髪をサラサラと触れていた。
アーヴィンはその髪を自分の方に運び、キスをした。
サシャは甘やかな雰囲気を感じて、後ろに仰け反った。
サシャの顔は夕焼けのように赤かった。
「な、なな」
「ふ、肌が白いから真っ赤になると分かりやすいのな。首まで真っ赤だぞ」
アーヴィンは意地悪そうに微笑みながらサシャの方を見ていた。
「か、からかって…!」
アーヴィンの意地の悪い笑みが、からかっているように感じた。
サシャはからかわれるのにも慣れていなくて、どう返答すれば良いのか分からない。
「揶揄う? そんなつもりじゃない」
「じゃ、じゃあ!」
サシャは酷く居た堪れない気持ちになった。
だってこれは、この間、クラークの時も感じたのだ。サシャが逃げてしまったあの時と同じだった。
「口説いてるんだ」
恋人であり、最愛のクラークに会いに行こうとやっと思えるようになったのだ。
家では相変わらず、陰鬱な気分を味わっていた。サシャは何でもないように暮らすことが精一杯だった。
学園にも行かせてもらえている。
貴族としての待遇も受けている。
その辺のスラムに住んでいる子達より暖かい食事やシャワー、ベッドが使えるだけマシだ。
ただ、サシャが息がしずらいのを少し我慢すればいいだけなのだ。
「相変わらず気持ち悪いな、お前は」
食事中、父がこういうのは日常茶飯事であった。
嫌ならこちらを見なければ良いのに、家の中ですら対面を保とうという姿に尊敬すら感じた。
サシャは食事中も息を殺す必要があった。なるべく存在していないように過ごす事が必須であった。
母はこちらを見向きもしない。口にすることもおぞましい様子だった。
声をかければ虫を見るような目でこちらを見てくるのは知っているのだ。
弟はそんな3人の様子を見て、むしろ楽しんでいるように感じた。
弟だけはニコニコとしている食事の空間は、異様な雰囲気だった。
食べ終わると弟のダリルはサシャの部屋にノックもせずに勢いよく入ってきた。
「はい、今日の課題ね」
それだけ言って、課題の紙がバラバラとダリルの手から落ちた。いや、ワザと離した。
そしてこちらをニヤニヤと一瞥してからドアを乱暴に閉めて行った。
課題を拾い上げながら思う。まだ渡されたのが食後の時間で早いだけマシだった。今日の睡眠時間はあまり削られないだろう。
そう思って、集めた課題を机に置いて、ペンを走らせた。
やはりクラークに会いたい。もうサシャは知ってしまったのだ。
この陰鬱とした気持ちを晴れやかにする方法は、クラークと会うことだと。
◆
「もう会ってくれないかと思った」
中庭でのクラークの第一声だった。
サシャはそう思うのも当たり前だ、と反省した。
1週間音信不通で、中庭にも来る気配がない、しかも気まずいままとくればクラークがそう思い当たるのは至極当然であった。
「ごめん」
「いいんだ。ちょっと早まったよね。こっちこそごめん」
サシャはいつものベンチで、隣のクラークの優しさに感動して震えた。
避けたこちらが悪いのに、クラークは何も悪くないのに、どうしてこんなに優しいのかと。
どうして今まで会わなくて平気だったのか、そう思うほどに幸せだった。
クラークと少し話しただけで、陰鬱な気分が穏やかな漣に変わる。
「でも、いつかはしたいんだ」
「っ、うん」
クラークが、ね?と首を傾げながら言う。
サシャはその姿を見て、顔が火照るのを感じながら、精一杯の返事をするしか出来なかった。
そんなサシャを見て、クラークは微笑んでいた。
その後は、他愛もない話をしながら、穏やかに昼休みを過ごした。
◆
放課後、やはり家にはどうしても帰りたくなくてまた図書館に行った。
クラークは訓練があると言うので1人で過ごしていた。
一生かけても読み終わらないであろう蔵書量を誇っている巨大図書館は、国でもなかなかお目にかかれないはずなのに、人気は全くなかった。
サシャは人気のない図書館の恩恵を授かって、静かに黙々と本を読み続けた。
「っ」
突如目に痛みが走った。
目を開けていられず、痛みを誤魔化そうと目を擦っていたら眼鏡が外れてしまった。
カシャン、と眼鏡がテーブルに落ちる音がする。
もう一度目を擦ったが痛い。
どうしたものか、と目を閉じたまま考えた時だった。
「ティム、どうした?」
サシャをその名前で呼ぶのは一人しかいない。
目が上手く開けられないが、アーヴィンの声のようだった。
久しぶりに感じたのは、名前を聞かれた日から4日程経っていたからだった。
「ぁ、目が痛くて」
「見せろ」
「わ」
アーヴィンはサシャの横に立ち、グイッと顎に指を当てて自分の方に顔を向けた。
アーヴィンが屈んで自分の顔に近づいているのが呼吸音でサシャに伝わる。なんとなく落ち着かなくなって、目をギュッと閉じた。
ふわり、とアーヴィンからの陽の香りが鼻腔を擽られた。
「ふ、そんな閉じてたらわかんねぇよ。開けろって」
「だだ、だって、痛いんだよ?」
閉じていても痛いのだ。開けたらもっと痛いんじゃないかとサシャは怯えた。
しかしアーヴィンが「開けなきゃ治んないぞ」と脅してきたため、サシャは諦めて瞼をゆっくり開けることにした。
するとアーヴィンの均整の取れた顔がドアップで現れた。
一瞬、サシャは胸が跳ねて、頬もなんとなく熱くなってきていた。
「ほら、睫毛だ。取れたぞ」
「ん、ありがとう」
何度か目をパチパチ瞬きさせても、痛みは現れなかったことにホッとした。
目をもう一度擦りながら、アーヴィンにお礼を言った。
「はぁ、無防備過ぎないって言われないか?」
「?言われたことない」
アーヴィンはため息をついてサシャを見下ろしていた。
アーヴィンはまだサシャの顎を指で支えていて、アーヴィンを見上げている状態が続いていた。
アーヴィンは指を離して、テーブルの向かいに座った。
相変わらず、サシャの了承は取らなかった。
「4日ぶりか? ここに居るの、いつも違うやつだったな」
「!」
サシャはギクリと肩を揺らす。
それもそのはず、普段は認識阻害の魔道具眼鏡でここにいるからだ。ティムではなく、サシャとして座っていたせいだ。
アーヴィンはサシャの姿をどこまで知っているのかは知らないが、嫌悪感を感じていないようだったので安心した。
「遠目からでもティムじゃないって分かるのは良いな」
アーヴィンは優しい眼差しで、サシャの肩に流れる1つに括った髪に丁寧に触れる。指で髪の感触を楽しんでいるようだった。
まるで、壊れ物に触れるかのように柔らかな手つきで、サシャの髪をサラサラと触れていた。
アーヴィンはその髪を自分の方に運び、キスをした。
サシャは甘やかな雰囲気を感じて、後ろに仰け反った。
サシャの顔は夕焼けのように赤かった。
「な、なな」
「ふ、肌が白いから真っ赤になると分かりやすいのな。首まで真っ赤だぞ」
アーヴィンは意地悪そうに微笑みながらサシャの方を見ていた。
「か、からかって…!」
アーヴィンの意地の悪い笑みが、からかっているように感じた。
サシャはからかわれるのにも慣れていなくて、どう返答すれば良いのか分からない。
「揶揄う? そんなつもりじゃない」
「じゃ、じゃあ!」
サシャは酷く居た堪れない気持ちになった。
だってこれは、この間、クラークの時も感じたのだ。サシャが逃げてしまったあの時と同じだった。
「口説いてるんだ」
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