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士郎×雪夜
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「よ、養子縁組?! マジ?! え、てか婚姻届じゃなくて?」
医局の中で理人と二人きりになった俺は、理人に恋人との最近の出来事を聞かれたので答えた。
母の騒動後、三ヶ月が経った。その間に雪夜の家族に会って養子縁組の許可を得た。
「雪夜は男だからな。日本じゃ結婚出来ん」
「いや、そうかもしれないけど、てか男? マジ?」
「ああ」
「パートナーシップとか、あるじゃん?」
「あれは法の穴が色々ありすぎる。ダメだ」
理人は本気で驚いているのか、ぽかんとしている。まぁ自分でも大病院の跡取りがゲイになって跡継ぎ産みません!って宣言したらご乱心だと思う。
「……よくお前の親が許したな」
「父はどうでも良さそうだったな。母は渋ったけど雪夜と半月に一回お出かけすることでようやく承諾した」
「は?なんだそれ」
雪夜を雁字搦めにすると決めてから、父と話し合う機会があった。父は大層機嫌が良かった。
両親は政略結婚だったらしいが、父自身は母を心の底から愛していた。その母の愛が息子に向かっていることが気に食わなくて親子関係が希薄だったのだ。デカい子供であるが、自分も似たようなものなのでそれは口にしなかった。
今回俺が母とは暫く接触しないと一時的な絶縁を叩き付けた事で母はすっかり落ち込んでおり、その母を慰めるのをウッキウキでしているようだった。
そんな母に父がどうして今回のようなことをしたのか話を聞くと、ただ息子と一緒に遊びに行ったり、思い出を作りたかった。だから孫が出来ればまた俺が母と出かけてくれると思っていたようだ。
「実際子供の頃はどうしてたんだ?」
「母と出かけた覚えはほぼないな。勉強するか部活してるかの二択だった」
「な、なるほど。子供時代を取り返したかったのか……」
「俺はもうそんな歳ではないし、孫も作る気はサラサラない。というか俺は怒っている。そしたら雪夜が提案してきたんだ」
雪夜は、母の話を聞いてしばらく考え込んだ。そして何かを思いついたかのように手を叩いて優しく微笑む。
「僕が玲香さんとお出かけします。これでも僕、女友達なら何人か居るし、母としょっちゅうお出かけしてたんですよ!お茶もお菓子も振る舞えますし、どうでしょうか?」
名案だ、とばかりに目を輝かせている雪夜に俺は渋面を作る。
「……散々家政婦だと罵ってきた相手と遊べるのか?」
「うーん…そこはもう水に流すしか。僕も玲香さんの言う事聞かないで士郎さんと付き合い続けていた訳ですし」
玲香さんも勝手な所がありますけど、僕も大概頑固なので。と微笑む様子に俺は心配しすぎかもしれないと思い直すようになった。
そもそも雪夜は傷ついている人を放っておける性質ではない。フラれて落ち込んでいると思っていた誰かも分からない俺に声をかけてくるくらいだ。
母が傷ついていると分かった今、雪夜は居ても立ってもいられないんだと感じた。
「……毎日はダメだからな。出来る限り頻度は減らす」
「はい。ありがとうございます、士郎さん」
そう言って雪夜は心底嬉しいとばかりに俺の額にキスをした。俺の機嫌の治し方をよく理解している。
雪夜と養子縁組をして一番渋ったのは両親ではなく親戚だった。
親戚たちは跡継ぎはどうするんだとかスキャンダルになるだとか三橋病院を潰す気かとかギャーギャー騒いでいたけれど、俺の継いだ後は親戚たちで話し合って決めた人に跡を継いでもらうと言ったらピタリと止み、親戚同士で話し合いという地獄絵図が始まった。
父親は「世襲制だけじゃ倒れるだけだし、競争意欲をつけた方がいい。けど犯罪は許さん」と付け加えた。後はやる気のある親戚たちで頑張って欲しい。
そして俺は一軒家を建てた。これが雪夜にとって、俺から逃げるのを諦める一番の原因になったようだった。
養子縁組よりも家の方に重きを置いていたことに疑問を持ったので聞いてみると、「だって……家は売りにくいって聞いた事あるんですもん。マンションなら売りやすいって……」と家が建ったら覚悟ができたらしい。最初から一軒家にしておけば良かったと後悔した。
覚悟を持った雪夜は就職を決めた。正式にカフェの従業員となった。毎日楽しそうに仕事をしている雪夜は本当に可愛い。
日々戦場のような病院から抜け出して帰宅すると天使が待っているので、家は本当に天国のようだ。
「おかえりなさい、士郎さん」
「ただいま」
玄関を開けるとパタパタとスリッパで音を立ててやってくる。幸せの音だ。
法で縛り、家で囲い、就職により容易に逃げ出すことが出来なくなった彼を見て、俺は申し訳なさなど一切持ち合わせることはない。医者有るまじき非道だと思う。
「カバンを下さい」
「ああ」
先に歩く彼から~♪と調子の良い鼻歌が聞こえてくる。雪夜は本当は、こんな昭和から平成のような夫夫をしてみたかったらしい。今まではいつか別れた後辛くなるからと我慢していた事を一気に放出し始め、雪夜の好きなようにやらせている。
「お風呂入りますか? それともご飯に」
「雪夜」
「?」
「雪夜だ」
その割に初心な雪夜は意味がわかると同時に耳まで真っ赤にし、俺のカバンで顔を隠した。ぷしゅーと音を立て、沸騰している姿が可愛くてどうにかなってしまいそうだった。
「……す」
「す?」
「シャワーは……浴びて、あり、ます……」
その言葉を聞いた瞬間、カバンで真っ赤な顔を隠す雪夜の身体を持ち上げ寝室に大股で向かったのは言うまでもない。
医局の中で理人と二人きりになった俺は、理人に恋人との最近の出来事を聞かれたので答えた。
母の騒動後、三ヶ月が経った。その間に雪夜の家族に会って養子縁組の許可を得た。
「雪夜は男だからな。日本じゃ結婚出来ん」
「いや、そうかもしれないけど、てか男? マジ?」
「ああ」
「パートナーシップとか、あるじゃん?」
「あれは法の穴が色々ありすぎる。ダメだ」
理人は本気で驚いているのか、ぽかんとしている。まぁ自分でも大病院の跡取りがゲイになって跡継ぎ産みません!って宣言したらご乱心だと思う。
「……よくお前の親が許したな」
「父はどうでも良さそうだったな。母は渋ったけど雪夜と半月に一回お出かけすることでようやく承諾した」
「は?なんだそれ」
雪夜を雁字搦めにすると決めてから、父と話し合う機会があった。父は大層機嫌が良かった。
両親は政略結婚だったらしいが、父自身は母を心の底から愛していた。その母の愛が息子に向かっていることが気に食わなくて親子関係が希薄だったのだ。デカい子供であるが、自分も似たようなものなのでそれは口にしなかった。
今回俺が母とは暫く接触しないと一時的な絶縁を叩き付けた事で母はすっかり落ち込んでおり、その母を慰めるのをウッキウキでしているようだった。
そんな母に父がどうして今回のようなことをしたのか話を聞くと、ただ息子と一緒に遊びに行ったり、思い出を作りたかった。だから孫が出来ればまた俺が母と出かけてくれると思っていたようだ。
「実際子供の頃はどうしてたんだ?」
「母と出かけた覚えはほぼないな。勉強するか部活してるかの二択だった」
「な、なるほど。子供時代を取り返したかったのか……」
「俺はもうそんな歳ではないし、孫も作る気はサラサラない。というか俺は怒っている。そしたら雪夜が提案してきたんだ」
雪夜は、母の話を聞いてしばらく考え込んだ。そして何かを思いついたかのように手を叩いて優しく微笑む。
「僕が玲香さんとお出かけします。これでも僕、女友達なら何人か居るし、母としょっちゅうお出かけしてたんですよ!お茶もお菓子も振る舞えますし、どうでしょうか?」
名案だ、とばかりに目を輝かせている雪夜に俺は渋面を作る。
「……散々家政婦だと罵ってきた相手と遊べるのか?」
「うーん…そこはもう水に流すしか。僕も玲香さんの言う事聞かないで士郎さんと付き合い続けていた訳ですし」
玲香さんも勝手な所がありますけど、僕も大概頑固なので。と微笑む様子に俺は心配しすぎかもしれないと思い直すようになった。
そもそも雪夜は傷ついている人を放っておける性質ではない。フラれて落ち込んでいると思っていた誰かも分からない俺に声をかけてくるくらいだ。
母が傷ついていると分かった今、雪夜は居ても立ってもいられないんだと感じた。
「……毎日はダメだからな。出来る限り頻度は減らす」
「はい。ありがとうございます、士郎さん」
そう言って雪夜は心底嬉しいとばかりに俺の額にキスをした。俺の機嫌の治し方をよく理解している。
雪夜と養子縁組をして一番渋ったのは両親ではなく親戚だった。
親戚たちは跡継ぎはどうするんだとかスキャンダルになるだとか三橋病院を潰す気かとかギャーギャー騒いでいたけれど、俺の継いだ後は親戚たちで話し合って決めた人に跡を継いでもらうと言ったらピタリと止み、親戚同士で話し合いという地獄絵図が始まった。
父親は「世襲制だけじゃ倒れるだけだし、競争意欲をつけた方がいい。けど犯罪は許さん」と付け加えた。後はやる気のある親戚たちで頑張って欲しい。
そして俺は一軒家を建てた。これが雪夜にとって、俺から逃げるのを諦める一番の原因になったようだった。
養子縁組よりも家の方に重きを置いていたことに疑問を持ったので聞いてみると、「だって……家は売りにくいって聞いた事あるんですもん。マンションなら売りやすいって……」と家が建ったら覚悟ができたらしい。最初から一軒家にしておけば良かったと後悔した。
覚悟を持った雪夜は就職を決めた。正式にカフェの従業員となった。毎日楽しそうに仕事をしている雪夜は本当に可愛い。
日々戦場のような病院から抜け出して帰宅すると天使が待っているので、家は本当に天国のようだ。
「おかえりなさい、士郎さん」
「ただいま」
玄関を開けるとパタパタとスリッパで音を立ててやってくる。幸せの音だ。
法で縛り、家で囲い、就職により容易に逃げ出すことが出来なくなった彼を見て、俺は申し訳なさなど一切持ち合わせることはない。医者有るまじき非道だと思う。
「カバンを下さい」
「ああ」
先に歩く彼から~♪と調子の良い鼻歌が聞こえてくる。雪夜は本当は、こんな昭和から平成のような夫夫をしてみたかったらしい。今まではいつか別れた後辛くなるからと我慢していた事を一気に放出し始め、雪夜の好きなようにやらせている。
「お風呂入りますか? それともご飯に」
「雪夜」
「?」
「雪夜だ」
その割に初心な雪夜は意味がわかると同時に耳まで真っ赤にし、俺のカバンで顔を隠した。ぷしゅーと音を立て、沸騰している姿が可愛くてどうにかなってしまいそうだった。
「……す」
「す?」
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