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廉×碧
穏やかな日々
しおりを挟む「なー!碧!今日これから飲みに行こうって!」
背中からのしかかった友人がなあなあ、と言う。
大学の授業が終わり、さて夕飯の買い物に行こうとした矢先のことだ。リュックにペンケースを終いながら振り返らずに答えた。
「だーかーら、今日は無理」
「今日は、って。いつもじゃん! なーなー!」
悪いやつじゃないんだけど、こうなると少ししつこかったりする。
俺はあの後、一週間後には筒香先生の所に引っ越した。筒香先生は部屋の一室を俺の部屋にしてくれて、ベッドやら机やらを買い揃えてくれた。いつもの何倍も楽しそうに買い物をする姿になんだか癒されたし、それと同時に高い買い物をさせてしまって申し訳ない気持ちになった。
だからこそせめて毎日の家事は完璧にこなしたいのだ。週5回、夕食を共にするという約束も概ね守ってくれている。
緊急入院やらカンファレンス?というやつやら、勉強会やらで遅くなる時、あとは当直の時以外は必ず早く帰ってきてくれるのだ。
筒香先生が守ってくれているのに、俺が守らない訳にはいかない。
「いいじゃん!どうせそのバイト先兼、大家さんは夜遅いんだろ?!」
「遅いけどさぁ…世話になってるからなるべく夕飯作っときたいんだよね」
「ヒロ、やめとけって。碧が困ってるだろ」
「カズも寂しいだろー!」
ヒロが後ろからのしかかってる友人で、カズはヒロを後ろで宥めていた。どっちも高校からの友人で、俺の病気やら家庭、今現在の状況も理解してくれていた。
「まーそうだけど…けど、多分…碧を連れてったらお前あの大家に睨まれるぞ」
「はぁ?なんで。大学生になったんだから飲み会くらいいいだろ!合コンじゃないんだし!」
「いーから。やめとけ。 わりーな碧」
ズルズルとカズに連れてかれたヒロはギャンギャンと騒ぎながら講義室を出ていった。
飲み会に興味が無いわけじゃないし、友人も大切にしたい。でもどっちかっていったら筒香先生の約束を守りたい気持ちの方が大きい。
「……っは。これが筒香先生の患者さん達が言ってたやつだ……」
筒香先生に言われたことは守らなくちゃいけない気がする。
今まさに俺はその術中にハマっているのかもしれない。
「……でも嫌な気はしないんだよな」
家に帰れば、筒香先生の帰りを待って食事を作って、テーブルに向かい合って食事とる。夕飯の後は二人でソファに座ってテレビを見たり、持ち帰った仕事をしている筒香先生の隣で俺もレポートを書いたりしている。
凄く居心地が良くて、毎日が楽しい。
お酒にのめり込む必要だって、バカ騒ぎする必要もなく、穏やかな日々。
筒香先生は俺に凄く甘い。
作った食事は「美味しい」「また食べたい」「味付け丁度いい」とか、ちゃんと毎回感想をくれるし、休みの日は買い物も一緒に行ってくれたり、どこかに連れてってくれる。夜遅くなれば必ずオートロックなのに玄関閉めた、窓閉めたの確認連絡をしてくれる。友人と遊んでいると「気をつけて帰ってきてね」の後にそれとなく何処にいるのか聞いて、解散する頃に迎えに来てくれる。
高級車で迎えに来た時には流石にヒロもカズも驚いてぽかんとしていた。
スマホを取り出して時間を確認すると、ついでにSNSで連絡が来ていたことに気がつく。
「『やっぱり定時に帰れそう』……やば!早く買い物に行こ!」
返事よりも先に立ち上がり、俺は急ぎ足でスーパーに向かった。
買い物を終えて両手に袋を抱え、スーパーを出た所で見覚えのある車が丁度駐車場に停まろうとしていた。
「あれ? 筒香先生……?」
まさか、と思いながらも見ていると、俳優ばりのイケメンが車から出てきた。周囲の主婦はみんな振り返った。
いやそりゃびっくりするよな……スーパーが似合わなすぎて。
「あ、やっぱり」
「神木くん」
「先生もう帰れたの?いつもより早くない?」
「まあね。今日は本当に定時に上がらせてもらっちゃった。荷物ちょうだい」
「ありがとー、よく分かったね?ここのスーパーって」
「だって水金土はここ!って言ったの神木くんだよ?」
そうだった。特売している曜日が固定されているから決まったスーパーにしか行かないんだった。
「行き違ったかもよ?」
「うーん。第六感を信じるしか…」
「何それ、医者なのに勘とか信じるんだ」
「勘は大切です。その勘で神木くんを助けられました」
「あれ勘なの?」
「あの場所に居たのは勘だよ。たまたま。治療は勘じゃないからね?」
何気ない会話をしながら車に乗る。すっかりこの車に乗るのも慣れてしまった。
テンポの良い会話に、ゆったりとしたシート、そして穏やかな空気。
ずっと、このまま続けばいいな。
筒香先生の運転する横顔を見ながらそう思った。
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