【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸

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出会い side カシミール

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カシミール=グランティーノは生来真面目に生きてきた。そのおかげか、カシミールの周りに集まる人間も、真面目で勤勉、誠実な人間が多かった。

「カシム、調子はどう?」

中でも特に気が合うのが、このクラーク=アクセルソンであり、彼は真面目で誠実を体現している様な人間であった。

クラークはブラウンヘアーに、琥珀のような色をした瞳で、地味な印象を持たれやすい。
しかし、彼は優しくて穏やかな人間であり、更には伯爵家の三男で、魔法剣士として名を馳せており、見る人が見れば惹かれるのもよく分かる人物であった。

「あまり良くはない……偏頭痛が治らなくてな」
「そっか。 早く良くなるといいけどね…」
「ああ、ありがとう。 クラークは最近はどうだ? 可愛い恋人が出来たんだろう?」

一時期はクラークはとても落ち込んでいた。

恋人に裏切られて別れることになったと聞いた時は、真面目なのは馬鹿を見ることになるのか、と一瞬でも思ってしまった。
良く良く励ましたが、彼は別れた恋人を忘れられず思い悩んでいたようだった。

そして、クラークに転機が訪れる。

なんと、その真面目で誠実なクラークに、新たな恋人が出来たというではないか。
その恋人は、どうやらクラークとは真反対の人物、ディラン=シェルヴェンからの紹介だった。
あんな適当でちゃらんぽらんなディランから紹介されたと聞いた時には、その恋人は本当にマトモなのか、と不安になった。
しかし、ディランはクラークが求めていた理想の恋人を探し出し、あてがったという。
クラークを故意でなくとも裏切らない、健気で一途な恋人らしい。
それを聞いた時に、クラークにようやく笑顔が戻ったのにも感動したが、ディランの手腕にも驚いた。

「まぁね。僕に勿体ないくらい良い子なんだよ」
「クラークに勿体ないって…それほとんどのやつが勿体なくなるぞ」

冗談でなく、本気でカシミールはそう言った。
クラークは「そうかなぁ」なんて穏やかに微笑みながら言っている。

「カシムの方は…」
「俺はもう暫くは恋人は必要ないな。仕事で忙しいしな」
「……そう。まあお互い頑張ろう」

そう言って、クラークと別れ、帰途の道へ向かった。

クラークは俺の相談にもよく乗ってくれていた。だからこそ、気を使ってそれ以上のことを言わなかった。
穏やかで優しくて空気も読めるやつが、恋人として勿体ないというのは、やはり同意できない。
一度その恋人を見てみたい気もしてしまった。

「っ」

偏頭痛が過ぎる。 ズキズキと、拍動に合わせて頭に響く。
こめかみを抑えるが、暫く収まりそうにない。
痛み止めでも飲むかと立ち止まる。

「大丈夫ですか?」

すると、後ろから話しかけられた。
ほっといて欲しいと思いつつ振り返ると、そこには成人男性くらいの身長で、スラリと伸びた体躯の男が心配そうに見ていた。

「いや、大丈夫だ。ありがとう」
「そうですか? ……もしかして頭痛が酷いんですか?」
「……そうだが。薬があるから平気だ」
「ああ、でもあまり飲みすぎると効きにくくなりますよ」

その男は、艶のあるプラチナブロンドに、イエローダイヤモンドの瞳を持っていた。
軽薄そうな雰囲気のする男で、俺が1番苦手なタイプだった。

しかし、心配そうに見てくる男を無視することは出来なかった。

「……それでも飲まなくては」
「そうですか。 では私に任せてみてくれませんか?」

ヘラリと、軽薄そうな髪色に、軽薄そうな微笑みはよく似合っていた。

「任せる?」
「私、得意なんですよ。頭痛を治すのが」
「……は?」

新手の宗教勧誘のような気がしてきた。治すといって、騙されるような気がしたのだ。

カシミールの疑いの眼差しに気づいた男は慌てて頭と手をブンブンと横に振って否定した。

「ち、違いますよ! 私治癒の力が人より強いんです!」
「…いや、それでも」

他人を信用するのがちょっと、と口には出来ないが目で訴えた。
これで引いてくれるかと思えば、男は勝手にカシミールの手を掴んだ。

「な」
「ちょっと試しに! ほら!」

掴んだ手から暖かい感触が指先からゆっくりと広がってくる。治癒の力があるというのは本当のようだった。

しかし、治癒の力が強いのは重宝されているはず。教会や魔法師団のどちらかを通さないと治療は受けれないはずなのだ。

「物は試しに! どうですか?」
「……変なことをしたら、分かるな」
「は、はい。はは……大丈夫ですよ。結構評判いいんですよ」

そう言って、道端で止まっていたカシミールは近くにある大きな木の下のベンチに腰掛けた。

男はカシミールの後ろに回って、頭を両手で包み、マッサージを始めてきた。
治癒の力だけでないのには少し驚きつつも、それだけで頭痛が少し和らいだ気さえした。
程よい力で、丁寧にマッサージされ、そして先程と同様ゆっくりと練り上げられた癒しの力が頭部に浸透していくのが分かった。

暫くそのまま行って貰っていたが、ピタ、と動きが止まった。

「……あの、頭痛治まりました?」

カシミールが止めてくれると思っていたのだろう男は、不思議そうに、どこか怯えながら声をかけてきた。

「ああ、治まっている」
「そうですか、良かったです」
「……終わりでいいか」
「へ…あ、ちょ」

カシミールが席を立つと、男はまた慌てたようにカシミールの服を掴んだ。
恩を着せて、金でもせびるつもりだったのだろうか。
頭痛が治まったはずなのに、ぶり返してきそうだった。

「その頭痛、偏頭痛ですよね? いつも悩まされているのでは?!」
「……それがどうした」
「わ、私が治します! 毎日…は難しいかもしれないですけど、仕事の日は行けます!」

ピク、と反応してしまった。
この偏頭痛を治してもらえるのならばありがたい話だった。

「何が目的だ」
「っ、い、いえ。何も求めていません。ただ、治すだけです」
「その治癒の力を持っていて、見返りを求めない?ありえないな」
「ありえないかどうかは、試してからでいいのでは!」

しかし、後天的な人間不信はなかなか首を引っ込めない。
男がここまで食い下がるとは思いもしなかった。

「……本当だろうな」
「え、ええ! そうです。 えっと……第1騎士団のカシミールさんですよね? 仕事が終わったら第1騎士団出入口まで向かいます」

カシミールの名を知っていることにすら訝しむ顔をすると、またしても男は首を横に振った。

「いやっ、有名ですよ! クラークさんが氷の貴公子なら、カシミールさんは焔の貴公子と!」
「……それはやめてくれ」

カシミールの知らない間に、勝手に決められていた二つ名を言われ溜息をついた。

「すみません…あの、明日とりあえず向かいますので。よろしくお願いします」
「分かった。よろしく」

カシミールはそう伝えると、男はまたしてもカシミールの苦手な軽薄そうな笑みで言う。

「私、イヴ=スタームと申します。また明日会いましょう」

やはり、この固いような挨拶の割に、軽薄そうな愛想笑いを浮かべるこの男を、好きになれる気はしなかった。
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