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同罪 side カシミール
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カシミール=グランティーノは、ゆっくりと外に出ていくイヴの後ろ姿に「金は父親に送金した、好きに生きろ」と、そう言い放った。
イヴは振り返らず、フラフラと外に出ていった。
それからのカシミールは、こみ上げる激情を抑えることに必死だった。
悲しみと、憎しみと、そして怒りがグルグルと渦巻く中にいつまでも漂う感覚がした。
何日か経って、ようやっと欠勤していた騎士団に向かうことが出来た。
カシミールの姿を見かけたクラークが驚いた顔をしながら話しかけてくる。
「か、カシム! 何日も休んでいると聞いたんだ! 連絡をしたのに、返事がなくて心配したんだぞ!」
「……悪い」
クラークからは、毎日連絡の魔法を貰っていた。けれどカシミールには返す気力がなかった。
「ど、どうしたんだ……!そ、そうだ! 今日、終わったら迎えに来るから、少し話そう!君は、抱える癖があるから誰かと話した方がいい!」
クラークの焦りと心配が全身から伝わってきた。本当に出来た友人だと他人事のように思ってしまった。
そして、なんとか訓練を終えた後、クラークに連れられてカフェに入った。
中にはクラークの恋人、エメが先に到着して席に座っていた。
「お、おいおい、大丈夫かよ……いや、大丈夫じゃないな……一体どうしたんだよ、カシミールさん」
エメはカシミールの姿を見るなり、驚いているようだった。そして、明らかに様子のおかしいカシミールを見て何があったのかと、促される。
カシミールの目には生気が宿っておらず、なんの意欲も見受けられない状態だった。
「……イヴに騙されていた」
「騙されてた? 何を騙されたんだい?」
そして、カシミールは経緯を説明した。
ポツポツと、静かに話す。2人は真剣に聞いてくれていた。
「……そんな。ほ、本当……なんだね」
「マジかよ…え、カシミールさんはそれでイヴに聞いたのか?」
「聞いた。イヴはそれでも嘘をつき続けた。明らかに、嘘をついていた」
2人は絶句していた。これ以上なんと話しかければいいのか、必死に考えているようだった。
「そ、それで、イヴは今どうしてるんだい?」
「……知らない。父親には嫁に貰い受けると言った。だから支度金を送金したから好きにしろと伝えた」
「え! カシミールさんの家に居ないのか?!」
エメは驚いて、声が大きくなってしまったことに気づいて口を押える。
「……出ていかせた。どこに行ったかは知らない」
「そうなんだ……」
すると、エメは少し考え込んで、カシミールを見据えた。
「出ていかせた?カシミールさん、それは不誠実だと俺は思うんだが」
「何故。俺はこれ以上やることは無い。父親に言ったことはやったし、俺が庇う理由ももう無い」
エメがどうしてかイヴの味方になっているようだった。
納得がいかず、カシミールはすぐに反論した。
「……イヴは、実家に暮らしてたんだろ?実家を出たなら、イヴの居場所は何処にあるんだ? 家まで斡旋してあげたのか?」
「そこまでは」
「勝手に嫁に貰っておいて、騙されたからって勝手に捨てたのかよ」
「え、エメ……!」
エメのシトリンの瞳が強く光っている。
「そんな覚悟で旦那になったのか? なったつもりだったのかよ」
「エメ、落ち着いて」
「おかしいだろ。カシミールさんの話を聞いてる限り、イヴは家を出たいだとか、あんたと一緒になりたいだとか、結婚したいだとか一度たりとも言ってねぇじゃねぇか」
「しかし」
「しかしもクソもねぇよ! 金だけ出して、即捨てた?! 信じられねーよ! しかもその金は全部親父のもんだろ?!イヴが何を貰ったんだよ!何も貰ってないだろ!家も居場所も恋人も、全部あんたが奪ったんだ!」
「しかしイヴは俺を騙していた!」
「ああそうだろうよ!嘘をついただろうけどよ! でもあんただって同罪だ!嫁に貰うって嘘ついて追い出してんだ!」
エメは肩で息をするほど、怒りを露わにしていた。その横でクラークがエメを落ち着かせようとしている。
「それに、あんたと一緒にいた時のイヴは、全部嘘だったのかよ!あんたあんなに嬉しそうにしてただろ?! イヴが可愛くて仕方がないって顔をしてた!」
カシミールの脳に過ぎった映像は、イヴの愛想笑いでない、初めて笑ってくれた時のものだった。
そして、いつも恥ずかしそうにしながら手を繋いだりキスをしたり……
この3人でバーに行った時、「私も行きたかったです……」とものすごく残念そうに落ち込んでいる姿を思い出す。
元気づける為に、いつもは額にするキスを頬にすれば、いつもよりも真っ赤になって恥ずかしそうに走り去った姿を思い出した。
「カシミールさん。もう1回よく考えろよ。イヴがあんたにしたことは、そんなにあんたにとって悪いことだったのか」
「……」
「イヴはずっと、言ってただろうが」
「……なに、を」
カラン、とエメの前に置かれていたアイスコーヒーの氷が音を鳴らす。
「見返りは求めてないって」
イヴは振り返らず、フラフラと外に出ていった。
それからのカシミールは、こみ上げる激情を抑えることに必死だった。
悲しみと、憎しみと、そして怒りがグルグルと渦巻く中にいつまでも漂う感覚がした。
何日か経って、ようやっと欠勤していた騎士団に向かうことが出来た。
カシミールの姿を見かけたクラークが驚いた顔をしながら話しかけてくる。
「か、カシム! 何日も休んでいると聞いたんだ! 連絡をしたのに、返事がなくて心配したんだぞ!」
「……悪い」
クラークからは、毎日連絡の魔法を貰っていた。けれどカシミールには返す気力がなかった。
「ど、どうしたんだ……!そ、そうだ! 今日、終わったら迎えに来るから、少し話そう!君は、抱える癖があるから誰かと話した方がいい!」
クラークの焦りと心配が全身から伝わってきた。本当に出来た友人だと他人事のように思ってしまった。
そして、なんとか訓練を終えた後、クラークに連れられてカフェに入った。
中にはクラークの恋人、エメが先に到着して席に座っていた。
「お、おいおい、大丈夫かよ……いや、大丈夫じゃないな……一体どうしたんだよ、カシミールさん」
エメはカシミールの姿を見るなり、驚いているようだった。そして、明らかに様子のおかしいカシミールを見て何があったのかと、促される。
カシミールの目には生気が宿っておらず、なんの意欲も見受けられない状態だった。
「……イヴに騙されていた」
「騙されてた? 何を騙されたんだい?」
そして、カシミールは経緯を説明した。
ポツポツと、静かに話す。2人は真剣に聞いてくれていた。
「……そんな。ほ、本当……なんだね」
「マジかよ…え、カシミールさんはそれでイヴに聞いたのか?」
「聞いた。イヴはそれでも嘘をつき続けた。明らかに、嘘をついていた」
2人は絶句していた。これ以上なんと話しかければいいのか、必死に考えているようだった。
「そ、それで、イヴは今どうしてるんだい?」
「……知らない。父親には嫁に貰い受けると言った。だから支度金を送金したから好きにしろと伝えた」
「え! カシミールさんの家に居ないのか?!」
エメは驚いて、声が大きくなってしまったことに気づいて口を押える。
「……出ていかせた。どこに行ったかは知らない」
「そうなんだ……」
すると、エメは少し考え込んで、カシミールを見据えた。
「出ていかせた?カシミールさん、それは不誠実だと俺は思うんだが」
「何故。俺はこれ以上やることは無い。父親に言ったことはやったし、俺が庇う理由ももう無い」
エメがどうしてかイヴの味方になっているようだった。
納得がいかず、カシミールはすぐに反論した。
「……イヴは、実家に暮らしてたんだろ?実家を出たなら、イヴの居場所は何処にあるんだ? 家まで斡旋してあげたのか?」
「そこまでは」
「勝手に嫁に貰っておいて、騙されたからって勝手に捨てたのかよ」
「え、エメ……!」
エメのシトリンの瞳が強く光っている。
「そんな覚悟で旦那になったのか? なったつもりだったのかよ」
「エメ、落ち着いて」
「おかしいだろ。カシミールさんの話を聞いてる限り、イヴは家を出たいだとか、あんたと一緒になりたいだとか、結婚したいだとか一度たりとも言ってねぇじゃねぇか」
「しかし」
「しかしもクソもねぇよ! 金だけ出して、即捨てた?! 信じられねーよ! しかもその金は全部親父のもんだろ?!イヴが何を貰ったんだよ!何も貰ってないだろ!家も居場所も恋人も、全部あんたが奪ったんだ!」
「しかしイヴは俺を騙していた!」
「ああそうだろうよ!嘘をついただろうけどよ! でもあんただって同罪だ!嫁に貰うって嘘ついて追い出してんだ!」
エメは肩で息をするほど、怒りを露わにしていた。その横でクラークがエメを落ち着かせようとしている。
「それに、あんたと一緒にいた時のイヴは、全部嘘だったのかよ!あんたあんなに嬉しそうにしてただろ?! イヴが可愛くて仕方がないって顔をしてた!」
カシミールの脳に過ぎった映像は、イヴの愛想笑いでない、初めて笑ってくれた時のものだった。
そして、いつも恥ずかしそうにしながら手を繋いだりキスをしたり……
この3人でバーに行った時、「私も行きたかったです……」とものすごく残念そうに落ち込んでいる姿を思い出す。
元気づける為に、いつもは額にするキスを頬にすれば、いつもよりも真っ赤になって恥ずかしそうに走り去った姿を思い出した。
「カシミールさん。もう1回よく考えろよ。イヴがあんたにしたことは、そんなにあんたにとって悪いことだったのか」
「……」
「イヴはずっと、言ってただろうが」
「……なに、を」
カラン、とエメの前に置かれていたアイスコーヒーの氷が音を鳴らす。
「見返りは求めてないって」
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