【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸

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番外編

氷が張る side クラーク

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クラーク=アクセルソンは、人生最悪な日を更新してからの日々に多少辟易としていた。
ただ、それを目の前の人物に向けるのはあまりにも子供っぽいと思い、なるべく表に出さないように努めた。

カタリナ=ミルヴェーデンは、子爵家の生まれでかつてクラークの婚約者だった女性だ。

サシャ=ジルヴァールを好きになってしまった時に、クラークはサシャと付き合う前からカタリナへ誠心誠意謝り倒した。
ミルヴェーデン家もアクセルソン家も最後には納得し、カタリナ自身も「そうですか……仕方ありませんね。恋心は移ろいやすいものです」と寂しそうに笑顔を作って納得してくれた。

まさかその納得の裏側で、サシャの調査をして顔面偏差値を比べて諦めたとは露ほどにも思っていなかった。

「……カタリナ、何度来ても答えは同じだ。君も勘違いされるからあまりこの家には来ない方がいい」
「誤解されるならされるまでで構いません。これから先、一生、クラーク様以外の方と結婚できなくとも構わないくらいには決意を込めてここに来ています」

クラークは、可憐な花のようなストロベリークォーツの宝石に力強い光が宿っていることに溜息をついた。

「……ずっとお慕いしておりました。 サシャ=ジルヴァールの事があっても、ずっと忘れられませんでした。どうして、サシャ=ジルヴァールと別れた時に私のことを思い出して下さらなかったのですか」

クラークはもう一度溜息をついた。

「そんなの、当たり前でしょう。サシャがダメだったから元婚約者に『婚約破棄を戻して欲しい』なんて最低にも程がある」
「構いません。 今後も私が詰め寄って追い詰めて、恋人と別れさせられたことにして頂いて良いのです」
「僕がそういうことができないことを知っていて言ってるでしょう」
「……そういう噂を流します。そういう事が得意な人物を知っています」

カタリナが言っているのは、ディラン=シェルヴェンのことだろう。不本意ながら、クラークとエメの友人であり、仲人役だった人物だ。

ディランは広い友人関係を生かし、仲人のようなことから仲違いもさせることが出来、情報収集で噂をかき集め、そして噂を塗り替えることまでやってのける。
カタリナがディランに頼めばきっとすぐに広まる。

「ディランが面白がれば広まるだろうね」
「ええ、しかもご友人が傷つけられたとなれば動きますでしょう」

クラークとカタリナが元鞘に戻った時は、エメは確実に傷つく。ディランは友人としてエメのことをかなり気に入っている。
エメに不利にならないことはきっとバンバン噂を流すだろう。

その時は、クラークは確実にディランに見捨てられる。
ディランに見捨てられるのは構わないのだが、多少なりともクラークに醜聞か立つはずだ。

「……どうして、エメ様が結婚したいか尋ねられた時に即答なさらなかったのですか」
「出来ると思う? あんな三つ巴の空間で、カタリナの事が解決してないと分かった時点で即答なんか出来るはずがない」
「ですが、あの場ではそうする事が求められていたはずです」
「……生憎、僕は恋人に不誠実な態度は絶対にとりたくないからね」

だからこそ、エメはカタリナの接触を許したのだ。

エメは遠回しに、不誠実だと思っているなら自分で解決しろと言っているのだ。

「カタリナ、僕はエメが好きだ。 君とはそうはならなかった。ただそれだけだ」
「ですが、私とエメ様の一体何が違いましょうか。 身分?性別?口調?どれもクラーク様がエメ様を好きになった部分ではありません」

カタリナは1歩たりとも引くつもりがない。

「クラーク様が好きになったのは、一途で健気で絶対に自分を裏切らない性格です。そしてそれは私も持ち合わせております。何も違いありません」

断言した彼女の瞳は全く揺るがない。
けれどクラークにも言い分はある。

「サシャには勝てないと思ったのに、エメには勝てると僕の恋人を見下した君を、僕が好きになると思う?」
「……最初は難しいかもしれません。ですが絶対に振り向かせてみせます」
「申し訳ないけど、見下した時点でもう君は眼中にないよ。分かるだろう?」

強めに言うと、流石のカタリナも目を潤ませ始める。
しかし泣きたくはないのか、涙を堪えようと下唇を噛んでいる。
その姿は貴族としての矜恃を保ち続けていた彼女の珍しい姿だった。

「僕は裏切られたくないし、裏切りたくもない。どうしてエメを裏切って君と婚約を再度結ぶと思う? 」
「納得出来ません…! 彼と私はこんなにも似ているのに!」

クラークはまたしても溜息をついた。
彼女は何も分かっていない。

「僕は一度も君がエメと似ていると思ったことは無いよ」
「ですが、エメ様は似ていると思っているはずです」
「そうかもしれないね、でも」

エメがどんな行動に出るのかクラークは分かる。
だからこそ、クラークはエメとカタリナを会わせることを快く思わなかった。

「君もすぐに分かるよ、エメとカタリナが全く似てないことがね」
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