【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸

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番外編

健気の方向性 side クラーク

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クラーク=アクセルソンはカタリナがまたエメを呼び出したことを非難した。

「カタリナ。僕はエメと関わらないようにと頼んだはずだ」
「まーまー、クラーク落ち着けって。その殺気はカタリナさんにキツイだろ」

カタリナは勝手にエメを呼び出し、アクセルソン家へ連れてきた。クラークはエメが到着した瞬間にカタリナへ殺気を向ける。

「……そのことに関してはお詫び致します。ですが、クラーク様が言った、『私とエメ様が似ていない』という点がどうしても不可解なのです」

殺気を向けられながらもなんとか絞り出して話すカタリナ。カタリナのストロベリークォーツが揺れる。

「それ昨日ターニャにも言われたな」
「……教えて下さい。何が違うんですか」

クラークは溜息をついてエメに向き直る。
一度だって聞きたいとは思ってこなかったことを、聞かなければならない苦痛を味わうことに地獄を感じた。

「……エメ。もし僕がカタリナと婚約を再度結ぶって言ったらどうする?」
「どうもしねーよ。クラークがそうしたいならそれがクラークにとって1番なんだから」
「諦めるということですか?」

それなら自分もした、と言いたげな表情を見せる。

クラークとしては、これ以上エメに言って欲しくない。想像もして欲しくないと思っている。
けれど、カタリナは聞かなければ納得しないだろう。

「諦めるとかじゃねーよ。俺は俺でクラークが好きなままだし、友達くらいにはなりたいと思うよ。俺は別にクラークと居られるならどんな関係性だって構わないって思ってるからな」

クラークはやっぱり、と額に手を当てて落ち込んだ。

エメの健気は紙一重だと思っている。
クラークを支えるという意味では、夫婦でも婚約者でも恋人でも、友人でも構わないと本気で言ってるのだ。

「そんな簡単に諦められるなら!友人でも構わないのなら……!」
「だから、諦める訳じゃねーってば。クラークが俺と別れたいってならしつこく言ったって仕方ねーだろ。無理に俺と居たってクラークが幸せになれないし、それはクラークにとって1番にならない」
「あー! もうエメ止めてくれ!」

悲痛な叫びのようにエメを止めれば、カタリナは顔色を悪くして2人を見ていた。
恐らく、カタリナとエメの健気に差があることに気づいたのだ。

「も、もし結婚なさったら……どうするのですか。それこそ、クラーク様は騎士で在られますし先に……」
「カタリナ!」

1番聞きたくなかったことをカタリナに問われようとして、彼女を止めるがエメは察し良く答え始めてしまう。

「そうなった時はそうなった時だ。その時に婚約者だろうが恋人だろうが夫婦だろうが友人だろうが、俺がやることは一緒だよ」
「一緒?」
「クラークが守った国に生き続けるよ。でも、俺はクラークを裏切りたくないから一生一人だろうけどな?」
「……後追いは、しないのですか」

エメはそのカタリナの問いに、向日葵が咲いたように答える。

「しねーよ。そんなの俺にとっては自己満足だ。クラークが確かに生きてたことを実感しながら生きてくんだ。その方が絶対に楽しいし、幸せだと思う」

彼女は言葉を失う。
自分とはまるで違う生き物に出会ったような表情をして、俯いた。

「……なんでクラークの方が青白いんだよ」
「エメのその感覚は心臓に悪い」
「…エメ様の愛は、深いのですね。そして、綺麗でした」

ポツリと呟くカタリナに、エメは苦笑する。

「そんなこともないと思うけどな? これを本人の前で言ってる時点でめちゃくちゃ重いしな」
「私は……エメ様に嫉妬しただけでした。自分より劣るところがあると思い込んで、貴方を見下して……」
「劣るっていう言い方は気に食わねーけど、まぁその通りだよな。男だし貴族じゃねーし口悪いし」

カタリナのストロベリークォーツのような瞳から堪えきれなかった涙がポロポロと流れ出る。

「私は、エメ様の足元にも、及ばないのですね……」
「カタリナさんに言われてダメになるくらいなら、そこまでの関係だっただけだ」
「……完敗です」
「別に勝ち負けじゃねーって。クラークが決めるもんだって最初から言ってあっただろ?」

『この行く先はクラークが決めることだ。俺でもカタリナさんでもない、それは分かってるんだよな?』
カタリナに初めて宣戦布告をされた時に言った言葉だった。

「最初からずっとエメだけどね」
「……クラーク。お前、優しさは一体どこに行ったんだよ」

スパッと言い放ったことで、エメにジロ、と見られる。

こっちは聞きたくもないことを聞かされて苛立っていた。
エメがとにかく健気なことも一途なことも分かってはいる。それはそれで、嬉しいのは当然の感情だが、もしも話で別れたり死別した時のエメの行動を直接聞きたくはない。

「カタリナ。今後一切エメに」
「カタリナさんさぁ、今度俺の友達と会ってよ」
「エメ?!」

クラークの話を遮るかのようにエメはとんでもないことを言い出した。

「俺の女友達は恋多き乙女でな、ダメな男を捕まえては反省会するんだけど、カタリナさんときっと仲良くなるよ」
「で、ですが……」

チラ、とクラークの方を見てくるカタリナ。涙目の上目遣いに絆された訳では無いが、やはり悪いことをしている気分にはさせられる。

「クラークのことは気にすんなって。女友達もクラークとは会ったことねーし。きっとカタリナさんのこと気にいると思うんだよな」
「ど、どうしてですか……?」
「俺の女友達も、基本一途で健気だからな。話が合うぞ」

なんてことないように、今まで敵だった彼女を味方に引き込むエメ。カタリナも何となくだが行きたそうにソワソワとし始める。

クラークは最早エメを止めることなどできるはずもなく、深く溜息をつく。

「よし! 決まりだ! また連絡するよ、カタリナさん!」

そう言って、エメの等身大の笑顔でこの事件は幕を引いたのだった。
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