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3、シュリ=セレットの欠点
しおりを挟むパーティー当日。そこには結婚適齢期の女性たちがひしめき合い、少数だが後継ではない次男や三男以下の男子もちらほら見かけた。
そこに、友人であるセレサ=カールション伯爵令嬢も見つけたのだった。
「セレサ。来てたの?」
「あら、シュリもやっぱり来てたのねぇ。お兄様に言われてきたのぉ?」
「あーうん、そう。まぁ一応行ってよって言われてね」
セレサはコロコロと花が綻ぶように笑いながら兄がシュリにどう言ったのか思い浮かべているようだった。
のんびりのほほんと話すセレサは、可愛らしい外見でシュリ同様男に人気がある。
しかし、セレサはどちらかと言うと女性がタイプのようだが。
「シュリのことだから、もう行く前提で話されたんでしょうねぇ」
「…当たり。兄上はずるいよ」
「あらまぁ。きっと早くお相手を見つけてほしいのよぉ」
「早く出てってほしいだけだよ…」
働いているとはいえ、シュリに実家にずっといられるのも対外的に良くないとニコラスは思っているのだろう。
「しかもメア様はシュリのタイプでしょう?」
「まぁ…カッコいいしね」
「ふふ。それだけじゃないくせに。真面目で勤勉、この間の事件のことがおありでも、誤解だと知っている方はお優しいというレッテルは剥がしていないのよぉ?」
「だから無理だよ。そんな物件目の前にあったらセレサはどうする?」
「意地でもモノにするわぁ。でも女性じゃないのが残念」
どうやらセレサはもはやパーティーは暇つぶしくらいの感覚しかないのかもしれない。
いや、セレサはご令嬢たちを見に来ている様だった。
「セレサは楽しそうだね…」
「あら。シュリだって別に次期公爵様を見るだけじゃなくて、男の方を見ればいいじゃない?」
「…自分と同じようなタイプしかいないからなぁ」
来ている男性は、大体シュリと同じように華奢で男にしては可愛らしい容姿をしている男性ばかりだった。
シュリはカッコよくて包み込んでくれる男性がタイプなので、当然却下である。
「じゃあシュリはこのパーティーを頑張ってみたらどう?」
「えええ…」
それでも乗り気になることは出来なかった。メア次期公爵とは話したこともないし、目を合わせたことも無かった。
選ばれる自信はどこにも無かった。
「こんなパーティーどうして開いているんですか?!」
そしてそんな和気藹々としたパーティーにつん裂くような叫び声が響き渡った。
シュリもセレサも、周りの出席者達も一斉に声の主に目を向けた。
驚くことに、いつの間にかシュリの隣にいた令嬢…リリー子爵令嬢だった。
シュリはいきなりのキーの高い叫び声に耳を塞いだ。
「しかも男も婚約者候補にするなんて!私に対する当てつけですか?!」
リリー子爵令嬢はやっぱり似合わない煌びやかなドレスを身に纏っていた。
隣でセレサはボソッと聞こえないように「五月蝿いハエが飛んでるわぁ」と言っていた。聞こえていないようで本当に良かったとシュリは現実逃避しかかっていた。
そんな現実逃避したいシュリの腕をリリー子爵令嬢は怖い顔で急に掴んできた。
「アンタみたいな男がどうしてメア様に選ばれると思ってるのよ!?」
「い、いたた!」
突然手首を掴まれシュリは驚く。
女性なのにここまで力が強いと思わなかった。シュリは痛みに顔を歪める。
しかし振り解けば今度は暴力を振るわれたと言われそうだ、と一瞬で判断して我慢して説得することに決めた。
セレサの心配そうな顔が見えたが、近づかないようにジェスチャーをした。
「り、リリー様。手を離してくれませんか?僕は別に選ばれると思ってません。家の命令で仕方なく参加しているだけで…」
「そんなわけないじゃない!どうせメア様の外見やお金に目が眩んだんでしょ?!」
それは第二皇子を選んだリリーの方じゃないか、と言ってやりたかったが、これ以上興奮させるのは良くないと思いシュリは口を噤む。
「…なんの騒ぎだ」
その声の主のために、パーティー会場にいた人々が海が割れるように避けていき、道ができた。
その道の先には、金髪碧眼で容姿端麗な、このパーティーの主役であるメア=エルネスト次期公爵が立っていた。
「メア様!どうして私のことをあの場ですぐに諦めてしまわれたのですか?!こんな当てつけみたいに婚約者探しまでして!」
そんなメアに向かって叫ぶリリーは、一向にシュリの腕を離そうとしない。むしろ仲間と思われてしまうのではないかとちょっと焦る。
というか、シュリは手首が軋む音がして本当に痛い。女性にこんな力があるのかと思うほどだった。掴まれたのがセレサでなくて良かったと冷静に思っていた。
「当てつけだったのはそちらだ。あんな公の場でわざわざあのようなことを言わなくても良かったのでは?」
「…それは皇子が勝手に!」
「リリー子爵令嬢。それ以上は不敬と取られるぞ」
メアに言われたリリーは唇を噛み締めて悔しそうにしている。しかし手首の力は緩めてくれない。
「そちらの方を離せ、関係ないだろう」
「…なぜ男まで呼んだんですか!?子も産めないような男を!」
「私は君に子供を産めと強要した覚えはない。産んでくれたら嬉しかったが、産めないならそれでも別にいいと思っていた」
「そんなこと…!一度も言ってくれなかったではありませんか!」
話の流れでなんとなくだが、シュリもセレサも周囲の出席者も理解し始めたようだった。
おそらく、リリーはなんらかの原因で子を産めない体なのではないか、と。
それでどうして婚約破棄になったのかは理解できないが。
「口にすれば傷つくと思った。君はプライドが異様に高かったからな。いいから、離しなさい」
「く…だったら!あの場でどうして言い返してくれなかったんですか?!私のことを愛してくれるならば…!」
シュリはもう痛みで限界だった。
シュリは基本的に穏やかな方だと思うが、一つ欠点があった。
「おい、お前。ふざけんなよ」
リリーは隣から地獄のように低い声がして驚いて固まった。固まったせいで腕は離さなかったようだが。
セレサは少し笑いを堪えているようだった。これからシュリが何をするか分かっているからだ。
「お前が黙ってたから婚約破棄になったんだろうが!人のせいにしてんじゃねぇよ!何が当てつけだよ!お前なんか皇子の肩書き使って大勢の前で恥かかせやがって卑怯にも程があんだろうが!大体お前が暴言吐かれただの暴力振るわれただの適当な嘘ついてることくらいここにいる奴らは分かってんだよ!分かってるからこんなに集まってんだよ!」
さっきまで勢いのあったリリーは、隣の軟弱だと思っていた男が怒りに任せて叫ぶ姿に目を見開き、震え始めた。
ちなみにセレサはコロコロ笑っている。
シュリの欠点はただ一つ。
「お前なんかお呼びじゃねーから帰れよ!」
そう言って逆の手で中指を立てるというおよそ貴族らしくない行動をとってしまうほど、逆上しやすい性格のことだった。
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