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13、心の困惑
「大変申し訳ありませんでした!!!」
シュリはホテルの中にある応接室のような場所で、これ以上ないほど頭を下げ続けていた。
「いやいや、気にしてないから頭を上げてくれ」
「そうだよシュリ、カッコよかったよ?」
責任者であるメアの友人ヴァレリは苦笑して、シュリの婚約者であるメアはニコニコとしている。
「いやしかし、あれが噂の…すげぇな。メアが言った『気にいる』って意味が分かったわ」
「そうだろう?私の婚約者は可愛いのにカッコいいんだ」
「め、メア…もうやめて下さい。僕が悪いのは確かなんですから」
メアはシュリをどうあっても褒め続けるので、反省しているシュリは居た堪れない気持ちになってくる。
それでもメアはシュリの肩を抱いてニコニコとしている。
「どうして?悪いのは明らかに伯爵の方だったのは見ていた人たちみんな分かっているし、シュリは何も悪いことしてないよ?」
「…よ、よりにもよってセレット家より上の当主に喧嘩を売ったことが母上と父上にバレたら勘当されます…」
「私の家に嫁ぐんだから問題ないよ」
「いやしっかし、すげぇ勢いだったな。あれがシュリの素なのか?」
ヴァレリに言われ、シュリは、うぐ、と喉を鳴らして固まる。
シュリ的にはいつもの穏やかで大人しい方が素のつもりなのだが、ヴァレリにとっては違うようだった。
おそらく隣でニコニコとしている婚約者もそう思っていそうだった。
「あの…できれば今日あったことは他言無用でお願いします。父と母と兄と…友人のセレサにバレたら…本当に僕の頭に雷どころか竜巻が降ってきます。いえサタンが降ってきます…」
「他言無用って言ってもな…もう他の参加者は帰ってる人たちもいるからな」
「ああああああ…」
シュリの人生は短かったな、と絶望する。
「ホテル側としてはあの伯爵と一族は出禁にするし、むしろきっかけがあって助かったくらいなんだ。本当に気にしなくていい」
「ああ、やっぱり元々問題起こしてたの?」
「他のホテルでもスタッフにセクハラやら暴力やら結構な。今回の件でもう一族まで出禁にすることが決まったからシュリはむしろ大金星だ」
「僕の頭には隕石が降ってきそうです」
どれだけヴァレリとメアに慰められようとも、シュリは自宅に帰った後の出来事を思えば浮上することができなかった。
シュリは本気で帰りたくない。
「じゃあ今日は帰らないでホテルに泊まる?」
するとメアは突然笑顔を絶やさずに言い出した。シュリは急なことに頭が上手く回らず戸惑った。
「え?え?」
「お、いいぞ。メアには嫌な思いさせたし、シュリには助けられたからスイートでもどこでも好きなところに泊まってくれ」
ヴァレリはメアの提案に乗っかるように場所の提供をしてくる。
何の心の準備もないままホテルに泊まるとは、シュリの心中は穏やかでなかったが、さらに感情の津波が起こり始めていた。
「え?でも、え?」
「じゃあ遠慮なく泊まらせてもらおうかな。ヴァレリ、請求は公爵家にしておいて」
「するかよ。今日は良いって」
シュリが追いつかない感情に流されかかっている間に二人で何か決まってしまったようだった。
ヴァレリがスタッフを呼ぶとすぐに現れ、メアの手に引かれるまま、スタッフの後を追うように歩いていくのだった。
□■□
シュリは未だ感情の渦に取り残されていた。
案内された場所はスイートルームのようで、とにかく広い。ホテルなのに広い。シュリはばかデカい豪華なソファに座ってボケっとしていた。
ちなみにメアは居ない。なぜかシャワーを浴びに行っている。
「え…?今日、そういう感じあった?」
別にシュリは初めてではない。五人くらいと付き合ったことがあるし、そういうことも致している。
貴族は処女性を重んじるというが、男のシュリにとっては処女を重んじる必要はないと思っているし、好きな男がいればそういうことをしたいと思うくらいには性欲も持ち合わせている。
しかしだ。これが婚約者となれば…メアとなれば話しは変わってくる。
シュリはメアが好きだ。
容姿も性格も体格も、全てがシュリの好みでこれ以上ないほどの男だと思っている。
そんな男と婚約者になれただけで奇跡だと思っている。
けれどもメアはシュリを本当に好きなのかよく分からない。
シュリの罵詈雑言姿に惚れた…らしいが。容姿もその辺の男よりは可愛いと言う程度だ。
それにシュリと結婚してもメアにはなんの特もない。
そもそもメアはきっとノーマルだ。
シュリは男の方が良いと思うが、それはシュリにそういう性癖があっただけで、メアはきっと無い。
「…困った」
「何が困るの?」
「うわぁ!」
いつの間にかシャワーから出てきたメアの声が後ろからかけられて、ソファからピョンと飛び上がる。
メアの方に慌てて身体を向けると、ガウンを着て髪をタオルドライしているメアの姿があった。
濡れている髪も、少し蒸気した頬も、ガウンを着こなしている姿も、全部が扇状的でシュリは目線を泳がせた。
「あー…っと、ぼ、僕も入ってきます!」
「ふふ、行ってらっしゃい」
恥ずかしくて居た堪れない。
こんなの、今までの恋人とだってここまで恥ずかしいと思ったことはないのに。
シュリの心はままならなかった。
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