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17、激しめの思い込み
「シュリー、今日は飲みに行こうぜー」
定時退勤間際、職場の同僚アドルフにシュリは誘われた。
「いいよ、こないだ断っちゃったし。久々に行こう」
「お!今日は行けんのか! よっしゃ!」
アドルフはシュリとだいたい同じくらいの背格好である。そしてシュリと同じで男が好きである。
アドルフと飲みに行くとなると、男がそういった理由で誘うバーになるのだがシュリはまあいいか、と思うことにした。
あの最高の一夜から、二週間経っていた。
メアからの連絡は完全に途絶えた。
シュリが途絶えさせた訳では無い。本当にメアから連絡が無いだけだ。
しかしシュリは少し寂しいという気持ちがあるだけで、それ以外は全く気にしていなかった。
「んで? ここ最近めちゃくちゃ幸せそうにポーっとしてたけど、もしかしてシたのか?」
バーに着いて一口飲むなりアドルフは聞いてきた。
シュリはグラスをテーブルに置いて、拝み出した。
「いやもう……最高の一言だよ……」
「ええ?! ホントに婚約なのにヤったのかよ! まぁ男同士だし、処女もなにもないか?」
「いやいやアドルフ、婚約は終わりだよ」
シュリはニコニコと笑顔で言うと、アドルフは不思議そうに首を傾げた。
「は?どういう意味だよ。やることやったんだろ?なんで終わるんだよ」
「ノーマルのメアが僕を抱いてくれたんだよ? すごくない? しかもさ、ずーっと好きとか可愛いとか愛してるとか囁いてくれて、文句の付け所のない最高なセックス。もう思い残すことはないね…」
「いやいや意味わかんねーわ。なんで終わろうとしてんだ、これからだろ」
アドルフの頭は混乱していた。
「本気で結婚するとは僕も思ってないよー、だって公爵家当主だよ? 子供産めないのに僕とヤる意味なくない?なのにそんな意味の無い慈悲を僕にくれたんだよ……感謝して生きていかなきゃ……」
そしてシュリはまた手を合わせて目を瞑り、拝む。
シュリにキラキラと光が差し込んでいて神々しいまであった。
「……頭おかしくなったんじゃねぇか?大丈夫かよ……てかなに、じゃあ婚約破棄したってことか?」
「メアは優しいから言い出せないみたいだけど、自然消滅ってあるのかな?」
「婚約に自然消滅なんかあってたまるかよ。ねーよ」
「ええ? そうなの? じゃあそのうち連絡あるかなぁ……最後にご尊顔を拝まなきゃ」
メアに対する神格化が進みすぎてアドルフはシュリにドン引きした。
すると、シュリの肩を誰かが後ろからポンと叩いてきた。
「シュリ、こんな所で会うなんて奇遇だな」
「ヴァレリさん! お久しぶりです」
「? 誰?」
「あ、この人はヴァレリさんって言って、新しく出来たホテルのオーナーで、メアの親友だよ」
「初めまして、ヴァレリだ。ご一緒しても?」
「は、初めまして。シュリの同僚のアドルフです。どうぞ…」
握手を求めてヴァレリが手を出すと、人見知りのあるアドルフはそろ、と手を出して握手を交わした。
「それで、ヴァレリさんはどうしてここに?」
「ここは俺の店なんだよ。それよりも最近はメアが忙しそうだけどちゃんと会ってるのか?」
「会ってないですよ?」
ヴァレリは一瞬固まったが、シュリは全く気にしてなさそうだった。
アドルフはため息をついてヴァレリに話し始めた。
「ヴァレリさん。メア様が婚約破棄するつもりかどうか知ってます?」
「はぁ? 何言ってんだ? あいつのトラウマみたいなもん、メアがする訳ないだろ」
「いやいやヴァレリさん、メアは言い出せないだけなんですよ」
シュリがそう言うと、先程のアドルフと全く同じ顔をヴァレリはすることになった。
「……どういうことだ?アドルフ、説明してくれ」
「シュリは公爵家当主が男と結婚なんかする訳ないと思っていて……でもってメア様が優しいから婚約破棄が言い出せないと思ってるんですよ」
「……何言ってるんだ?シュリは」
訳が分からないと言った表情をそのままに、シュリの方を見ても、いつもの穏やかで大人しい雰囲気のままニコニコとしている。
「さっきアドルフにも言いましたけど、ノーマルのメアが僕を抱いてくれただけで幸せでした……メアは一生僕の神様です」
「え? なに? シュリは婚約破棄したいのか?」
「? したいとか、したくないとかじゃないですよ? するんですから」
シュリはあっけからんと言い放つ。
「婚約が無かったことになる前に、キスくらいはしてくれるかもなんて思ってたら何度もしてくれるし、あまつさえ男の僕を抱いたんですよ?あの僕の理想を全て詰め込んだ人が。凄いことです……」
「……やばいなコレ。メアに連絡するわ」
「いやいや、やっぱり自然消滅が良いに決まってます!僕は一生あの夜を思い出に一人で生きていく決意は出来てるんで!」
アドルフとヴァレリは手を組んで天を仰ぐシュリを見て同じことを思うことになった。
「でももし婚約破棄する前にあと一回、あのご尊顔を拝めるなら……もう思い残すことはありません……!」
人を好きになるとは馬鹿になる事なのか、と。
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