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2章
雲泥万里
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「で、話ってなに?」
レイは恐ろしく冷淡だった。初めて見る顔つきで、それはまるで棘のある薔薇のような美しさだった。
目の前の檻の中には、レイとノアの両親を殺した叔父のゴードリックがいた。ゴードリックは髪や髭が伸び放題でボサボサになっていたが、瞳は死んでいない。
レイを見てせせら笑うゴードリックに狂気すら感じた。
「……ノアは来ねぇのかぁ?」
「会わせるわけないでしょ、あんたが死ぬことすら知らないよ」
ノアには刑の執行だけでなく、罪状すら伝えられていない。ノアは既にゴードリックに少なからず同情してしまっている。
ゴードリックが今回起こした事件の動機は、レイとノアの母、ジェレナからの裏切りと懸想だ。ノアはそれを知って、同情を感じた。だからこそ、ゴードリックの事を知らせることは止めた。これはレイと公爵家の総意だった。
「知らない?そんなわけねぇよ。知らないフリしてやってるだけだろ?お前のためになぁ」
「……僕のため、ね」
「ああ、お前の名前を出すだけでノアは面白いほど言うことを聞いたなぁ。知ってるか?突っ込んでる最中にお前の名前出すと締まりが」
「それだけ?僕に言いたいことは」
遮るようにレイが言うと、ゴードリックは愉快そうに笑う。
「お前、強気な理由は後ろの男か?違うなぁ?俺が聞いてたやつと違うやつだな」
レイにしか興味がなさそうだったが、俺に視線をうつしてきた。俺は睨みもせず、怒りを出さないように感情を殺して視線を逸らさなかった。
「はは!双子で入れ替えたのか!面白いなぁ、お前ら!」
「…お前には何も関係ない」
「関係ない?いやいや、あるな!ノアはお前の相手だと分かっていながらやることやってやがったんだろ?!ああ!その事を知っていたらもっと楽しめたのになぁ!」
「下衆だな、お前死んで正解だよ」
ゴードリックは更に声を張り、レイにニヤニヤとする。
「おい!ノアを呼べ!ああ、会いたい!会って言ってやりたい!」
レイはそれ以上言葉を発しなかった。ゴードリックの興味がレイにないことは最初から分かっていた。レイは、絶対にノアには言わないだろう。死ぬまで墓に持っていくだろう。
「お前は俺と一緒だってな!」
はははは、と笑い声が響く牢屋は仄暗く、レイは一切の感情をゴードリックへ渡さなかった。
馬車に乗った帰路の最中、レイは窓の外を見ていた。やはり感情は見えなかった。言葉を尽くして慰めることも、怒りを露わにすることもここでは何もレイには響かないだろうと察する。
「ルーク、ありがとね」
ぽつりと小さな声だったが、俺には届いた。
「……ああ」
「あいつはやっぱり、ノアを最初から狙ってたんだなぁって分かったよ。どうしてノアだったのかも、分かった」
レイは静かに、ゴードリックの言葉を反芻して理解してやろうと考えていた。レイにとっては、それがノアに出来る償いだと思っているからだ。
「同じだってね。同じだから選んだんだ。……これで僕も少しはノアの背負う荷物が分かったかな」
「…俺は、分からなかった。でも、レイが理解したならそうなんだろ」
「そう。…それでも僕は、あいつとノアは違うって思ってる」
理解をした上で、ゴードリックとノアは一緒ではないと、1番理解に近いレイが言っている。俺は何も言ってやれなかった。何を言えば正解なのか分からなかった。
「ノアは何も踏みにじってない。僕は、何も踏みにじられてなんかない」
ゴードリックの処刑は、1ヶ月後に決まった。
レイは恐ろしく冷淡だった。初めて見る顔つきで、それはまるで棘のある薔薇のような美しさだった。
目の前の檻の中には、レイとノアの両親を殺した叔父のゴードリックがいた。ゴードリックは髪や髭が伸び放題でボサボサになっていたが、瞳は死んでいない。
レイを見てせせら笑うゴードリックに狂気すら感じた。
「……ノアは来ねぇのかぁ?」
「会わせるわけないでしょ、あんたが死ぬことすら知らないよ」
ノアには刑の執行だけでなく、罪状すら伝えられていない。ノアは既にゴードリックに少なからず同情してしまっている。
ゴードリックが今回起こした事件の動機は、レイとノアの母、ジェレナからの裏切りと懸想だ。ノアはそれを知って、同情を感じた。だからこそ、ゴードリックの事を知らせることは止めた。これはレイと公爵家の総意だった。
「知らない?そんなわけねぇよ。知らないフリしてやってるだけだろ?お前のためになぁ」
「……僕のため、ね」
「ああ、お前の名前を出すだけでノアは面白いほど言うことを聞いたなぁ。知ってるか?突っ込んでる最中にお前の名前出すと締まりが」
「それだけ?僕に言いたいことは」
遮るようにレイが言うと、ゴードリックは愉快そうに笑う。
「お前、強気な理由は後ろの男か?違うなぁ?俺が聞いてたやつと違うやつだな」
レイにしか興味がなさそうだったが、俺に視線をうつしてきた。俺は睨みもせず、怒りを出さないように感情を殺して視線を逸らさなかった。
「はは!双子で入れ替えたのか!面白いなぁ、お前ら!」
「…お前には何も関係ない」
「関係ない?いやいや、あるな!ノアはお前の相手だと分かっていながらやることやってやがったんだろ?!ああ!その事を知っていたらもっと楽しめたのになぁ!」
「下衆だな、お前死んで正解だよ」
ゴードリックは更に声を張り、レイにニヤニヤとする。
「おい!ノアを呼べ!ああ、会いたい!会って言ってやりたい!」
レイはそれ以上言葉を発しなかった。ゴードリックの興味がレイにないことは最初から分かっていた。レイは、絶対にノアには言わないだろう。死ぬまで墓に持っていくだろう。
「お前は俺と一緒だってな!」
はははは、と笑い声が響く牢屋は仄暗く、レイは一切の感情をゴードリックへ渡さなかった。
馬車に乗った帰路の最中、レイは窓の外を見ていた。やはり感情は見えなかった。言葉を尽くして慰めることも、怒りを露わにすることもここでは何もレイには響かないだろうと察する。
「ルーク、ありがとね」
ぽつりと小さな声だったが、俺には届いた。
「……ああ」
「あいつはやっぱり、ノアを最初から狙ってたんだなぁって分かったよ。どうしてノアだったのかも、分かった」
レイは静かに、ゴードリックの言葉を反芻して理解してやろうと考えていた。レイにとっては、それがノアに出来る償いだと思っているからだ。
「同じだってね。同じだから選んだんだ。……これで僕も少しはノアの背負う荷物が分かったかな」
「…俺は、分からなかった。でも、レイが理解したならそうなんだろ」
「そう。…それでも僕は、あいつとノアは違うって思ってる」
理解をした上で、ゴードリックとノアは一緒ではないと、1番理解に近いレイが言っている。俺は何も言ってやれなかった。何を言えば正解なのか分からなかった。
「ノアは何も踏みにじってない。僕は、何も踏みにじられてなんかない」
ゴードリックの処刑は、1ヶ月後に決まった。
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