【完結】泥中の蓮

七咲陸

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1章

グウェンの悪癖※

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1年前、いや8年前の自分が今目の前に居たとしたら

「あ、あ、あぁ!ん!ふっ…あ!」
「気持ちいいか?」
「あ゛ぅっ!う゛!きもち、イイ、はっ…あぁ…!」

首根っこ掴んで言ってやりたい

「ん゛っ!んん!ふぅ、うう」
「こら、唇を噛み締めるな。声は聞かせろ」
「んぐぅ…あ!あ!あ!~~~~~っ
!!!」
「……っは。…ノア、まだ俺が終わってない」
「ふぁ…っひぃ!あ!もぅ、むりぃ!あ!ぁん!」

この男の性欲は無尽蔵だから、体力を付けるのを諦めてはならないと。



「ノア様。おはようございます」

カーテンを開く弟と共に、ソプラノの優しい声が耳に心地よく響いて、目が覚めた。覚めたと言っても夢現のままの眼に眩しすぎる日差しは毒と言っても過言ではない。

「アイリス…おはよう、今何時……?」
「昼の12時ですよ。旦那様から起こさなくていいと申し付けられてましたが、さすがに昼食を抜くのは良くありませんので起こしました。」
「ああ…そんなに寝てた……」

気怠い身体と頭へ鞭を打って、上半身だけゆっくりと起こす。所々、何故か痛い気がする。不思議に思っているとアイリスが手で口の当たりを押さえながら目だけは笑わずに含み笑いをしていた。

「…昨晩のご様子が伝わりますね」
「え……うわっ!ご、ごめん!」

裸だった上に、所々に赤い跡や歯型がついていた。比較したことがないから分からないが、その数はちょっと異常だと思うくらいについていた。

「いえ、良いんですよ。旦那様とその婚約者様が仲睦まじいことは…うふ」
「目だけ笑ってないよ…」

最近、公爵家を出て新居に引越しをした。グウェンからは誕生日プレゼントも兼ねていると広い土地付きで渡されたのだ。あまりの広さと細工模様が所狭しとされた職人技が光る壁や柱のある家に感動の前に怯えてしまった。まさかプレゼントが屋敷だとは思っていなかった。そして引っ越してから2週間経つが、未だに全部屋を見たことがない。と言うか、グウェンの部屋とシャワー室、トイレにしか行けていない。

「まぁさすがにそろそろ落ち着くのではないですか?」
「…昨日もアイリスはそう言ってくれたよね…」

無言で視線を逸らされた。この生活は2週間ずっと続いている。朝はベッドから起き上がれず、昼まで爆睡。何とか起き上がってシャワーを浴びて、はしたないがベッドへ戻って軽食をとり、夜にまた…と言う繰り返しである。

「とりあえず、お手伝い致しますので湯浴みを致しましょう」
「ありがとう…」

引っ越しした先にはアイリスとスイレンが居てくれた。しかし、あとの使用人にはまだ会えていない。この部屋で生活が完成しているせいだった。アイリスに支えてもらいながら、お湯を張った湯船に足を入れて浸かった。

「ヴァ゛~~~生き返る~~~」
「凄いお声ですね。お部屋に戻ったらスイレンも呼んでマッサージを行いましょう」
「めちゃくちゃ嬉しい~~~」

貴族らしい言葉遣いなど忘れて本気で喜んだ。日に日に身体の疲れが蓄積されていってるのが自分でも分かっている。これでジャグジーがついてたら天国だったな、と遠い記憶を呼び起こしていた。

「そういえば、シェフが嘆いておいででした」
「え?どうして?」
「あまり食事を摂って下さらないから食べさせがいがないと」
「ああー…今日の夜は食べられたら良いなぁ…」
「また痩せてしまうのでぜひ食べてください」
「うん……」
グウェンが雇っているシェフは高級料理店から引っ張ってきた人らしい。どのくらい美味しいのかというと使用人達が食事が1番の楽しみになっているくらいだ。俺も食べたいのだが、ディナーもモーニングも全て使用人達のお腹に入っている。

「俺も食べたいなー……」
「旦那様に帰ってきたらそう伝えると良いですね」
「………………うん」

たっぷりと時間を置いて返事をしたが、アイリスはため息をついた。きっとその言葉に決意がないことは理解していそうだった。



空の陽がだいぶ落ち始め、赤く染まりかけた頃にグウェンは帰宅した。いつもより少し早かった。自室のベッドに上半身だけ起こして刺繍をしていた所だった。

「おかえりなさい、グウェン様」
「ああ、ただいま」

そう言いながら、グウェンは俺の頬と額にちゅ、と音を立てながらキスを落とす。グウェンは俺が持っていた刺繍をサイドテーブルに優しく置いた。

「ん……」

帰って早々、唇に柔らかい感触がする。グウェンのキスはすごく気持ちいい。触れるだけなのも、舌を絡ませる情欲に塗れたものも、唾液が交わりあう濃厚なのもだ。そして、それをされるだけで昼の後悔なんかも全て吹き飛ばされて、自分から誘ってしまう。

「グウェンさま…もっと……」
「そんなにエロくなって、俺をどうするつもりだ」
「ん…ふふ、さてどうしましょう」

キスをされた唇に残るグウェンの味が欲しくて、唇を舐める。その痴態に、グウェンの口端が上がるのが見えた。

「そういうノアは、お仕置きしなくてはな」
「ぁん…ふっぅ……ん、ぅ……」

深い口付けをされ、俺の舌が溶けてなくなるのではないかと言うくらい舐められ、吸われる。両手も深く繋がれ、キスだけでイケそうなくらい腰が痺れている。

「ん……んん…ぁふ…ぅん」
「ノア、勃ってる」
「ん! ぁ…触って……はんっ」
「おねだりされるとは。お仕置きにならないな」

グウェンの手が俺の股間で反り立つ物に触れる。丁寧に愛撫され、簡単に気を持っていかれそうになってしまう。

「ぁ! はっ……ふ…ぁあ」
「ノア……」

下からはぐちゅぐちゅと卑猥な音が緩急を付けて聞こえてくる。グウェンの大きな手は俺のモノをすっぽりと包んでしまう。先走りでぬるつくそこは、後孔まで垂れているのが空気に触れた冷たさで分かる。乳首を弄られていた左手が、ゆっくり下に行き、後孔に触れる。

「んっ……」

それだけで期待に声が鳴る。もう身体は知っている。このまま指で掻き回され、良い所を探られ、イクまで離されないことを。ぐちゅりと中に指が入っていくが、痛みも抵抗はなかった。連日の情事で身体は完全に受け入れる体制になっている。今すぐに挿れられても問題なく受け入れられるのに、グウェンは表情こそあまり変わっていないが、楽しそうに俺の穴を拡げるように指を増やしていく。それは前立腺も当てながら行う行為であり、既に俺のペニスは張り詰めて限界だった。

「あ、あ、ん!グウェンさ、ま!もう良いですからぁ!」
「良くない。しっかり解すまで挿れない」
「あ!だめっ…やっ…イクっ……!」

丁寧な前戯が身体を犯していく感覚に俺は目の前が白くなる。乱れた息を整えようと意識して呼吸をする。

「はー、はぁ…」
「ノア、大丈夫か?」
「ん…はぁ…はい……あ!」

大丈夫か、なんて心配をしながらまた更に指を前立腺に当てられる。

「まだ!イったばっかり!あ、あん!」
「ああ、可愛かった。もう少し解す」
「え!やだっもう!あっあっ……ん!」

身体がガクガクと震える。執拗い。すごく執拗い。ここ何日かで、グウェンが異様に執拗いことは理解したつもりだった。けれど今日はグウェンの凶悪なまでの怒張に責められる訳ではなく、あくまで前戯でねっとり責められていることに羞恥を感じた。

「んっ…ふ、ぅ……!あっだめ!そこやだっあっ、ぁあ!」
「ここならば何回でもイけるだろう」
「あっ、はっあん!……っふ」

嬌声が部屋中に響く。絶対に外に漏れてる気がする。アイリスはきっとスイレンと一緒にシェフに謝りに行きながら、ため息をついているに違いないと思った。

「余裕だな。考え事など」
「へ…あっ、~~~~~~っ!!」

指を急に抜かれたと気づいた時には遅い。デカい何かが身体を思い切り貫いてきた。目の前がチカチカする。いきなりの侵入者にも解された後孔は暖かくヒクヒクと包み込んでいた。突然の挿入に呼吸を止めていたが、グウェンに唇を啄まれると呼吸を思い出した。

「はっ、はっ」
「ノア、動くぞ」
「あっまって!あっ、あ゛っ!イってる!ひぃ!」
「いいぞ、気持ちよくなるのはいい事だ」
「あっあっ、ああ!」

口から唾液が垂れているのにも気にすることが出来ない。グウェンの肩に両足を乗せられ、グウェンの体重で思い切り突き刺される。

「あ゛!だめ!それ!おかしく、なる!」

苦しいのに、貫かれる奥が快楽に押し流される。シーツを掴む手の爪が、掌に食い込むほど、強い力で握っていた。グウェンがそれに気づいたのか、シーツにあった手をグウェンの腕に回された。どうにかして過ぎた快楽を逃したい俺はグウェンの腕だと言うのに思い切り爪を立てた。

「グウェン!さっま!もうむりぃ!あっあっ、イク!イっちゃう!あ!~~~~っっ!」
「っく」

奥に吐精されている感覚が伝わる。グウェンの腹を少し薄まった精が汚していた。乱れた息をまた整えようとするが、

「は、っあ!」

グウェンの一物はいつの間にかまた硬さを取り戻し、俺の中をばちゅんっ、と抉った。

「や、まって!まって!死んじゃう!」
「ノア…可愛い」

ここ数日、何度グウェンに殺されると思ったことか。恐らく脳細胞はいくらか死滅している。たまにこのグウェンの無尽蔵な性欲に、俺はいつか腹上死させられると本気で思うようになった。



それからはもう、ほとんど記憶はない。記憶に残っているのは、最後にグウェンが出したモノを出そうと、指を入れようとしたら手を掴まれ、

「ノア、お腹に力を入れろ」

と言われ、ウキウキしたグウェンが後ろから膝裏を抱え、まるで小さい子におしっこをさせるような格好をさせてきた。そして踏ん張るように自力で出させようとしてきた時に物凄い羞恥心でめちゃくちゃ抵抗したのに、もう体力は残ってなくて抵抗らしい抵抗じゃなかった。羞恥を煽ってくる婚約者に対して、いつか寝首をかいてやろうかと思ってはならないことを思いながら、疲れ果てて意識を手放した。





「ノア様も怒ることが出来るのですね」

スイレンが感心しながら、茶器の準備をする。アイリスは小さな菓子をテーブルに置いてくれた。
ここ2日間は完全に夜の情事を拒否しているため、俺はベッド生活から脱却することが出来た。

「……俺だって怒る時は怒る……」
「そうですね、たまに手綱を思い切り引っ張らないと駄犬は突き進むのみですから」

準備してくれた香り高いいかにも高級ですと言わんばかりの紅茶を含む。いつもだったら恐れ多くて大切に飲むのだが、今日に限っては金を少しでも使ってやろうと些細すぎる復讐をする。

「まだちょっと怒ってる。商人呼ぼう。糸と布が欲しい。高いの買う」
「かしこまりました。まったく痛手にもならないと思いますので宝石でも買ったらどうですか?」
「……宝石は、ちょっと……」
「だめだわ、アイリス。ノア様は散財の覚悟が足りないわ」

変な節約家が出てきてしまうのはご愛嬌だ。貧乏子爵家の性だ。

「旦那様は主人に叱られた駄犬のようにしょぼくれていましたよ」
「でも反省させ続ける必要があります。もっと言った方がよろしいかと」
「自分の主人に喧嘩売るような言葉だね…」

アイリスとスイレンは本当に物怖じせずにズバズバ言う。このハッキリした言動はノアの前だけなので問題ない。俺もハッキリした方だと思うからとても楽で過ごしやすい。頭のいい2人は俺の気持ちが少しでも穏やかなものになるようにわざとそうしてる。

「まぁ、俺も言い過ぎたから、もう少ししたら機嫌直すよ」

そもそもグウェンがあんなに変態だとは思っていなかった。むっつりスケベと言うやつだ。けれど、勢い余って叫んだ言葉にグウェンはショックを受けた顔をしていたのをよく覚えている。



『信じられない!本当に信じられない!何させたか分かってる?!』
『可愛かったぞ、大丈夫だ』
『頭おかしい!恥ずかしくて殺そうかと思った!』
『次は放尿している所がみたい』
『~~~~~っ!この変態オヤジ!』
『おっ……』



これ程ガーンという言葉が似合う表情はないだろうと言うくらいには落ち込ませた。こうして俺は2日間の休養を得たのだった。

「そんなノア様にプレゼントが届いています」
「……グウェン様から?」
「ええ、主人はご機嫌取りに必死です」

決して小さくはない大きさの箱がラッピングされている状態で渡された。自分で渡さないところが貴族らしい。怪訝に思いながらも封を破って開けてみた。

「これは…こんな、こんなもので喜ぶとでも……!」
「めちゃくちゃ嬉しそうじゃないですか」
「主人はノア様のことをお見通しなのですね」

高級糸セット300種だった。仕事道具とは色気がないとかそういう問題じゃない。これは自分で買うには憚られる値段がするものだ。下手にアクセサリーを買うよりも値段がはる。そしてめちゃくちゃ欲しがっていたことをなぜ知っているのかは気がかりだが、内心の喜びは、計り知れず唇を噛み締めながらも隠しきれないにやけ顔をしている自覚があった。

「くっ……」
「これはご帰宅した主人に、今日またお誘いOKが出ることを伝えなくては」
「そうね。シェフにも伝えなくては」

物で釣られているのは分かっている。けれど、そう、これはもう許すしかないのだ。
ちなみに放尿プレイは意地でもさせなかった。







「はぁ?ノアを怒らせた?馬鹿じゃないの?」
「しょっちゅう怒らせていたレイに言われたくない…」
「元婚約者にご機嫌取りのプレゼント選ばせるって必死だねぇ」
「……頼む、助けてくれ」











ここまで読んでくださってありがとうございます。とてもとても嬉しいです!至らない事が沢山あったと思いますが、まだ2章を明日アップしますのでお付き合いくださると嬉しいです!
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