【完結】泥中の蓮

七咲陸

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3章

始めあるものは必ず終わりあり

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驚いたことに演習後、もう一度王女へ先触れを出すと、先触れの返事が返ってきた。2日後に会う約束を取り付けた。そして今日がその2日後であり、ルークと共に王女の元に向かっている最中だった。


「レイは、ルークに何を頼んだんだ?」
「……王女の侍従を調べろと」
「侍従?」
「ええ、まぁ。あとはレイから預かったもんがあるんで。グウェン様、俺が動けなくなったら後よろしくお願いします」


益々よく分からないが、ルークとレイは信用しているので深くは聞かず、頷いて答えた。

王女の部屋に到着すると、護衛がドアの前に立っており、礼をされる。俺は簡単にそれに答え、通すように伝えると護衛は中に確認し、ドアが開かれた。

王女は部屋の真ん中にあるソファへ腰掛けており、いつものように扇子を広げて口元を隠していた。目だけで微笑み、待っていたとばかりにこちらを見てくる。


「グウェン様! お会いしとうございました! お茶をご準備致しますのでそちらにおかけになってくださいまし」
「……失礼します」


言われた通り、対面のソファに座った。ルークは俺の後ろに立っていた。侍従がお茶を準備し始めると、王女は機嫌良さそうに話し始めた。


「やはりグウェン様もわたくしとお会いしたかったんですのね!すぐにでもお会いしたかったのですが…グウェン様との日付がなかなか合わなくて困りましたわ」


2日後、というのはレイに猶予をくれと言われたので最短で2日後となった。ルークに頼んだ仕事というのは、どうやらすぐわかる事だったらしい。


「……殿下、単刀直入に話させて頂きます。私はノア以外を娶るつもりはありません」
「ですから、愛人なら…」
「離縁する気もなければ、殿下と婚姻関係を結ぶつもりもありません」
「どうして?」


王女は本当に意味が分からないと言った表情をする。まるで幼い少女のような言い方に、違和感を感じた。


「それが私の運命だからです」
「いいえ、違いますわ。グウェン様はわたくしに運命だと、運命を信じると言ってくださいました」
「……あの時思い浮かべて言ったのは、ノアのことです」
「何故? だって、あの時言ってくださったわ」
「…誤解させてしまったことは謝ります。ですが、これ以上は」
「わたくしは!!」


突然、王女の声が部屋中に響く。 部屋に入っていた護衛はまたアワアワとしだしたが、侍従は冷静だった。


「わたくしは運命だと!そう言ったのです!そう言われたのです!貴方と一緒になれば!もう誰からも謗られる謂れがないと!!」
「……謗られる謂れ?」
「貴方も!わたくしのことを卑しい踊り子の娘だと!そう思っていらっしゃるのでしょう!!」


激昂している王女は扇子を握りしめて叫ぶ。魔力が怒りに反応したのか黒いモヤとなって王女の身体から漏れだしていた。

黒いモヤが溢れる前に落ち着かせようと手を出すが、ルークが先に手を出した。ルークは王女の額に手を当て、黒いモヤが消えた。恐らくルークの手から吸い取られていったのだろう。吸い取られた王女はフッと意識を手放してソファに倒れた。


「……ああ、やっぱりレイの言った通りだ」
「ルーク?」


ルークの行動に、侍従が初めて表情を出した。冷や汗をかいて、今にも逃げ出しそうに足をたじろいでいた。


「そこにいるお付のもん。お前、第2王女の侍従だな」
「ひっ…」


ビクリと肩を震わせた侍従に冷たい視線をルークはし続ける。


「調べはついてる。これは第2王女の婚約を破談にさせたソフィア王女への腹いせだ」


陛下は、他の王女の婚約者がいるのにパーティーを荒らしたりしていたと言っていた。まさか、それが原因で破談していたのか。


「……っそうよ!第2王女は幼い頃にアーロイ王国の第3王子の下へ嫁ぐことが決まっていた!上手くいくはずだった!なのにこのソフィア王女が!ノアというものが!アーロイ王国への婚約を滅茶苦茶にしたのよ!」


幼い頃というのは分からないが、アーロイ王国は和平交渉が結ばれず、友好国とは言い難い状況である。恐らく誰も嫁がせるわけにいかないと陛下が決めたのかもしれない。


「もともとソフィア王女は翠髪の暴虐姫と呼ばれていたから!暴れさせるのは簡単だったのよ!公爵家へ無礼を働き続ければ臣下へ降りるか幽閉されるかして、これで第2王女が幸せになれると思ったのよ!」
「……ソフィア王女を窘める仕事を放棄したのか」
「私の主は第2王女よ。こんな馬鹿な女じゃない」
「という訳で、王女を魔法で誑かしたって理由であんたは重罪だ」


ルークは冷たく言い放つ。侍従は震えながら首を振っていた。黒いモヤの魔力は操る能力だったようだ。


「そ、そんな訳ない!私は第2王女に頼まれて……!」
「……頼んだ、と第2王女が素直に認めると思うか?」


俺がそう言うと、侍従は力を無くしてへたりと座り込んだ。真っ青になった顔で目に光はなかった。


「あ、もうダメっす。すんません」
「?! おい!ルーク!」


ルークはその場でバタンッと大きな音を立てて顔から倒れていった。ルーク自身、魔力が多いとは言えないと聞いたことがある。レイの魔力を借りていたのだろう。それでもキャパオーバーだったようだ。 

護衛と俺は顔を見合わせて、阿鼻叫喚な状況にため息をついたのだった。


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