【完結】泥中の蓮

七咲陸

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最終章

デイジー【希望】※

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「!どうしたのですか!ノア様!」
「アイリス!反対を支えて!」


俺は馬車をどうやってだか、何とか降りた。御者は崩れ落ちた俺を見て驚いた様子だった。その騒ぎですぐさまスイレンとアイリスが走ってきた。

2人に支えられながら、何とか玄関ホールに辿り着いた。他の使用人達もざわついて、どうしていいか分からないようだった。


「ノア様、ソファまで歩きます。もう少しです」


スイレンにそう声をかけられ、なんとかソファに腰をかけられた。アイリスは座ってられなそうだと判断したのか、俺を横にゆっくり優しく倒した。


「今、旦那様をお呼びしました。すぐに来るそうです」


アイリスの言葉に返事が出来なかった。スイレンは横たわる俺の身体にブランケットをかけてくれた。


「…一体、何が……」
「ゴードリック卿の時ですら、こんなノア様は……」


俺を心配そうに見ながら、少し離れた位置で2人が話している。 俺は指1つ動かしたくなかった。

しばらくそのまま、天井を向いて虚空を見つめていると、バタバタと走る音が聞こえてきた。


「ノア!!」


まるで、昨日と同じ、焦ったような死んでしまいそうなほど心配そうな顔をしていた。

彼は、髪が乱れるのも気にせず、ソファに横たわる俺の手を握ってくれた。


「……グウェン…」
「何が、何があった。ちゃんと、教えてくれ。頼む」


俺は、ぐ、と言葉に詰まる。喉に、張り付くような、こびり付くような、乾いた唾液が上手く口を動かさせてくれない。

あの時、グウェンと一緒に教室に入って、俺はやっと前を向けたはずなのに。

グウェンの瞳が切なそうに揺れている。滅多に泣かないグウェンが、1つ涙を流した。俺はそれを見て、流れてくる雨を止めることが出来なくなった。


「っふ…ぅ、ううう、う……」
「教えてくれ、お願いだ。約束したはずだ」


俺はグウェンの顔がもうぼやけて上手く見えなかった。でも、それでも、グウェンの声が聞きたくて。


「堕ちる時は、一緒だと」








グウェンに抱き上げられ、俺は寝室に移動した。ゆっくりベッドに降ろされた俺は、ベッドボードに背中を預けたグウェンに、後ろから抱きしめながらポツリポツリとゆっくり話した。

男子生徒が突然押しかけてきたこと。誰かはよく分からなかった、顔も覚えられなかったこと。羽交い締めにされ、押さえつけられたこと。服に手をかけられた所で、アラン先生に助けてもらったこと。

前世の時と、状況がそっくりだったこと。

グウェンは静かに聞いてくれた。後ろから時折、ギュッと力を込めて、優しく抱きしめてくれた。


「全然、ダメだった。大丈夫じゃなかった。怖くて、足が上手く動かなかった…っ」
「ああ」
「……っ、嫌なんだ、折角、せっかく俺はちゃんと外の世界に行けたのに」
「…ああ」
「どうして、どうして……俺」
「……っ、すまない。俺が、いつも、間に合わない」


グウェンのせいじゃない。グウェンを責めてなんかない。

確かに続けようとした。『俺ばっかりこんな目に』それはグウェンのせいなんかじゃない。

分かっていて、否定したいのに、俺は悔しくて、涙を流すことしか出来なかった。


「……お願い、グウェン。助けて」


助けて欲しい。今の俺が、あの時と違うと、教えて欲しい。

グウェンが一緒に堕ちてくれるなら、俺は地獄だって構わない。そう、思わせてくれるはず。

だから、俺を助けて


「……何度だって、助ける。必ずだ」


俺はゆっくり振り返った。グウェンの眉尻はすっかり下がっていて、俺を苦しそうに見ている。涙でぐちゃぐちゃな俺の顔でも関係ないとグウェンが口付けてくれるのを受け入れた。


「んっ……ふ、ん、んん…」


いつもの口内を蹂躙するような舌の動きではなかった。ゆっくりと、何かを必死に伝えてくるような、優しい舌技だった。

心地良さに俺はまだ流れてくる涙もそのままに、グウェンの舌の動きに合わせて自分の舌を追いかけるように絡ませた。

ゆっくりと、優しい、でも、気持ち良くて。そんな口付けに酔いそうになると、ようやく涙が止まったことに気づいた。


「んっ、は……ぁ、んんっ」


何度も口付けを重ねている間に、息も絶え絶えになる。でも、ずっとこうしていたかった。そうすれば、このまま夢のような場所にいられる気がした。

グウェンにもそれが、伝わっているような気がした。


「ん……」


グウェンが俺の服をゆっくり脱がし始める。グウェンの手は気持ち悪くない。グウェンは口付けをしながら器用に、一つ一つボタンを外した。

グウェンの手は、暖かくて気持ち良い。ゆっくり上半身に手を滑らせている。


「んっ、は……んんっ、ん」


滑る手が、身体をくすぐるようで俺はピクピクと反応した。グウェンの手がズボンにかかる。グウェンは急がずにゆっくりと脱がしてくれた。

まだ反応しかけの屹立が見える。グウェンは後ろから俺を抱きしめるように屹立に触れた。


「あっ……」


ビクッと反応するが、嫌な感じはない。グウェンがもう一度口付けをしながら屹立を擦り始めた。


「ん…んぅ、んっ……ん」


その手の動きに、グウェンにすっかり覚え込まされた身体は直ぐに反応する。屹立から少しずつ溢れてくる先走りで擦る音に水音が混じり出す。


「んっ、はぁ……あ……」


すっかり立ち上がった屹立からグウェンは手を離し、サイドボードの香油に手を伸ばした。グウェンの手で暖められた香油は俺の後孔に塗り付けられた。


「んっ!……ぁ、ああ、んっ」


指をゆっくりと、くち、と音を立てて挿入される。俺の身体は慣れたようにグウェンの指を受け入れる。グウェンは優しく入口を拡張させるように指を動かす。

いつもよりも、念入りに解されながら指が増やされる。それだけなのに、感じてしまっている。自分をこんな風に作り替えたのは、他の誰でもない、グウェンだ。


「ん、ぁ、ああっ、あ……」


十分すぎるほどゆっくりと行われた前戯に、俺の屹立からはほんの少し白濁の液体が漏れるように垂れていた。

グウェンは後ろから、俺を後ろから両手で持ち上げて、後孔にグウェンの剛直を当てた。ゆっくり過ぎるほど、ゆっくりと剛直を後孔に挿れるように俺を下ろしていく。


「あ、あああ……あ、ぁっ」


俺の中にぴったりと剛直が挿入った。


「……大丈夫か?」


ゆっくりと労わるように、優しく壊れないように触れているのに。それでも心配そうに見てくるグウェンが、愛しくてたまらなかった。

俺はまた涙がポロポロ零れてくるのが分かった。


「い、痛かったのか!」


俺は思いきり首をブンブンと横に振った。


「グウェンを、好きで良かったって、思ったんだ……」


涙が止まらなくて、きっと俺の堤防は決壊してしまったに違いなかった。

グウェンは少し微笑んで、涙を流す俺の頬にキスを何度も落としてくれた。何度もされてるうちに、くすぐったくなって泣きながら笑ってしまった。


「ふふ、くすぐったいよ」
「……好きだ。ずっと、愛している」
「…うん、うん……う、ん……」


また、堤防が決壊する。


「う、ううう……ふ、う、俺も、好きだ。グウェンが、大好きだよ」


自分の奥に落ちた言葉が、何度もパズルを完成させてくる。グウェンの言葉が、俺を作ってくれる。

俺は泣きながら、グウェンの優しい手に深く、深く、溺れた。



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