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17、約束は守ります
「明日はついにフロウのご両親に久しぶりに会う日だね」
いつものように、僕の部屋のベッドに2人並んで腰掛けて夜寝るまで談笑していた時だった。
僕は何度か瞬きをした。その僕の様子をラスティム殿下が不思議そうに見ていた。
「? どうしたの?」
「あ…すっかり、忘れてて」
「えっ?」
忙しくて忘れていたのかもしれない。
けれど、あんなに会いたかった両親との面会日を抜け落ちるほど忙しかったか、と言われると少し疑問を感じた。
ラスティム殿下も僕の発言に目を剥いていた。
「でも、ま。確かにここ最近フロウもバタバタして忙しかったし、そういうこともあるよ」
「あ……はい…」
ショックだった。 両親のことは大切だし、大好きだし、あんなに離れたくないと思った。
母は少し直情的だが愛情深い人で、父は思慮深く、そんな母を優しく受け止め僕のことを1番理解してくれる。
そんな両親の、1年に1回しか会うことが出来ない面会の日を忘れるなんてどうかしている。
「明日は楽しんでおいで」
「はい、ありがとうございます」
ラスティム殿下は僕の方を見て微笑む。
僕は微笑みを見るとなんだか、少しソワソワした気持ちになっていた。
□■□
ネッツェル公爵家に馬車で到着すると、ソフィーとハイデマリー夫人が待ってくれていた。
「フロウ! 久しぶりって言うには少し早い気もするけど、また会えて嬉しい!」
「ありがとうソフィー、僕も嬉しいよ」
ソフィーが、ガバッと抱きついてきたためなんとか受け止める。ハイデマリー夫人はそんなソフィーを見てちょっと呆れ顔だった。
「フロウ、中に入りましょう。もう2人もいらしてるわよ」
ハイデマリー夫人に促され、公爵家の邸に入った。 相変わらずの豪華絢爛な家の中だ。僕の両親はきっと汚さないようにビクビクしているに違いない、と少し笑ってしまいそうになった。
前にも来たことがある応接室の扉が開くと、ソファに2人並んで腰掛けている父と母が居た。
2人とも少しやつれているように見えた。
「フロウ…!ああ!会いたかった!」
母はそう言って僕の所まで走って抱きしめてきた。 少し痛いくらいだが、嬉しかったのでそのままにした。
「僕も会いたかった…、お母さん。お父さんも、来てくれてありがとう」
「元気にやっていそうで安心したよ。手紙もちゃんと届いたよ…、本当に、良かった…」
父は僕の姿を見て安心したのか、目頭を押さえていた。
もしかして、殿下が会わせないかもしれないとか、手紙も送らないとか考えていたのかも、と思った。
「元気だよ、とても良くしてもらってる。陛下と王妃さまにも会ったけど、とっても優しかった」
「そう、それは良かったわ。貴方が頑張ってるって、ソフィーさんから聞いていたのよ」
「ソフィー…ありがとう」
「当たり前よ、約束したんだから。フロウを必ず幸せにするってね」
ソフィーはそう言って、満足そうに微笑んだ。
「少し、話があるから座ろう」
父に促され、泣いていた母が僕を離した。 父と母の間に座ると、父は話し始めた。
「…君に話すか、悩んだんだけど……君が思ったよりも元気そうだから伝えておこうと思って」
「どうしたの?」
父はとても口を開きにくそうにしていたが、やがて僕の方をもう一度見て言った。
「アーサーの事だ」
□■□
「フロウ、元気がないけどどうしたの?何かあった?ご両親に会えなかったの?」
「い、いえ…会えました。会ってきて、嬉しかったんですが……」
王宮に帰宅後、僕はいつもの定位置であるベッドの端に座って俯いていた。その様子を見たラスティム殿下が心配そうな口調で聞いてくれた。
「なに? ご両親に何かあった?それともソフィー嬢? 困ったことがあったら教えてって言ったでしょう?」
「ラスティ様…」
僕に言ったことを覚えててくれて、胸が熱くなっていくのを感じる。あんな些細な言葉、僕も忘れていたのに。
「あ、アーサーが…僕の実家に、度々行ってるそうなんです」
「アーサーが?どうして?」
「お金の無心に来ているようで…ち、誓って両親はラスティ様から頂いたお金を湯水のように使っているわけではありません!もう、銀行に預けていて問題ないはずなんです!」
「うんうん、そんなの気にしないよ。アーサーがどうして気づいたか、なんでしょ?」
「両親は父の誕生日だからと、料理を豪華にしたそうなんです。 それでラスティ様からのお金を少しだけ使ったようなんですが…買い物中羽振りがいい両親の姿を見かけたアーサーは…子宮生成秘術で使った分の金を返せと……家に何度も……」
ラスティム殿下の方が見れなくなって、俯く。聞いていて楽しい話なわけがないのに、話してしまった事を少し後悔した。
けれど、ラスティム殿下が僕の背中をさすってくれて、先を促しているようだった。
「……それで、その、両親は昼夜問わず駆け込むアーサーとアーサーの両親にさすがに怒ったそうなんですが、今度は近所に聞こえるように金を持っていると言い出したみたいで……両親が、近所の人に……」
「アーサーはどうしてお金が必要なの?」
「アーサーの恋人のミリセントさんとの結婚資金のためです」
「ああ、なるほど。それは困ったね」
「アーサーは僕のことを探してるみたいなんです。僕を探すことで殿下に迷惑がかかるかもと、両親は心配して話してくれたんです…」
僕が俯いた顔を上げると、ラスティム殿下はニッコリと微笑んだ。
「うん、じゃあ私の方でなんとかやっとくから安心してね」
「えっ」
「ご両親の方は大丈夫だから。アーサーには諦めてもらうけど」
「で、でもソフィーもハイデマリー夫人も考えてくれたのにあんまり良い案が浮かばなくて」
「うんうん。安心してね、もう大丈夫だから」
ニコニコとなんでもないように言うラスティム殿下がよく分からなくて何度か聞き返すが全て上手くはぐらかされてしまった。
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