選ばれし英雄達ー暁の訪れー

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第一章 セルシエン

6page 見えてくる影

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ーーセルシエン商業区。
正門を抜け、まず飛び込んできたのは幾重にも立ち並ぶ商業施設だった。
露店、食事処、武具屋、雑貨品店……数々の店が軒を連ねる。
道の広さに相反し、人通りは少ないものの、ここが目抜通りであることは一目見て理解できた。

「わぁ……セルシエンの街だ。
久しぶりに来たよ。
こうやって道を歩くのは初めてだけど、本当に色んなお店があるね。
……あ!あれは何?」

レイズがどこか楽しげに語りながら、店の一つへと駆け出す。
そして窓から店内を興味深そうに眺めるのだった。
その姿をやや離れた位置でルビアが見守っている。
青年の喜ぶ姿を見て、嬉しくなったのかその表情はどこか朗らかだ。

(……それにしても。)

ルビアが街中を見渡す。
人通りが少ないのが気になるようだ。
それ故か、立ち並ぶ店にも活気がないように思える。

(正門にはあれだけの人達が訪れていたのに、街中は人が少ないように感じる。
まぁ、入るのに一人十万グノムもお金がいるし、諦める人も多いのだろうけど……。
十万グノム……十万グノムかぁ……。
…………払っちゃったなぁー十万グノム。)

街中を見つつ、ルビアの瞳が段々と遠くを捉えるようになる。
やや現実逃避する様子に似ている。

(いや、二人合わせてだから二十万グノムかぁ。
それだけのお金があったらご飯どれくらい食べれるんだろう……。
いや、私のお金じゃないから懐は全く痛んでないんだけど、こうなんというか。
勿体無いというか、他人のお金だとしてもこんな大金をあっさり手放すのは抵抗があるというか……。
しかも通行手形って……。)

ルビアが鞄から何かを取り出す。
掌程の大きさである金属の板だ。
そこには文字が彫られており、【セルシエン領主イリナメ認可 通行手形】と書かれてあった。

(こんな、たかが金属の板一枚って……!
何これしかも質の悪い鉄製!
こんなの私でも作れそうなのに!
こんなものに十万グノム払って買わなきゃいけないなんて……!)

悔しさと後悔が波のように押し寄せ、ルビアの心を掻き乱す。
(念の為に言うが、ルビアがお金を出した訳ではない。その出費はレイズが負担したものになる。
なのに何故この少女はこんなにも悪態をついているのだろうか?)
何度か深く呼吸をすると、心を落ち着けたのか鞄の中に通行手形をしまう。
そして、レイズの下へと歩き出す。

「レイズ、そろそろ行きましょう。
必要な物を買って、早く辻馬車に乗らなくては。」
「あ、うん。分かった。」

そう声をかけると、レイズは返事をし建物から離れる。

「まずは足りないものを買い足しましょう。
ここから馬車でウェルツェインだと、日数としてはどれ程かかるのでしょうか。」
「何度か馬車の乗り換えがある筈だから……多分五日間くらいかな。」
「五日間ですか……わかりました。
では念の為、食糧は一週間分買っておきましょう。
旅にトラブルはつきものです、多めなくらいが丁度良いかと。」
「……そ、そんなにいる、かな。
僕はあまり食べないし……。」レイズがしどろもどろに問いかける、
「いります。
敵の襲来は武力と知恵で何とかなりますが、飢えはどうにもなりませんからね。
食糧は多めに用意しておいた方がいいです。
さて、そうなると後は薬や日用品と……。」

そう言いかけながら、ルビアは視線をレイズの衣服へと向ける。
多少くたびれているものの、最高級だと分かる絹の服だ。
しかも白地。目立つ、とても目立つ。

「……レイズの服も変えますか。」
「え?どうして?」
「世間一般的な旅人は絹の服を着ませんので。
その姿は目立ちすぎます。」
「そ、そうなの?」戸惑いながらレイズが聞き返す。
「ええ、そうです。
これだけ大きな街なら洋服店もあるでしょう。
まずそちらに向かって服を探しましょう。」
「……分かった。
ルビアの言う通りにするよ。」

そう答えるルビアに、レイズは渋々に頷いた。

「では決まりですね。
早速仕立て屋を……あ、あそこなんてどうでしょう?」

そう言い、ルビアが指差す。
目抜通りを挟み、立ち並ぶ建物の中の一つに目をつけたようだ。
ややこじんまりした外見で、年季の入った木の外壁が視界に映る。
表には看板が出してあり、そこには【仕立て屋・水鳥の羽ばたき】【古着の買取行います】と書かれてあった。
ルビアとレイズは顔を見合わせると、お互い頷き、店へと足を踏み入れた。

……扉を開ける。
カランカラン、と取り付けられたベルが軽やかに響く。
店内へと足を踏み入れると、ルビアは思わず「おぉ。」と声を上げた。
焦茶の調度品で統一された店内。
その重厚な様相と年代を感じる独特な匂いは、揃えられた家具が長年使い続けられたものであることを容易に想像させる。
しかし、ただ古さを感じるのではない。
隅々まで手入れの行き届いた、歩んできた歴史の優美さを感じさせる品のいい店だ。
更には、通路を塞がぬよう置かれた数々のトルソーには、男性用、女性用問わず様々な衣服が着せられ、展示されていた。
普段着に適したものから、装飾品が多数取り付けられた豪華な衣装まで。
何よりも目を引いたのは、縫合の跡がどこにも見当たらないほど美しく縫われていた点である。
その意匠の一つ一つに、仕立てたであろう職人の技量の高さ。
そして衣服への確かな情熱を感じさせた。

「おお……何気なしに入りましたが結構当たりのようですね。
ここならレイズに似合う服を仕立ててもらえるのでは?」
「うん……。」

非現実なれど完成された美しい店内に、ルビアはどこか嬉しそうにそう語る。
しかし、レイズはどこか浮かない表情だ。
落ち着かない様子でしきりに店内を見回している。

「あら……いらっしゃいませ。
本日は何をお求めでしょうか?」

ふと、声が聞こえる。
声の方向を見ると、妙齢の女性が奥の部屋から姿を現した。
明るい栗毛を後頭部で結った、利発そうな印象を与える人だ。
その立ち振る舞いや、彼女の着ている服の完成度の高さから、ルビアは一目で店主だと見抜くのだった。

「えっと、私の連れに洋服を仕立てていただきたくて。」
「畏まりました……あら、まぁ!」

ルビアの言葉を聞き、店主はレイズへと視線を移す。
そして、青年の容姿を見て驚いたように声を上げるのだった。
その態度が気になったのか、レイズは咄嗟に顔を背ける。

「申し訳ございません、急に声を出してしまって。
そちらの方があまりにも整った容姿をお持ちでしたので、驚いてしまって。」
「わかります、レイズって美人ですよね。」

ルビアが強く頷く。
その言葉を聞き、レイズは表情を歪めて「ルビア、変な所頷かないで。」と一言告げ、諌める。
その会話を聞き、店主は楽しそうにクスリと笑ってみせたのだった。

「とても仲のよろしいことですね。
お二人は旅人ですか?」
「ええ、諸事情あって。」
「そうでしたか。
この街は観光地でもあります、建物や風景も是非ご覧下さいませ。
……さて、早速仕事に取り掛からせていただきます。
まずは採寸ですね、それから大まかなデザインを考えていきましょう。
お嬢様はどうぞこちらへ。」

そう言うと、店主は別室へと案内しようとする。
だがレイズに動く気配はない。
というより、どこか狼狽していて足が動かないといった様子だ。
その様子を不思議がり、店主は首を傾げる。

「あの、どうかされましたか?」
「いや、その……。お嬢……様?」レイズは困ったように聞き返す。
「はい?……あぁ、これは失礼しました。
ご紹介が遅れました。
私は仕立て屋のリンと申します。
どうぞ宜しくお願い致します。」
「いえ、その、そうではなくて……。」

そう自己紹介する店主リンへ、レイズは口籠りながらも何かを必死に伝えようとしていた。
それを、店主リンだけではなく、ルビアも不思議そうに見つめるのだった。

「レイズ、どうかしましたか?」
「……えっと、その、僕……。
女性じゃなくて、その。
男性、です……。」

そう、気まずそうに答えた。
……瞬間、場に沈黙が訪れる。

「「……………………。
ええええええええ!!!???」」

何秒か経過した後、店内に大絶叫が響く。
今しがた、レイズからもたらされた衝撃的な事実に、ルビアとリンが声を張り上げて叫んだ故だ。
突然の騒音に、当の青年は肩を大きく跳ねさせた。

「そ、そんなに驚かなくても。
それにルビアまで……。」
「いや、だってそれは驚きますよ!
中性的なんて次元ではありませんよ!?
美の概念が形となったように整った容姿をしていて、それで男なんて!?
いえ、むしろ貴方という命がこの世に生まれたから美という概念が生まれたのでは!?」
「ちょっと何言ってるのかよくわからない……かな。」

混乱しているのだろうか。
ルビアの理解不能な発言にレイズは首を傾げた。
しかしルビアの気持ちもわからなくはない。
それ程にレイズの外見は整っており、体型からも判別がつきにくかったからだ。

「……男性?この容姿で、男性?」

店主であるリンは、レイズを凝視しながらぶつぶつと一人何かを唱えている。

「あの、店主さん?どうされました?」

その様子を不審に思ったのか、ルビアが声をかけた。
だが突然リンはレイズに詰め寄り、その顔や纏う衣服、体型を舐めるように見るのだった。
突然の行動に、レイズは小さく悲鳴をあげ、ルビアの背へと隠れてしまう。

「この容姿で、この肌艶で、この髪質で、この体格で、男性?……男性!?
素晴らしい、素晴らしいですよ!インスピレーションが湧いてきます!
こんな最高素材を好きなように飾り立てていいんですか!?」
「好きなように!?
そんなこと一言も言ってませんよ!?」ルビアが思わずそう言い返す。
「いいえ!みなまで言わずともわかります!
彼に似合う最高の一着が欲しいのですよね!?
お任せ下さい!この仕立て暦十年を誇る街一番の仕立て師リンにもう全ておまかせください!」
「いえ、あまり目立たないように繕って欲しいのですが……。」

ルビアが何度か訂正の言葉を告げるも、女性は聞く耳を持たない。
ギラギラした目でレイズを見ている。
その視線が相当嫌だったのか、レイズはすっかり怯えてしまった。

「ルビア……なんだかこの人怖いよ。
違う店にしない?」
「うーん、私も全く同じことを思っていました。」

ルビア達の会話を聞いて「そ、そんなぁ!!」と声を荒げるリンであった。

「他の店で仕立てなどお勧めしませんよ!
この街は守銭奴の掃き溜めですから法外な金額をふっかけられて終わりですええそうです!
私でしたら良心的な価格を提示しておりますええ是非私にお任せください!」
「でもレイズを見る目がどうも犯罪者じみていて……。」
「ではこうしましょう!
お代はいりません!無料で仕立てて差し上げます!
だから私に彼の仕立てを!この絶世の美人の仕立てをさせてください!」
「いえ、ここに来てタダにするなんて逆に恐ろしいですよ!店主さん落ち着いて!」
「仕立て屋人生最高の一着を作れるかもしれないという絶好の機会を逃すなんて私にはできません!
さぁ!さぁさぁさぁ!
私に仕立てさせてください!!!」
「何この人全然話聞いてくれない!」

その通りである、聞く耳を持たないのである。
リンは鼻息を荒くし、どんどん詰め寄っていく。
流石に強引すぎる、レイズもすっかり怯え、縮こまってしまった。
最初、店内に入った時の感動が薄れていき、立ち寄らなければよかったと後悔する程には強引な接客である。
ルビアが内心、どう断ろうかと頭を悩ませていた……その時だった。

カランカラン、と店内にベルの音が鳴り響く。
何者かが扉を開けたのだろう。
思わず視線を向ける、すると甲冑に身を包んだ男達が何人か店内に入ってきた。
正門で通行手形を販売していた兵士と同じ格好だ、きっと街を警備する兵隊の一人なのだろう。

「失礼する。店主のリンはいるか?」

兵士の一人が尋ねる。
瞬間、リンの表情が硬くなったのをルビアは見逃さなかった。

「……リンは私です。
何かございましたでしょうか?」
「お前か……ふむ。」

兵士はじろじろと、値踏みをするようにリンを見つめる。
失礼な態度であるが、リン本人は何も言わない。
それどころか、彼女に走る緊張がどんどん高まっていくようにすら感じる。

「先程領主イリナメ様からご命令が下った。
先の盗賊団捕縛の為、追加の徴税をしに参った。
ついては徴税額一万グノムを納めるようにとのことだ。」
「一万グノム!?」

金額を聞き、リンが驚く。
その後ろで話を聞いていたルビアも目を見開いた。

「そんな!
徴税はつい先日終わったばかりではありませんか!
なのにどうして、そんな大金を!?」
「理由については説明しただろう。
この街を我が物顔で暴れ回る盗賊団【断絶の鎖】を捕える為だ。
ひいてはこの街の安全を守る為でもある。
領主への税を納めることは平民の使命であり、これを拒否することは領主イリナメ様への反逆罪に当たる。
理解したならば早急に金銭を準備し、持ってくるのだ。」
「ですがそんな、一万グノムなんてお金すぐに準備できません……。
どうか一日……いえ、三日待ってください!
そうすればご用意できますから……!」

突然の話に混乱を見せながらも、リンはそう懇願した。
しかし、兵士は無機質に彼女を見下すばかりである。

「ならん。徴収は迅速に行われる。
いますぐに準備するのだ。」
「ですが一万グノムはあまりにも大金すぎます。
この間の徴税でも相当な金額を支払いました。
だからまとまったお金はもう……。」
「喧しい!」

突然兵士が叫ぶ。
そしておもむろに拳を握り、振り上げる。
なんと信じられないことに、リンを殴りつけたのだった。

「っあ!」

無慈悲な暴力による痛みと衝撃でリンが床に倒れる。
なんという卑劣さか、無抵抗の一般人を殴るなどと。
ルビアは咄嗟に駆け寄ると、守るようにして彼女を抱き起こすのだった。

「リン店主、大丈夫ですか!?
……貴方達!守るべき街の民に暴力を振るうとはどういうことですか!?」

兵士達のあまりの態度に我慢ならず、ルビアが怒る。
しかし、その態度が癪に触ったのか兵士達はルビアを睨みつけた。

「なんだ娘、関係のない者は引っ込んでいろ!」
「私はこの店の客です!
彼女に仕立ての依頼をしに来ました。
それを邪魔されたのです、関係ないとは言わせませんよ!」
「何だと……生意気な!」

兵士達がルビアに詰め寄る。
しかしルビアに退く様子はない。

「いけませんお客様、逆らっては駄目です!
私でしたら大丈夫ですから……!」

一触即発の気配にリンが止めに入る。
しかし、両者睨み合ったまま退く気配がない。
……兵士の腕が腰に下げてある武器へ手を伸ばした。
その時だった。

「……ま、待って、ください!」

突如、両者を止める声が聞こえた。
言葉を発したのはレイズだった。弱々しくも声を荒げる。
皆が青年の方を向くと、レイズはルビアの下げた鞄を探り、何かを探し始めたのだった。

「レイズ……?」

謎の行動に、ルビアが首を傾げる。
すると、目当てのものを見つけたのかレイズはそれを取り出し、兵士達に差し出すのだった。
レイズの取り出したもの……それは、手切れ金として渡された例の金貨が入った革袋だった。

「レイズ!?何を……!」
「お金があればいいんですよね?
なら、この袋から一万グノム持っていってください……!
そうすれば、も、問題ない、ですよね?」

震えた声を絞り出しながらそう話す。
その表情は恐怖に満ちていた。

「いけませんお客様!
そのような大金を払っていただくなんて……!」
「これは依頼料です。
服を仕立てる為のお金です。
だからこれは、リンさんの……ものです。」

慌てて止めるリン。
だがレイズは機転を効かせ、そう告げるのだった。

兵士達は革袋の中を見て、驚く。
見たことのない大金が大量に詰まっているからだ。
その黄金の輝きに目を眩ませ、ごくりと生唾を飲む。
しかし、一人の兵士は……リンを殴った当人は静かに目を細めると、一枚だけ金貨を抜き取るのだった。

「……確かに徴収した。それでは失礼する。」

兵士の言葉に周りの仲間達は「はぁ!?」と声を荒げた。

「おい!なんで一枚しか持って行かないんだ!
こんな大量に入ってるんだぞ!
これだけあれば遊んで暮らせる……!」
「徴税額は一万グノムだ、それ以上もそれ以下もない。
それとも何か?お前はイリナメ様のご命令に背くのか?」

仲間の威圧的な言葉、何より“イリナメ様”という単語に、他の兵士達は押し黙ってしまう。
それを見届けると、徴収した兵士は建物から出ていった。
その後に続くように、別の兵士達も出ていくのだった。
カランカラン……とベルの音が鳴り、乱暴に扉が閉じられる。
店内から兵士達の姿が消えると、レイズは途端にその場に座り込んでしまうのだった。

「は、はぁ……帰ってくれた……。」

息を大きく吐き出しながら、レイズはそう呟いた。

「……レイズ!なんて無茶を!
殴りかかられでもしたらどうするつもりだったのですか!?」

そんな青年を見て、ルビアは咎めるように叱りつけた。

「だ、だってあのまま放っておいたら事を構える事になりそうだったし……。
それならお金を払って帰ってくれた方がいいと思って……。」
「だからってそんな大金を相手に見せるなんて!
偶々帰ってくれたから良かったものの、難癖をつけられて襲われでもしたらどうするつもりだったのですか!?」
「そ、それは……。」

彼女に無茶を責められるとは思っていなかったのか、レイズはしどろもどろに話し、最後には俯いてしまった。
そんな青年の態度を見て、ルビアは即座に我に返り、己の言動を恥じたのだった。
元を辿れば(そうせざるを得なかったとはいえ)兵士達と睨み合い、険悪な状況を生み出したのはルビアである。
咎められるべきはルビアも同じであり、レイズのみを責めるのは道理に合わない。
そのことに気がつき、彼女は気まずそうに口を閉ざした。

「……いえ、お客様。
そちらの方が咎められる必要はありません。」

二人の間に割り込むようにリンが口を開く。

「元を辿れば不甲斐なさ故に巻き込んだ私の責任です。
お客様方にはご迷惑をおかけしてしまい、お詫びのしようもございません。
本当に申し訳ございませんでした。」

そう言うと、リンは上体を起こして床の上に座り、二人に向けて深々と頭を下げるのだった。
予想もしていない行動に、ルビアは慌てた様子でリンを起こそうとする。

「やめてください、店主さん!
あんなの殴ってきた相手が悪いんですから。
貴方にはなんの責もありません。」
「そういう訳にはまいりません。
……代わりに払っていただいたお金に関しては必ずお返し致します。
ですので少しだけお時間をいただければ……。」

申し訳なさそうにそう語るリンだが、レイズは首を横に振ると「大丈夫。」と返すのだった。

「あれは貴方への依頼料だから。
だから返す必要はないです。」
「しかし、だとしても貰い過ぎです。
せめて差額分はお返しを……。」
「ううん、本当に大丈夫だから。
お金ならまだ残ってるし、ね?」

そう言い、レイズはルビアへと目配せする。
その様子を見て、やれやれといった様子でルビアは笑ってみせた。

「……払った本人がそう言ってますし、本当に返す必要はないと思いますよ。
お金についてはもう気になさらないでください。」
「……ありがとうございます。」リンは申し訳なさそうにそう言う。
「それよりも怪我の手当をしましょう。
先程殴られた箇所を見せてください。」

ルビアはそう言うと、リンの頬を見る。
殴られた箇所は赤く腫れている、想像以上に痛々しい。
この様子なら口の中も切ってそうだ。

「これは酷いですね……。
何か冷やすものが必要です、近くに井戸はありませんか?」
「それでしたら、この店を出て左手側にあります。」
「わかりました。
汲んでくるので二人はここで待っていてくだい。」

そう言うとルビアは立ち上がり、一人扉へと向かう。
するとレイズも立ち上がり「僕も一緒に行く。」と言い出すのだった。
しかしルビアは首を横に振る。

「レイズは彼女の側にいてあげてください。
それに兵士がまだ近くにいるかもしれません。
絡まれたとしても私一人の方が対処しやすい。
……大丈夫、ただ水を汲んでくるだけですから。」
「……うん、分かった。待ってるね、ルビア。」
「ええ、すぐに戻りますからそれまで大人しく……。」

そう言いかけた時だった。
本日何度目かの扉が開かれる音が店内に響く。

先程の兵士達が戻ってきたのか?
そう思い、ルビアは反射的に身構える。
しかし、現れたのは予想もしていなかった人物であった。

「こんにちは~。
ここで古着の買取をしているって聞いて……あら?」
「え……あ!フルーリアさん!?」

意外な人物の入店にルビアが驚く。
軽快な女性の声と共に現れたのは、偶然森で出会い、ルビアが助けた女性、フルーリアだったのだ。
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