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第一章 セルシエン
7page お披露目
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「……へぇ、そんなことがねぇ~。」
リンの頬の怪我を看ながらフルーリアがそう言葉を返す。
彼女がこの店に訪れたのは偶然だった。
店の看板に目が留まり、不用品を買い取ってもらおうとやって来たのだ。
だが渡りに船、旅医者である彼女にリンの怪我を治してもらおうとルビアが願い出たのだった。
「それにしても乱暴な奴らね。
女の顔を殴るなんて信じられないわ。」
「全く同感です。
この街の兵士はどういった訓練を受けているのか。」
怒りを混じらせた苦言を漏らすフルーリアに、強くルビアが頷く。
事実、先程の兵士達の行いはとても褒められたものではなかった。
民衆を守る側の人間が、その民を傷つけたのだ。
誰が見ても問題のある行動である。
「……昔はこうじゃなかったんです。」
二人の言葉を聞き、リンがふと言葉を溢す。
「兵士さん達はみんな優しくて、困ったことがあったら助けてくれて。
街のみんなも、とても頼りにしていました。
……変わったのは一年前、以前の領主様がお亡くなりになって、代わりにイリナメ様がこの街の領主として赴任してきた頃でした。」
【イリナメ様】そう告げると、確かにリンの表情に怯えが宿る。
それをルビアは見逃さなかった。
「イリナメ様は……領民には厳しい方で。
街の警備を強化する為だと言って突然税を引き上げたり、街の通行を制限したり……。
何度か街の皆で直訴もしたのですが……聞き入れてもらえず、それどころか更に税が上がったりもしました。
反発する人もいたのですが、皆捕まってしまって……。
今だに釈放されてない人も何人かいるんです。
そんなことが長く続くようになって、気がついたら兵士さん達もどこか冷たくなってしまって……。
今では街の人達同士ですら顔を合わせたり話をすることが減ってしまいました。」
「……酷い。」
無意識にルビアがそう呟く。
「成る程ね、街に人通りが少ないのはそういった事情があったのね。」
いつの間にか治癒魔法を発動させたフルーリアがそう言葉を返す。
彼女に生み出された水球が宙に浮かび、リンの頬に触れ、腫れた箇所を治していく。
徐々に赤みが引き、最後には痕すら分からない程に元々の肌色へと戻っていた。
「終わったわよ。」というフルーリアの言葉と共に、リンは己の頬に触れる。
痛みも腫れもないその肌に、彼女は驚きを隠しきれない。
「よかった店主さん、すっかり治りましたね。」ルビアがその様子を見て、嬉しそうに言う。
「ええ。ありがとうございます、何から何まで。
……えっと、お医者様、それでお代はどれくらいでしょうか?」
恐る恐るリンが尋ねる。
しかしフルーリアは首を横に振った。
「お代?あーいらないいらない。
私患者からはお金を取らない主義なのよ。」
「え?ですが治してもらったのにそんな……。」
「いいのいいの、気にしないで~。
そう私が決めてるんだから。」
「そう、ですか。わかりました。
ありがとうございます、お医者様。」
戸惑いながらもそう言うと、リンは深々とお辞儀をした。
それを見て、フルーリアは「お礼なんていいのよ~。」と笑顔を浮かべたまま返事をする。
「それにしても……また貴方達に会うとはね~。
この街に何しに来たの?
まぁここに居るって事は古着を売りに来たか、服を仕立てに来たかのどちらかだとは思うけど。」
フルーリアは視線をルビア達に向け、尋ねた。
「ええ、彼……レイズの服を仕立てに来たんです。」
ルビアはそう言うとレイズを見た。
当の青年はどこか気まずそうな様子のまま、フルーリアへお辞儀をする。
「あぁ、あの時の熱烈ボーイ。
確かに目立つ服着てるものね~。」
「え……!?フルーリアさんはレイズのこと、男性だって知ってたんですか!?」
予想外の答えにルビアが驚いて見せた。
リンもやや驚いている。
一見すればレイズの性別は分かり難い、どちらかと言うと女性のような容姿をしている。
二人が驚くのも無理はないだろう。
「ええ、そりゃまあ。これでも医者ですもの。
外見と骨格見れば大体わかるわよ。
…ま、本当のこと言うとちょっとだけ迷ったけどね。」
「す、凄い……これがお医者様の力……!」
ルビアが尊敬の眼差しを向ける。
フルーリアは得意げに「ふふーん、ま、敬われて悪い気はしないわね。」と話している。
「……あ!そうです!洋服の仕立て!私の仕事!」
突如思い出したようにリンが叫ぶ。
「お客様にはご迷惑をおかけしましたし、大急ぎで取り掛からせていただきます。
何より、すでにお代をいただいてしまいましたからね。
水鳥の羽ばたき店主、リン。
最高の一着を仕立てさせていただきます!」
先程の消沈した様子はどこへ行ったのか。
瞳に生気を巡らせ、急速に気合を込めて立ち上がった。
「さて、おぼっちゃま。
早速ですが採寸に入らせていただきます。
こちらの部屋までどうぞ。」
そしてレイズへとそう言い、奥の部屋へ手を差し伸べる。
だが、青年は眉を顰める。
どこか遠慮する様子だ。
「……採寸って、服を脱がなきゃ駄目?」
「いいえ、そんなことはございません。
お望みでしたら服の上から測りますよ。」
「そうなんだ……じゃあそうしてほしいかな。」
「承りました、ではこちらへ。」
そう言葉を交わすと、レイズは案内を受けながら奥の部屋へと移動した。
店の中にはルビアとフルーリアの二人が残される。
「あら、この様子じゃ時間がかかりそうね。
時間でも潰してまた来ようかしら~。」
「すみませんフルーリアさん。
タイミングが重なってしまって……。」
そうぼやくフルーリアへ、ルビアが申し訳なさそうにそう告げた。
だが、当の彼女は大して気にはしてなさそうだ。
ルビアへ笑顔で「別にいいわよ~。」と返していた。
「……それにしても。」
ふと、フルーリアが店内を見渡す。
「いいわね、この店。
こういう雰囲気大好きよ、なんだか特別感があって。
掃除も行き届いているし、展示してある洋服も私好み。確かに一着作ってもらいたくなるわ~。」
「フルーリアさんは背も高いですし美人ですから、なんでも似合いそうですね。」
「あら本当~?お世辞でも嬉しいわ~。」
褒めの言葉に、笑顔でそう返す。
どこか言われ慣れている風に感じるのは気のせいだろうか。
「そういえば貴方達はどうしてこの街に?
彼の洋服作りの為?」
「いえ、ウェルツェインに向かっている最中なんです。
ここから馬車が出ていると聞いて、それで立ち寄ったんですよ。」
「ウェルツェインねぇ……この時期に行くなんて危険じゃない?あそこは雪国よ。
今の季節、雪が降ってるか猛吹雪に遭うかのどっちかだわ。」
怪訝な表情を浮かべ、フルーリアがそう告げる。
ルビアもまた、眉を下げながら彼女の言葉に頷いた。
「わかっています。
でもどうしても向かわなければいけないので。」
「……ふぅん、そ。大変そうね。」
「いえ、それ程では。
フルーリアさんはどうしてこの街に?」
「私はアグス共和国に向かう途中なのよ。
今あっちは魔物の被害でゴタゴタしてそうだから、私みたいな旅医者の助けがいるかなって。」
そう言うとフルーリアは胸元のブローチに触れる。
魔力器具(ギフト)と呼ばれる魔法を使える特殊な装飾品、その力でレイズやリンの怪我を治したのはルビアも何度も見てきた事だ。
その腕前や動機に疑問を持つ事はなかった。
……しかし、それよりもルビアは彼女が告げた別の言葉に強く強く反応した。
魔物、確かにフルーリアはそう言ったのだった。
やや目を見開き、食い入るようにルビアは「魔物?」と聞き返した。
「魔物の被害、とはどういうことですか?」
「あら、貴方知らないの?
今アグス共和国は魔物の群れに襲われてるのよ。
首都が落ちたってもっぱらの噂よ。」
「首都が落ちた……!?
そんなに大群が押し寄せているのですか?」
前のめりになりフルーリアに迫る。
急変した彼女の態度にフルーリアはやや驚きながらも続きを話す。
「そうみたいよ、私も噂程度でしか知らないけど。
向こうは相当酷いことになってるみたい。
元々アグス共和国は内乱が激しい国だったから情勢はずっと安定してなかったけど、ここに来て魔物の軍勢に襲われるなんてね……。
国境も封鎖されてて行き来が出来なくなっているそうよ。
私は医者だから辛うじて国内に入る事ができるけど、そうでない人は地獄でしょうね。
国から出ることも、そして故郷に帰ることもできないんだから。」
「……そんな事が。」
そう呟くルビアの表情は様々な感情が入り混じる。
驚愕、混乱、そして動揺……それらの合間に覗き見える確かな怒り。
何故こんなにも過剰とも呼べる反応をしているのか、とにかくルビアは目に見えぬ魔物という敵に対して強い警戒心と敵対心を持っているように感じさせた。
……もしかすると、脳裏にあの兵士のことがよぎっているのかもしれない。
シャル・ルーにて自分達を襲った、あの首のない鎧兵のことが。
「……待ってください、そんな場所に行くのは危険では?
魔物の群れが襲っているのですよね?
遭遇でもしたら……。」
「大丈夫よ~、私人間相手は戦えないけど魔物相手なら多少は心得があるから。
それに、私は医者だからね。
怪我人がいるって分かっているのに見て見ぬ振りはできない。
だからどんな危険があっても行くのよ、それが私の誇り。」
そう言うフルーリアはどこか自信に溢れ、そして活力に満ちた表情をしていた。
医者という仕事を心から誇りに思い、そして命を救うことに対する使命感のようなものを感じさせる。
命知らずといえばそこまでになってしまうだろう。
しかし、見知らぬ誰かの為に危険を冒してまで物事を全うさせるのは、至難の業だ。
ルビアもそれを知っているからか、そんな彼女を見て尊敬の眼差しを向けた。
「……フルーリアさんは立派な方ですね。
同じお医者様でもそのような志を持てる人は少ないと思います。
自らの危険を顧みず、誰かの為に行動できるなんて。」
「私にとっては当然の事なんだけどね。
ま、他の人からしたらそう見えるのかもね~。」
そう言うと、フルーリアは立ち上がる。
「さてと、私もう行くわね。」
そういうと、彼女は軽く手を振り出口へと歩き出した。
「……?フルーリアさん、どちらへ?」
「街を見て回るわ。
古着を売るつもりだったけど、店主さんが空くまで時間がかかりそうだし違う店を回ろうと思って。」
「あ……ごめんなさい。
わざわざ来ていただいたのに、私達が先に依頼をしたから……。」
「ふふ、変なの。どうして謝るの?
こういうのは早い者勝ちでしょ?
気にする事なんて何もないわ。」
そう言い笑顔を見せる。
彼女の言う通りだ。
ルビアが謝る事ではなく、気にする事でもない。
「じゃあね、お嬢さん。
また縁があったらどこかで。」
「はい、お話ありがとうございました。
またどこかで。」
言葉を交わした後、フルーリアは店から出て行くのだった。
店内にはルビアだけが残り、静寂が訪れる。
彼女の背中を見送ると、ルビアは視線を移す。
見えるは扉、レイズとリンが入っていった部屋に続く扉だ。
「……魔物、かぁ。」
ポツリ、と呟く。
フルーリアから聞いた言葉を思い出しているようだ。
(シャル・ルーで戦ったあの鎧の兵士……首がなかった。
あれも魔物だったのかな?
もしそうだとしたら、レイズはどうしてそんなものに追いかけられているんだろう。
叔父上に命を狙われていると話してくれたけど、その叔父上が魔物と繋がりがある?
……でも人間と魔物が協力するなんて考えられない、手を貸す理由がないもの。
だとすると、あの兵士は魔法で作られた使い魔のようなもの?
……うーーん、分かんないなぁ。)
一人頭を働かせるものの、答えは出てこない。
首のない兵士、普通ではありえないことだ。
魔物なのか、はたまたそれ以外の何かなのか。
どちらも可能性がある以上、答えはどうやっても出てこないように感じてしまう。
「……うん、やめた!
分かんないこと考えても仕方ない。
とりあえずレイズ達が部屋から出てくるのを待ってるかな……。」
うーんと大きく背伸びをして大きな独り言を溢す。
そしてふと、窓の外へと視線を向けた。
店外は相変わらず人通りがまばらで、昼間だと言うのに閑散としていた。
あまり誰も出歩いていないようだ。
あんな兵士達が街を守っていれば仕方ないか、とルビアは一人納得しながらぼんやりと外を見る。
「……ん?」
声を漏らす。誰かと目が合った気がする。
大通りを挟んだ向こう側、店が軒を連ねる中、その壁を背に誰かがこちらを見ていた気がした。
金色の髪を持つ何者か。
遠くて表情は見えなかったが、注意深くこちらを観察しているような印象を覚える。
「……?」
もう一度目を凝らす。
だが既に人は居なくなっていた。
不規則に行き交う人に紛れ、その姿は欠片すら見えなくなっていた。
「……気のせい……?」
一人呟く、そして店の扉を開けて外に出た。
冬を間近に迫った冷たい風が静かに吹く。
彼女の視界には、独特な雰囲気を纏う街並みしか映らない。
「…………。」
僅かな疑問と奇妙な違和感を覚えつつ、ルビアは建物の中に戻るのだった。
…………その様子を、建物の影から見つめる一人の男がいる。
「やはりあの顔……間違いない、ルビアだ。
しかし何故あいつがここに……?」
男は濃い金色の髪を風で靡かせながらそう呟くのだった。
ーーーーーーーーーー
ーー時は進み。
太陽は橙色へと変わる。
窓から差し込む落ち着いた陽の光と共に、店の中は段々と薄闇が増えていく。
昼間はその歴史を感じさせる内装と美しく飾り立てられたトルソー達によって華やかな雰囲気を演出していた店内も、夜が近づく今ではどこか寂しく不気味な印象を与える。
その中でルビアは窓の外を眺めながらレイズ達が部屋から出てくるのを待っていた。
やる事もなく手持ち無沙汰となった為、通り行く人々を観察するくらいしか時間を浪費できなかったようだ。
近くの椅子に腰掛け、片足を曲げ、片足をプラプラと揺らしながらつまらなさそうにしている。
さしもの彼女もこれ程待たされるとは思っていなかったようで、無意識に規則を刻む人差し指が膝の上を幾度か叩く。
だがその忍耐はようやく実を結ぶようだ。
ガチャリ、とドアノブが回される音が聞こえた。
反射的にルビアは音のした方を向く。
店から続く奥の部屋、そこからはレイズとリンの姿が現れたのだった。
リンはどこか誇らしげな顔を。
そしてレイズは戸惑うような、緊張するような様子でルビアの前に姿を現した。
「わぁ……!」
彼の姿を見て、ルビアは思わず声を上げた。
まずは何を褒めるべきか……そう、レイズが身に纏うローブからか。
全身を覆うように仕立てられた青のローブは深みがあり、袖口には美しい薔薇の刺繍が施されている。
ローブの縁には濃く鮮やかな黄色の布地が縫われており、彼の髪色と合わせ全体的にまとまりのある色合いを有していた。
中着は綿製の白地服、首元を覆うように縫製されており小粋なデザインがまたよく目に映える。
黒に近い茶色のズボンは刺繍がされていないからこそ彼自身の体格がよく見える上、何より肉体の可動域を一切狭めない精密なまでの仕上げがされていた。
全体的にシンプルながら彼本来の容姿の良さを損なわず、むしろ最大限引き立てるよう設計された、職人のこだわりと技が光る素晴らしい洋服である。
「凄い!凄い!とっても似合ってる!
最初着てた白の服もとても似合っていましたが今の服もとてもよく似合ってますよ!」
服の出来栄えに驚き、それ以上に喜んで見せるルビアだった。
そんな彼女の反応を見てか、強張ったレイズの表情はすぐに解けた。
安心したような、どこか照れるような、そんな様子だ。
「ほ、本当?」
「本当です!レイズは容姿が整っていますから基本何でも似合うとは思っていましたが予想を遥かに超えた完成度です!
これは道行く人達が次々と振り返って感嘆の声を上げますね!」
「大袈裟な……でもありがとう、褒めてくれて。」
「勿論!むしろ褒め足りないくらいです!
リンさん、こんなに素晴らしい服を仕立ててくださってありがとうございます!」
ルビアが笑顔のままリンへと向き直り、深く深く頭を下げた。
その姿を見て、リンは慌てて首を横に振る。
「おやめくださいお客様!
私こそ素晴らしい仕事に携われて感激の一言です。
久々に腕が鳴りました!」
そう言うと、リンもまた嬉しそうに顔を綻ばせる。
「それにしても一日も経たずに服を作ってしまうなんて……それにこの縫製、細かく丈夫で繋ぎ目が分からない。
リンさんは腕が立つとは思っていましたが、まさかこれ程とは思いませんでした。」
レイズの着る服の端に触れながらルビアは感心するようにそう話す。
事実、彼の着る服は布を繋いで作られたとは思えない程に糸が見えず、多少の摩擦ではヨレ一つつかない。
相当な技術と労力の成せる業と言って過言ではないだろう。
「私の家は代々仕立て屋を営んでおりましたから。
私も幼い頃から針と糸を手に店の手伝いをして育ちました。
布地の扱いに関してはこの街一番だと自負しております。」
「確かに、その言葉にも頷けます。」
「ふふ、喜びと称賛の声は職人にとって何よりの報酬ですわ。
さて、洋服は完成しましたし、良ければ街中を歩いてみてはいかがでしょうか?
服は日常の中にあってこそです。
普段と変わらず動いてみて、何か違和感があればお申し付けください。
すぐに直しますから。」
リンの提案に、ルビアとレイズは頷く。
要は変な部分がないか確認をしてくれ、ということだろう。
「丁度いいですし、辻馬車を見に行きませんか?
この時間ですしもう走ってはいないかもしれませんが……先に場所だけ把握しておいて損はないかと。」
「そうだね、僕も同じ事を考えてた。
リンさん、乗合馬車は何処へ行けばありますか?」
「それでしたら街の北側へ向かえばありますよ。
今地図をお持ちしますね。」
そう言うと、リンは店の奥へと引っ込んでいく。
暫く待つと、手に羊皮紙を持ち、再び姿を現した。
「こちらを。」そう言い、図形の描かれた紙をルビアへと手渡す。
そこには簡素ながら街の全容が描かれてあり、用紙の上側を見ると大きく丸で囲んである箇所がある。
丸の横には手書きで【乗合馬車待合所】と書かれてある。
「この街は細い路地が多いので道に迷わないように。
もし方向が分からなくなれば大通りを進み、噴水を目指してください。
噴水は街の中心ですから、そこまで行けば今自分が何処にいるか見当がつくはずです。」
リンの説明を聞き終わり、ルビアは「ありがとうございます。」とお礼を言うと地図を畳み、己の鞄に入れる。
鞄を持ち上げて背負うと、次に再びリンへと頭を下げた。
「何から何までありがとうございました。
本当に助かりました。」
「そんな……それは私が言うべき事です。
貴方達が来なければ今頃兵士達にもっと殴られていたでしょうから。」
そう言うと、リンは乾いた笑い声を上げた。
その声色は冗談じみたものだが、言葉が嘘ではないことはルビアも、レイズも理解している。
「……もし昼の兵士が戻ってきたら私達は荷物を持って乗合馬車に向かったと伝えてください。
そうすれば貴方に危害が加えられることはないと思いますから。」
「ふふ、お優しい方ですね。
気遣ってくれてありがとうございます。
でも大丈夫ですよ、私もこの街の一員ですから。
何かあった時の対策は充分にしてあります。」
「ですが……。」
街の兵士はかなり厄介に見えましたよ。
その言葉を言おうとしたが、思い留まったのかルビアは口を閉ざす。
ここで何を言おうとも、自分達は部外者だ。
あまり深く関わるべきでもない、と判断したのだろう。
「……あまり無理はなさらないように。」
「ええ、勿論。」
「それでは外を歩いてきます。
何かあればまた来ます。」
「僕が着ていた服は適当に処分してください。
少し裾が汚れてはいますが素材は絹ですから、多少のお金にはなるかと。」
「え!?い、いいのですか!?」
レイズの言葉にリンは驚いた声を上げた。
それもそうだ、絹素材は高級品でそれなりの値がつく。手放す人間はそういないだろう。
どれくらいの値がつくかと言うと、古着でも二万グノムにはなるだろう。
「はい。僕には今の服がありますから。」
「は、はぁ……それでは有り難く頂戴致します。」
まだ驚いた様子ながらそう返事するリン。
そして満足そうに微笑むレイズの横では、ルビアが小声で「おぼっちゃま……。」と呟いた。
「ではまた。」
「お世話になりました。」
ルビア達はそれぞれお礼を言うと、店の外へ通じる扉を抜けた。
チリンとベルが軽やかに鳴り、それに混じってリンの「どうか良き時間を。」という見送りの言葉が聞こえ、ルビアとレイズは小さく会釈する。
店の外は既に薄暗く、取り付けられた街灯に火が灯る。
だと言うのに出歩いている人は殆ど居らず、街は落ち込むような静寂に包まれている。
二人は街中を歩きながら周囲を見回していた。
「相変わらず人がいないね……。」
「そうですね……街の実情を知った後だとこの光景にも納得がいきます。
盗賊団に教育のなってない兵士達、そして領主イリナメ……。
彼がこの街の領主になってから治安が悪くなったと、確かリンさんはそう言ってましたよね。
……領主イリナメか、どんな人なんだろう。」
ふと、ルビアが疑問を口にする。
確かリンの説明では貴族であり街を統治する領主である、とのことだ。
そんな彼女の疑問に答えるように、レイズは「確か……。」と口を開いた。
「マーキス家の傍系だった筈……。
位は……子爵だったかな。」
「マーキス家?」
「【アスティナート御三家】の一つだよ。
……えっと、御三家はわかる?」
「……いえ、申し訳ありません。存じません。」
聞きなれない言葉にルビアは首を横に振る。
「そっか、じゃあ御三家から説明するね。
ここアスティナート王国は名の通り王政を敷いているんだけど、その王様に仕える貴族の中で特に権力を持つ家が存在するんだ。
それが御三家、それぞれ……マリアステル……アルカナルヤ、そしてマーキスと名がついていて、どの家も四百年以上の歴史を誇る名家なんだよ。
マーキス家は代々財務関係の管理を任されてる家で、現当主も相当の切れ者だって聞いたことがあるよ。」
途中言葉を詰まらせながらも、懇切丁寧に説明を続ける。
そんな彼の話を聞き、ルビアはうんうんと頷いた。
「成る程……つまり国の重鎮という訳ですか。
それで領主イリナメはその内の一つであるマーキス家の親戚と。」
「その通りだよ。
五十年くらい前だったかな、領主イリナメの生家であるブルワーズ家の娘とマーキス家の当主が婚姻を結んだんだよ。
それからブルワーズ家は貴族社会で発言力を強めていった。
しかし十年前、領主イリナメの父親……つまり先代に当たるオルコー・リオス・ドゥ・ブルワーズが国の税金を横領した罪で捕らえられてからは失脚。
子爵位は剥奪されなかったけど、周囲からは白い目を向けられていると聞いたことがあるよ。」
「そんな事が……領主イリナメも結構苦労人なんですね。」
「まぁ、確かに……そうとも言えるのかな?」
想像もしていなかったイリナメの不幸話にルビアは思わず同情を向けた。
しかしレイズの反応はどこか微妙で、モヤつきが残っているような様子だ。
「一度だけ城で見かけた事があるけど……なんというか、いい印象は持てなかったかな。
恰幅が良くて背が高くて、周囲に威圧感を与えるような見た目をしてたよ。
悪く言うと傲慢そうな人というか……だからこの街での彼の話を聞いても納得できちゃうんだ。」
「そうですか……。」
結局は悪人なのか、どうか。
実際見た訳ではないから何も言えない。
しかし周囲の評判はあまり良くないようだ。
……ここまで言葉を交わし、領主イリナメについて知り。
ふと、ルビアはとある一つの事が頭に引っかかる。
それは『明日の天気はなんだろう?』程度の疑問ではあるが、一度気になってしまった以上仕舞い込むこともできない。
ので、思い切って口に出してみることにしたのだった。
「……あの、つかぬ事をお聞きするのですが。」
「何?」
「レイズは元々何という名前の貴族だったのですか?」
「…………。」
途端、レイズが足を止める。
合わせてルビアも足を止めた。
「レイズ?」
「…………どうしてそんなこと聞きたいの?」
レイズがそう尋ねる。
先程の穏やかに話をする姿とは打って変わり、酷く緊張した……むしろ警戒した様子でルビアを睨む。
突如態度を大きく変えた彼の様子に、ルビアは若干の戸惑いを見せるのだった。
「た、大した理由はありません。
ただ貴族の内情について詳しいし、それに叔父上から渡されたという手切れ金……あれは相当な額でした。
ただの平民が生涯を通して暮らすには充分過ぎる額です。
あんな額を渡せるという事は、レイズがいた場所は相当な名家なのかと思いまして……。」
「……そう。」
ルビアの説明を聞き、レイズが小さく呟く。
それから少し考え込む素振りを見せた。
……その態度からは彼自身の心の内側で巻き起こる葛藤が僅かに垣間見える。
伏せられた瞳は光なく揺れ、尋常ならない迷いの感情が露わとなっていた。
暫くして、レイズの中で答えが出たのか顔を上げる。
しかしその表情は晴れやかではない。
「……家の名前はヴェーチェ、でも僕自身には爵位はない。
爵位を賜っていたのは叔父上だけだ。
これでいいかな?」
「え、ええ……ありがとうございます。」
「うん、じゃあ行こう。」
そう言うと、レイズは返事も待たずに歩き出した。
その足取りは早く、まるでルビアを置いて行かんばかりである。
それを見て、ルビア自身も慌てて後を追いかけるのだった。
……横並びになり、そっとレイズの顔を覗き込む。
だが彼はすぐに目を逸らし、衣服に取り付けられたフードを深く被ってしまうのだった。
……これは聞くべきではなかったか。
内心、ルビアが呟いた。
その後は会話もなく、二人はただ無言で道を歩く。
街の静寂に似た空気を纏い、その重さを全身で感じながら。
(……ごめん、ルビア。
でも言えない、どうしても……。
もし本当のことを言えば、君は……きっと護衛から手を引いてしまうから。
だから言えないんだ……ごめん。)
心の内側で吐き出す懺悔は誰の為のものなのか。
レイズは細い指を強く握り込むのだった。
リンの頬の怪我を看ながらフルーリアがそう言葉を返す。
彼女がこの店に訪れたのは偶然だった。
店の看板に目が留まり、不用品を買い取ってもらおうとやって来たのだ。
だが渡りに船、旅医者である彼女にリンの怪我を治してもらおうとルビアが願い出たのだった。
「それにしても乱暴な奴らね。
女の顔を殴るなんて信じられないわ。」
「全く同感です。
この街の兵士はどういった訓練を受けているのか。」
怒りを混じらせた苦言を漏らすフルーリアに、強くルビアが頷く。
事実、先程の兵士達の行いはとても褒められたものではなかった。
民衆を守る側の人間が、その民を傷つけたのだ。
誰が見ても問題のある行動である。
「……昔はこうじゃなかったんです。」
二人の言葉を聞き、リンがふと言葉を溢す。
「兵士さん達はみんな優しくて、困ったことがあったら助けてくれて。
街のみんなも、とても頼りにしていました。
……変わったのは一年前、以前の領主様がお亡くなりになって、代わりにイリナメ様がこの街の領主として赴任してきた頃でした。」
【イリナメ様】そう告げると、確かにリンの表情に怯えが宿る。
それをルビアは見逃さなかった。
「イリナメ様は……領民には厳しい方で。
街の警備を強化する為だと言って突然税を引き上げたり、街の通行を制限したり……。
何度か街の皆で直訴もしたのですが……聞き入れてもらえず、それどころか更に税が上がったりもしました。
反発する人もいたのですが、皆捕まってしまって……。
今だに釈放されてない人も何人かいるんです。
そんなことが長く続くようになって、気がついたら兵士さん達もどこか冷たくなってしまって……。
今では街の人達同士ですら顔を合わせたり話をすることが減ってしまいました。」
「……酷い。」
無意識にルビアがそう呟く。
「成る程ね、街に人通りが少ないのはそういった事情があったのね。」
いつの間にか治癒魔法を発動させたフルーリアがそう言葉を返す。
彼女に生み出された水球が宙に浮かび、リンの頬に触れ、腫れた箇所を治していく。
徐々に赤みが引き、最後には痕すら分からない程に元々の肌色へと戻っていた。
「終わったわよ。」というフルーリアの言葉と共に、リンは己の頬に触れる。
痛みも腫れもないその肌に、彼女は驚きを隠しきれない。
「よかった店主さん、すっかり治りましたね。」ルビアがその様子を見て、嬉しそうに言う。
「ええ。ありがとうございます、何から何まで。
……えっと、お医者様、それでお代はどれくらいでしょうか?」
恐る恐るリンが尋ねる。
しかしフルーリアは首を横に振った。
「お代?あーいらないいらない。
私患者からはお金を取らない主義なのよ。」
「え?ですが治してもらったのにそんな……。」
「いいのいいの、気にしないで~。
そう私が決めてるんだから。」
「そう、ですか。わかりました。
ありがとうございます、お医者様。」
戸惑いながらもそう言うと、リンは深々とお辞儀をした。
それを見て、フルーリアは「お礼なんていいのよ~。」と笑顔を浮かべたまま返事をする。
「それにしても……また貴方達に会うとはね~。
この街に何しに来たの?
まぁここに居るって事は古着を売りに来たか、服を仕立てに来たかのどちらかだとは思うけど。」
フルーリアは視線をルビア達に向け、尋ねた。
「ええ、彼……レイズの服を仕立てに来たんです。」
ルビアはそう言うとレイズを見た。
当の青年はどこか気まずそうな様子のまま、フルーリアへお辞儀をする。
「あぁ、あの時の熱烈ボーイ。
確かに目立つ服着てるものね~。」
「え……!?フルーリアさんはレイズのこと、男性だって知ってたんですか!?」
予想外の答えにルビアが驚いて見せた。
リンもやや驚いている。
一見すればレイズの性別は分かり難い、どちらかと言うと女性のような容姿をしている。
二人が驚くのも無理はないだろう。
「ええ、そりゃまあ。これでも医者ですもの。
外見と骨格見れば大体わかるわよ。
…ま、本当のこと言うとちょっとだけ迷ったけどね。」
「す、凄い……これがお医者様の力……!」
ルビアが尊敬の眼差しを向ける。
フルーリアは得意げに「ふふーん、ま、敬われて悪い気はしないわね。」と話している。
「……あ!そうです!洋服の仕立て!私の仕事!」
突如思い出したようにリンが叫ぶ。
「お客様にはご迷惑をおかけしましたし、大急ぎで取り掛からせていただきます。
何より、すでにお代をいただいてしまいましたからね。
水鳥の羽ばたき店主、リン。
最高の一着を仕立てさせていただきます!」
先程の消沈した様子はどこへ行ったのか。
瞳に生気を巡らせ、急速に気合を込めて立ち上がった。
「さて、おぼっちゃま。
早速ですが採寸に入らせていただきます。
こちらの部屋までどうぞ。」
そしてレイズへとそう言い、奥の部屋へ手を差し伸べる。
だが、青年は眉を顰める。
どこか遠慮する様子だ。
「……採寸って、服を脱がなきゃ駄目?」
「いいえ、そんなことはございません。
お望みでしたら服の上から測りますよ。」
「そうなんだ……じゃあそうしてほしいかな。」
「承りました、ではこちらへ。」
そう言葉を交わすと、レイズは案内を受けながら奥の部屋へと移動した。
店の中にはルビアとフルーリアの二人が残される。
「あら、この様子じゃ時間がかかりそうね。
時間でも潰してまた来ようかしら~。」
「すみませんフルーリアさん。
タイミングが重なってしまって……。」
そうぼやくフルーリアへ、ルビアが申し訳なさそうにそう告げた。
だが、当の彼女は大して気にはしてなさそうだ。
ルビアへ笑顔で「別にいいわよ~。」と返していた。
「……それにしても。」
ふと、フルーリアが店内を見渡す。
「いいわね、この店。
こういう雰囲気大好きよ、なんだか特別感があって。
掃除も行き届いているし、展示してある洋服も私好み。確かに一着作ってもらいたくなるわ~。」
「フルーリアさんは背も高いですし美人ですから、なんでも似合いそうですね。」
「あら本当~?お世辞でも嬉しいわ~。」
褒めの言葉に、笑顔でそう返す。
どこか言われ慣れている風に感じるのは気のせいだろうか。
「そういえば貴方達はどうしてこの街に?
彼の洋服作りの為?」
「いえ、ウェルツェインに向かっている最中なんです。
ここから馬車が出ていると聞いて、それで立ち寄ったんですよ。」
「ウェルツェインねぇ……この時期に行くなんて危険じゃない?あそこは雪国よ。
今の季節、雪が降ってるか猛吹雪に遭うかのどっちかだわ。」
怪訝な表情を浮かべ、フルーリアがそう告げる。
ルビアもまた、眉を下げながら彼女の言葉に頷いた。
「わかっています。
でもどうしても向かわなければいけないので。」
「……ふぅん、そ。大変そうね。」
「いえ、それ程では。
フルーリアさんはどうしてこの街に?」
「私はアグス共和国に向かう途中なのよ。
今あっちは魔物の被害でゴタゴタしてそうだから、私みたいな旅医者の助けがいるかなって。」
そう言うとフルーリアは胸元のブローチに触れる。
魔力器具(ギフト)と呼ばれる魔法を使える特殊な装飾品、その力でレイズやリンの怪我を治したのはルビアも何度も見てきた事だ。
その腕前や動機に疑問を持つ事はなかった。
……しかし、それよりもルビアは彼女が告げた別の言葉に強く強く反応した。
魔物、確かにフルーリアはそう言ったのだった。
やや目を見開き、食い入るようにルビアは「魔物?」と聞き返した。
「魔物の被害、とはどういうことですか?」
「あら、貴方知らないの?
今アグス共和国は魔物の群れに襲われてるのよ。
首都が落ちたってもっぱらの噂よ。」
「首都が落ちた……!?
そんなに大群が押し寄せているのですか?」
前のめりになりフルーリアに迫る。
急変した彼女の態度にフルーリアはやや驚きながらも続きを話す。
「そうみたいよ、私も噂程度でしか知らないけど。
向こうは相当酷いことになってるみたい。
元々アグス共和国は内乱が激しい国だったから情勢はずっと安定してなかったけど、ここに来て魔物の軍勢に襲われるなんてね……。
国境も封鎖されてて行き来が出来なくなっているそうよ。
私は医者だから辛うじて国内に入る事ができるけど、そうでない人は地獄でしょうね。
国から出ることも、そして故郷に帰ることもできないんだから。」
「……そんな事が。」
そう呟くルビアの表情は様々な感情が入り混じる。
驚愕、混乱、そして動揺……それらの合間に覗き見える確かな怒り。
何故こんなにも過剰とも呼べる反応をしているのか、とにかくルビアは目に見えぬ魔物という敵に対して強い警戒心と敵対心を持っているように感じさせた。
……もしかすると、脳裏にあの兵士のことがよぎっているのかもしれない。
シャル・ルーにて自分達を襲った、あの首のない鎧兵のことが。
「……待ってください、そんな場所に行くのは危険では?
魔物の群れが襲っているのですよね?
遭遇でもしたら……。」
「大丈夫よ~、私人間相手は戦えないけど魔物相手なら多少は心得があるから。
それに、私は医者だからね。
怪我人がいるって分かっているのに見て見ぬ振りはできない。
だからどんな危険があっても行くのよ、それが私の誇り。」
そう言うフルーリアはどこか自信に溢れ、そして活力に満ちた表情をしていた。
医者という仕事を心から誇りに思い、そして命を救うことに対する使命感のようなものを感じさせる。
命知らずといえばそこまでになってしまうだろう。
しかし、見知らぬ誰かの為に危険を冒してまで物事を全うさせるのは、至難の業だ。
ルビアもそれを知っているからか、そんな彼女を見て尊敬の眼差しを向けた。
「……フルーリアさんは立派な方ですね。
同じお医者様でもそのような志を持てる人は少ないと思います。
自らの危険を顧みず、誰かの為に行動できるなんて。」
「私にとっては当然の事なんだけどね。
ま、他の人からしたらそう見えるのかもね~。」
そう言うと、フルーリアは立ち上がる。
「さてと、私もう行くわね。」
そういうと、彼女は軽く手を振り出口へと歩き出した。
「……?フルーリアさん、どちらへ?」
「街を見て回るわ。
古着を売るつもりだったけど、店主さんが空くまで時間がかかりそうだし違う店を回ろうと思って。」
「あ……ごめんなさい。
わざわざ来ていただいたのに、私達が先に依頼をしたから……。」
「ふふ、変なの。どうして謝るの?
こういうのは早い者勝ちでしょ?
気にする事なんて何もないわ。」
そう言い笑顔を見せる。
彼女の言う通りだ。
ルビアが謝る事ではなく、気にする事でもない。
「じゃあね、お嬢さん。
また縁があったらどこかで。」
「はい、お話ありがとうございました。
またどこかで。」
言葉を交わした後、フルーリアは店から出て行くのだった。
店内にはルビアだけが残り、静寂が訪れる。
彼女の背中を見送ると、ルビアは視線を移す。
見えるは扉、レイズとリンが入っていった部屋に続く扉だ。
「……魔物、かぁ。」
ポツリ、と呟く。
フルーリアから聞いた言葉を思い出しているようだ。
(シャル・ルーで戦ったあの鎧の兵士……首がなかった。
あれも魔物だったのかな?
もしそうだとしたら、レイズはどうしてそんなものに追いかけられているんだろう。
叔父上に命を狙われていると話してくれたけど、その叔父上が魔物と繋がりがある?
……でも人間と魔物が協力するなんて考えられない、手を貸す理由がないもの。
だとすると、あの兵士は魔法で作られた使い魔のようなもの?
……うーーん、分かんないなぁ。)
一人頭を働かせるものの、答えは出てこない。
首のない兵士、普通ではありえないことだ。
魔物なのか、はたまたそれ以外の何かなのか。
どちらも可能性がある以上、答えはどうやっても出てこないように感じてしまう。
「……うん、やめた!
分かんないこと考えても仕方ない。
とりあえずレイズ達が部屋から出てくるのを待ってるかな……。」
うーんと大きく背伸びをして大きな独り言を溢す。
そしてふと、窓の外へと視線を向けた。
店外は相変わらず人通りがまばらで、昼間だと言うのに閑散としていた。
あまり誰も出歩いていないようだ。
あんな兵士達が街を守っていれば仕方ないか、とルビアは一人納得しながらぼんやりと外を見る。
「……ん?」
声を漏らす。誰かと目が合った気がする。
大通りを挟んだ向こう側、店が軒を連ねる中、その壁を背に誰かがこちらを見ていた気がした。
金色の髪を持つ何者か。
遠くて表情は見えなかったが、注意深くこちらを観察しているような印象を覚える。
「……?」
もう一度目を凝らす。
だが既に人は居なくなっていた。
不規則に行き交う人に紛れ、その姿は欠片すら見えなくなっていた。
「……気のせい……?」
一人呟く、そして店の扉を開けて外に出た。
冬を間近に迫った冷たい風が静かに吹く。
彼女の視界には、独特な雰囲気を纏う街並みしか映らない。
「…………。」
僅かな疑問と奇妙な違和感を覚えつつ、ルビアは建物の中に戻るのだった。
…………その様子を、建物の影から見つめる一人の男がいる。
「やはりあの顔……間違いない、ルビアだ。
しかし何故あいつがここに……?」
男は濃い金色の髪を風で靡かせながらそう呟くのだった。
ーーーーーーーーーー
ーー時は進み。
太陽は橙色へと変わる。
窓から差し込む落ち着いた陽の光と共に、店の中は段々と薄闇が増えていく。
昼間はその歴史を感じさせる内装と美しく飾り立てられたトルソー達によって華やかな雰囲気を演出していた店内も、夜が近づく今ではどこか寂しく不気味な印象を与える。
その中でルビアは窓の外を眺めながらレイズ達が部屋から出てくるのを待っていた。
やる事もなく手持ち無沙汰となった為、通り行く人々を観察するくらいしか時間を浪費できなかったようだ。
近くの椅子に腰掛け、片足を曲げ、片足をプラプラと揺らしながらつまらなさそうにしている。
さしもの彼女もこれ程待たされるとは思っていなかったようで、無意識に規則を刻む人差し指が膝の上を幾度か叩く。
だがその忍耐はようやく実を結ぶようだ。
ガチャリ、とドアノブが回される音が聞こえた。
反射的にルビアは音のした方を向く。
店から続く奥の部屋、そこからはレイズとリンの姿が現れたのだった。
リンはどこか誇らしげな顔を。
そしてレイズは戸惑うような、緊張するような様子でルビアの前に姿を現した。
「わぁ……!」
彼の姿を見て、ルビアは思わず声を上げた。
まずは何を褒めるべきか……そう、レイズが身に纏うローブからか。
全身を覆うように仕立てられた青のローブは深みがあり、袖口には美しい薔薇の刺繍が施されている。
ローブの縁には濃く鮮やかな黄色の布地が縫われており、彼の髪色と合わせ全体的にまとまりのある色合いを有していた。
中着は綿製の白地服、首元を覆うように縫製されており小粋なデザインがまたよく目に映える。
黒に近い茶色のズボンは刺繍がされていないからこそ彼自身の体格がよく見える上、何より肉体の可動域を一切狭めない精密なまでの仕上げがされていた。
全体的にシンプルながら彼本来の容姿の良さを損なわず、むしろ最大限引き立てるよう設計された、職人のこだわりと技が光る素晴らしい洋服である。
「凄い!凄い!とっても似合ってる!
最初着てた白の服もとても似合っていましたが今の服もとてもよく似合ってますよ!」
服の出来栄えに驚き、それ以上に喜んで見せるルビアだった。
そんな彼女の反応を見てか、強張ったレイズの表情はすぐに解けた。
安心したような、どこか照れるような、そんな様子だ。
「ほ、本当?」
「本当です!レイズは容姿が整っていますから基本何でも似合うとは思っていましたが予想を遥かに超えた完成度です!
これは道行く人達が次々と振り返って感嘆の声を上げますね!」
「大袈裟な……でもありがとう、褒めてくれて。」
「勿論!むしろ褒め足りないくらいです!
リンさん、こんなに素晴らしい服を仕立ててくださってありがとうございます!」
ルビアが笑顔のままリンへと向き直り、深く深く頭を下げた。
その姿を見て、リンは慌てて首を横に振る。
「おやめくださいお客様!
私こそ素晴らしい仕事に携われて感激の一言です。
久々に腕が鳴りました!」
そう言うと、リンもまた嬉しそうに顔を綻ばせる。
「それにしても一日も経たずに服を作ってしまうなんて……それにこの縫製、細かく丈夫で繋ぎ目が分からない。
リンさんは腕が立つとは思っていましたが、まさかこれ程とは思いませんでした。」
レイズの着る服の端に触れながらルビアは感心するようにそう話す。
事実、彼の着る服は布を繋いで作られたとは思えない程に糸が見えず、多少の摩擦ではヨレ一つつかない。
相当な技術と労力の成せる業と言って過言ではないだろう。
「私の家は代々仕立て屋を営んでおりましたから。
私も幼い頃から針と糸を手に店の手伝いをして育ちました。
布地の扱いに関してはこの街一番だと自負しております。」
「確かに、その言葉にも頷けます。」
「ふふ、喜びと称賛の声は職人にとって何よりの報酬ですわ。
さて、洋服は完成しましたし、良ければ街中を歩いてみてはいかがでしょうか?
服は日常の中にあってこそです。
普段と変わらず動いてみて、何か違和感があればお申し付けください。
すぐに直しますから。」
リンの提案に、ルビアとレイズは頷く。
要は変な部分がないか確認をしてくれ、ということだろう。
「丁度いいですし、辻馬車を見に行きませんか?
この時間ですしもう走ってはいないかもしれませんが……先に場所だけ把握しておいて損はないかと。」
「そうだね、僕も同じ事を考えてた。
リンさん、乗合馬車は何処へ行けばありますか?」
「それでしたら街の北側へ向かえばありますよ。
今地図をお持ちしますね。」
そう言うと、リンは店の奥へと引っ込んでいく。
暫く待つと、手に羊皮紙を持ち、再び姿を現した。
「こちらを。」そう言い、図形の描かれた紙をルビアへと手渡す。
そこには簡素ながら街の全容が描かれてあり、用紙の上側を見ると大きく丸で囲んである箇所がある。
丸の横には手書きで【乗合馬車待合所】と書かれてある。
「この街は細い路地が多いので道に迷わないように。
もし方向が分からなくなれば大通りを進み、噴水を目指してください。
噴水は街の中心ですから、そこまで行けば今自分が何処にいるか見当がつくはずです。」
リンの説明を聞き終わり、ルビアは「ありがとうございます。」とお礼を言うと地図を畳み、己の鞄に入れる。
鞄を持ち上げて背負うと、次に再びリンへと頭を下げた。
「何から何までありがとうございました。
本当に助かりました。」
「そんな……それは私が言うべき事です。
貴方達が来なければ今頃兵士達にもっと殴られていたでしょうから。」
そう言うと、リンは乾いた笑い声を上げた。
その声色は冗談じみたものだが、言葉が嘘ではないことはルビアも、レイズも理解している。
「……もし昼の兵士が戻ってきたら私達は荷物を持って乗合馬車に向かったと伝えてください。
そうすれば貴方に危害が加えられることはないと思いますから。」
「ふふ、お優しい方ですね。
気遣ってくれてありがとうございます。
でも大丈夫ですよ、私もこの街の一員ですから。
何かあった時の対策は充分にしてあります。」
「ですが……。」
街の兵士はかなり厄介に見えましたよ。
その言葉を言おうとしたが、思い留まったのかルビアは口を閉ざす。
ここで何を言おうとも、自分達は部外者だ。
あまり深く関わるべきでもない、と判断したのだろう。
「……あまり無理はなさらないように。」
「ええ、勿論。」
「それでは外を歩いてきます。
何かあればまた来ます。」
「僕が着ていた服は適当に処分してください。
少し裾が汚れてはいますが素材は絹ですから、多少のお金にはなるかと。」
「え!?い、いいのですか!?」
レイズの言葉にリンは驚いた声を上げた。
それもそうだ、絹素材は高級品でそれなりの値がつく。手放す人間はそういないだろう。
どれくらいの値がつくかと言うと、古着でも二万グノムにはなるだろう。
「はい。僕には今の服がありますから。」
「は、はぁ……それでは有り難く頂戴致します。」
まだ驚いた様子ながらそう返事するリン。
そして満足そうに微笑むレイズの横では、ルビアが小声で「おぼっちゃま……。」と呟いた。
「ではまた。」
「お世話になりました。」
ルビア達はそれぞれお礼を言うと、店の外へ通じる扉を抜けた。
チリンとベルが軽やかに鳴り、それに混じってリンの「どうか良き時間を。」という見送りの言葉が聞こえ、ルビアとレイズは小さく会釈する。
店の外は既に薄暗く、取り付けられた街灯に火が灯る。
だと言うのに出歩いている人は殆ど居らず、街は落ち込むような静寂に包まれている。
二人は街中を歩きながら周囲を見回していた。
「相変わらず人がいないね……。」
「そうですね……街の実情を知った後だとこの光景にも納得がいきます。
盗賊団に教育のなってない兵士達、そして領主イリナメ……。
彼がこの街の領主になってから治安が悪くなったと、確かリンさんはそう言ってましたよね。
……領主イリナメか、どんな人なんだろう。」
ふと、ルビアが疑問を口にする。
確かリンの説明では貴族であり街を統治する領主である、とのことだ。
そんな彼女の疑問に答えるように、レイズは「確か……。」と口を開いた。
「マーキス家の傍系だった筈……。
位は……子爵だったかな。」
「マーキス家?」
「【アスティナート御三家】の一つだよ。
……えっと、御三家はわかる?」
「……いえ、申し訳ありません。存じません。」
聞きなれない言葉にルビアは首を横に振る。
「そっか、じゃあ御三家から説明するね。
ここアスティナート王国は名の通り王政を敷いているんだけど、その王様に仕える貴族の中で特に権力を持つ家が存在するんだ。
それが御三家、それぞれ……マリアステル……アルカナルヤ、そしてマーキスと名がついていて、どの家も四百年以上の歴史を誇る名家なんだよ。
マーキス家は代々財務関係の管理を任されてる家で、現当主も相当の切れ者だって聞いたことがあるよ。」
途中言葉を詰まらせながらも、懇切丁寧に説明を続ける。
そんな彼の話を聞き、ルビアはうんうんと頷いた。
「成る程……つまり国の重鎮という訳ですか。
それで領主イリナメはその内の一つであるマーキス家の親戚と。」
「その通りだよ。
五十年くらい前だったかな、領主イリナメの生家であるブルワーズ家の娘とマーキス家の当主が婚姻を結んだんだよ。
それからブルワーズ家は貴族社会で発言力を強めていった。
しかし十年前、領主イリナメの父親……つまり先代に当たるオルコー・リオス・ドゥ・ブルワーズが国の税金を横領した罪で捕らえられてからは失脚。
子爵位は剥奪されなかったけど、周囲からは白い目を向けられていると聞いたことがあるよ。」
「そんな事が……領主イリナメも結構苦労人なんですね。」
「まぁ、確かに……そうとも言えるのかな?」
想像もしていなかったイリナメの不幸話にルビアは思わず同情を向けた。
しかしレイズの反応はどこか微妙で、モヤつきが残っているような様子だ。
「一度だけ城で見かけた事があるけど……なんというか、いい印象は持てなかったかな。
恰幅が良くて背が高くて、周囲に威圧感を与えるような見た目をしてたよ。
悪く言うと傲慢そうな人というか……だからこの街での彼の話を聞いても納得できちゃうんだ。」
「そうですか……。」
結局は悪人なのか、どうか。
実際見た訳ではないから何も言えない。
しかし周囲の評判はあまり良くないようだ。
……ここまで言葉を交わし、領主イリナメについて知り。
ふと、ルビアはとある一つの事が頭に引っかかる。
それは『明日の天気はなんだろう?』程度の疑問ではあるが、一度気になってしまった以上仕舞い込むこともできない。
ので、思い切って口に出してみることにしたのだった。
「……あの、つかぬ事をお聞きするのですが。」
「何?」
「レイズは元々何という名前の貴族だったのですか?」
「…………。」
途端、レイズが足を止める。
合わせてルビアも足を止めた。
「レイズ?」
「…………どうしてそんなこと聞きたいの?」
レイズがそう尋ねる。
先程の穏やかに話をする姿とは打って変わり、酷く緊張した……むしろ警戒した様子でルビアを睨む。
突如態度を大きく変えた彼の様子に、ルビアは若干の戸惑いを見せるのだった。
「た、大した理由はありません。
ただ貴族の内情について詳しいし、それに叔父上から渡されたという手切れ金……あれは相当な額でした。
ただの平民が生涯を通して暮らすには充分過ぎる額です。
あんな額を渡せるという事は、レイズがいた場所は相当な名家なのかと思いまして……。」
「……そう。」
ルビアの説明を聞き、レイズが小さく呟く。
それから少し考え込む素振りを見せた。
……その態度からは彼自身の心の内側で巻き起こる葛藤が僅かに垣間見える。
伏せられた瞳は光なく揺れ、尋常ならない迷いの感情が露わとなっていた。
暫くして、レイズの中で答えが出たのか顔を上げる。
しかしその表情は晴れやかではない。
「……家の名前はヴェーチェ、でも僕自身には爵位はない。
爵位を賜っていたのは叔父上だけだ。
これでいいかな?」
「え、ええ……ありがとうございます。」
「うん、じゃあ行こう。」
そう言うと、レイズは返事も待たずに歩き出した。
その足取りは早く、まるでルビアを置いて行かんばかりである。
それを見て、ルビア自身も慌てて後を追いかけるのだった。
……横並びになり、そっとレイズの顔を覗き込む。
だが彼はすぐに目を逸らし、衣服に取り付けられたフードを深く被ってしまうのだった。
……これは聞くべきではなかったか。
内心、ルビアが呟いた。
その後は会話もなく、二人はただ無言で道を歩く。
街の静寂に似た空気を纏い、その重さを全身で感じながら。
(……ごめん、ルビア。
でも言えない、どうしても……。
もし本当のことを言えば、君は……きっと護衛から手を引いてしまうから。
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