前世は仕事のやりすぎによる過労死を経験したので次の人生ではのんびり生きたい

学園編

５１話

「はあぁ、なんで俺が学園のお子ちゃまの相手しなきゃならんのかねぇ」
「グダグダ言わないでくださいよ。お偉方の子息だっているんですから失礼なこと言わないでくださいよ。先輩」
そんな会話と共に、青い髪に同色の瞳をした男と、実直そうな顔をした、茶髪とこちらも同色の瞳をした男が、教室内に入ってきた。
「ディラン！お前が来たのか」
「おうよ。クラウス」
どうやら、入室した男ディランと教師であるクラウスは知り合いのようです。
「ディラン、とりあえず妹を診てやってくれ」
クラウスは、青年に抱えられている少女の方を向いて言った。
「了～解」
ディランはクラウスの言葉に従って、少女の元に進みます。
「おいおい、なんだこりゃ、冗談だろ。こんな小さい子どもが負っていい傷じゃねえよ、ショック死レベルだろ、これは」
少女の傷を見たディランは、言いながら絶句した後、真面目な顔になって小さく「シャラス」と唱えた。
ディランがそう唱えた後、彼の後ろに水色のドレスのようなものを着た、貴婦人が現れます。
『ディー、呼んだ？』
その声は澄んだ鈴の音のような響きで、唇が動いているように見えない。
「ああ、ちょっと力貸して」
『ふふっ、いいわよ。ディーの頼みなら喜んで』
ディランの頼みを快く引き受けた女性は、彼の肩に触れます。
女性の手が肩に触れたのを合図に、彼は少女の傷ついた足に手をかざして呪文を唱えた。
「癒せ」
通常、魔法を使う時に呪文などは必要ない。
だが、例外があって、強力な魔法や複数人で発動させる複合魔法などは、呪文が必要になる。
この場合は少女の自然治癒力をあげるのでなく、皮膚を再構成するため、強力な魔法にする必要があった。
呪文に決まったものはなく、イメージできるのであれば、どんな言葉でも良い。
ディランの唱えた呪文は、そのままの意味だ。
彼が唱えた呪文により、少女の傷ついた足の皮膚が再生されつつあった。
「ふう。これでなんとか傷は残らないだろ。後はお嬢ちゃんの回復力次第だな」
ディランはそう言いながら、少女の足にかざしていた手を離し、額に手を当てた。
「うおっ、何だこの熱！」
手を当ててすぐに、彼は驚きました。
少女の額に当てている手がとても熱いのです。
「ディラン、妹の容態はどうだ？」
そこに、クラウスが話しかけてきた。
「あ、ああ。とりあえず足の傷は大丈夫だが、原因がわからない高熱がある」
いきなり話しかけられて、驚きながら少女の容態を言います。
「あらら、流石は俺の主だな。これほどとは」
ここにきて、青年が口を開きます。
青年はディランが来たとき、少女から少し離れていた。（治療のため）
その内容はこの場にそぐわず、緊張感のないものだ。
その発言に、クラウスは青年の首を力任せに掴みます。
「何が流石だ！こんな状態の小さな子供を見てそんな感想を抱けるのか！お前は！」
青年は鬱陶しいと目で語りながら、
「怪我は大丈夫なんだろ。俺だってこいつが重症のままなら、そこの鳥野郎を半殺しにするくらいはやるだろうが、一応、命に別状がないくらいにはなった。それに、こいつのこの高熱は魔力の器の問題だ。騒いでも何も解決しねえよ」
そこの鳥野郎のセリフで、静かな激情を宿しながら、檻に閉じ込められているフェニクスを睨み付け次に、掴みかかるクラウスにお前は馬鹿か？と視線で問いながら、彼の腕を払い落とした。
クラウスは苦虫を噛んだような顔で、
「肉親なんだから、心配して当たり前だ。それよりも、魔力の器の問題とはどういうことだ？何か知っているのか？」
青年はため息をつきながら、
「そんなこともわからないのか。こいつが熱出してんのは魔力の器が未成熟だからだ。器が小さいから、魔力が身体の中で暴れまわってんだよ。その影響で身体が熱出す。こいつの場合、いつもは器を上回る魔力を無意識で外に出してたから今まで熱出したりとかはしなかっただろうが、そこの鳥野郎の相手して、急激に魔力を使ったせいで、無意識に出してた魔力を外に出せなくなった。そこの鳥の檻に魔力を送ってはいるが、それでも今のこいつの器じゃ、耐えられないんだろ」
檻に閉じこめられているフェニクスをにらみながら、（呼び方が鳥野郎から鳥になった）青年は説明を終えた。
「ちょ、ちょっと待て、つまりこのお嬢ちゃんがそこの檻を作ったのか！」
青年の説明に真っ先に口を出したのは、少女の治療をした、ディランだ。
ディランが驚くのも無理はない。
フェニクスを閉じこめている檻に宿る魔力は、王宮魔術師が三人がかりで行う結界魔法（平均した強度は、Ｓ級幻獣の攻撃を数度耐えられる程度）と同じか、それ以上の魔力が宿っている。
それを、僅か五歳の子供が行使しただけでも驚くが、それを無意識で維持できる魔力を持ち、その上でまだ、有り余る魔力が身の内にあると言われているのだ。
ディランの場合（それはクラウスも同じ）、優秀な魔術師が身近にいるからこそ、その驚きは大きい。
ディランは驚いたままだが、クラウスは妹の方に意識が向かい、青年は端からどうでもいいようで、ディランの驚きの言葉を二人は無視して、会話が続く。
「耐えられないなら、いったいどうすればいいんだ！助ける方法はないのか！」
クラウスは何もできず、聞くことしかできない己に悔しさを感じながら、怒鳴った。握られた両手からは血が滲んでいる。
「俺がこいつを死なせるわけがないだろう。誰も、助からないなんて言ってねぇ」
青年は少女に近づき、頭をなで、淡々としながらも、少女の顔を見るその瞳には優しさを宿して、そう言った。