上 下
3 / 11

第3話

しおりを挟む
「そう、とりあえずはわかった。それで、ひとつ聞きたいんだけど、私と一緒にいた、もう一人はどうなったの?」
「もう一人?」
「私が背負っていたもう一人のこと。トラックの急ブレーキの音の後、私は記憶がない。その後どうなったか、自称神様なら分かるよね?」
「あ、ああ、あの子のことか。それなら大丈夫だよ。君が守ったから、軽傷で済んでる」
詩織は、自称神様のその言葉を聞いて、安心したようです。
「そ、そうか。良かった」
そう言い、掴んでいた手を離し、力が抜けたように、しゃがみこみました。
「本当に良かった」
心の底から安堵したように言った。
「君はあの子のことがとても大事だったんだね」
「当たり前だ、紫は私みたいな掴みにくい人間と仲良くしてくれたんだ。大事に決まってる。心の底からな」
「自分が掴みにくいのは自覚してたんだ」
ボソボソと自称神様は言ったが、詩織には聞こえていない。
「安心したようだし、僕の話の続きをしようか」
「そうだった」
「うん、これでも僕、高位の神でたくさんの世界を管理してるから、どの世界に転生させるか考えたんだけど、そういえば君のお友達が言っていた乙女ゲームに酷似した世界があるから、そこにしよう」
「紫が言っていた乙女ゲーム?」
「そう、その世界は剣あり魔法ありの世界だよ」
「ふーん、剣か。ちょっと面白そうだ」
「じゃ、そうと決まれば」
自称神様は言い終わると指を鳴らし。
「頑張ってね」
という言葉のあと、私の意識はそこで暗転した。

「お前との婚約を破棄する!」
金髪碧眼の、いかにも王子様といった風情の男性が、目鼻立ちがくっきりとした、派手めの女性を傍らに置き、私にそう言ってきた。
はっきり言って、何がどうなったのかわからない。
確か私は、自称神様によって、異世界に転生させられるはずだった。
この状況はどういうことだろう。
よくわからないが、自分の記憶を思い出してみることにするか。
ふむ、記憶を思い出してみると、どうやら、覚えのない記憶がたくさんある。
それはまるで、貴族の娘のような記憶だ。
どうやら私は、この目の前にいる、いかにも王子様な男、名前はアルジェン・フローライトと、(どうやら本当に王子だった)婚約していたようだ。
まあ、破棄すると宣言されているから過去形だが。 
もう少し思い出すと、私の家は子爵位をいただき、王家の信頼篤い武門の名門のようだ。
功績からすれば、侯爵位を拝命してもいいくらいに国に尽くしている。
(代々の当主が陞爵を断っている)
代々、当主であるものは国軍には所属しないのが習わしのようになっている。
私の父もその例に則って、軍に所属していないが、父の兄、私にとっては叔父が軍の元帥をしている。
当主は軍に所属しないが、ひとたび国に牙を向けられれば、私設兵団を使って、徹底的に敵を排除する。
その姿から、グリュン王国の守護神と呼ばれている。
グリュン王国とはこの国の名前だ。
そして、私は当代の五人いる子供の中の三人目の子供で娘は私だけである。
何が言いたいかというと、この王子さまはアホの子なのか?ということだった。
しおりを挟む

処理中です...