巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと

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裏話その3

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「本当に困ったこと」
紗江を帰らせてアナスタシアは溜息を吐いた。
この世界を構築した『創世の女神』は、食べることを必要悪と認識していた。ものを食べること、そのために他者を殺すことを嫌悪し、満腹になることや肥え太ることを罪悪と定義した。
神の声を聞く術の無い獣はともかく、その声に従う人間は食べることを厳しく節制する。男女とも、線の細い発育不全な肢体が誉めそやされ、筋肉質な男性も肉感的な女性も忌避された。
しかしそれは、未成熟な世界の発達を阻害することでしかなかった。未発達な世界に於いて、食べる量を制限していれば、人口は増えない。子どもは幼いうちに容易く死に、女が孕むことも少なく、そして痩せた母体は子を宿しても、無事に産むことも自分が生き残ることも滅多になかった。
そもそも自然界の弱肉強食は、世界にエネルギーを巡らせるにはこれ以上ない仕掛けなのだ。小さく弱いものを食べたものが、自分より強く大きいものに食われ、それを繰り返す。大きなものもやがて死に、その死骸は目に見えない程小さなものに分解されていき、土に還る。その循環が、世界を育む。
この世界に巡る魔力も同様だ。この世界では神の力の片鱗が常に世界に漂い、それが人や獣・草木に宿って魔力となり物理化学とは異なる力になる。それが上手く回らないために、凝った魔力が魔物となり正すことをしない人間を襲う、のが世界の歪みの表れだ。
今や神の世界で牢に監禁されている(比喩表現)『創世の女神』は、自分の世界を美しいもので満たしたかったという。すらりと美しい男女の戯れる、力に溢れた世界。
実のところそういう世界が存在しない訳ではないが、永い時間の果てに創りあげるならまだしも、さしたる能力の無い彼女では無理だ。増して彼女の世界はまだいとけなく、内包する魔力も他とは比べものにならない程浅く薄い。魔力とは、時間をかけて世界を循環することで濃密に強くなるもの。
彼女の望むような世界も、最初の頃は弱肉強食の時代、ひたすら豊穣を望む時代を経てようやくの安寧と贅沢を享受しているのが実際のところなのだ。
「昔から、学ぶことが嫌いで努力もせず結果を得たがっていたあの子らしいと言えばらしいのですが」
『創世の女神』は封印されて既に三百年は経つが、人間ひとにとってはともかく神にとってはつい最近のことだ。また人間の世界でも、個人ではなく社会全体としてはまだまだ変化の途中、というところ。要は問題の女神の影響は、まだ払拭し切れていない。


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