巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと

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美味しいものを広げよう

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調味料の作成を委託された薬師達も張り切った。元々薬師は薬を作るのが専門、とはいえ治癒専門の魔法があってあまり出番はないのだ。そこへ来て持ち込まれた不思議な『調味料』。
この世界では料理の味付けと言えば殆ど塩オンリー。その他に香草を使う習慣もない訳ではないが、田舎のやり方だと言われ軽視されることが多かったらしい。
それも本来ならば『創世の女神』が封じられた時点で改めねばならないはずだった。まだまだ彼女の残した傷痕は深い。
神殿としてははっきりした神託の降りた以上、『創世の女神』を祀ることは出来ない。かつて祭壇には美しい女神の像が飾られていたというが、今はどこの神殿の祭壇も空っぽだ。新しいこの世界の神は、『創世の女神』と違ってその姿を顕現することが少なく、形が定まらないらしい。特に似姿を禁じている訳ではない。
「あー、女神様美人ですものね。美し過ぎて表現出来ないとか?」
「……いや、そもそも今の世を司る女神は、滅多に姿を見せないのでね。美しさを表現することに長けた画家や彫刻家も困っている」
苦笑混じりにマリウスが教えてくれた。紗江は今一つぴんと来ないながら、薬師から届けられた調味料を確認していく。
「あ、これ。これがいいですね、味に深みというかコクがある」
小皿に注ぎ分けられたのは醤油だ。一応の作り方は教えたものの、専門家でもない紗江の口頭説明ですぐさま完成する程、単純なものでもない。それぞれの薬師がそれぞれの経験や感性センスで自分なりに咀嚼して作るので、かなりばらつきが出ている。ひとまず基準になるものを、と乞われてちょっとした品評会もどきだ。
「後こっちの品ですが」
「それは何だか、妙に酸っぱくなかったか?」
「ポン酢っぽく出来ているので、これはこれで別の調味料として成立するかと。少し柑橘の果汁を足して、酸っぱい調味料にしちゃえばいいと思います」
酸味は、苦味と並んで慣れない人間には受け入れ難い味だ。だが嗜好品として苦いコーヒーに似た飲料はあったし、酸っぱい果物も存在している。まだ苦手な者も多いながら、一般に浸透する速度は紗江自身驚く程早かった。
「脂っ気の多い肉とか、これで食べると美味しいですよ」
「ふむ。……それと本題の醤油だが……」
「私はこれが気に入ったんですけど、これとかこっちとか……この辺りは十分使えると思います」
提出された試作品のうち、7割程度は実用可能だと紗江は判断する。残り3割も、このポン酢だの何を間違ったのかソース的に濃厚なものとかめんつゆ的風味豊かなもの等、この先に期待出来そうなものが少なくない。
「皆さん作りながら試食もしてると思うんですけど……私の知識に拘らなくても、美味しかったら広げていけばいいと思うんですよね」
薬師の持つスキルには、『熟成』とかがあってそれが発酵も担っているらしい。元々酒を作る者が重宝するスキルだそうだ。調味料は味噌・醤油に限らず、発酵や熟成によって完成するものも多く、その意味で有用極まりない。
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