婚約破棄された魔女令嬢

あきづきみなと

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『森の魔女』と守護者

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かつて『魔女の森』と呼ばれた恵み豊かな土地は、領主の不見識に怒った魔女によって消え去り、残されたのは狂暴な魔獣ばかりとなった。当の領主は罰としてその地に生涯留め置かれ、痩せた土地と魔獣の襲来に苦しんだと言う。ただし彼に領民は与えられなかったから、苦しんだのは殆ど彼一人であった。
その領主の元の土地は、王族の末っ子に与えられた。世間知らずの上、甘ったれた根性無しとこちらの評判も良くなかったが、つけられた者達と協力しあい、何とか領地を治めた。
この末の王子は若くしてめとった最愛の妻がいたが、早くに亡くなってその後再婚することがなかった。籍を入れず産ませた子どもが後を継いでいる。

「ずいぶんと綺麗な話に納めたもんだな」
のんびりと尋ねるフォレストにセイラは大鍋をかき回しながら肩を竦めた。
愚かな領主が『魔女の森』を失った話が、お伽噺になる程時が流れても、二人の容姿はまるで変わらない。セイラの髪が背よりも長く伸びてローブが板についたくらいか。
「まあ、良いのではなくて?一番悪いのは『お義父様』だったと思うけど、フィリシウスは結構頑張ったじゃないの」
甘ったれの王子は側付き達にかなり厳しく再教育されて、何とか一般的な領主くらいにはなった。エドモンドや代官達も、ハーリット侯爵領でそれなりの結果を出し彼等はそこそこ幸せな生涯を送った。
ただ一人を除いては。
そのたった一人、ノリエッタは、結局最後まで変わらなかった、或いは変われなかった。フォレストの『毒』が堪えたのか効きすぎたのか、直接顔を合わせたあの後寝込み、それ以後すっかり引きこもった。
それでもそうしてそのままおとなしくしておれば良かったのだが、その状態でもなお贅沢を求め、まだまだ倹約が必要なフィリシウス達に拒まれると金目のものを盗んで領地から逃げ出そうとした。
だが彼女には、父親と同じく『魔女の森』の呪いが掛かっている。決められた土地から出ることも出来ず、仕舞いには屋敷に軟禁されていたが、その間もずっと怨み言を口にしていた……というか、それしか言わなかったらしい。
その辺りが『早くに夭逝した』という美しい誤解を招いたらしい。そこまでセイラも口出しする気はない、大体においてヒトは筋道の決まった物語が好きだ。
愚かな王子が決められた婚約者を拒み、美しく心優しい娘と結婚したものの、更に愚かな娘は夭逝し、残された王子は苦労しながら成長して立派な大人になった。
まあまあ美談であり、そこに身勝手な思い込みで彼を傀儡にしようと目論んでいた舅だのその娘で主人公ヒロインが歪んだ自意識の塊だった等、知る必要もないことだ。
「そろそろ七色菫の時季ね、花を摘んでおかなくちゃ」
「あれが咲くと春も近いな」
『魔女の森』は今日もこともなし。
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