婚約破棄された魔女令嬢

あきづきみなと

文字の大きさ
24 / 25

そして魔女の森

しおりを挟む
「ま、あの王子も反省は出来たらしいな」
「もう王子ではなくてよ、元王子、もしくは侯爵と。……あれだけ貴方が脅かすからでしょう」
しれっと宣うフォレストに彼の淹れたお茶で喉を潤しながらセイラは気のない様子で応じた。
ここは魔女の森。彼女が住処とし、彼が守護する地だ。元の、ハーリット侯爵領に隣接していた場所ではないが此処はあの場所以上に実り豊かな、そしてその分住まう魔獣も多くなかなか人の入らない森である。
だがこの二人にとっては故郷と呼んでも差し支えない土地だ。そこに棲むモノもまた、彼等の眷属であり慈しむべき家族である。
「蒼水仙の育ちはどうかしら」
「だいぶ芽が出たところだ。水薬には間に合うだろうな」
思い出したように問い掛けたセイラにフォレストも頷いて状況を教える。
「では鷹獅子グリフィンの髭ももらって来なくては」
「あー、だが鷹獅子は、今向こうに行っているだろう?」
「……あら、ではついでに向こうの様子も聞いてきましょうか」
向こう、とは二人の間では元の『魔女の森』、今は前ハーリット侯爵が治めている(ことになっている)土地を指す。
「何、その必要はない。様子を聞きたいならちょっと呼べば、すぐ帰ってくるさ」
鷹獅子はこの世界では一二を争う強大な魔獣だ。だがそれなりの知性も有し、セイラにとっては可愛い眷属でもある。もっともフォレストにとっては、手下とか配下という方が近い存在のようだが。
程なく彼等の住処の前、清らかな泉の畔に降り立った鷹獅子は、その大きな図体で一生懸命セイラに甘えてきた。牡牛より二回り程大きな、鷹より強い翼を備えた生き物がすらりと細身の彼女にじゃれつく様は、何処か危なっかしいが当人達は馴れたものだ。
「ああ、いい子いい子。貴方達にも面倒を掛けるわね」
鷹獅子は人の言葉は話せないが、思念で意思をある程度伝えることが叶う。それで言うには。
当初、王宮からつけられた監視人がいた間は元侯爵トビアス・ハーリットもしおらしくしていたらしい。だが彼等が去ると、早速隣国に連絡し、そちらの人間を引き入れようとした。だが最初にやってきた隣国の冒険者達は鷹獅子始めとする魔獣に全く歯が立たなかった。
「まああの国はそもそも大した魔獣がいないからな。火蜥蜴サラマンダーやら蛇雄鶏コカトリスくらいじゃないか」
「あら、そうなの?だったら貴方達の相手は荷が重いわね」
セイラの眷属にも火蜥蜴や蛇雄鶏はいるが、その中では中級以下の魔獣だ。更に言うならセイラの魔力を受けた眷属達は他の同種より強い。最弱級の角兎ホーンラビットでも、野良の蛇雄鶏と同等に戦える。
『魔女』のいない隣国でしか経験がない冒険者等、まともにやりあえるはずもない。それを理解しない辺り、トビアスの認識の甘さが浮き彫りにされている。更に言えば、それ故招かれた冒険者達も嫌気がさしてどんどん離脱しているそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

失踪していた姉が財産目当てで戻ってきました。それなら私は家を出ます

天宮有
恋愛
 水を聖水に変える魔法道具を、お父様は人々の為に作ろうとしていた。  それには水魔法に長けた私達姉妹の協力が必要なのに、無理だと考えた姉エイダは失踪してしまう。  私サフィラはお父様の夢が叶って欲しいと力になって、魔法道具は完成した。  それから数年後――お父様は亡くなり、私がウォルク家の領主に決まる。   家の繁栄を知ったエイダが婚約者を連れて戻り、家を乗っ取ろうとしていた。  お父様はこうなることを予想し、生前に手続きを済ませている。  私は全てを持ち出すことができて、家を出ることにしていた。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

処理中です...