婚約破棄された魔女令嬢

あきづきみなと

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守護者と義妹

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「そんな……そんな酷いことを!」
声を張り上げたのはまたしてもノリエッタだった。普段あまり大声をあげないから、いい加減声が割れて聞き苦しくなっている。
「『魔女』として自分に縛り付け、いいようにこき使うなんてあんまりよ!」
「……どういう勘違いなのかよくわかりませんが」
セイラは深々と、それこそ地獄の底まで届きそうな溜め息を吐く。
「フォレストは正確に言うなら、『魔女わたし』の守護者ではなくてあの『森』の守護者です。私よりずっと強い魔力を持ち長く森を守護してきた、強力な存在ですよ」
その言葉に当人はにんまりと笑みを浮かべる。整った顔立ちはそれ故いっそう妖しげな趣を漂わせ、見る者の心胆寒からしめる。
まさにそれは人外の微笑だ。
『魔女』は人ならぬながら人と交流する類いの人外と認識されているが、それ以外の人外のモノも在る、と言われてはいる。だがそうしたモノ達は滅多に人前には姿を見せず、またその有り様はよくわからないことが多い。そして必ずしも人間に害をなさないとも限らない、そういう生き物だ。
魔物とまでは言わないが、それに近い存在である。人間にとっては警戒対象だ。
「貴方も、あまり煽らないで」
呆れ半分嗜めるセイラにちょいと肩をすくめて見せる辺りは妙に人間臭くもあるのだが。
「じゃあ一つ訂正しとくわ、さっき色ボケとか言ったが撤回する」
その言葉にノリエッタはぱっと表情を輝かせるが、些か短慮だと言わざるを得ない。何しろ相手は『魔女』以上の人外だ。
「おまえは色にボケてる訳じゃなくて単に傲慢で強欲なだけだ、他人のモノばかり欲しくなる質の。人のものを奪いとって相手を貶めることでしか満足を得られない」
あっさりと、むしろ優しげな笑顔で言われてノリエッタは目をしばたたいた。何を言われたのか、一瞬理解が及ばなかったようだ。それに畳み掛けるフォレストはいっそ楽しげでさえある。
「たまにいるんだ、人間にはその手のクズが。それが認められる程度の器量なり何なりあればいいんだが、若い以外に取り柄がないおまえはどうしようもない」
せせら嗤う表情は、顔立ちが玲悧に整っているだけに凄惨な迫力がある。完全に硬直したノリエッタ逃げることもかなわず僅かに唇を震わせるだけだ。
「フォレスト、そのくらいにしておいて」
セイラが口を挟んだのは、ノリエッタに慈悲を掛けた訳ではなく、話が進まないのを厭ったためだろう。淡々とした彼女らしい声音だ。
「いい加減行かなくては、『国母の魔女』殿がお待ちかねだわ。参りましょう、夫人方」
促しておいてさらりと視線を流す。
「では閣下。詳しいことは、また後日」
「あ、ああ……よろしく頼む」
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